外持雨 ほまちあめ
1
「ああっ!」
自分の身体の下で白い身体がうねっている。
綾辻は更にぐっと腰を突き入れた。
もう十年以上も前に抱いたはずの身体。しかし、まだ10代後半だった綾辻は、その貪欲に自分を貪る身体にただ飲み込まれ
るしかなかった。
「ど・・・・・した?ユウ」
下から、切れ長の目が笑い掛けてくる。
身体の一部は深く繋がっているというのに、それも、自分の方が責める立場にいるというのに、余裕という点では自分が組み敷
いている相手に負けていることは確かだった。
「少しは経験を積んだと思ったんだが・・・・・変わったのはペニスの大きさ位か?」
「・・・・・冗談。昔よりは遥かにテクはある」
「俺には、使いたくないのか?」
「そ・・・・・」
「倉橋・・・・・あいつしか抱きたくないなんて子供みたいなことを言う気か?」
「・・・・・っ!」
綾辻は藤永の細い腰を掴んだ。
じきに40に手が届くとは思えないほどの滑らかで若々しい身体。綾辻はその見た目の印象よりもしっかりとした肩に歯をたて、
更に腰のグラインドを大きくした。
「ふぐっ」
「そんな口、利けないようにしてあげますよ」
噛んだ痕をペロッと舌で舐め上げ、綾辻は自分と藤永の密着した下半身を見つめた。
薄い下生えの中、先走りの液を垂らしながらそそり立っている藤永のペニス。そのもっと奥に、自分のペニスはしっかりと埋め込
まれていた。
(あの頃は、まだ使い慣れてない色だったな)
開成会幹部である綾辻勇蔵(あやつじ ゆうぞう)が、まだこのヤクザな世界と怠惰な一般人の生活を行き来していた不安
定な時期、綾辻を可愛がってくれていた3歳年上の藤永清己(ふじなが きよみ)。
その頃はまだ藤永も完全にこの世界に染まっていたわけではないようだったが、周りの取り巻きを自由に顎で使っていたりと、十
分その素質を見せており、どうやら表に出てこないまでにもパトロンもついていたらしい。
財界に名高い東條院の妾腹の子という立場の綾辻を、そのバックを気にしないで気に掛けてきたのは藤永だけだった。
何時しか藤永は綾辻にとって憧れの存在となり、頼りがいがある人物にまでなったが・・・・・。
そんな藤永を初めて抱いた時、綾辻はそれまで女しか抱いたことが無かった。
何が切っ掛けかは、もう覚えてはいない。
それまで綾辻は男同士でもセックスが出来ると知識では知っていたが、実際に挿入まで出来るとは思わなかった。
そんなノーマルな綾辻に男の味を教えたのはバイだった藤永で、藤永はまだ女相手にただ入れるだけのセックスしかしていないよ
うな綾辻にじっくりと抱き方を教えてくれた。
入れた後は、男も女も変わらなかったし、まだ20代前半だった藤永の身体はその頃は既に熟れきっており、抱かれる為に存在
するような身体だった。
しかし、綾辻が実際に藤永と最後までしたのは3回だ。
「5回以上セックスした相手とは会わないんだ。馴れ合うと困るからな。俺はまだお前と遊びたいし、セックスを楽しむのは何も
入れるだけではないんだぞ?」
そう言って、巧みな手淫や口淫で綾辻を高めてくれた。
そんな遊びも、綾辻が20歳を迎えた頃、
「お前はノーマルだからな。これからは女相手にそれを使え」
それっきり、藤永は言葉ではセクシャルなことを言って綾辻をからかいながらも、実際に身体を触れ合わせることは無かった。
そして、今・・・・・藤永の最奥を綾辻は貫いていた。
今は横浜で清竜会(せいりゅうかい)という会派の長である藤永を、自分のペニスで啼かせている。
(克己以外を抱くなんて・・・・・それも、この人を抱くなんて考えたこともなかった・・・・・)
もう、交わることがないと思っていた自分と藤永の道が、滑稽な理由で繋がってしまった。
そして、結果的にこうして藤永を抱くことになってしまったのだ。
「ユ、ユウ、もっと、強く、しろっ」
「・・・・・」
相変わらず自分が主導で言う藤永に、綾辻の頬に苦笑が浮かんだ。
多分、幾つになっても、この人には勝てないのではないかと思う。
(ガキの頃の上下関係って言うのは、なかなか消えないものだな・・・・・)
「いいですけど、もう止めてと言われても止めませんよ」
「・・・・・上等」
うっすらと額に汗を滲ませた藤永は、艶然とした笑みを綾辻に向けた。
どういった理由があるにせよ、自分が愛しいと思う存在以外を抱いたのには変わりが無い。
自分から話すこともないと思うが、知られたとしても・・・・・誤魔化さずに伝えるつもりだ。
潔癖な彼の人物は自分を厭うようになるかもしれないが、卑怯な自分はこの手から彼を離すつもりは無かった。
「あっ、んっ、んんっ」
「ふっ・・・・・くっ」
ねっとりとペニスに絡み付き、奥へ奥へと引き込んでいく淫らな身体。どうせここまで来たのだと、綾辻は遠慮なく自分の欲求
もこの身体で解消させてもらうことにした。
ピチャ
絡む舌。
キスだけは別だという綺麗事は言わない。
グチュッ グリュ
蕾の中を擦る湿った水音。
「・・・・・っ」
綾辻は藤永がしているピアスに視線を止めた。
見覚えがあるような気がしたのは間違いではない、これは昔自分と揃いの物だと藤永にプレゼントをしたものだ。
(この人は・・・・・)
今日、こんな展開になると想像して、昔自分の身体を通り過ぎた男の物を身に着けて来たのかと思うと、以外にもロマンチスト
だったのだと初めて気がついた。
こんな風に相手の良いところを探そうなど、昔の・・・・・まだ若かった自分ではとても考えられなかった。
セックスの技巧だけではなく、どうやら心の方も成長はしていたらしい。
「ど、します?中に出しますか?」
「か、身体に、掛けろっ」
「了解っ」
腰の動きを早め、覚えていた藤永のいい所を遠慮なく擦り上げる。
ピクピクと痙攣するように中が震え、
「あうっ!」
「・・・・・!」
藤永が2人の身体に掛けるように精を吐き出すと同時に、綾辻もパッとペニスを引き出すと軽く擦って藤永の白い腹の上に精
を撒き散らした。
「・・・・・ふ・・・・・」
まるでいい子だというように目を細めて笑った藤永は、自分の身体の上で混じり合った2人の精を指で掬い取り、ペロッと一
舐めして・・・・・苦笑した。
「これが美味しいと思える間は、男食いは止められないな」
「・・・・・あなたには負けますよ」
少しも声を乱していない藤永に苦笑すると、綾辻は最後にというように軽く唇を合わせた。
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