MY SHINING STAR



プロローグ








 「なあ、タロ、今日帰り遊べるか?」
 「今日?いいよ、でも5時までな」
 「また散歩か?」
 呆れたように言う悪友の大西仁志(おおにし ひとし)の言葉に、太朗はぶーっと頬を膨らませて言い返した。
 「それが俺の役割なんだからしょうがないだろ」
 「まあ、そうなんだろうけどさあ」
 「ちゃんと世話をするって条件付きで飼うの許してくれたんだからっ」
太朗の動物好きを中学の頃から知っている大西は苦笑する。
同じ高校1年生だというのに、いまだ身長も体重も伸び悩んでいる太朗とは違い、すでに170センチの大台を超えているバ
スケット部の大西とは中学2年生の時に一緒のクラスになって以来の親友で、お互い言いたいことを言い合える大切な存在
だ。
 しかし、中学を卒業する前後から急に大人っぽくなった大西は、その爽やかな容姿の良さもあって女の子にもモテ初め、太
朗は自分が置いていかれたような気分を味わうことも多くなっていた。
 それでも、大西は何よりも先ず太朗を優先してくれるし、なによりバスケットをしている姿は太朗の目から見てもカッコイイの
で、一緒にいると楽しいし嬉しいのだ。
 「ま、今日は始業式で俺も部活休みだし、5時までは遊ぼうぜ。その後の散歩も一緒に行こうか?」
 「いいのかっ?」



 苑江太朗(そのえ たろう)は今年高校1年生になったばかりの元気の良い少年だ。
歳から考えればまだまだ幼い性格をしているが、素直さと明るさ、そしてくるんとした大きな目が可愛い少年で、男女問わず
可愛がられる存在だった。
 そんな太朗には、高校に入学して少し経った頃知り合った人物がいる。
太朗よりも遥かに大人でカッコイイその人は、普通の生活をしていたら絶対に知り合わない類の人だったが、古めかしい名前
が太朗の飼い犬と同じ響きで、意外と世話好き、犬好きなとこが気が合うと、ずっと会い続けていたが・・・・・ある日、ささい
な言葉の行き違いから貞操の危機に遭い、更には告白までされてしまった。
 年齢の差、生活環境の違い、そして・・・・・男同士。
どこにも頷ける条件は無かったのだが・・・・・。



 2学期の始業式だけなので、ほぼ全校の人間がいっせいに帰宅を始める。
今日から部活動を始めるところもあるようで、グランドからは掛け声が響いていた。
 「昼飯どうする?マック行くか?」
 「仁志がいいならうちに来る?チャーハンぐらいなら作れるぞ?」
 「え?タロの手料理?そりゃ楽しみ」
 「・・・・・なんか馬鹿にされてる気が・・・・・」
 2人が小突きあいながら歩いていると、校門には人だかりが出来ている。
 「何だ?」
不思議そうに首を傾げながら立ち止まった太朗の耳に、弾んだ女生徒達の声が聞こえてきた。
 「ね、芸能人?」
 「見たことないよ〜、誰かのカレシじゃない?」
 「うっそ、あんなにイケてるカレシなんていいな〜」
背の低さからか全く視界が開けない太朗の代わりに、大西が少し背伸びをする格好で前を見る。
 「誰か待ってるみたいだけど・・・・・」
 すると、今度は男子生徒の声が耳に入ってきた。
 「あれ、ジャガーのデイムラーじゃねえ?」
 「うわ、1500万は軽く超えるだろ〜」
 「色がシルバーっていうのが目立ち過ぎだけどなあ」
 「乗ってる男も派手だよな」
 「・・・・・」
(ハデな外車に、ハデな男・・・・・?)
何だか嫌な予感がした太郎だったが、怖いもの見たさで人垣を掻き分けて前に進む。
 「お、おい、タロ!」
背中で大西の声が聞こえたが、太朗の足は止まらなかった。
そして・・・・・。
 「・・・・・げ」
 噂の通り、眩しいほど陽に輝くシルバーの車体に、左ハンドルは確かに外車のようで、その車体に背もたれて煙草を吸って
いる派手な男は・・・・・。
 「ジ、ジローさん・・・・・」
 呟くような太朗の声が聞こえたのか、男は身を起こすと、煙草を挟んだ手を軽く上げて笑い掛けた。
 「タロ」
 「な、なんで・・・・・」
あまりにも派手な男の登場に、太朗はただポカンと口を開けているしかなかった。



(お、可愛い顔してんじゃねえか)
 想像した通りの太朗のリアクションに、上杉滋郎(うえすぎ じろう)は内心にんまりと笑っていた。
この顔を見れば、先週『トメが熱を出したから』と約束をドタキャンされたうっぷんは晴れた。
 「・・・・・」
 しかし、上杉の頬に浮かんだ笑みは、直ぐに消え去ってしまった。
 「タロ、知り合いか?」
馴れ馴れしく太朗の肩を抱く男(上杉から見ればガキだが)の自分に向ける視線に、何だか嫌な雰囲気を感じ取ったのだ。
 「タロ」
 「タロ」
 上杉が声を掛けると、その男も太朗の名前を馴れ馴れしく呼ぶ。
牽制と偵察を兼ねて煩い学校にまで来た甲斐があった。
(もう虫が付いてやがる)