「ここで下履き脱げと申すのかっ?なぜわざわざそのようなことをしなければならぬのだ!」
エクテシア国国王、アルティウスは、不機嫌な表情を隠しもせずに言い放った。
赤の狂王と呼ばれるほどに荒々しい若い王に、その性格を熟知するバリハン王国第一王子、次期国王となる皇太子シエンが、
穏やかに口を挟んだ。
「その国その国の流儀に従わなければ。違いますか?」
「・・・・・っ、来たくて来た訳ではないわ!」
出来れば、こんな合議には出たくは無かったものの、最愛の后である有希が久し振りに蒼に会えることと、他にも自国の人間と
会うことが出来ると喜んでいたからだ。
(全く、我が腕の中だけでは不満と申すのか・・・・・ユキめっ)
「・・・・・っ」
アルティウスは足から下履きを脱ぎ捨てると、不思議な感触の床を荒々しく歩いた。
(相も変わらず、ユキ殿のことになると激しい御方だ)
シエンは苦笑を零すものの、自分の気持ちもあまり大差ないということを自覚していた。
シエンにも、婚儀を挙げた大切な妃、蒼がいる。
蒼と有希は同じ世界の人間で、ごく限られた時間しか会っていないというのに今では心許せる大切な友人らしい。
そして、今日会えるという同じ世界の人間に会うのをとても楽しみにしていた。
そんな蒼の楽しそうな様子を見ればシエンも何も言うことが出来ないが、もしも多くの故郷の人間と会って、元の世界に帰りたい
と思ってしまったらと思うと・・・・・。
(私もアルティウス王のことは言えぬな)
シエンは溜め息を付くと、自分の国とは全く様式の違う室内と、面前に広がる整理された緑を見ながら思わずといったように呟
いた。
「このように緑も水も豊かだと、民も過ごしやすいであろうな」
「へ〜、ここがタマの生まれた国か」
いや、正確に言えばそれもまた違うようだが、この世界の人間は皆珠生と同じ言葉を話すようだ。
海賊船エイバルの頭領、ラディスラス・アーディンは、それでもと直ぐに頭を切り替えた。
(まあ、俺も今回は特別に言葉が共通らしいけどな)
先程この建物に着いた珠生は、目を輝かせながら興奮していた。その様子が可愛くて思わずからかってしまったのがどうも頭にきた
らしく、珠生は1人でさっさと中に入って行ってしまった。
「さてと、俺も中に入るとするか」
だが、いったいどうやってこの建物の中に入っていったらいいのか分からない。
(なんだか妙に綺麗な床だしな・・・・・靴を履いたままじゃまずいか?)
どうするかと、ラディスラスは視線を彷徨わせた。
「兄上、変わった建物ですね」
光華国第二王子、洸竣が感心したように言う。
「ああ。変わったものばかりだが、贅を凝らしているのは分かるな」
光華国の第一王子、皇太子である洸聖は感心したように呟いた。
しかし、直ぐに眉を潜めると、自分達の少し離れたところに立っている蓁羅の王、稀羅に視線を向ける。
(なぜこやつと一緒に・・・・・っ)
大切な弟、第三王子、莉洸を奪った相手とどうして同行しなければならないのか、洸聖は内心どうしても納得がいかなかった
が、断ることが出来ない招待状に連名で名前を書かれていては仕方が無い。
「稀羅王、莉洸は元気なのか」
「後で会えばお分かりになろう」
「・・・・・」
「兄上」
拳を握り締めた長兄に気付いたのか、第四王子、末っ子の洸莱が洸聖を呼ぶ。
それに気がそがれた様に、洸聖は稀羅に背を向けた。
「行くぞ」
次に現れたのは、外見は人間と変わらぬ容姿ながら、その実人間を忌み嫌っている竜人界の次期王、紅蓮だ。
なぜ自分が人間界などに来なければならなかったのか今だに納得が出来ていない紅蓮は、このまま帰ってしまおうかとも思った。
しかし。
「・・・・・あんた、碧香の兄貴?」
「・・・・・お前は何者だ」
いきなりあんた呼ばわりをする口の聞き方を知らない若い人間。
紅蓮はふと、自分の手元にいる人間の少年の事を思い浮かべた。
あの者は言葉が通じず、紅蓮の事を恐れることもしない、それでいてこちらが圧倒されるほどに生命力に満ちた人間だった。
言葉が分からずとも、何を考えているのかその表情でよく分かったが、目の前の人間はあの少年よりも遥かに大人びていて、どこ
か不遜だ。
「昂也のこと、ちゃんと面倒を見てくれてるんだろうな?」
「・・・・・なぜお前にそのようなことを言わなければならん」
「じゃあ、俺もあんたに碧香のことは言わなくてもいいんだな」
「何っ?」
言うだけ言ったその人間は、スタスタと中に入っていく。
碧香の名前を出された上、コーヤのことも知っているらしい相手の後ろ姿を見た紅蓮は、面白くなさそうな顔をして後に続いた。
そして、最後に現れたのは、狼族のレンだ。
人間の集まりにどうして狼族の自分が参加しなければならないのかと思うが、この招待状を無視すれば今後の自分達の話を書
かれる可能性は全く無くなってしまうだろう。
せっかくのキアとの蜜月をもっと感じていたいレンは、この招待状には逆らわない方がいいだろうと何とか自分を納得させると、重い
足取りで人間の家の中に入っていった。
「御上、お客様が揃われたようですが」
「そうか」
呼びに来た松風の声に、今世の帝である昂耀帝は腰を上げた。
今回の催しに自分の屋敷が使われることを知った時は少し途惑ったものの、ここ以外に皆が集まれる場所は無いとの言葉に鷹
揚に頷いた。
自慢するわけではないが、確かにここ光黎殿は帝である自分の私邸なので警備も厳重であるし、造りも飾りも豪奢で他に見劣
りするとも思わなかった。
何より、事実上の妻にしたとはいえ、完全に自分に気を許しているとはいえない千里をこの屋敷の外に連れ出すのは心配で、
この屋敷内で会う方が安心だった。
「先ずは、各国の王とやらに会わねばならぬか」
この国の最高の地位にいるのは自分だが、広いどこかの国にはそれぞれに治めている者がいるという。
自分と同様の地位にいる人間が他にもいるとは考えられないが、それも事実であるらしいので仕方が無い。
「松風、どの様な者達であった?」
実際に会う前に少し知識を入れてみようと聞いた昂耀帝に、松風はなぜかしばらく黙って・・・・・やがて曖昧な笑みを浮かべて口
を開いた。
「なかなか面妖な方々ばかりでありますが、それぞれに威厳はお持ちでいらっしゃいます」
「ほう」
(それは楽しみだな)
【光黎殿の中の一番広い部屋に、11人の男が座っていた。
いや、座るという習慣の無い者は片膝をたて、今にも立ち上がって武器を手に出来る体勢になっている。
それぞれが相手の服装や髪型など、突っ込みたいところは満載であろうが、今日はあくまでも自分の伴侶(もしくは恋人)自慢と
いう趣旨だと作者にくれぐれも言われているので、難しい表情をしたままのアルティウスも紅蓮も席を立つことは無かった。
そうしてしまうと、出番が少なくなると作者に言われているからだ。
それでは、今から熱い(苦笑)男達の想いを垣間見てもらいましょう。】
「話すことも何も無い。我が妃ユキが一番美しく、愛らしい」
一番に口を開いたのはアルティウスだった。
「ソウは生意気だしな」
「アルティウス王、ソウもとても愛らしいですよ。もちろん、ユキ殿が繊細で美しい方だとは分かっていますが」
穏やかにシエンが言い返すと、容貌の美醜のことに少し含むところがあったのか、洸聖がきっぱりと言い切った。
「私の許婚である悠羽は美しいといえる容姿ではないが、その心根はとても強く優しい人間だ。美醜だけで優劣を決めるのは
いかがかと思うが」
「醜いよりは愛らしい方が良いであろう」
「顔だけが全てですか?」
「まあ、顔も大事だが、性格も重要じゃないか?」
言い合う2人に割り込んだのはラディスラスだ。
「俺のタマも、確かに顔だって可愛いが、何よりいいのはその性格だな。何時何をするか分からないとこがワクワクして楽しいじゃ
ねえか。とんでもないことをしでかすと、困るっちゃ困るが、面白いし」
「それは確かに楽しいかもしれないな。黎は少し大人し過ぎて、もう少し元気になってくれればいいのだが」
「・・・・・」
弟の洸竣の言葉に、洸聖は眉を潜めた。
見掛けも性格も軽そうなラディスラスの言葉に同調したくは無いのだが、自分の妻となる悠羽もどちらかと言えば大人しい方では
なかったし、そんな悠羽を好ましいとも思っている自分もいるからだ。
「悠羽殿は、元気で明るい方ですが。そうですね、兄上」
「・・・・・」
(・・・・・あまり言うな)
悠羽の良い所など、自分だけが知っていればいい。
(どこの世界も、王様っていうのは偉そうなんだな)
ラディスラスはアルティウスと洸聖を交互に見ながらそう思う。
とても自分とは合いそうに無いなと思いながら、かといってこういうものかとも妙に納得していたラディスラスは、まだ無言のまま座って
いる男を見た。
(あれは・・・・・どう見ても、耳、か?)
どう見ても、人間の耳ではないものの青年がいる。
だが、初めはさすがに驚いたラディスラスも、まあ、これもありえるかと思った。
(なんていっても、俺達がいる世界はファンタジーなんだからな)
ラディスラスは、その青年に聞いてみた。
「お前の恋人はどうなんだ?」
「・・・・・キアのことか?」
「キアっていうのか?」
「キアは・・・・・少し淫乱で子供過ぎだが、俺だけを見ていてくれる、とても・・・・・可愛い奴だ」
「淫乱?いいじゃないか、男のロマンだな〜」
「・・・・・ふん、所詮人間とは淫乱で馬鹿だな」
「キアは人間じゃない、兎族だ。それに、俺は誇り高い狼族」
「・・・・・ウサギ?」
その青年・・・・・レンの言葉に、さすがにその場にいた人間達は驚いたようだった。
しかし、今人間の事を小馬鹿にしたようなことを言った赤い目の男は、レンに向かっても蔑んだような視線を向けてきた。
「なんだ、人間でもないのか。どちらにせよ、竜人族の私達には劣る存在だがな」
「なんだよ、竜人って。どっちにせよ、あんたの恋人は人間だろう?」
「・・・・・あんな奴、恋人でも何でもない」
「あんたが碧香の兄貴だとはとても思えないな」
きっぱりと言い切った赤い目の男・・・・・紅蓮に対して、言葉を挟んできたのは紅蓮の弟である碧香に協力して紅玉探しをして
いる龍巳東苑(たつみ とうえん)だ。
「碧香はあんなにも純粋で優しい心を持ってるのに、次期竜王になるあんたがそんなんじゃ、今一緒にいる昂也が可哀想で仕
方ないよ」
「人間の分際で何を言う!」
「・・・・・ボキャブラリー無さ過ぎ。人間のっていう枕詞無しに何か言えないのか?」
卑下している人間に、それも自分よりも年少の男にそう言われ、紅蓮は赤い目を怒りで更に赤くした。
(竜に狼に兎・・・・・なるほど、面妖だな)
昂耀帝は持っていた扇をパチパチと慣らしながら思った。
多少は変わった人間が来るかもしれないという覚悟はしていたものの、まさか人間以外が現れるとは思わなかった。
(ちさとに会わせても面白かったであろうが・・・・・)
「あんたんとこは?ちゃんとやることやってるのか?」
1人上から見ていたつもりの昂耀帝は、先程から色んな人間に話し掛けている男に視線を向けられた。
「私か?もちろん、閨の中ではちさとを愛らしく泣かせた」
(妻問いを終えた今は、なかなか同じ褥には入ってはくれぬがな)
「へえ」
「ちさとはなかなかに淫らで、素晴らしい身体をしているぞ」
男ばかりが集まれば・・・・・と、いうわけではないだろうが、話題は自然にセックスの話になってきた。
「ユキこそ、昼間は貞淑で優秀な私の片腕として働いてくれているが、夜は快感に泣きながら私に足を開いてくれる。ユキ程に
完璧な妻は無い」
そう、アルティウスが言えば。
「ソウも、夜になれば普段の子供っぽさが全く薄れて淫らですよ。私が一から教えた身体ですから、私にとって一番良い身体で
すね」
真面目な顔で、シエンが言った。
「だから、キアが一番淫乱でいい身体だって」
何度言えば分かるんだと、レンが被せるように言い放つ。
「私はまだ黎を抱いていないからなあ。洸莱も、まだだろう?」
「・・・・・ええ」
「洸竣、弟に向かって何を言っているんだ。洸莱にまだ女を知るのは早いっ」
「兄上、強引に悠羽様を抱いてしまったあなたは、少し反省しなければなりませんよ」
「・・・・・」
「稀羅殿、あなたはまさか莉洸に無理を強いてはおられぬでしょうね?」
「当たり前だ、これ以上なく慈しんでいる」
強引に・・・・・という言葉に反応したのは2人。
今までの不機嫌そうな顔から一変し、少し気まずそうな顔になった紅蓮と、笑みが消えてしまった昂耀帝に、ラディスラスがにやっ
と唇を引き上げた。
「そちらは違うようだな」
「なにっ」
「多少の強引な所業も仕方あるまい。手に入れる為にはどの様な手段も使うものだ」
言い返そうとした紅蓮の言葉に被せるように昂耀帝が言うと、なるほどというようにラディスラスも笑いながら頷いた。
「俺も、ちょっとばかり薬を使ったしな。まあ、それもありか」
「・・・・・」
笑いながら言うラディスラスの言葉に、そこにいた10人は一瞬黙ってしまう。
薬まで使ったのはお前だけじゃないかと皆内心思いながら、それを口に出せるほど自分達が清廉潔白ではないと皆多少の自覚
はあるのか、しばらく部屋の中にはラディスラスの笑い声だけが響いていた。
![]()
![]()
150万hit記念企画の1つ、ファンタジー部屋のコラボ(?)ノロケ話です。
それぞれの自分の相手の事を少し語ってもらいます。今回は攻側、後編は更に下ネタに(笑)?