時間飛行
2
『』は異国語です。
珠生は目の前に広がる光景に呆然と目を見開いていた。
「ここ・・・・・日本、だよな」
正確に言えば、ここは珠生の故郷の海岸・・・・・珠生が不思議な世界に行く切っ掛けとなった洞窟がある海岸にしか見
えなかった。
「な、なんで・・・・・帰っちゃったのか?」
ずっと、帰りたいと思っていたはずなのに、いざ本当に戻ってしまうと途惑いの方が大きかった。
それは・・・・・。
『タマ、ここはどこだ?俺が知ってる海じゃない気がするが・・・・・』
「・・・・・いる」
『タマ?』
自分が元の世界に帰るということは、ある意味正解なのは間違いがない。しかし、そこにこの異国の男・・・・・腰に剣をさ
げたこの大男がなぜ一緒なのだろうか。
嬉しい以上に混乱していた珠生だが、ラディスラスは急にそんな珠生の身体を自分の後ろにやった。
『ラディ?』
『誰かいる』
「え?」
(見、見付かったらまずいじゃん!)
こんな怪しげな格好をしたラディスラスを見られてはまずいと思った珠生だったが、その反面本当に日本に帰ってきたのか
を確かめたくもあった。
『タマッ』
『見るだけ』
そこにいるのが本当に日本人なのか、それともラディスラスのような格好をした人間がいる、日本に良く似たあちらの世界
の場所なのか、珠生は岩陰からこっそりと顔を出した。
「・・・・・なに、あれ・・・・・」
そこにいたのは、ある意味日本人ではなかった。
月明かりの下でも良く分かる、かなりの薄着に長い髪、その手にはラディスラスのような剣を構えている。
別の1人は明るい金髪のような髪に、長衣を着ているがこれも薄着のようで、同じ様に手に剣を持っていた。
一見して日本人ではないと思ったが、ラディスラスと同じ世界の人間にも見えない。
(ま、まさか、また変な世界に行っちゃったのか?今度はラディ付きで・・・・・?)
そんな突拍子もないようなことを思った珠生は、その視界の中に明らかに今見た2人とは違う人物が目に入った。
格好はやはり剣を持っている男達と同じ様だが、その顔立ちはどうも馴染みがあるようで・・・・・珠生は混乱する頭の中
を整理するように思わず足を踏み出してしまった。
『タマ!』
「誰、あんた達」
「え、あ・・・・・」
『ユキ!後ろへ下がれ!』
見たこともない男の姿に、アルティウスは警戒心を全く解くことなく剣を構えた。
『シエン王子、あのような姿の男、見たことがあるか?』
『・・・・・いえ、初めて見ます。どこの国の者でしょうか・・・・・』
子供を連れた目の前の男は、自分達とは異なる剣を持っていた。
しかし、その構えも、そして身体付きも只者ではないというのは良く分かり、アルティウスは有希を奪われないようにその身
体を自分の背に隠した。
『ま、待って、アルティウス、日本人だよ、僕と同じ!』
『どこがだ!あのような戦いに慣れた身体を持つ男がそなたと同じ世界の人間と言うのかっ?』
『だ、だから、あの大きな人じゃなくって、その前のっ』
『煩いっ、そなたは黙っておれ!』
ここがどんな場所か分からない今、目の前の男が敵ではないと言えるはずはない。
戦いを知らず、優しい有希は、きっと勘違いをしているのだと思った。
「・・・・・っ」
アルティウスは男から目を逸らさないまま剣を握り直す・・・・・その時、横から別の声が叫んだ。
『アルのおーばか!!ユキの話をきけって!』
『煩いぞっ、小僧!』
『もう!シエン、アルに言って!この人日本語、俺達の言葉、話してる!』
蒼は誰の言葉にも全く耳を貸そうとしないアルティウスに焦れてシエンに言った。
『ソウ、彼は本当にあなたの国の人間なんですか?』
『後ろのでっかいのは分からないけど、前の奴はそう!』
とにかく話をした方が早いと、蒼は数歩目の前の2人に近寄った。
「あんた、日本人だよな?」
「・・・・・改めて言うのもへんだけど、そうだよ」
「やっぱり!あ、じゃあ、後ろの奴も?あの格好ってコスプレか何か?」
「違ーーーう!!」
「ソウ、少し、話、聞きましょう」
「シエン」
興奮している2人の間に割り込むと、この中で唯一日本語と異世界の言葉を分かり、冷静沈着な男であるシエンが
静かに言った。
話は、有希から始まった。
不思議な世界に行く切っ掛けと、今回のディーガの予言のこと。
これを知っていたのは有希とアルティウスだけだったので、さすがのシエンも驚いたように眼を見張った。
そして・・・・・。
『そんな夢みたいなことがあるのか?』
『そ、そうなんです』
不思議なことに、有希は目の前の男・・・・・ラディスラス・アーディンというらしいが、彼の言葉も聞き取れていた。
いや、有希だけではなく、蒼も分かると言う。
(日本語対、向こうの言葉って感じなのかな・・・・・?)
有希は向こうの世界に行って1年経つし、かなり勉強したので言葉にほぼ不自由はない。
蒼も、覚束無いところはあるが大丈夫だ。
ただ、もう1人の日本人、珠生は少し違うようだ。まだ向こうの世界に行ってそれほど日にちが経っていないらしく、ごく簡
単な単語や会話しか分からないらしい。
「へ〜、それって困らない?」
「困るよ、すっごく!細かいことは全部身振り手振りで伝えなくちゃなんないしさ」
「あ、それ分かる!アメリカ人になったような気分なんだよな〜」
背格好は自分達と大差ないが、歳で言えば珠生は蒼よりも1歳上らしい。
悪いがとてもそうは見えず、性格的には蒼とうまが合うようで、先程から向こうの世界での苦労話をお互いに言い合って
いた。
有希も早く珠生とゆっくり話したかったが、今回の事情は有希が一番知っているので、とにかくシエンとラディスラスにこ
こは日本なのだときちんと説明しなければならない。
『事情は分かりました』
基本的に有希の事を信じているシエンは割合とすんなり頷いたが。
『悪いが、本当か嘘かははっきり言えねえな』
皮肉そうに口を歪めるラディスラスを、有希は心配そうに見つめるしか出来ない。
そして、有希にそんな顔をさせたラディスラスを、アルティウスは威嚇を込めた目で睨んだ。
(異世界?そんな滑稽な話が現実にあるって言うのか?)
真っ直ぐに自分を見つめてくる整った顔をした大人しそうな少年が嘘を言っているとは思わない。
しかし、それを簡単に信じるだけの基盤がラディスラスには全くないのだ。
有希や蒼が《強星》という異国の存在だということをあらかじめ認識しているアルティウスやシエンとは違い、ラディスラス
は珠生がどうやって自分の目の前に現われたのかは今もって分からないままだ。
その容姿も言動も不思議ではあるが、自分のいる世界とは全く違う世界とか何とか・・・・・そんな風にはとても思えない
のだ。
『・・・・・』
『あ、あの?』
ぐっと身を乗り出して目の前の少年の顔をじっと見る。
黒髪長髪の男が威嚇をするが、そんな事は眼中になかった。
(確かにタマと同じ目の色だな・・・・・)
夜目に慣れれば、色は大体判別が付く。
ラディスラスの世界では珍しい珠生の黒い瞳。しかし、目の前の少年も濃淡に多少の違いはあるが同じ色に見える。
(・・・・・どうなんだ・・・・・)
『ユキから離れろ』
低い声がしたかと思うと、少年の姿が消えて目の前にはあの目付きの悪い男がいた。
『何いらついてるんだ?』
『お前、エクテシアの王たる私にどんな口をきいている?ユキさえおらねばお前など一刀に切り捨ててしまうものを』
『・・・・・』
(エクテシアね・・・・聞いたことがないな)
エクテシアという国も、アルティウスという王の名も、ラディスラスは聞いたことがない。
それなのに、言葉が分かるというのもへんな話だが。
『・・・・・』
ラディスラスは、もう1人の少年と話している珠生を見た。
その顔は今までラディスラスが見たこともないような楽しそうな表情で、言葉も・・・・・あの珠生の不思議な言葉も少年は
同じ様に話している。
もしかしたらここは本当に・・・・・違う世界かも知れない、ラディスラスは唐突に思った。
すると、ここは珠生のいたはずの世界で・・・・・。
(あれほど帰りたかったタマの国なのか・・・・・?)
「えっ?お前結婚してるのかっ?男とっ?」
「そうだよ。有希も、あのちょっと怒りっぽい俺様な奴と。あれでも王様だって」
「うわっ、、ほんとかっ?」
蒼の話は何もかもが珠生にとっては驚くことばかりだった。
自分自身不思議な力で全く知らない世界に行ってしまったことで、蒼や有希が同じ様に違う世界に行ってしまったことは
有り得るかもしれないと思う。
しかし、男同士で結婚までするとは・・・・・なにより向こうの世界で生きることを決意したとは、とても信じられなかった。
「お、俺より、年下のくせに・・・・・」
「全然見えないって。みな・・・・・えっと、珠生って呼んでいい?」
「え、あ、うん」
(タマ以外だったら何でも)
「あ〜、でも、タマって方が可愛いか。じゃあ、タマって呼ぶな」
「・・・・・」
にこにこ笑っている蒼に全くの悪気はなさそうだ。
ここで変に呼び方を訂正したりしたら、まるで珠生の方が子供だろう。年下にそんな風には思われたくなかった。
「い、いいよ」
「蒼さん!」
そこへ、もう1人の少年、有希が駆け寄ってきた。
整った容貌の柔らかい雰囲気を持つ有希は、珠生に向かってにこっと笑い掛けた。
「今何時かは分からないけど、このままここにいたら目立つんじゃないかって思うんです。どこか行った方がいいと思うんだ
けど、僕達お金持ってないでしょう?どうすればいいかと思って・・・・」
本来ならこの中では一番頼りになるシエンにでも相談したいところだが、現代のことなので蒼や珠生に聞きに来たのだ
ろう。
この中で一番年下の有希にそんな心配はさせられないと張り切った蒼は、う〜んと唸りながら考えている。
「携帯とかあったら友達にでも連絡つけるんだけどなあ。お金ないとどこにも行けないし・・・・・」
「あ、それなら俺んち来る?」
「「え?」」
「2年前父さんがいなくなってから住んではないんだけど、そのまま家はあるんだ。秘密の鍵の置き場もそのままだろうし、
ここから遠くないから暗いうちに移動しよう」
自然と、そう言った。
まだ会ったばかりの相手を大切な家に招くのは自分自身でも信じられないが、このまま別れてしまうなどとても出来ない
し、あのラディスラスをこの現代でどう扱っていいのかも1人では分からない。
(大体、剣なんか持ってたら警察に捕まるって)
こんな心配も、現代に帰ったからこそ出来る事だ。
珠生は、いいのだろうかと顔を見合わせる2人から視線を移すと、睨み合っている3人の大男を振り返って呟いた。
「あれ、見られたらまずいしね」
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現代への時間旅行、第2話です。
異世界の言葉がたくさんあるとややこしいので、あちらの言葉は共通としました。
相変わらずの暴君アルティウスと、俺様ラディの対決はこれからです(笑)。