真哉君の真夏の冒険




                                                                    
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 「マコちゃんの弟君がこんな可愛らしいなんて〜。やっぱり兄弟ねえ、似てるわ」
 「そうですか?」
 嬉しそうに頷く真琴とは反対に、真哉は腰が引き気味になっていた。
(は、初めて見るよ、オカマ・・・・・)
パッと見はモデルのようにカッコいいのに、口から零れるのは女言葉。真哉はあまりのギャップに引きつった笑みしか浮かべられなかっ
た。
 「幾つ?」
 「じゅ、12歳です」
 「あら〜、将来が楽しみ」
 「は、はは」
 無意識のように視線で真琴を捜す真哉は、ふと面白そうにこちらを見ている海藤の視線に気付いた。
 「・・・・・っ」
後ずさろうとした足が瞬間止まる。
海藤に弱みを見せるわけには行いかなかった。



 午後2時。
見送る為にホームまで来てくれた真琴に、真哉はにっこりと笑った。
 「今度はゆっくり来るからね」
 「ちゃんと父さん達に言って来るんだよ?」
 「うん」
素直に頷いた真哉は、真琴の横に当然のように立っている海藤に向かって頭を下げる。
 「今回はお世話になりました」
 「ああ」
 「会社にまで押しかけちゃって・・・・・でも、面白かったです」
 少しだけ、真哉は海藤の仕事振りを垣間見た。
パソコンを素早く操作し、英語で電話をしている姿は、いかにもやり手な若手経営者に見え、真哉は見惚れると同時に、自分が
いかにまだ子供だという事を悔しく思った。
どう頑張っても、今の自分と海藤では比べるまでもなく負けてしまうし、いくら真琴との付き合いが面白くなくても、別れさせれる発
言の資格もない。
ただ一つ、真琴の弟という立場以外は。
 真哉の乗る汽車がホームに入ってくる。
真琴は土産を手渡した。
 「美味しいって評判のロールケーキだよ。みんなで食べて」
 「うん」
差し出された紙袋を受け取るふりで、真哉はグイッと真琴の手を引っ張った。
 「え?」
触れるだけのキスを真琴の唇に落とした真哉は、さすがに眉を顰める海藤に向かってニヤッと笑った。
 「マコ、今度帰ってきたら、一緒にお風呂入ろうね」
 「う、うん」
 「じゃあね」
 真哉は汽車に乗り込むと、くるっと振り返って海藤を見つめた。
 「マコは俺のものだから」
 「し、真ちゃん?」
 「負けないからな!海藤貴士!」
真っ直ぐな視線は少しも怯えてはおらず、むしろ初対面の時よりも挑戦的になっている。
それはとても小学生とは思えなかった。
 「何時でもこい」
苦笑しながら海藤が言うと、真哉は不適な笑みを浮かべ、その後、真琴に向かって可愛い弟の顔で笑いかけた。
 「マコ、またね!」



 汽車がホームを出ても、真琴はしばらくの間じっとその方向を見つめていた。
そんなに遠い距離ではなくても、やはり家族が離れ離れになるのは寂しいのだろう。
 「まるで、台風だったな」
 「迷惑掛けちゃってごめんなさい」
 「いや・・・・・案外面白かった」
(最後のあれは余計だったが)
 「・・・・・」
 海藤はそっと真琴の肩を抱いた。
 「しっかりした弟だな」
 「真ちゃんは昔からしっかりしてて・・・・・でも、寂しがりなんです」
 「お前、弟と一緒に風呂に入るのか?」
 「はい、そうですけど?」
 「・・・・・却下」
 「え?」
 「俺以外の男と風呂に入るのは禁止」
 「え?どうして?」
 「分からないか?」
 真哉の見せた独占欲は、まだ家族という域からは出てはいないだろう。しかし、この先は分からない。
男同士の恋愛があるのだ、兄弟同士で絶対にないとは言い切れない。
それに、海藤の前に立っても、きちんと目を見返すことの出来る男だ。今は小学生だろうが、この先もっと成長したら、本当に真琴
を奪いに来るかもしれない可能性も・・・・・なくはない。
 「俺が妬くから」
 「海藤さんが?・・・・・真ちゃん相手に?」
 当の真琴はピンと来ていないようで、首を傾げて呟いている。
たとえ兄弟相手だとしても妬いてしまうほど真琴に入れあげている・・・・・とてもそこまで考えられないのだろう。
 「消毒」
 海藤は軽く真琴の顎をつかむと、そのままキスをする。
真哉のした子供のキスとは違う舌を絡める大人のキスに、真琴の足からはたちまち力が抜けてしまい、そのまま崩れそうになる身体
を海藤はしっかりと抱きとめた。
周りにいる人間の好奇の視線も全く気にせず、海藤は真琴の腰を支えるようにホームを降りる。
 「このままマンションに帰るか」
 「・・・・・え?」
 「我慢出来ないだろ」
 「!」
真っ赤になった真琴の頬にもう一度唇を寄せると、海藤は愛しい存在を独占出来る幸せを噛み締めていた。





                                          





上2人は単純で善人。真琴はポヤンとした善人。そうなると末っ子はやはりしっかりした子だなと思って、この真哉君になりました。
また再登場しそうです。