LOVE TRAP





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『』の中はイタリア語です。





 双丘を両手で広げられ、身体の中を舐められるという羞恥に、友春は唇を噛み締めながら必死で耐えた。
恥ずかしくてたまらないのに、受け入れたいとも思う。相反する思いが自分自身の心の中でせめぎあいながら、友春はシーツに頬
を埋めてアレッシオの愛撫を受け止めていた。

 クチュ クチュ

 「・・・・・っ」
(そ、なに、舐めなくて、いいのに・・・・・っ)
 夕べもアレッシオに抱かれた自分の身体は、多分多少無理をしたならば愛撫が足りなくてもアレッシオを受け入れることが出来
るはずだ。それなのに、必要以上に施される愛撫は・・・・・なんだか楽しまれているような気さえしてしまう。
 「ケ、ケイ」
 「・・・・・」
 名前を呼んでも、淫らな水音をさせているアレッシオは友春の下肢から顔を上げない。
友春は、もういいからと、自分からねだるように小さな声で言った。



 「も、い・・・・・から、いれ、て、くださ・・・・・い」
 小さな、吐息交じりの声。それでも何を言われたかははっきりと聞き取れる。アレッシオは、友春の肛腔で締め付けられている
自分の舌を引き出した。
 「どうした、もう我慢が出来ないのか?」
 耳元で囁くと、うんうんと友春は頷いている。
奥ゆかしい友春にとって、痛さよりも羞恥の方がより苦痛だということは分かっていたが、友春の身体を少しも傷付けたくはなかっ
たし、また、その反応を見るのが楽しいという理由もあった。
(もっと、トモを乱れさせたいんだが・・・・・)
 自分の愛撫に身体が蕩け、欲しくてたまらないと言わせるのも楽しいが、その前にアレッシオ自身の我慢が限界に来ていた。
夕べ抱いたくらいでは全く足りない、いや、さらに飢餓感が増してしまい、これ以上自分の欲望を焦らしてしまったら友春を壊し
てしまうかもしれない。
(壊すはずが無い、こんなにも愛しいのに・・・・・)
 「トモ」
 「・・・・・」
顔を上げ、唇を近づけると、友春は素直に口を開けてアレッシオの舌を受け入れた。
最初の頃、下肢を愛撫したそのままの唇でキスをされるのさえも嫌がっていた友春。その彼が、自分から口を開いてくれるほどに
自分を受け入れてくれている・・・・・それが、嬉しかった。



 少しだけ重かった身体が軽くなった。足を押さえつけていたアレッシオの手が外れたのだ。
 「あ・・・・・」
 「・・・・・」
まだ服を着たままだったアレッシオが身を起こし、シャツを脱ぎ始める。
 「・・・・・」
じっと見ているのは、まるで物欲しそうだと言われてしまいそうだったが、綺麗な大人の男の身体であるアレッシオを見つめたいと思
うのは抗いがたい欲求だった。
(綺麗・・・・・)
 しなやかな筋肉も、褐色の肌も、女ならば誰もが官能をかき立てられてしまうだろうが、友春は男でもそうかもしれないと思う。
こうなりたいという憧れ以上に、あの肌に触れたい、抱かれたい・・・・・いや、そう思ってしまうのは、実際にアレッシオに抱かれてい
る自分だからなのだろうか。
 「・・・・・」
 じっと、ベッドに横たわった状態で視線を向けると、アレッシオがそれに気付いたのか唇に笑みを浮かべた。
色っぽくて、淫蕩で、それでいて・・・・・溢れる愛情を感じさせる眼差し。友春はじわじわと自分の頬が熱くなってくるのを感じて、
ぎこちなく視線を逸らそうとした。
 「トモ」
 しかし、それはアレッシオの指先一つで止められてしまい、そのまま、頬に触れた指先は唇を辿り、ゆっくりと胸元へと下ろされて
いく。
 「あ・・・・・」
ただ、指が触れているだけなのに、その場所から身体に火が付いていくような気がする。
そして・・・・・その指に内股から、震えて勃ち上がっているペニスに触れられた時、
 「・・・・・っ」
友春は呆気なく精を吐き出してしまった。



 指先に絡みついた友春の蜜をそのまま、双丘の奥まで指を滑らせたアレッシオは、少しだけ柔らかくなった蕾のふちをそろりと撫
でた。
 「!」
ピクピクと、跳ねる身体は感度の良さを伝えてくれ、アレッシオは笑みを湛えたまま指先を蕾の中へと差し入れる。
熱く、柔らかい、友春の中。既に絡み付いてくる内壁が、早くこの中をいっぱいに満たしてくれと催促をしているようだ。
 「・・・・・トモ、少し痛むかもしれないが・・・・・」
 「い、い」
 自分が待てないように、友春も待てないと思ってくれているのだろうか・・・・・アレッシオは僅かだけ綻んだ蕾に、既に勃ち上がって
先走りの液を流し始めている自分のペニスの先端を押し付け、
 「・・・・・っ」
 「ぐぅっ・・・・・!」
友春の片足を持って大きく開かせると、そのままぐっと腰を突き入れた。

 熱い、あつい、アツイ。
友春の中は、何時でも最高の刺激を与えてくれる。それは、女や、もちろん他の男でも到底与えることなど出来ない快感だ。
セックスの技巧など全く関係なく、愛があるからこそここまで燃え上がることが出来るということを、アレッシオは友春と知り合って初
めて知ることが出来た。

 グチ グリュ

 「トモ、お前の中は、熱く、私のペニスに絡み付いてくる」
 「い、言わな、で・・・・・っ」
 「ああ、お前が話すと、さらに締め付けが強くなるな。そんなに私の精が欲しいのか?女なら既に子供が出来るほどにお前の中
に吐き出してきたというのに・・・・・まだ足りないのか?」
 「・・・・・っ」
 「お前が絞ってみたらいい。好きなだけ、お前の中に塗り込めてやるぞ」



 「あっ、はっ、あっ、やっ」
 どんなに我慢しようとしても、口先から零れてしまう嬌声。
口を覆ってしまいたいのに、片手はアレッシオの指と絡められ、もう片方は自ら逞しい背中に抱きついている。
アレッシオの腰の動きに合わせて揺れる足を潤んだ瞳で見つめながら、友春は自分の身体だけでなく、心まで蕩けてしまったよう
に思った。
 「ケ・・・・イ」
 「トモ」
 「ケ、イ・・・・・ッ」
(僕は・・・・・たぶ、ん・・・・・)
 多分、自分はこの男に惹かれているのだろう。
初対面の自分を強姦し、そのままイタリアまで攫って、支配しようとした憎い男。好きになることはもちろん、この男とこんな気持ち
でセックスをすることなど考えたこともなかったが、今の友春の中では、この我が儘な暴君を愛しいと思う感情があった。
 ・・・・・ただ、それをこの男にだけは知られたくないとも思う。
もしも知られてしまったら・・・・・さらに、快感の波に攫われることになってしまったら・・・・・きっと自分は、自我というものをなくしてし
まうような気がする。
(好きなんて・・・・・言えない・・・・・っ)
 言ってしまったら・・・・・戻れない。
 「トモ、私を見ろ」
 「・・・・・はっ、はっ」
 「トモ」
身体を揺さぶられ、何度も名前を呼ばれて、友春はようやく目を開く。潤んだ視界の中にいる男の、綺麗な綺麗な碧色の目の
中に映っている自分は・・・・・笑っているように見えた。



 「・・・・・っ」
 急に中のペニスを強く締め付けられ、アレッシオは奥歯を噛み締めてイクのを我慢した。
(トモ・・・・・?)
友春の身体の中の何かが変わっている・・・・・アレッシオはそれに気付いたが、唇を噛み締めたままアレッシオのペニスに苛まれ続
ける友春を見ていると、容易に口を開かないことも分かる。
 「・・・・・可愛いな、トモ。お前の戸惑いも、悩みも、怒りも、全て私が関係しているとしたら、こんなに嬉しいことは無い」
 「ケ・・・・・イ」
 「今はこのまま快感に溺れろ、トモ。お前の全ては私が受け止めてやるっ」
 「あ・・・・・っ!」
 深く腰を突き入れたアレッシオは、その最奥で精を吐き出す。
その精を友春の内壁に擦り付けながら、今だ萎えることのないペニスで、アレッシオは再び華奢な身体を激しく揺さぶり始めた。
背中からは抱かない。淫蕩に歪む愛らしい顔を間近で見ていたかったし、自分を抱いているのが誰なのか、友春にも自覚をして
欲しいからだ。
 「はっ、もっ、やめ・・・・・っ」
 「トモ・・・・・トモッ」
 友春の内壁に擦られるたび、さらに大きくなる自分のペニス。自分の欲望に限りが無いのか、それとも自分は溺れているのか、
アレッシオ自身にも分からない。
それでももう、一緒にいられる時間は・・・・・終わりに近付いていた。








 目覚めた時、友春は裸のままだった。いや、目覚めたというのは言葉が違うかもしれない。
友春が眠りに落ちたのはほんの1時間ほど前で、友春はほぼ1日、食事と僅かな睡眠の時間以外は、ずっとアレッシオに組み敷
かれていた。
 「あ・・・・・」
 「疲れたか?」
 既にシャワーを浴びたのか、髪を濡らしたバスローブ姿のアレッシオは、笑いながら友春の頬に唇を寄せてきた。その表情や行動
でも、彼の上機嫌が分かる。
(・・・・・っ)
 その要因が何なのか、想像するととても恥ずかしい気がするが、受け入れてしまった自分を確かに覚えている友春は反論するこ
とは出来なかった。
 「・・・・・トモ、私は今日、イタリアに戻る」
 「え?」
 突然の言葉に、友春は一瞬声が詰まった。
最初に聞いた予定では、一週間ほどの滞在だということだったが、どうしてこんなに短く・・・・・。
(あ・・・・・今回の、ことで?)
 夕べの銃撃戦の理由ははっきりとは分からないものの、多分、それと、後は・・・・・。
 「あ、あの人の、こと?」
 「・・・・・」
 「あの女の人の・・・・・」
 「トモ」
友春がクラウディアの名前を全て言う前に、アレッシオは軽く口付けをしてきて言葉を止める。
 「私の愛はお前だけのものだ。それだけを覚えていればいい」
 「・・・・・あの」
 「どうした」
 「・・・・・見送り、行っても・・・・・いいですか?」
 「トモ?」
思い掛けない言葉だったのか、珍しく驚いた表情をしたアレッシオに、友春は少しだけ笑ってしまった。





 自家用ジェットでは待つ時間は無い。ある程度時間は決まっているものの、それでも普通に飛行機に乗るよりは遥かに自由だ
ろう。
昼夜責め苛んだ身体はかなり辛いはずだが、友春は時折眉を顰めるだけで、しっかりと空港までアレッシオについてきた。見送る
という言葉はどうやら本気で言ったようだ。
 「またしばらく離れることになるが、今回の念入りに可愛がってやった私の身体を簡単には忘れないだろう?」
 少しからかうように言うと、友春は複雑な表情をしている。
(こんな風に言うから・・・・・トモが嫌がるのかもしれないな)
 『ドン・カッサーノ』
 『まだいいだろう』
 『天候が崩れるようです』
 『・・・・・』
アレッシオは眉を潜める。最愛の人物との別れを時間いっぱい惜しもうと思っていたのに、天候まで敵に回るとは何と言えばいい
のだろうか。
(まさか、天候にまでは命令は届かない)
 「仕方ない、トモ。これでお別れだ」
 「・・・・・はい」
 「お前はもう来なくていいと思っているかも知れないが、私はまたここにやってくる。二度と日本に来て欲しくないと思うのならば、
お前が私と共にイタリアへ来るしかないぞ」
 「・・・・・」
 「キスを、トモ」
 アレッシオが言うと、少しだけ躊躇った後・・・・・それでもゆっくりと近付いてくる友春。命令しなければ別れのキスもしてもらえな
いのは寂しいが、こうして近付いてくるだけでもかなりの進歩だ。
 「・・・・・」
 アレッシオのスーツの袖を少しだけ引く仕草に腰を屈めてやると、

 チュ

(トモ?)
意外にも、友春はアレッシオの唇にきちんとしたキスをしてきた。その友春の行動の意味を考えようとしたアレッシオだが、続く友春
の言葉に思わず唇が止まってしまった。
 「・・・・・気をつけてくださいね」
 「トモ・・・・・?」
 「に、日本に来たら、あなたを守ってくれる人が少なくて心配だし・・・・・今度・・・・・今度は、あの、僕が、イタリアに遊びに行き
ます、から」
 「・・・・・っ」
 「・・・・・こ、香田さんにも、会いたいし」
 「・・・・・」
(どういった心境の変化か・・・・・いや、理由などいらないな)
友春がイタリアに行こうと、言葉だけでも思うようになったことが嬉しい。
 「ナツのことを考えるのは気に食わないが、お前がイタリアに来る気になる餌ならば大事にしなければな」
 「え、餌なんて」
 「待っているぞ、トモ。お前がイタリアに来てくれる日を」





 見送る友春の視線を背中に感じながら、アレッシオは滑走路へと向かう。
友春がイタリアに来るのと、待ちきれずに自分の方が再び日本に来るのと、どちらが早いだろうか?
(多分、私の方が飢えるだろうが)
 実際に、友春がイタリアに来ることがなくてもいい。それでも、多分今度自分が日本に来た時は、こうして帰国する時に、隣には
友春がいるような気がする・・・・・。
 「・・・・・」
その光景を想像したアレッシオの頬には、友春でさえ見たことがないような柔らかな笑みが浮かんでいた。




                                                                       end




                                             






アレッシオ&友春、これで最終話です。
これで第五弾になりますが、初めから比べるとかなりの進展だと思います。
次回には、もう少し恋人らしい姿が見せられるような気がしますが・・・・・どうでしょう?