KIDS  TYPHOON





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 「ほんっとに、あんたには呆れたわ」
 私立羽生学園の理事長、苑江佐緒里(そのえ さおり)は腰に手をあてて仁王立ちになっていた。
元は走り屋だったという佐緒里は、とても30を過ぎているとは思えないほど若々しい。
前理事長だった祖父からこの学園を任されてまだ3年だが、既にその手腕は発揮されていて、自由な校風ながら勉強もスポー
ツも盛んな学校となっていた。



 そんなやり手の彼女の頭を悩ませているのが、今期の生徒会長である高校3年に進級したばかりの上杉滋郎(うえすぎ じろ
う)だ。
高校生とはいえ、既に大人の男といっても遜色の無いほどの体格と、荒削りな男の色気を持つ上杉は、学校の成績とはもちろ
んだがかなり頭の回転が早い。
 その圧倒的なカリスマ性でダントツで生徒会長選を勝った上杉は、自分の側近もかなり個性的な人物を指名した。
片腕となる副会長には、同じ3年生で大物政治家を親に持つ、冷静沈着な海藤貴士(かいどう たかし)。
会計には、幼馴染でお互いの弱みも握り合っている、同じく3年の小田切裕(おだぎり ゆたか)。
書記には真面目な堅物の2年生、倉橋克己(くらはし かつみ)と伊崎恭祐(いさき きょうすけ)。
風紀委員には、小田切の従兄弟で仕切り屋の3年、綾辻勇蔵(あやつじ ゆうぞう)と。

 学園創設以来の圧倒的な人気と実力を兼ね備えている生徒会だったが、一方で派手な裏の噂も華やかだった。
その筆頭が生徒会長の上杉だ。
まだ高校生だというのに女関係はかなり華やかで、学校に高級車で迎えに来る年上の美女の姿も何人も目撃をされている。
もちろん、彼女達は全て違う人間だった。



 かなり自由な校風ながら、こうもあからさまな女関係を見せ付けられれば学園も黙ってはいられなかった。
それを決定付けたのは、昨日の早朝だ。
登校時間、校門のまん前で上杉は女と揉めたのだ。いや、周りの生徒に聞けば、女が一方的に素っ気無い上杉に対して文句
を言っていたらしいのだが、それは修羅場といってもいいものだった。
 「相手は」
 「さあ、2、3回会っただけ」
 「人妻でしょう?」
 「向こうが誘ったんだぜ。据え膳喰わねば・・・・・って、コトワザ無かったっけ、理事長?」
低く笑みを含んだ声で言う上杉は、とても高校生とは思えない。
ネクタイを緩め、シャツのボタンを外しているその姿もまるで大人の男で、とても未成年とは思えなかった。
佐緒里はは〜っと大きく溜め息を付いて言った。
 「3日、停学」
 「それだけ?」
 「ただし、場所は指定するわ」
 「指定?」
訝しそうに聞く上杉に、佐緒里はふふんと悪戯っぽく笑って見せた。
 「大人の垢を頭から被っているあんたには、心を真っ白に洗わせてやるわ。タロ、入っておいで」
佐緒里は応接間に続く理事長室のドアを開いた。
 「かあちゃん!おそいよ!おれまちくたびれた!」



 「・・・・・ガキ?」
 突然現われた子供に、上杉はさすがに驚いたように呟いた。
ピンピンにハネた短い髪。
丸い顔に赤い頬。
目も顔の半分ほどあるかのように丸く大きくて、本当にガキンチョという言葉がピッタリの元気の良さそうな子供だった。
(付属の制服か・・・・・)
さすがに自分の学校の付属幼稚園の制服は見たことがある(と、いうか、その保護者と遊んだことがある)。
 「・・・・・デッケーおとこ」
 「・・・・・生意気だな」
 子供相手に手は出せないが、上杉は口元を歪ませる。
そんな様子を満足そうに見ていた佐緒里が、子供を抱き上げて言った。
 「2泊3日、この子の面倒を見て頂戴」
 「はあ?」
 「名前は太朗、歳は5歳よ。しっかりしてるから自分の事は自分で出来るし、そんなに手間は掛からないと思うから」
 「お、おい、ちょっと待てよ」
佐緒里が何を言い出したのか、頭の回転が早いはずの上杉も直ぐには理解出来そうになかった。
 「俺がこのガキの面倒を見るって?」
 「そうよ。私の愛しいタロの面倒を見させてあげる。それで停学は終わりよ、ラッキーじゃない」
 「ラッキーって、あのなあ、俺はガキは嫌いなんだよ」
 「何もあんた1人で見てって言わないわよ。っていうか、あんただけじゃ頼りないし、そもそも生徒会長の失態は生徒会員全員
で償ってもらわないとね。ああ、そうそう、タロ、マコちゃん達も呼んできて」
 「うん!まこちゃん!かえで!しーちゃん!トモくん!」
 上杉は嫌な予感がした。
(おい、まさか・・・・・)
 「タロ、はなしはすんだのかよ!あんまりおれをまたせるな!」
 「かえではがまんがたりないんだよ!」
 「けんかはやめよーよ」
 「そうだよ、たろちゃん、やめて」
 「やめよー」
甲高い子供の声が部屋中に響く。
上杉は片手で顔を覆って呻いた。
 「マジかよ・・・・・」



 小田切は眼鏡の奥の目でギッと上杉を睨んだ。
小田切の下僕達ならば喜んで震えるだろうが、あいにく上杉はそんな嗜虐の趣味はない。
 「・・・・・で、あなたの尻拭いを私達全員でしろって事なんですね?」
 「決めたのは理事長だって。なあ、タロ、そうだよな?」
 「おまえがタロっていうなよな!」
まだ上杉の股ほどもない身長ながら、太朗は果敢に言い返している。その勇姿に、きつかった小田切の目が細まった。
 「あなたが理事長のお子さんなんですね?」
 「そう!おれ、そのえたろー」
 「太朗君ですね。そしてこちらがお友達ですか」
 太朗の隣には、太朗と同じ年恰好の子供達が4人並んでいた。
まずは、目元にホクロのある柔らかな笑みを湛えている子が言った。
 「にしはらまことです。よろしくおねがいします」
次に、まるで女の子のような美少年が、顔に似合わないきつい口調で言った。
 「ひゅーがかえで。ほんとはいやだけど、タロ1人じゃしんぱいだし」
次には日本人形のように整った顔の子が頭を下げる。
 「こばやかわしずかです」
最後に、まことと言った子供の後ろに隠れるようにしていた大人しそうな子が小さな声で言った。
 「・・・・・たかつかともはるです」
 「はい、よく出来ました」
可笑しそうに笑いながら5人の子供の頭を優しく撫でたのは綾辻だ。その人懐っこい人柄は子供にも伝わるのか、5人は一様
にホッとしたように笑って綾辻に懐いている。
 「・・・・・少しは反省してくださいよ、上杉会長。あなたのせいでみんなここに缶詰になるんですから」
 淡々と言った副会長海藤の言葉に、上杉はもう苦笑をもらすしかない。
 「とにかく仕方がありませんね。無事理事長にお返しするまで面倒を見なければ」
 「無事に過ぎるといいんですが」
苦労性の書記、倉橋と伊崎は顔を見合わせて溜め息をつく。子供達の面倒はもちろんだが、それ以上に厄介な人間がいるか
らだ。
 「何言ってんだ、伊崎」
 「いえ、何も」
 1年間留学していた伊崎は歳は上杉達と同じなので、どうしても雰囲気が馴れ合ってしまいがちになる。
真面目な伊崎はそれを気をつけるようにしているが、上杉以下上級生はあまり気にしないようだった。
 「まあ、悪いがお前らも付き合ってくれ、この子守に」
 「こもりじゃない!!」
太朗はえいっと上杉の脛を蹴った。



 停学の代償・・・・・それは。
 佐緒里の実子、太朗と、同じ幼稚園に通う西原真琴、日向楓、小早川静、高塚友春。この4人をゴールデンウィーク中の
2泊3日、世話をすることだ。
佐緒里は停学うんぬんと言っていたが、実際は旦那と水入らずの旅行をする為だったようだ。
いや、本来ならば太朗も連れて行きたがっていたようだったが、1人で留守番も出来ないのかと楓に馬鹿にされたのが悔しかった
らしく、太朗が頑強に一緒に行くことを拒絶したのだ。
 それだったらと、それぞれ今度の休みの間両親が用があって遊びにいけないらしい太朗の友達も一緒に、キャンプのように過ご
させたやったらどうかということになったのだ。
色々問題があるとはいえ、上杉は頼りになる男で、今期の生徒会メンバーはそれぞれが秀でた生徒達だ。
名門の学園の生徒が一緒だということに、他の家族もすんなりと安心したらしい。
 一行は佐緒里が手配したマイクロバスに乗り込み、苑江家の別荘がある伊豆へと向かった。都内では何時上杉が脱走する
か分からないという理由かららしいが、その佐緒里の徹底した遣り方に上杉ももはや文句も言えなかった。
 「・・・・・ったく」
 広い別荘に着くなり煙草を咥えようとした上杉を、太朗はバンッと尻を叩いて止めさせた。
 「タバコ、いけないんだぞ!」
 「ああ?」
 「かあちゃんいってたもん!こどものころからタバコすうと、おっきくなれないって!」
 「・・・・・」
(これ以上でかくなってどうするよ)
既に180センチをはるかに超えている自分が後どれほど大きくなればいいのか分からないが、フンッと仁王立ちになっている姿が
佐緒里と重なって、上杉は思わず笑ってしまった。
 「分かったって、怒るなよ、タロ」



(全く、この人はマイペースだな)
 上杉に強引に生徒会に引きずり込まれた海藤は、実を言えばあまり目立つことはしたくなかった。家のこともあるが、基本的
にあまり人と関わることをしたくないのだ。
 「・・・・・」
その時、海藤はふとジャケットを引っ張られて視線を(その視線はかなり下を向くことになったが)向けた。
 「・・・・・君は、西原・・・・・」
 「にしはらまことだよ。おにいちゃん、えらいひとでしょ?」
 「え?」
 「めがねかけて、かいちょーさんなんでしょ?」
 兄弟のいない海藤は『おにいちゃん』などと呼ばれたのも初めてで、無表情な顔が怖いとどちらかというと幼い子達には怖がら
れることが多かったのに、この真琴という子供は純粋に憧れの目で自分を見つめている。
一瞬、言葉に詰まった海藤は、やがてほとんど浮かべない笑みを無理矢理頬にのせて言った。
 「一番偉いのは、あの人だよ」
そう言って上杉を指し、上杉も、
 「そーそー、俺が一番偉いんだぜ、チビ」
そう言ったが。
 「ちがうよ。こっちのおにいちゃんはだめだめなかいちょーさんだって、たろくんのママがいってたもん。だから、こっちのおにいちゃんの
ほうがえらいんだよね〜」
真琴の言葉に、その場にいた一同はいっせいに溜め息をついて思った。

 《子供の前で下手なことは言えない》




とにもかくにもこれから2泊3日の、男子高校生6人と幼稚園児5人の共同生活が始まった。





                                      






一周年記念企画の1つ、ヤクザ部屋の面々でのパロディ始まりました。 一応、10話の予定です。

第一話は状況説明があったので、みんなを活躍させれませんでしたが、2話からはそれぞれのお子様が暴れまわります。

アレッシオも次回登場させますよ(笑)。