「わ〜!!畳がある!なっ、有希!畳だって!」
 「うん、本当に久しぶりだよね」
 熱い砂漠の中の異国に突然トリップしてしまった杜沢有希(もろさわ ゆき)と五月蒼(さつき そう)。
同じ世界ということと、お互いがエクテシアの国王とバリハンの皇太子とそれぞれ正式に結婚したということもあって、2人は会った
こともあるし手紙のやり取りもしていた。
広い世界に、日本のことを・・・・・言葉を、自由に話し、理解出来る人間がいるのは心強い。
2人がそう思ったのは、水上珠生(みなかみ たまき)と行徳昂也(ぎょうとく こうや)の話を聞いたからだった。
 「俺なんか、初めは全っ然言葉が通じなくってさ。回りはでっかい外人の男ばっかだったし、頭がグルグルしちゃって大変だったよ
なあ」
 「あ、俺なんか、今現在も全く言葉分かんないよ。それも、相手は人間じゃなくって竜人だよ、竜人!」
 「へえ、竜人ってどんな感じ?」
 興味津々のように蒼が身を乗り出して聞くと、昂也はん〜っと首を傾げた。
 「見た目は人間と一緒かな。体温が低いし、あ!竜に変身出来るんだぜ!」
 「うわっ!!いいな〜っ、う〜っ、俺も乗りたい!!」
 「そ、蒼さんっ」
拳を握り締めて唸る蒼を、有希は慌てて宥めるように声を掛けた。



 揃っているのはほとんど日本人だということで、そこかしこで自分が住んでいた街や学校の話に花が咲いていた。
特に昂也は今のところほとんど言葉が通じていない状態なので、波長が合うらしい蒼と楽しそうに話している。
そんな様子を見た蓁羅の王女(王子)で、現在は光華国皇太子の許婚である悠羽は、はあ〜と感心したような息をついた。
 「世の中には不思議なこともあるのだな。そうは思わないか、サラン」
 「はい。異国というわけではなく、全く見知らぬ世界に迷い込むとは・・・・・異なことでございますね」
 「それに・・・・・そなた、人間か?」
 悠羽は、広い部屋の片隅に小さく身体を丸めて座っている少年に目をやった。
見掛けは普通の・・・・・と、言いたいところだが、その頭にある耳は長く白く、フワフワな毛で覆われている。
(どう見ても、人間ではないようだが・・・・・?)
不思議な耳をした少年は怯えたような視線を向けてきたが、自分を見ている悠羽の目に蔑みの光が無いのを見ると、少しだけ
安心したかのように小さな声で自分の名を言った。
 「ぼ、僕は、キアです」
 「キア?」
 「は、はい。僕は、兎族です」

 「・・・・・ウサギ?」

 耳を澄ませて聞いていたわけではないだろうが、それまで個々に話していた者達もいっせいにキアに視線を集中させた。
数多くの人々の視線に晒されてますます怯えたように後ずさるキアだが、その前にゆっくりと歩み寄ったのは竜人界の第二王子、
碧香(あおか)だった。
 「自分の身を恥じることは無いですよ。キア・・・・・と、おっしゃいましたか、私も人間ではなく、竜人なのですから」
 「りゅ、竜人?」
 「ええ。このように見掛けはほとんど人間と変わりませんが、私は竜に変化することもありますし」
 「えっ、碧香って、あんたっ?」
 今まで蒼と自分が今いる竜人界のことで盛り上がっていた昂也は、びっくりしたように目を丸めて碧香を見つめた。
 「あ・・・・・でも、確かに碧香の波長だ・・・・・、何だよ、俺〜、ずっと会いたいって思ってたのに〜っ!」
 「私も、昂也に会いたいと思っていました。今日は、東苑も一緒に来ていますよ」
 「トーエンもっ?」
まるでパッと陽が差したように明るい昂也の笑顔に、碧香も控えめながら小さく微笑んでみせた。



(ふ〜ん、結構いるんだなあ、変な世界に紛れてしまった奴って。俺は日本語が通じるだけ良かったのか・・・・・?)
 古都千里(こみや ちさと)は、お茶請けにと松風が出してくれた蒸し饅頭を頬張りながら感心したように唸っていた。
確かに、それぞれが変わった服を着ているが、自分ほどみっともない格好をしている者はいなくて、千里は今直ぐにでも着替えた
いと叫びたいのを我慢する。

 「客人を迎えるのだ。そなたを着飾りたいと思って何が悪い」

 どんな対抗心を抱いているのか、張り切って豪奢な着物を用意した昂耀帝に、その意思に忠実な松風が嫌がる千里をあっと
いう間に着付けて、自分だけがどう見ても女装姿だった。
他の者達はゆったりとした服ではあるものの、あからさまなドレスなどは着ていない。
(内心笑われてたりして・・・・・)
 洩れそうになる溜め息を饅頭を食べることで押し隠した時、つつっと膝立ちで近寄ってきた幼い顔の男が言った。
 「なあ、これ食べてもいいわけ?」
 「え?あ、どうぞ」
 「いただきま〜す!!」
千里が頷くと同時に饅頭に手を出した男・・・・・珠生は、口に入れた途端に凄いと叫んだ。
 「これ、餡子の味!」
 「え・・・・・だって、饅頭、だし」
 「でも久しぶりの餡子〜!!あ、この皮のピンク色って何?何で出してるんだ?」
 「え、えっと・・・・・」
そんなことなど一々聞いていなかった千里が困ったように控えている松風を振り向くと、その子供のような食欲に少し笑いながら松
風が静かに説明してくれた。
 「それは桜の花びらの色ですわ。雅な事がお好きな御上が、春でなくても花見は出来ぬものかとおっしゃって、花びらを保存して
いて作ったものでございます。お気に召して頂いて嬉しいですわ」
 「美味しいです!あっ、蒼も食べてみればっ?」
 「うんっ・・・・・んぐっ、ほ、ほぐほ、はん!(ほんと、餡!)」
 「食べてから話した方がいいのではないか?」
年長者の悠羽が呆れたように言うと、珠生と蒼は慌ててお茶を飲み干した。



(私などもいていいのかな・・・・・)
 身分的には一番低いかも知れない自分がこのようにもてなされる側にいるのはどうしても落ち着かなくて、黎(れい)は何か自分
がすることはないかとキョロキョロあたりを見回した。
 「どうしたの?黎」
そんな黎の様子に声を掛けてきたのは莉洸だ。
蓁羅へと旅立ってから久しぶりに会う莉洸の元気そうな姿に、黎も自然な笑みを浮かべて頭を下げた。
 「莉洸様、お元気そうで良かったです」
 「ありがと。蓁羅の皆が気遣ってくれているから大丈夫だよ」
 「・・・・・そ、それって、稀羅様も、ですか?」
 黎の口から稀羅の名前が出た途端、莉洸の顔が瞬時に真っ赤になったのを見て、何気なくその名を言ったはずの黎も顔を赤く
してしまった。
(莉洸様・・・・・ちゃんとお幸せなんだ・・・・・)
黎の目で見た蓁羅は、どう見ても裕福な国ではなく、食べ物、着る物、住む場所と、どれも満足ではないのだろうという感じでは
あった。
大国光華の王子として大切に育てられた莉洸にそんな生活が送れるのだろうか・・・・・しかし、その心配は杞憂だったようだ。
莉洸が今幸せだというのは見ていて分かる。
 「・・・・・いいな」
 思わず、小さな呟きが洩れた。それは、光華国第二王子洸竣との距離感がつかめない黎の切実な思いからだったが、幸いに
して莉洸の耳には届かなかったらしい。
 「ほら、黎も向こうへ一緒に行こう?」
 「・・・・・はい」
莉洸が差し伸べた手を取り、黎はようやく賑やかな話の輪の中に入ることが出来た。







【ようやくそれぞれの立場が分かった少年、青年達は、お互いの顔が満遍なく見れるように円になるような形に座った。
皆が相思相愛というわけではないが、それぞれには同じ男の相手がいる。

普段はその相手にさえも言えないような様々な不安を、この機会にいろんな方に相談に乗ってもらいましょう。】







 「じゃあ、この中でちゃんと結婚しているのは、ユキ殿とソウ殿と、チサト殿か?」
 悠羽の言葉に、直後に反論したのは千里だった。
 「俺は違います!何か、一応この国のしきたりでは結婚したって感じらしいけど、俺自身は全然認めてないし!」
 「しきたりって?」
不思議そうに訊ねる蒼を振り返った千里は、口を開きかけて・・・・・直ぐに閉じてしまった。
(まさか、三日続けてエッチしたらなんて・・・・・恥ずかしくって言えないって・・・・・)
相手が女の子ならまだしも(お姉さまだって構わないが)、自分の相手は男である昂耀帝だ。自分が責める側か、受ける側かな
ど、一見すれば分かってしまうだろう。
いや、一応ここにいる者達は皆受け入れる立場らしいが、それでも改めて想像されるのは恥ずかしかった。
 「ねえねえ、何だよ?」
 それでもしつこく聞く蒼に、有希がつんつんっと袖を引っ張った。
 「蒼さん、ここは平安時代に似た世界なんですよ?だったら・・・・・習いませんでしたか?」
 「習うって、何を?」
 「だから、その・・・・・妻問い、ですよね?」
確認するように言う有希に、千里は顔を真っ赤にしたまま頷いた。
(そうだった、歴史で習うんだっけ)
知らなかった蒼は単に勉強不足なのだろう。
 「な〜んだ、三回エッチしちゃったのかあ」
 「・・・・・っ」
 横から、感心したように言ったのは珠生だ。それは千里をからかうつもりで言ったのではなく、単に自分が知っている知識を話した
というだけなのだが、千里は顔から火が出るほど恥ずかしくて、思わず珠生に向かって叫んでしまった。
 「あんただって、エッチしてるだろ!」
 「お、俺は、合意じゃないもん!」
 「俺だって違うよ!」
 「でも、俺は1回しかしてないし!」
 「数の問題じゃないだろ!それに、俺だってしたくてしたわけじゃないし!」
 「ふ〜ん、結構無理矢理ってあるんだ」
2人言い合いに、暢気に口を挟んだのは昂也だった。



 無理矢理なエッチをされたのは自分くらいだと思っていた昂也は、他にもそんな立場の人間がいることに素直に感心していた。
(まあ、人間と竜人って違いはあるんだろうけどな)
それに、あの場には自分を犯す紅蓮のほかに、4人もの男達がいた。誰も彼も自分よりも遥かに体格も立派で、昂也はあの時
胸が潰れそうなほどの恐怖を感じたくらいだった。
(でも、今は何か薄れちゃってるけど)
 今は紅蓮が側にいないせいか、あれほどの恐怖は消え去ったような気がしている。自分でもお気楽な性格だなとは思うが、起
きてしまったことを何時までもグズグズ根に持つタイプではないのだから仕方がない。
 「まあ、人生には色んな出来事があるということだな」
 「え・・・・・じゃあ、悠羽さん、も?」
 「私と洸聖様は意見の食い違いでそのようなことになってしまったが、今では私はあの方を愛おしいと思っているし、今度は私が
慈しんで差し上げたいと思っている」
 「え?じゃあ、悠羽さんが上ってこと?」
あっけらかんと言った蒼に、悠羽は首を傾げた。
 「そのようなことは考えたことが無かったな・・・・・サラン、どう思う?」
 「悠羽様が御奉仕されることはありません。あなたがされてしかるべき立場のお方なのですから」
 「サラン」
 「昂也、兄上があなたにそんな酷いことを・・・・・」
 黙って聞いていた碧香は、実の兄の不誠実な振る舞いに思わず涙を浮かべてしまった。あれほどに昂也のことを頼むと言ったの
に、その自分の言葉が少しも聞き届けられていないことが悔しくてならない。
自分自身が龍巳に良くしてもらっているので、その罪悪感はかなり深いものがあった。
 「いいって、碧香のせいじゃないんだし」
昂也がそう言えば、
 「左様、自分の不始末は自分で責任を持たせるのが当たり前です」
冷然とサランが言い放った。
 「厳しいようだけど・・・・・サランさんの言う通りだと思います。碧香さんが罪悪感を持つのはおかしいですよ」
有希にもそう言われ、
 「・・・・・すみません」
碧香は小さく頷いた。



 碧香が落ち着いたのを見て、有希は千里に視線を向けた。
 「千里さんはこの世界どうです?学校で習ったみたいな世界を体現出来るなんて、僕は少し羨ましいって思うんですけど」
有希は元の世界にいた頃は本が読むのが好きで、特に日本の古い時代はロマンがあって憧れさえ持っていた。
今更自分がここにいたいとは思わないものの、どうなのかなという純粋な興味はあったのだ。
 「言葉には不自由しないけど、あいつ、彰正が駄目!俺様で、自分が一番って思ってるんだよな」
 「そんなの、アルもだよなあ、有希」
 「そ、そんなことは・・・・・」
無いときっぱり言い切りたいが、アルティウスの性格を知っている蒼がそう言うのは・・・・・否定出来ない。
(確かにアルティウスは俺様だけど、僕にはとても優しいし・・・・・)
 「待ってよ、俺様って言えばラディだって!あいつ、《俺以外にいい男なんてこの世にいるわけ無いぜ》・・・・・って思ってるんだよ、
絶対!」
拳を握り締めて珠生が力説すると、最後の饅頭を口に頬張った蒼が眉を潜めた。
 「それって、俺様っていうより、ナルシストなんじゃないか?」
 「えーっ、それってもっとサイテー!」



 ワイワイと煩いくらい言い合っている2人を笑って見ていた悠羽が、きょとんとした表情で会話を聞いているキアを見て穏やかに
話し掛けた。
 「どうしたんだ?何か不思議なことがあったか?」
 「え、えっと・・・・・みんな交尾が嫌いなのかなあって」
 「え?」
 「僕、レンさんに抱いてもらうの、すっごく嬉しいし。交尾って、気持ちよくって嬉しいものでしょう?」

(交尾・・・・・)

その言葉を、そこにいた10人は頭の中で変換する。
動物にとっての交尾とは、すなわち人間にとっての・・・・・。
 「き、気持ちいいの?」
 珠生が恐る恐る聞くと、この中で多分一番若いはず(動物の歳は分からないが、見た目はどう見ても12,3・・・・・よくて4歳く
らい)のキアがコクンと嬉しそうに頷く。
 「そ、そうなんだ」
 「うん!レンさん、とっても上手だし!」
 「じょ、上手?」
 「それに、レンさんのおちんちんはとっても大きいから、僕の中を全部埋めてくれるんだ。少し苦しくって、最初は痛いけど、直ぐに
気持ち良くなって声が出ちゃう」
 「・・・・・」
 「あー、でも、駄目だよ?レンさんのおちんちんは僕のだから、お兄さん達には分けてあげない!」
 「・・・・・け、結構です」
思わずそう言ってしまった珠生に、後の9人も同調するように慌てて首を縦に振った。






                                       






ノロケ話、受けちゃん側です。

次回は旦那様自慢(?)になるかもしれません。みんな、キアに負けるな!