時間飛行





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『』は日本語です




   −エクテシア国ー



 ディーガは目の前に座っている有希に、目を細めて言った。
 「ユキ様、やはり時の歪みは直ぐ側にあります。この世界にいる異国の人間は、特定の時間だけ元の世界に戻ること
が出来るでしょう」
 「本当にっ?」
 「はい。ただ、そのままあちらにいるということは出来ません。こちらの水を飲み、食をし、こちらの人間と交わったからには、
もう元の世界の住人ではないのですよ」
 「・・・・・うん」
 「明日・・・・・満月の夜、心静かに月の光を浴びなさい。さすればその身体は時を越えるはずです」



 高校1年生の杜沢有希(もりさわ ゆき)は不思議な力に呼ばれて、自分の住んでいる場所とは全く違う世界へと飛
ばされてしまった。
そこで有希は、自分が《強星》と呼ばれる特別な存在になっていることを知る。
やがて出会ったエクテシア国、国王アルティウスの強引な求愛と、有希自身もアルティウスを愛しいと思う気持ちが生まれ
て、男同士ということにも悩んだが・・・・・もう元の世界に戻らない覚悟で、有希はアルティウスの正妃となった。

 有希は、アルティウスを愛している。ずっと傍にいて、アルティウスを支えていきたいとも思っている。
それでも、時折元の世界を、日本を懐かしいと思う気持ちは消えることは無かった。
そんな時、エクテシアの占術師ディーガが言ったのだ。

 「時が繋がるようです」



 その言葉を信じ、有希は今夜中庭に立っている。
この世界に来た時と同じ制服姿でここにいる。
 「・・・・・」
一年近くこの世界にいて、有希は少しだけ変わった。外見的な変化だけではなく、内面も変わったと思う。
(・・・・・あ、そうか、元の世界っていっても、自分のとことは限らないんだっけ)
 「・・・・・でも、いっか」
家族と同じ空気を感じていると思うだけで嬉しい。
 「・・・・・」
 有希が微笑んだ時、
 「ユキ!」
静まり返った空間を揺らすような声が響いた。
 「ア、アルティウス?」
 「その衣を着て、どこに行く気だ!」
 「ど、どこって、ちょっと・・・・・」
 「私の傍を離れて、1人でどこへ行くというのだ!!」
 「ま、待って、アル・・・・・あ!!」
 アルティウスが有希の腕を掴んだのと、月の輝きが眩しいほどの明かりで周りを照らしたのはほぼ同時だった。
有希は身体が強く圧迫されるようでギュウッと目を閉じたが、その自分の身体を抱きしめるアルティウスの腕の強さは感
じていた。



   −バリハン王国ー



 「今日は月、丸いなー」
 五月蒼(さつき そう)は、窓の外からじっと空を見上げていた。
日本からこの不思議な世界に来てもうかなり経つ。しかし、蒼は元の世界を忘れたわけではない。
煩いが楽しい家族も、友人達も、蒼には忘れられない大切な人々だ。
(帰るとは・・・・・もう思わないけど・・・・・)
 バリハンの皇太子であるシエンと出会い、惹かれあって、男同士ということも違う世界の住人だということも乗り越えて
好きになって、とうとう結婚までしてしまった。
そのシエンを置いて元の世界に帰るつもりは無いが、何も言えずにこの世界に来てしまっただけに、出来るなら一言でも
家族に伝えたい。
自分は幸せだと。
 「ソウ」
 不意に、後ろから抱きしめられた。
小柄な蒼がすっぽりと入り込んでしまう大きな腕だ。
 「シエン」
 「どうしたんですか?」
 「・・・・・月、きれいだから」
 「ああ、今日の月は綺麗ですね」
 「・・・・・」
時折、本当に時々だが、蒼が元の自分の世界に思いを馳せていることに・・・・・シエンは気付いている。
しかし、優しいシエンは、そんな蒼の気持ちを無理に消し去ろうとはせず、ただ優しく傍にいてくれた。
 「シエン」
 「・・・・・帰りたいですか、ソウ」
 「まさかっ、シエンがここにいるのに!」
蒼はシエンの腕の中で向きを変えると、そのまま抱きついた。
 「ただ、時々ちょっと思い出すだけ!」
 「ソウ・・・・・」
 「シエ・・・・・えっ?」
 その時、窓の中に眩しいほどの光が差し込んできた。
 「ソウ!」
シエンはとっさに蒼を守るようにその身体を自分の腕の中に抱き込む。
グワンと頭が揺れるような衝撃に、蒼はただなすすべも無く目を閉じていた。



   ーカノイ帝国ー



 食事を終えた水上珠生(みなかみ たまき)は、明るい空を見上げた。
 『月・・・・・丸い〜』
満月は何度も見てきたが、こんなにも大きく明るいものは初めてかもしれない。それは周りに人工的な明かりが無いから
かも・・・・・そう思った珠生は、ふと元の世界を思い出した。
父親が生きていた頃は、2人で夜手を繋いでよく散歩をしていたが、1人になってしまってからは・・・・・寂しくて寂しくて
泣いた日も多かった。
 いや、満月の夜だけではない。
昼間は友人達と遊んだり、学校も忙しかったりして忘れていたが、夜になるとどうしても自分が1人だと思い知ってしまう
のだ。
 『そう言えば・・・・・最近思い出さないな』
 この世界に来てから、毎日が驚くことばかりというのもあるが、珠生は寂しさや悲しさで泣くことは無くなった。
それがいいことか悪いことかは分からないが。
 「お、タ〜マ、どうした?」
 『・・・・・』
 『人肌が恋しくなったのか?ん?』
 珠生はムッと口を尖らせた。
この恥ずかしげも無く下品なことを言うラディスラス・アーディンと、どうしてだか身体の関係を持ってしまった。
男同士とか、違う世界の人間だとか、色々思うことはあったが、自分の身体がこの男を受け入れてしまったのは確かだ。
海賊船の船長らしいが、少しも立派に見えない。
しかし、いざという時には頼り甲斐があることも本当で・・・・・珠生は自分がラディスラスの事をどう思っているのかよく分か
らなくなっていた。
 「タマ」
 「・・・・・タマタマいうな」
 言い返した珠生の言葉に笑い、ラディスラスは腕を伸ばしてきた。
抱きしめられる・・・・・そう思っても逃げることは無かった珠生は、ふと視界が昼間のように明るくなってきたことに気付く。
 『え・・・・・?』
 「タマッ?」
ラディスラスが珠生の手首を掴んだ瞬間、その光は目が開けられないほどの明るさになった。

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 「・・・・・ふぅ・・・・・」
 ザザ・・・・・まるで酷い雨の音が聞こえている気がする。
(こんな雨、降らないよ・・・・・う・・・・・みの音・・・・・だよ・・・・・)
頭の中でそう打ち消した有希はパッと目を開いた。
 「海なんて・・・・・」
(この世界にあるわけが・・・・・っ!)
そう打ち消した有希の視界に、月明かりに浮かぶ海が広がっていた。エクテシア国にはこんな海などは無いはずで・・・・・。
 「・・・・・戻った・・・・・?」
 ゆっくりと起き上がろうとした有希は、その肩をグッと強く抱きしめられた。
 「ア、アルティウス?」
 「・・・・・ここはどこだ」
アルティウスは片手で有希を抱き、もう片方の手には剣を構えて厳しい視線を海に向けていた。
 「あの水は何だ」
 「あ、あれは海だよ」
 「うみ?」
 「そう、アルティウス、僕ら日本に、僕の世界に来ちゃったんだよっ」
 「ユキの世界・・・・・」
驚いたような、信じられないような声をあげ、アルティウスは目の前の海を見つめていた。
 「ディーガが言っていた時の歪み・・・・・」
 「アルティウスも聞いた?」
 「・・・・・聞いた。だが・・・・・!」
 言葉を続けようとしたアルティウスの気配が緊張し、剣を空に構えた。
 「何者だ」
 「・・・・・っ?」
(僕達以外にも誰かいるって・・・・・あ!)
有希はディーガの言葉を思い出した。

 「この世界にいる異国の人間は、特定の時間だけ元の世界に戻ることが出来るでしょう」

その言葉が本当ならば・・・・・。
 『蒼さんっ?』
 「ユキ?」
 『有希っ?』
様々な声が交差し、岩陰から懐かしい顔・・・・・蒼とシエンが現われた。
シエンもまだ警戒を解いていないように剣を構えていたが、蒼は有希に駆け寄ってその身体に抱きつく。
 『すっごい!こんなとこで有希に会えるなんて!ここ、日本だよなっ?俺達の世界だよなっ?』
 『そうですよ、実は・・・・・』
有希は直ぐにディーガの言葉を蒼に伝えようとしたが、アルティウスとシエンはまだ警戒を解かないままに別の方向に剣を
構えている。
そこへ・・・・・。
 『・・・・・誰?あんた達』
自分達とそう変わらない年恰好の人物が、背後に大柄の精悍な容貌の男を連れて現われた。





                                      






一周年記念企画、こちらはファンタジー部屋のパロディです。こちらも10話予定。

あちらの世界では出会うはずも無いアルティウス達とラディスラス達も同じ場所に飛ばされています。

現代の色んなことに様々な反応をする異世界の男達の姿を楽しんでください。