KIDS  TYPHOON












 別荘の庭でのバーベキューは、まだ日がある午後5時過ぎから始められた。
手際よく調理の下準備をしていく海藤と綾辻と。
火の前で炭酸飲料片手に(やっぱり酒は却下されたらしい)上機嫌に肉を焼いている上杉と。
世話をされるのが当然のように簡易椅子に腰を下ろしたアレッシオと小田切に焼けた食べ物を運ぶ倉橋と伊崎と。
 「江坂は?」
 「電話してくるって」
 「ほら、お前達腹一杯食えよ?トウモロコシもソーセージも好きなだけ焼いてやるぞ」
 「やった〜!いっぱいやいてよ、ジロー!」
 「おにいちゃん、ありがとう!」



(食ってる時は大人しいな)
 当たり前かもしれないが、口いっぱいに食べ物を頬張っている子供達は皆大人しく、しかし、口の中から物が無くなった途端に
甲高い歓声が響いている。
その声を煩く感じない自分は既に毒されたかと思いながらも、上杉はこの時間を楽しんでいた。
 「ジロー、おにくちょうだい!」
 上杉の横に陣取るように座っている太朗が、両手で皿を持ったまま偉そうに言う。
上杉はニヤッと笑って、焼いた大きなトマトをでんと皿の上に置いてやった。
 「な、なんだよ、これ!」
 「タロは好き嫌い無いよな?子供じゃないんだし」
 「う、うん、あたりまえだろ!」
 「じゃあそれも食えるだろ?甘いトマトらしいぞ」
 「・・・・・」
トマトの丸焼きなど上杉も食べたことは無かったが、これは無表情な江坂が無言で網の上にのせていったのだ。
丁度その時電話が掛かってきて席を外したのだが・・・・・。
(まあ、また焼けばいいしな)
それよりも、太朗の涙目が見てみたい。本当は嫌なのにはっきりとそう言う事が出来ず、そっちからどうにかしてくれと訴えるような
必死な視線。
頼られているようで気持ちがいいのと同時に、もっともっとクチャクチャに苛めたい気もする。
(俺ってSだったのか?)
 暢気にそう思っていた時、太朗の皿から忽然とトマトが消えた。
 「あ!」
 「これは私の分でしょう」
 憮然とした表情で言い捨てた江坂は、そのまま空いた椅子に座ってトマトの皮を剥き始める。
 「・・・・・かっこいい、あのにいちゃん・・・・・」
思い掛けない救世主に太朗が目を輝かせるのを、上杉は面白くなさそうに見つめた。



 「食べているか?トモ」
 「うん」
 「欲しい物があったら言いなさい、取りに行かせる」
 あくまでも自分が取りに行くとは言っていないのだが、子供の友春はそんな細かなことは分からない。
ただ嬉しくてにっこりと笑みを浮かべた。
 「ありがとう、ケイ」
 「・・・・・」
(明日までか・・・・・)
 やっと、友春が笑顔を見せてくれるようになったのに、明日にはもう東京に帰らなければならない。
高校生と幼稚園児、そしてイタリア人の自分と日本人の友春では、この先とても接点があるとは思えなかった。
(せめてトモの父親が私の会社に入っていればいいのだが・・・・・)
そう考えると、それがなんだかいいような案の気がした。
 「トモ、お前の父親はどこに勤めている?」
 「つとめ?」
 意味が分からないのか首を傾げる友春に、傍にいた江坂が砕いて言ってやった。
 「パパのお仕事は?」
 「パパ?パパはね、おきものをつくってるの」
 「おきもの?」
 「そうだよ、ともくんのパパはおきものをきせてくれるのじょーずなんだよね?ぼくのママもよろこんでた」
隣にいた静がそう言うと、父親が褒めてもらって嬉しいのか友春はくすぐったそうに笑んでいる。
しかし、アレッシオはその意味が分からなかった。
 「キモノを着せる・・・・・?」
 「多分、呉服屋か何かじゃないですか?そういう職業は代々受け継がれることが多いので、あなたの思惑通りにはなりそうにあ
りませんね」
 「・・・・・」
苦笑を込めた江坂の言葉に、アレッシオは面白くなさそうに口元を歪めた。



 美味しいご飯をお腹一杯食べて、昨日と同じ様に騒がしく風呂に入った子供達は、ずっと上がり続けたテンションのせいか昨
日よりもかなり早く睡魔が襲ってきたらしかった。
しかし、眠い目を擦りながら上杉の前に整列した5人のお子様達は、お願いだからとみんな一緒に寝たいと訴えた。
 「あのなあ」
 「おねがい、ジロー!おれたち、みんないっしょにねたいんだ!」
 「おねがい、おにいちゃん!」
 「おにいちゃん!」
 上杉は濡れた髪をかき上げながら溜め息を付く。
 「全員一緒となると、このリビングに布団敷くしかないだろう?この辺り夜はまだ冷えるぞ?」
 「さむくないよなっ?」
太朗が真琴に言うと、
 「こどものたいおんはたかいんだって!」
そう、真琴が言う。
 「あのさあ、めんどうとかおもうなよ?くろうはかってでもしろって、おれのにいちゃんもいってる!おふとんしくくらい、おとなだったらか
んたんだろ?」
と、妙に古臭い言葉を楓が堂々と言ってみせた。
(・・・・・ああ、そういえばこいつの家・・・・・)
きっと、普段から父親達の言葉を聞いているのだなと妙に感心していると、別の方からも声がしてきた。
 「おねがい、おにいちゃん、ぼくまだみんなといっしょにねたことないの」
 「ぼ、ぼくも、おねがい」
大人しい友春も、のんびりとした静も、お願いと上杉に頭を下げている。
 「・・・・・仕方ねえな」
 ここにきて何度同じセリフを言ったかと思いながら、上杉は海藤を振り返った。
 「布団を集めて、俺とお前と・・・・・伊崎、3人もここに寝るか」
それも合宿みたいで面白いかもしれないと思っていると、
 「ウエスギ、私もだ」
 「・・・・・アレッシオ?」
 「私もここでトモと一緒に寝るぞ」
 「ホント?おにいちゃん」
 「トモと最後に過ごせる大切な時間だ。なぜ離れて寝なければならない」
ムッとしたようにアレッシオは言うが、上杉は全く考えていなかった展開に内心驚いていた。
(この男が、床で雑魚寝か?)
とても考えられないが、アレッシオにとってこの小さな子供はかなり大きな存在になったのだろう。
それがどういう意味かは分からないが、自分にとっても今回のこのお守は、結構大きな出来事だったので、それはそれで有りかと
追求しないでおいてやろうと思った。
それに。
 「私もここで寝るぞ」
 続けて江坂が無表情のまま続ける。
 「お前もか?」
 「一緒に寝ると約束しているからな」
 「ね〜」
嬉しそうに静が頷く。
(おいおい、天変地異か?)
幼稚園児と仲良く頷き合う江坂を、上杉は少し嫌そうに見ていた。



 結局、全員リビングで寝ることになり、それぞれの部屋から布団を持ってくる。
伊坂の隣に陣取った楓は、ふふっと嬉しそうに微笑んだ。こんな風に笑うと、本当に天使のように可愛らしい。
 「きょーすけ、うれしい?」
 「え?」
 「おれとこーしていっしょにねるの」
 「ええ、嬉しいですよ」
生意気な口をきいても、楓はやはり可愛い。
伊崎は苦笑しながらポンポンと楓の頭を撫でた。
 「早く寝なさい」
 「え〜、まだねむくないよ!」
 「あ!おれも!」
 「お前も寝ろって」
 少し遠くから太朗も叫ぶが、隣の上杉から頭を枕に押し付けられている。
すっかり掛け合い漫才のような姿が恒例になってしまった2人姿を見ていると、隣から楓が口を膨らませて面白くなさそうに言った。
 「タロのやつ、あいつとなかよくなって・・・・・」
 「妬きもち?」
 「ち、ちがうよ!タロのおもりはつかれちゃうもん!あいつガキだから!」
 「そうかな」
 「そうだよ!ないしょだけど、タロ、おひるねのじかんに、おねしょしたことあるんだ」
 「かえで!ないしょっていったろ!」
 「そんなのしらないも〜ん」
みんなの前でおねしょをバラされた太朗は、布団の中から飛び出して楓の上に馬乗りになった。
 「おもい!」
 「ちょっと、ふたりともお〜!」
そんな太朗を止めに真琴も加わり、続いて友春も静も加わって止めようとするが、それは何時しか楽しい遊びに変わっていく。
被った布団を蹴り飛ばし、添い寝をしてくれる高校生達も足蹴にして暴れまくる子供達に、しばらくして上杉の大きな一喝の声
が落ちた。
 「お前ら、うるせー!!」
 「わあ!」
 「きゃあ!」



 それからしばらく、ブツブツと文句を言っていた太朗が、いきなり電池が切れたようにコトリと寝たのを確認した上杉は、周りを見
てようやくはあっと溜め息を付いた。
 「寝たか」
他の4人も前後して既に眠っていた。
起きている時はなんでこんなに無駄に元気なのだと思っていたが、こうして眠ってしまうと少し寂しく感じてしまう。
まだ、あのでっかい綺麗な目で真っ直ぐに見ていて欲しかったし、生意気な言葉で笑わせて欲しい。
 「・・・・・静かですね」
 子供達を起こさないように小さな声で、綾辻も苦笑を浮かべたまま言った。
 「お前も残念だったな」
 「・・・・・これも結構楽しいし」
始めは倉橋と2人で部屋に戻ろうとした綾辻も、みんな一緒にとせがむ子供達に負けて一緒に眠ることになってしまった。
2人きりの時間が駄目になって残念に思っているかとも思ったが、意外にその顔は穏やかだ。
 「最近小さな子と遊んでなかったし、たまにはいですよ」
 「・・・・・そうだな」
 上杉も、こんなに小さな子と何も考えずに遊んだのは久し振りだ。
身体が大人になって遊ぶ内容もかなり変化していったが、こんなふうに心から楽しいと思ったのは随分と無かったと思う。
いや。
(タロと一緒だったからか・・・・・?)
 「・・・・・明日、帰るんですよね」
 真琴に布団を被せながら、海藤が静かに言った。
 「・・・・・だな」
 「寂しいですか?」
 「お前の方こそ」
誰もが、同じ様な思いを抱いているような感じがし、上杉はじっと太朗を見つめる。
小さく口を開け、大きな目が閉じられているその表情は・・・・・本当にガキンチョそのものだ。
 「明日か・・・・・」
(もったいない・・・・・な)
この時間が少しでも長く続いたらいいと、柄にも無くそう思ってしまった。
 「会長」
 「・・・・・寝るか。明日も早いしな」
 「はい」
 「おやすみ」
 「おやすみなさい」
口々にそう言葉を交わし、リビングの明かりが落とされたが、それでも高校生達はしばらく寝ることは出来ない。
明日はいよいよ、子供達と自分達の別れの日だった。





                                      






高校生達×幼稚園児達、第9話です。

次はいよいよ最終回。

彼らがどういう別れ方をするか、今頭の中でその光景が駆け巡ってます。