狼と7匹目の子ウサギ
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「すっごく、気持ち良かったよ?本当はもう一回して欲しかったけど、今度はし終わったら食べちゃうって言われたし」
「でも、本当に凄かったよね〜」
「他の種族達もこぞって行くのが分かるよね」
「でも、やっぱり一回は物足りないよ。かえってウズウズしちゃって、他のオスじゃ物足りないもん」
「狼族って、みんなああなのかな?」
「レンが特別なのよ」
兄姉達が楽しそうに話すのを、キアは1人知らん顔をしながらも、フワフワな長い耳をピクピク動かしながら聞いていた。
(気持ちいいって・・・・・どんなふうなんだろ)
兎族のキアは、人間で言えば15歳位のまだ子供だが、既に身体は発情期に入っていた。
いや、兎族は1年中発情期の淫乱な種族で、同じ種族間だけでは相手が足りず、他の民族とも交わることが多かった。
可愛らしい容姿と、性交渉に慣れた身体は抱き心地がいいらしく、1匹のウサギを取り合うという光景も森の中では日常茶
飯事だ。
オス、メスも関係なく、快楽を素直に貪る種族の一員でもあるキアだが、なぜか交尾が出来る歳になっても誰とも交わるこ
とが無かった。
それは、キアには想う相手がいるからだ。
(兄さん達はいいな・・・・・)
「キア、お前もレンに頼んでみろよ。初めてでもきっと気持ちよくしてくれるよ」
「・・・・・僕はいい」
「でも、いずれは誰かと交尾しなくちゃいけないんだぞ?それなら上手なレンに頼んだ方がいいのに」
直ぐ上の兄にそう言われても、キアは素直に首を縦には振らなかった。
(だって・・・・・一度でも抱いてもらったら・・・・・もう傍にいることも許されなくなるんだもん)
たった一度でも抱かれてしまえば、次にはもう会えなくなる。
二度目の交尾を頼んでしまったら、その顔を見ることも許されなくなるなんて我慢出来ない。
(会えなくなるくらいなら・・・・・抱かれない方がましだもん)
そう、キアは狼族のレンに、どんな相手でも抱くことが出来るレンに、ずっと恋をしているのだ。
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狼族であるレンは、1年ほど前にこの町にやってきた。
漆黒の毛並みを持つレンは、始めは食べられることを恐れた草食動物達の間では敬遠されていた。
しかし、その目を奪われるほどに整った容姿は、誰もが気になっていたことも確かだった。
そして、それはある日レンが兎族のオスを抱いたことから事情が変わった。
レンが住んでいた小屋の中を好奇心で覗きにきたウサギは食べられることは無かったが、その逞しいペニスでいきなり身体の中
心を突き刺されたのだ。
恵まれた伸びやかな四肢に、見惚れるほどのペニス。
そして、かなり経験を積んでいるらしいレンは、交尾のテクニックも巧みで、それが男相手であっても少しの損傷も無かった。
その素晴らしく甘美な交尾に酔いしれたウサギが、仲間にその一部始終を話し、それほどの快楽ならば自分も経験したいと
いう者達がこぞってレンを訪ねた。
最初は、懲らしめる為にウサギを犯したレンとしてはこの状況は苦々しく思うだけだったらしいが、やがて、食べ物や金を得る
為に割り切った手段として、抱かれたいと思って訪れる者達の相手をするようになった。
しかし、それは1人一回で、二度と同じ者の相手はしないという、変わった取り決めがあったが。
キアの6人の兄姉達も、こぞって噂の狼、レンに抱かれに行った。
その行為は期待以上のものだったらしく、皆複数回の関係を持つことを願ったが、レンは頑としてその要求を受け入れること
は無かった。
彼曰く、
「淫乱ウサギの相手は一度でたくさんだ」
と、言うことらしい。
それは聞きようによっては酷く侮蔑的な言葉だったが、野性味溢れる精悍な容貌のレンが言うとゾクッとするほどに官能的
で、兄姉達は今だに再びレンに抱かれることを願っているのだ。
「なんでそんなに嫌がるんだ?お前、一生誰とも交尾しないつもりか?」
「そ、そんなの、わかんないよ」
「本当にレンは良かったぞ?俺から頼んでやろうか?」
「本当にいいんだってば!」
好きだからこそ、抱かれたくない。
キアは頑なに兄の言葉を拒絶した。
「・・・・・」
(また・・・・・か)
外で聞こえた微かな物音に、レンは眉を顰めて溜め息をついた。
一所に止まることのない身軽な立場で旅を続けていたが、この町の住人はかなり淫乱で馬鹿ばかりのようだ。
特に兎族は始末に終えない。
自分では望んでいない交尾なので、一度だけという取り決めをわざわざしたというのに、何度も訪れてきては抱いて欲しいと
誘ってくる。
確かに柔らかく抱き心地のいい兎族は思わず手を触れたくはなるが、わざわざ同じ相手を抱かなくとも相手には困ることはな
いし、第一オス同士の行為などバカバカしい。
(しかたない。さっさと相手をして帰らせよう)
乗り気ではないままドアを開けると、そこに立っていたのは真っ白な長い耳を持つ兎族だった。
(やっぱり、ウサギか)
見た目はまだ幼く、今までの兎族とは違って、直ぐに身体を摺り寄せてこようとはしないが、所詮目的は同じだろうとレンは強
引にその腕を取った。
(細い・・・・・)
「入らないのか?」
まるで、その場に足がくっ付いてしまったかのように動かない子ウサギに、レンは怪訝そうな視線を向けた。
「おい」
「あ、あの・・・・・」
「・・・・・」
「ぼ、僕・・・・・」
「・・・・・」
(オスか)
可愛らしい容姿をしていたので、一見メスかとも思ったが、その服装の通りどうやらオスらしい。
「何だ?」
顔を真っ赤にして、俯いてしまった相手に剛を煮やし、ついきつい口調で問いかけてしまう。
すると、子ウサギはますます萎縮したように身体を強張らせて、聞こえるか聞こえないかの小さな声で言った。
「お、お話、したいんです」
「・・・・・はあ?」
「レ、レンさんと、お話したいんです。こ、交尾をしてもらいに来たんじゃないんです・・・・・」
「・・・・・」
いったい何を言い出したのか、子ウサギの真意が分からないレンも何と答えていいのか分からなかった。
この小屋に、交尾以外の目的で訪ねてきた者など今までいなかったからだ。
(どういうつもりなんだ?)
レンは耳を震わせている子ウサギを見下ろしたまま、そういえばまだ聞いていなかったと、今まで抱いてきた者達には問うたこと
の無い言葉を言った。
「お前、名前は?」
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