マコママシリーズ
第一章 懐妊編 1
始めは、風邪だと思った。
身体が重く、ずっと胸がムカムカして、何をするにしても気が重い。
熱も無く、咳も無いので、まあいいかとずっと放っておいたのだが、余りに調子が悪そうなのを見かねた海藤が、御目付け役に
倉橋を残して言った。
「とにかく、今日は絶対に病院に行け。何かあってからじゃ遅いんだぞ」
「・・・・・うん」
「倉橋、頼んだ」
「はい。結果は直ぐにお知らせいたします」
西原真琴は、去年大学生になった19歳の青年だ。
青年といっても、真琴は全体的にほんわりと柔らかい雰囲気を持ち、身体つきもほっそりと華奢で、どこか不思議な存在感を
持っていた。
そして、恋人である海藤貴士は、広域指定暴力団、大東組の傘下、開成会の会長である。
偶然、バイトをしていて知り合った海藤と、少し強引な手段ながらも結ばれ、今は2人は男同士ではあるが熱々の恋人同士
だった。
海藤はとても真琴を大切にしてくれる。
それは物理面ももちろんだが、今の真琴にとって海藤は大きな心の支えにもなっていた。
そんな大切な恋人からの厳命に、真琴は滅多に行かない病院に行った。
こうなると一緒にいてくれる海藤の秘書的役割をしている(それでも立派な幹部だが)倉橋克己が頼りだ。
「何か、変な病気かな・・・・・」
「大丈夫ですよ。年が明けて急に冷え込んだので、きっと風邪をひかれただけですよ」
「・・・・・それならいいんですけど・・・・・」
しかし、検査は思いの他長く掛かった。
と、言うよりは、奇妙な検査に回されたのだ。
(俺、いったい何の病気なんだろ・・・・・?)
始めに内科で検診を受けた真琴は、なぜかその後血液と尿を取られた。
その上、大げさな機械で全身をくまなくスキャンされたのだ。
たっぷり2時間近くの検査を終えた真琴は、倉橋と共になぜか院長室に通された。
「いったい、これはどういうことでしょうか?」
不安でたまらない真琴の代わりに、倉橋が少しきつい口調で院長に詰問する。
すると、白髪交じりの温和な表情の院長が、かなり困惑しているといった表情で口を開いた。
「それが・・・・・大変不思議なことだとは思うんですが・・・・・」
『大変申し訳ありませんが、直ぐに事務所に戻りますのでお待ちいただけますか』
倉橋から電話があってから30分。海藤は珍しく落ち着き無く部屋の中を歩いていた。
まず、今日病院に行ったはずの結果を倉橋が口にしないのが妙だった。仮に真琴がどれ程重い病気だったとしても、海藤に忠
実な倉橋は必ずその報告をするはずだ。
そう考えると、電話の向こうの倉橋の声は暗くはなかったものの、どこか途惑ったような気配を匂わせていた。
(命には関係が無いが妙な病気なのか・・・・・?)
もし、仮にそうだとしても、海藤はけして病気に負けるとは思わなかった。
どんな名医でも日本、いや、海外からでも探し出し、どんなことをしても真琴を治してみせるつもりだった。
「失礼します」
不意に、ノックの音がしたかと思うと、ドアが開かれて倉橋が顔を見せた。
「真琴は?」
「こちらに・・・・・真琴さん、さあ」
倉橋の後ろに隠れるように立っていた真琴が、オズオズといった感じに顔を見せた。
「真琴」
(顔色は・・・・・悪くはないようだが)
歩み寄った海藤は、真琴をそっと抱きしめた。
「随分長く検査が掛かったな。疲れただろう?」
「・・・・・ううん」
真琴は短く答えたが、なかなか検査の結果を言おうとはしない。
海藤は倉橋に視線を向けた。
「結果は」
「・・・・・それは、真琴さんご本人から聞かれた方がよろしいかと」
「・・・・・真琴」
かなり深刻な病気なのだろうか・・・・・海藤は表情を改めたが、口調は変わらず優しく言った。
「何も心配することは無い。全て俺に任せろ」
「か、海藤さん」
「ん?」
真琴は顔を上げた。
少し困ったような、迷っているような、複雑な表情をしていたが、やがて決心がついたのか思い切ったように言葉を続けた。
「あの・・・・・ビックリしないで下さいね?」
「ああ」
「・・・・・俺・・・・・」
「・・・・・」
「俺、その・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・に、妊娠、してるって」
「・・・・・え?」
「あ、赤ちゃんが、お腹の中にいるって・・・・・」
一瞬、聞き違いかと思った海藤は、重ねて言った真琴の言葉に珍しく目を見張った。
(妊娠?真琴が?)
それは、今まで全く頭の片隅にも無かったことだった、
それまで遊びで付き合ってきた女達とは、万が一のことを考えてピルを飲ませ、自分も避妊具を必ず着けてセックスをした。
もちろん、その女達との間に子供を作ることなど考えもしなかったが、相手が『女』というだけで、可能性だけはあったからだ。
一方、海藤はこんなにも愛しいと思っている真琴が男だということを少し残念に思っていた。
それは女に劣るというわけではなく、もしも真琴が女だったら、結婚して妊娠させて自分の子供を生ませるという、紙の上でも物
理的にも自分から絶対離れていかないように出来るのに・・・・・そう思っていたからだ。
男は妊娠しない・・・・・それは当たり前過ぎるほど当たり前の常識だった。
「本当に?」
海藤は真っ直ぐに真琴を見つめて再度聞く。
すると、真琴は恥ずかしそうに微かに頷いた。
「・・・・・本当。俺も、何度もお医者さんに確かめました。俺は男なのに、妊娠することなんかあるんですかって。そうしたら、最
近色んな国で、もちろん日本でも、男が妊娠する例が増えてるんだって。・・・・・海藤さん」
真琴は、泣きそうに顔を歪めながら言った。
「俺・・・・・海藤さんの赤ちゃん・・・・・産んでいいのかな」
海藤の返事を聞くのが怖いのか、真琴は言った後逃げようと身体を身じろがせる。
しかし・・・・・海藤の腕の拘束は緩むことは無く・・・・・僅かに震えてはいたが、更に腕の力は強くなっていた。
「当たり前だ、俺達の子だろう」
それがどれだけ奇妙なことなのかは関係なかった。
海藤にとって、一番愛しい相手が自分の分身を身に宿したのだ。これ以上に嬉しいことがあるだろうか。
「結婚するぞ、真琴」
きっぱりと言い切ってくれた海藤に、真琴はただしがみついて泣くしかなかった。
![]()
![]()
禁断の『妊娠』話です。
チャットで盛り上がり、リクエストでもパラレルみたいな話が読みたいという意見も頂いてました。
それなら短編じゃ勿体無いから、いっそ連載にと・・・・・この『ままだいすき部屋』を誕生させました。
ここは現代・ファンタジー関係なく、私のサイトの子達のママ編を書いていきたいと思ってます。
このカップルの話も見たいというリクエストがあればドンドンどうぞ。地道に書いていきたいと思ってます(笑)。