キアの言葉を切っ掛けにしたわけではないだろうが、あの・・・・・と、有希が顔を真っ赤にしながら切り出した。
「僕・・・・・今もアルティウスに抱かれるの・・・・・恥ずかしくて。どうやったら気持ちが切り替えられるのかなって、思ってるんです。
皆さんはどう、ですか?」
そんな有希の言葉に続くように、蒼もテレながら口を開いた。
「あー・・・・・俺も恥ずかしい。シエンが優しくしてくれればくれるほど、なんか、こう・・・・・頭の中がわーってなっちゃってさ。もう、シ
エンの奥さんになってだいぶ経つのに・・・・・このままでいいのかな」
異世界の住人相手とはいえ、きちんと結婚式まで挙げて名実共に夫婦となっている有希と蒼は、やはり夜の夫婦生活が気に
なっているらしい。
顔を見合わせながら眉を下げている2人に、直ぐにはいと答えられる者はいなかった。
この中で最年長なのは22歳のサランだが、彼(彼女)は今まで誰とも性交渉を持ったことは無く、それに加えて両性である自分
の身体を恥じてもいるので性的にとても未熟だった。
「教えられるほど経験が無いのは恥ずかしいが・・・・・」
次の年長者である悠羽も、初めてが洸聖とのほとんど暴力といってもいい経験の一度だけなので、答えるものが何も無い。
「そんなの、相手に任せっきりでいいじゃん!無理矢理押し倒してこられたら何も考えてられないしっ」
それは、珠生や千里にも言えることで、あくまでも相手の一方的なセックスだという頭があった。
「ラディは勝手に手を出してきちゃうし、俺は!嫌なんだけど!」
「俺だってそうだよ!無理矢理三日連続で押し倒されて、それで結婚が成立なんて、いったいどこの国かって感じ!」
「・・・・・そうか、千里さんは三日連続しちゃったんだっけ」
「あんなに、痛いのに?」
「あ・・・・・」
言うつもりの無いことを再びうっかりと口に出してしまった千里は、納得するように頷いた昂也と感心したように呟く莉洸に、慌て
て首を振って見せた。
「あ、あの、俺が迫ったわけじゃないしっ」
「・・・・・」
「彰正って遊び慣れているから、つい!」
「へえ〜、上手なんだ」
更に墓穴を掘ってしまった千里に、悠羽が苦笑を零しながら言った。
「いいじゃないか。これからも共に過ごす相手が、そういった方面に詳しい方がこちらも気が楽だ。まあ、同じ男として、全てを任
せるというのも少し情けなくはあるがな」
赤裸々な告白に、今だ相手と手を触れることしかない碧香は顔を真っ赤にして俯いていた。
(私が誰と・・・・・東苑・・・・・と?)
確かに、あの優しく頼れる存在を好ましく思っているが、身体を重ねるほどに想っているかと言われれば・・・・・少し自信が無かっ
た。
今まで父や兄以外を自分の心の奥深くに受け入れたことの無い自分には、とても、とても難しい問題だ。
「僕も・・・・・分からない」
小さな呟きが聞こえたような気がして顔を上げた碧香は、自分と同じように眉を潜めて俯く綺麗な少年を見た。
「どう、なさったのですか?」
「あ、いいえ、僕・・・・・」
「・・・・・」
「僕は・・・・・あの・・・・・洸竣様とは、身分も違いますし・・・・・」
少年・・・・・黎は、小さな声でそう言った。
確かに、洸竣の何らかの感情が自分に向けられているのは感じるものの、それはきっと恵まれない幼少時代を過ごした黎に対す
る哀れみの感情ではないかと思っていた。
洸竣ほどの地位と、素晴らしい容姿の男が、自分などを欲しいと思ってくれる筈がない。
「身分というものは、愛し合う者同士の間では関係が無いよ」
「ゆ、悠羽様」
「洸竣様のお気持ちは私にも分からないが、あの方が軽々しく黎に声を掛けてくるとは思えない。もしも、そうだとしたら、私がお
前の前に立ちふさがってあの方を近づけない様にしよう」
「・・・・・ありがとうございます」
本当の兄弟のようにそう思ってくれる悠羽の気持ちが嬉しくて、黎は涙が出そうになるのを堪えて頷いた。
(本当に、気持ちよくなるものなのかな)
莉洸は首を傾げた。
確かに同じ男という種類には分けられるだろうが、稀羅と自分では何もかもが全く違う。
既に王として立派に政務を行っている稀羅と、ただ王子として安穏と暮らしていた自分。身体のつくりも大人と子供ほどに違い、
男の証も・・・・・。
「・・・・・っ」
莉洸はあの夜の稀羅の裸身を思い出してますます顔を真っ赤にしてしまった。
子供の腕ほどもあるかと思えた稀羅の分身を、全て自分の身のうちに収めることが出来なかったことを申し訳なく思うものの、あん
なものを受け入れられるわけが無いとも思う。
しかし、過去には稀羅の全てを受け入れてきた大人の女達が確かにいるのだろうと思うと、胸が少し痛く感じた。
「莉洸様?」
「あ、ええと、何?サラン」
「いえ、お顔が赤いようですので、ご気分が悪いのではないかと」
「ううん、大丈夫」
「・・・・・」
「少し、色々と考えていただけ。何でも無いから」
「そうですか?」
ほとんど表情の変化が無いものの、心配してくれている気配はよく分かるので、莉洸は心配いらないというように小さく笑って頷い
た。
莉洸の様子が心配するようなことではないと分かり、サランは一安心していた。
洸莱から、莉洸が幼い頃に病弱だったという話を聞いていたので、もしかしたらと思ってしまったのだ。
(私こそ・・・・・この場には不要な人間のように思うが・・・・・)
相愛や、無理矢理といった違いはあるものの、皆お互いの感情をぶつけ合うことの出来る者達ばかりの様に思える。そんな中に、
人間として欠陥品である自分がいるのはおかしいのではないか。
悠羽を守る為に常に傍にいるサランだが、今この場所ではそれほどの危険も無いだろう。
「・・・・・」
そっと立ち上がってその場を辞そうとしたサランの服を、反射的に掴んだのは悠羽だった。
「悠羽様・・・・・」
「ここにいてくれ、サラン」
「しかし」
「お前がいてくれると安心なんだ」
「・・・・・はい」
悠羽が望むのならば、どんなことでも叶えたい。
サランはもう一度座りなおすと、静かに目を閉じていた。
「何かさあ、話聞くとシエンとか東苑って奴が優しくっていいよな〜。ラディみたいな俺様じゃないとこもいいし・・・・・あ、この草餅
もいける!」
のんびりと話しながらも出された餅を摘んでいた珠生は、懐かしいその味に顔を綻ばせる。
その言葉につられるように蒼も手を伸ばして齧り付いた。
「ふぐぅ・・・・・んっ、多少苦味が残ってるけど美味しい!これ、バリハンに帰って作れないかなあ〜」
「え?蒼、作れるの?」
「まるっきり同じ味は無理だと思うけど似たのなら。シエンにも食べさせたいし」
意外に料理上手で、自分が食べることも食べさせることも好きな蒼は、早速何が代用になるかを頭の中で考えているようだ。
そんな蒼を、食べる方が専門の珠生が感心したように見つめる。
「結構やるな〜」
「蒼さんはケーキとかも作るんですよ?普通に僕達が食べていたもののような生クリームの味はしないけど、十分甘くて、素材の
果物もとっても瑞々しいし!」
蒼の手料理のファンでもある有希がそう力説すると、蒼は照れくさそうに顔を赤くして首を振った。
「ただ、自分が美味しいもの食べたいからちょこっと作ってるだけだって!有希は大げさに褒め過ぎなんだよ〜」
「そんなこと無いですよっ」
「なんだ、褒め過ぎなだけか」
それでもあっさりと言い切られると少し面白くなくて、蒼は口を尖らせて珠生を睨んだ。
「そーいうタマは何か作れるのか?」
「へへ、聞いて驚くなよ?俺は自家製塩辛が作れる!」
「し」
「塩辛?」
そこにいた日本人・・・・・有希と蒼、そして千里と昂也は、思い掛けない珠生の言葉にさすがに驚いたように声を上げた。
(うわ〜、塩辛なんて気持ち悪いもの食べちゃうんだ)
珍味の類が苦手な千里は、思わず歪んでしまった顔を着物の袖で隠した。
もちろん食べてみたいとは到底思わないが、言葉の響きが日本ぽくて、思わず懐かしいと思ってしまう。
(でも、俺はまだましな方みたいだけど・・・・・)
言葉も食べ物の味付けも、初めから違和感は無かった自分。しかし、異世界という別次元に飛ばされてしまった者達の苦労は
かなり大きいようだった。
今現在は有希と蒼はほとんど苦も無く現地の言葉を操れるようだが、珠生は多少危なかしい表現もあるようで、現在進行形で
大変なのは竜人界に(それも少し想像が出来ない世界だが)飛ばされた昂也らしい。
「いいな〜。あっちの世界は味付けが薄くってさあ〜。俺久しぶりにハンバーガーとかポテチが食べたくって・・・・・。あ、碧香は食
べ物大丈夫?」
「はい。東苑のおうちは、山菜料理が多くて、とても優しい味ですし」
「そうか、トーエンちのはじーさん料理だもんなあ」
「コーヤ、何か困ったことがあったらいつでも私を呼んで下さいね?直ぐに何とかするよう、兄に進言しますので」
「グレンに?・・・・・ちょっと、期待出来ないけど」
(あの冷たい男が、俺の為に何かをするなんて考えられないけどなあ)
昂也の言いたいことが十分分かる碧香は、本当に申し訳なさそうに肩をすぼめてしまった。
今まで黙って人間の話を聞いていたキアは、自分が本当に恵まれているんだなあと嬉しく思った。
キアにはとても優しい兄弟達がたくさんいるし。
恋人同士になったばかりのレンは、言葉数は少ないものの、キアを想ってくれているのがよく分かる。
それに、今まで交尾を痛いとか怖いとか思ったことが無いし、あんなに気持ちがいいことを楽しめない人間達が何だかとても可哀
想に思えてきた。
「あの・・・・・ユキさん、ソウさん」
「え?」
「なに?」
名前を呼ばれた2人がこちらを振り向いてくれたので、キアは思い切って自分の考えていることを話してみた。
「あの、交尾をする時は、自分からもしてあげた方が気持ちいいですよ?」
「「え・・・・・」」
突然のキアの言葉に有希と蒼は同時に固まるが、キアは自分が考えていることを言葉にするのに一生懸命で、2人のそんな反
応に気付くことが出来なかった。
「僕、レンさんのを舐めてあげます。レンさん、凄く気持ちいいって言ってくれるし、大きなおちんちんがもっと大きくなっていって、感
じてくれているのがよく分かるし」
「あ、あの、キア」
「それに、レンさんも僕のを舐めてくれるから、お互い様っていうか・・・・・お2人は何か相手にしてあげるんですか?」
(ど、どうしよう・・・・・僕、何時もほとんどアルティウスがしてくれることを受け入れるだけで精一杯だし・・・・・)
(もしかして、シエンも、もっと・・・・・な、舐めてあげたら喜ぶのか?)
有希も蒼も性的にはまだまだ初心な方なので、相手のリードに全て任せているのが現状だった。
当初に比べたら確かに声を押し殺すことも無かったし、素直に気持ちいいと言う言葉も言うようになったが・・・・・とても自分から積
極的に何かをするというのも恥ずかしくて、相手のペニスを口に含むのさえ数えるほどしかなかった。
だが、同じ男として考えれば、確かに好きな相手に何かをしてもらって、嫌だと思うことなどあるはずがない。
「・・・・・」
「・・・・・」
黙ってしまった2人を首を傾げて見つめていたキアは、ふと隣に座っている珠生と目が合ってしまった。
「タマさんは、自分からもしてあげるんですか?」
「お、俺?」
いきなり話を振られてしまった珠生は内心動揺してしまったものの、ここで全部が相手の言いなりだと応えるのも何だか情けない
ような気がした。
「お、おう、あったり前じゃん!俺だって男なんだし、何時だってラディを唸らせるくらい気持ちいいことしてやってるよ!」
「へえ〜凄い!教わりたいなあ、僕、もっとレンさんに気持ちよくなって欲しいし」
「あ、あはは、こ、子供には無理なテクニックだし・・・・・」
「え〜」
(・・・・・嘘だな)
人の顔色を読むことに長けているとは思わないが、千里でも珠生の言っていることが嘘だというのは直ぐに分かった。
(大体、同じ男の・・・・・自分も持ってるアレを舐めるって?・・・・・信じられないって!)
千里自身とても出来ないと思っているが、実際昂耀帝は千里のペニスを口にした。
「・・・・・ぅ」
嫌なことを思い出したと、千里は思わず顔をクシャッと歪めてしまう。
(気持ちのいいセックスなんて、男同士でありえるはずが無い)
もしも感じたとしたら、それはきっと錯覚なのだ。
「キアはなかなか意味深いことを言うな」
「悠羽様」
感心したように呟く悠羽をサランは止めようとしたが、これから正式に洸聖の妃となる覚悟をしている悠羽にとっては、閨での作
法は聞いていて損は無いものだと思っていた。
多少、大らか過ぎる表現ではあるものの、キアがレンという相手(男のようだが)をとても想っているのは伝わってきたし、自分もそう
なればいいと思った。
「莉洸様も参考になられただろう?」
「え、えっと・・・・・はい」
辛うじて莉洸は頷くが、黎は悠羽と視線を合わせないように慌てて俯いている。
その時、部屋の中に1人の女がやってきた。
「ちさと様、そろそろ御上をお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「え、もう?」
まだそれほど時間が経ったという感覚は無いが、こうして松風がわざわざ忠言しにやってきたということはそれなりの時間が過ぎた
ということだろう。
自分がからかわれるのはあまり歓迎しないものの、同世代の色んな話を聞くことが楽しかった千里は、もう別れる時間が迫ってい
ることがたまらなく寂しく感じた。
それは有希や蒼、そして珠生や昂也・・・・・現代日本から違う世界へと飛ばされた者達は特に強く感じているようだった。
それでも、何時までもこうしていられないということもよく分かっていて・・・・・。
「うん、お願い」
そう、千里が言うと、松風は一礼して立ち上がった。
その後ろ姿を見ながら、千里はわざと話題を変えるように明るい声で言う。
「いよいよ、ご自慢の彼氏の顔が見れるわけだ」
「あ、ホントだ。竜の王様も見れるんだ」
「キアの自慢のレンさんも」
「はい!」
「なんだ、そう考えると楽しみだな」
今まで色々話していた相手の顔が現実に見れると思うとやはり興味があって、千里は気持ちを切り替えるとじっと廊下の向こうに
視線を向けた。
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ノロケ話、受けちゃん側後編です。
こちらからも顔見せ編に飛べるようにしますので。