KIDS  TYPHOON





10






 朝、何時の間にか迎えにきたバスに乗り、一行は東京へと戻っていた。
バスの中、高校生達はそれぞれの感慨を抱いていたのだが、お子様達は窓の外を流れる景色や別荘での話しに夢中になって
騒いでいる。
戻ったら別れ・・・・・そう、頭の中にはないのかもしれなかった。

 そして。


 「タロ!」
 「かあちゃん!!」
 昼過ぎ、学園に戻ってきた一行の前には、子供達の帰宅を待っていた親がずらりと並んで待っていた。
 「いい子にしてた?」
 「もちろんだって!おもしろかった!」

 「マコ、ちゃんとお手伝いした?」
 「したよ!おりょーりもおてつだいした!」

 「楓〜、父さん淋しかったぞ〜っ」
 「もうっ、ないたらはずかしいだろ!」

 「ともちゃん、眠れた?風邪ひいてない?」
 「うん、だいじょうぶ。おもしろかったよ!」

 「しーちゃん、お友達と仲良く出来たの?」
 「うん、たのしかった!」



(・・・・・こんなもんだよな)
 あれほどまだ遊び足りないとダダをこねていた子供達だったが、いざ親を目の前にすると全開に甘えている。
自分にくっ付いて離れなかった太朗も、あの女傑佐緒里に向ける笑顔は本当に嬉しそうで・・・・・可愛がってやったのにと内心思
いながらも、上杉は諦めの溜め息を付いた。
 「上杉、ありがとう」
 ひとしきり再会の抱擁を済ませた佐緒里は、バスの前に立つ生徒達を満足げに見つめた。
 「江坂君の報告を受けてたし、心配はしていなかったけど、随分世話をしてくれたそうね、ありがとう」
 「・・・・・いや」
 「これであなたの停学はチャラ。休みはもう少しあるけど、あんまりハメを外さないでよ」
 「・・・・・別に、俺も楽しんだんだからさ」
取引だから太朗の世話をしたわけじゃなかった。
いや、最初は確かにそうだったかもしれないが、一緒に過ごしていくうちに太朗と過ごす時間が妙に楽しくなって・・・・・実際、言わ
れたからという事はすっかり頭の中から抜け落ちていたくらいだ。
 「皆もご苦労様」
 にこやかに労う佐緒里とは反対に、生徒会の面々の顔は優れない。
始めから分かっていたこの別れが本当に淋しいのだろう。
 「・・・・・じゃあ、俺達はこれで」
 「ええ」
 子供に何を言っても分からないだろうと、上杉が背を向けた時、いきなりドンッと衝撃が背後を襲った。
(なんだ?)
 「・・・・・タロ?」
 「ジロー!どこいっちゃうんだよ!まだいっしょにいようよ!」
 「あのなあ、お前は大好きなかあちゃんの所に帰ってきたんだろ?俺達はここで解散ってことで・・・・・」
 「やだあ!!やだやだやだーーー!!」
いきなり、太朗はワンワンと泣き出してしまった。



 その太朗の泣き声につられたのか、それとも自分達に背を向ける大好きなお兄ちゃん達を見て『さよなら』という現実がやっとピン
と来たのか、それまで親に抱きついていた子供達は、いきなり走り出してしまった。
 「かいどーさん、いっちゃやだあ!!マコ、ばいばいやだあ!」
 「真琴・・・・・」

 「きょーすけ、うちのこになれよ!そしたらずっといっしょだもん!このままちがういえにかえらなくていいもん!!」
 「楓君」

 「おにいちゃん、もっといろんなおはなししてくれるっていったよ?おやくそくやぶるのいけないんだよ?」
 「静君、でも・・・・・」
 「おにいちゃん、おやくそくまもって・・・・・っ」

 「おにいちゃん、こわいっていってごめんね?とも、ちゃんとごめんなさいするから、まだいっしょにいて?」
 「・・・・・トモ・・・・・」

 子供達は抱きつき、ワンワンと泣いたり、泣くのを我慢して懇願したりと、離れるのは嫌だ、もっと一緒にいたいのだと全身で訴
えてきてくれる。
こんな風な真っ直ぐな愛情表現は、見掛けだけで付き合ってきた女達とは比べ物にならないだろう。
 上杉は泣きじゃくる太朗を抱き上げた。
涙や鼻水でグシャグシャになっているその表情が、頬ずりしたくなるほど可愛いと思う。
 「タロ、かあちゃんと約束したんだろ?お泊まりは2日間だけだって」
 「だっ、だって、だって!」
 「タロ」
 「まだ、いっしょにいたいもん!ジ、ジローといっしょにいたいもん!かえっちゃやだやだ!!」
 出会ってから初めて見せる泣き顔が、自分との別れを惜しむものだという事が嬉しくて・・・・・上杉は自分自身も胸が詰まるよう
な気がした。
それでも、このまま泣いていても、現実は変わりようが無かった。
 「男は泣かないもんだぞ」
口先だけでまだ一緒にいると言って、安易に騙すことはしたくなかった。
 「・・・・・じゃあな」
 最後にギュウッと小さな身体を抱きしめた後、上杉はそっと太朗を下に下ろした。
しゃくりをあげながら、それでも口を真一文字にして泣き声を漏らそうとしない太朗を見て、上杉は笑いながらその髪をクシャッと撫
でる。
 他の面々も同じような別れを迎えていた。
どんなに慕ってくれても、高校生の自分達と幼稚園児の彼らでは接点が無いのだ。
 「元気でな、タロ」
大きな目を涙で濡らして自分をじっと見つめる太朗の視線を背中に感じながら、上杉はゆっくりと歩き始めた。



 長い休みが終わった。
羽生学園も何時もの日常を取り戻したが・・・・・。
 「・・・・・」
 社長イスのような重厚なイスにふんぞり返った上杉は、もう何度目かも分からない溜め息を付いた。
何時もなら放課後はさっさと学園から出て街に遊びに繰り出しているはずだが・・・・・どうしてもそんな気持ちにはならなかった。
携帯には頻繁に誘いの電話が掛かっていたが、それにいちいち断るのも面倒なので今は電源を切っているくらいだ。
 「・・・・・溜め息を付くのは止めてください」
 「・・・・・お前もついてるぞ」
 「・・・・・」
 それは、上杉だけの変化ではなかった。
生徒会のメンバーそれぞれが、どこか物足りない顔をしてぼんやりとイスに座っている。
 「なんか・・・・・気い抜けてるよな」
 「かなり強烈でしたからね、あの豆台風達」
 「豆台風か・・・・・ピッタリだな」
 綾辻の例えに上杉は笑った。

 あれからもう一週間も過ぎたというのに、生徒会のメンバーの頭の中からはあの生意気で可愛い子供達の姿は消えることはな
く、かえって時間が経つに連れて鮮やかに思い出されてしまっていた。
(・・・・・手離すのは惜しかったよな)
もう少し、歳が近かったら、もしも女だったら、一緒にいることが出来る手段は色々考えられたかもしれないが、幼稚園児で男の
子だという事は換えられるはずもなく・・・・・いや、だからこそ上杉達も構えることなく接することが出来たのかもしれないが。
この先、小学生、中学生、高校生へと、どんな風に成長していくのか間近で見たかった。

 「・・・・・遊び行くか?海藤」
 「私は遠慮します」
 「女抱いてリハビリってのはどうだ?」
 「・・・・・あなたも出来ないでしょう」
 あからさまな上杉の言葉に初な倉橋はぎこちなく視線を彷徨わせている。
綾辻はそんな倉橋を横目で見ながら言った。
 「リハビリが一番必要なのはあなたでしょう?人に勧める前に自分がやってみたらどうです」
 「それは可哀想だ、勇。きっと勃たない男のレッテルを貼られるぞ」
 「・・・・・」
ズケズケと言うこの従兄弟同士には言葉では勝てそうに無いので、上杉は憮然とした表情のまま窓の外を見る。
 「・・・・・あっちはとっくに忘れてるだろうけどな」
(子供は食って遊んで寝て・・・・・それが仕事だからな。俺達と一緒にいた事だって、今頃はとうに夢の一部とでも思ってるかもし
れない)
 「・・・・・まいったなあ」
 重症は、高校生の自分達の方かもしれない。
それもやがて儚い思い出に変わっていくのだろうと、上杉は珍しく感傷に浸っていた・・・・・。




                                                                      end




















・・・・・では、なかった(笑)。





 「ジローーー!!きょーもきてやったぞーーー!!」
 「うるせー!タロ!ここは託児所じゃないっていったろーが!!」
 感傷は、それ程長く続かなかった。
別れの感傷に浸る間を与えず、豆台風達はいきなり学園に乗り込んできたのだ。

 「ジローがないてるとおもってきてやったぞ!!きょーからおれたちもここのなかまだから!!」

 付属幼稚園というのを軽く考えていたらしい。
ここから徒歩で15分も掛からない所の、小学校と同じ敷地にある幼稚園から、5人のお子様達は太朗を先頭に高校にまでやっ
てきた。
 それから2、3日に一度はやってくる子供達の為に、生徒会のメンバーは常に生徒会室にいなければならなくなった。
 「お前達が来るようになってから散々だ。遊びにも行けやしねえ」
口ではそう言う上杉だが、生徒会室にある小さな冷蔵庫の中には、常に子供達が喜びそうな菓子を入れてやってるという矛盾す
る行動をしている。
 「トモ!」
 「おにいちゃん!」
 それに、静や友春に会いに、アレッシオや江坂も頻繁に生徒会室に訪れるようになってしまい、広いと思っていた生徒会室が狭
いと感じるようになった。
 「ホントに、お前達はなあ・・・・・周りも迷惑してるんだぜ」
 「うそばっかり!おれ、またきてねっていわれてるもん!」
 ベーだと舌を出しながら言う楓の言葉は嘘ではない。
煩い子供という認識ではなく、可愛い子供と歓迎された5人には、なんとそれぞれファンが付く様になっていた。
放課後元気に登校(?)してくる5人を、待っている者達さえいるのだ。
(ただのガキだぞ・・・・・?)
 上杉はそう思うが、そう思っている自分もこの5人を・・・・・太朗を特別視しているという自覚は・・・・・さすがにある。
 「へへ、だいじょうぶだって、ジロー!」
中でも、弟にしたいNo.1と言われている太朗が、ギュウッと上杉の首に抱きつきながら笑った。
 「おれのいちばんはジローだから!!」
 「・・・・・バ〜カ」





 一過性の豆台風だと思っていたものは、思いがけず自分の心の中に居座ってしまっている。
それが妙に嬉しくて、上杉は笑いながら太朗の髪をクシャッと撫でてやった。




                                                                    おしまい




                                            





高校生達×幼稚園児達、第10話、最終回です。

ラストは始めからこう決めていたのですが・・・・・どうでしたか?

これからも何かのイベントの時に出したいと思うような楽しい話になったと思います。