幸せな籠の鳥
後編
大切に、大切にしてきたつもりだった。
好意を持ってもらっているのは分かっていたが、それが単に保護者に対してなのか、それとも恋愛の対象としてなのか、さすが
に見極めきれない西園寺は、響が高校を卒業する日、想いを打ち明けて、どんな手を使っても自分のものにしようと思ってい
た。
もちろん、心だけではなく、身体もだ。
それでも、力で奪うことはないと・・・・・必ず響からも求められて心身共に抱き合うつもりだった。
「ぅあっ、いっ、いたっ、いいいぃ・・・・・っ」
自分の身体の下に組み敷いた華奢な身体。
腕に引っ掛かり、胸元を大きくはだけられたその白い身体には、赤や紫の痕が所狭しと散っていた。それらは全て、西園寺が
付けたキスマークや歯形だ。
自分の想いを知ろうともせず、腕の中から逃げ出そうとする響が憎かった。
そして・・・・・それ以上に、これ程に響に飢えていた。
痛みを感じるほどきつく自分のペニスに纏わり付く内壁を更に深く抉り、甘い唾液を啜る為に身体を曲げれば、苦しさに呻
きながらも素直に口腔を明け渡す。
痛さで萎えてしまったまだ子供の姿のままのペニスを指先で擦ってやれば、甘い声を洩らして身をすり寄せる。
これ程身体は素直に感じて西園寺を求めてくれるのに、響の心が離れているのがどうしようもなく辛かった。
「ひっ、ひび・・・・・きっ」
「ひさ・・・・・久佳さ・・・・・!」
既にもう何度か響の中で精を吐き出した。
乾いたままだった響の蕾は西園寺の精液と自ら流した血で中まで濡れ、大きな西園寺のペニスも苦無く動くようになっていた。
「こ・・・・・な、ことを・・・・・お前は出来るのかっ?」
「はっ、あぅっ、あっ、あっ」
「私以外の男にっ、こうして抱かれることが出来るのかっ!」
「ぅ、う・・・・・んんっ、あっ、はぁあ」
たった数十分前までは、何も知らない綺麗な少年だった響。
虹が綺麗だと、無邪気な笑顔を見せていた響。
しかし、今腕の中にいる少年は、既に肉体に与えられる快感を知ってしまっている。
−−−
(久佳さん・・・・・こんな顔をして・・・・・抱くんだ・・・・・)
自分の身体をまさに食い尽くそうとでもするように抱き続ける西園寺を、響は一生懸命動く片手で抱きしめていた。
自分もまだ完全に服が脱げていない状態で、西園寺もベルトを外し、ファスナーを下ろしてペニスだけを晒した状態で、こうし
て動物のように抱き合っている姿は滑稽かも知れない。
それでもこれが最後だと思っている響にとっては、もっと激しく抱いて欲しかった。
「私以外の男に、抱かれることが出来るのか!」
「・・・・・っ」
(出来るわけない・・・・・っ)
相手が西園寺だからこそ、こんなふうに足を広げられるし、恥ずかしい場所を曝け出せるのだ。
他の人間の前では死んでも出来ない。
(好きなんだよ・・・・・っ?)
「響っ」
「・・・・・!」
(久佳さんだけが・・・・・好きなんだっ)
絶対に口には出せない思いを、響はその眼差しで何度も西園寺に訴えた。
−−−
革張りのソファが、互いの吐き出した精液や汗でドロドロに汚れていく。
ただ西園寺に揺さぶられるだけになってしまった響の身体はもう限界だろう。
西園寺はくったりとしてしまった身体を強く抱きしめ、最後にその最奥に精を吐き出すと、まるで自分の存在を植えつけるよう
にその内壁に精液をすり込むようにペニスを動かし続け、やがて最後の一滴までも搾り出すとやっとペニスを引き抜いた。
大きなペニスを含んでいた響の尻の蕾は今だ僅かに綻んだ状態で、痛々しいほど赤く腫れてしまっている。
「・・・・・」
そこからトロトロと滲み出てきた精液はうっすらとピンク色になっていて、自分が響の身体を傷付けてしまったことを嫌というほど
自覚した。
「久・・・・・」
西園寺が身体を離した事に気付いた響は起き上がろうとするが、直ぐに顔を顰めてソファにうずくまってしまう。
西園寺はその肩を軽く叩いて言った。
「・・・・・そのまま寝ていなさい。後始末は私がする」
内線を慣らし、熱いタオルを持ってくるよう伝える。
しばらくしてノックの音が聞こえ、西園寺がドアを開いた。
「・・・・・」
やってきたのは小篠で、西園寺の顔を見た途端目を見張る。
「どうした?」
「・・・・・」
「響ちゃんは?」
「悪いが、俺はこのまま退社扱いにしてくれ。しばらく響を休ませたら帰る」
小篠相手では多少崩れた言葉で話す西園寺も、今日ばかりは固い表情までは変えることが出来なかった。
「お前・・・・・」
大学時代からの友人で共同経営者とも言えるほど気心が知れた小篠は、西園寺の表情と言葉、そして部屋の中の独
特な淫靡空気を感じ取り、中で何があったかを悟ったらしい。
「合意か?」
直ぐ傍で西園寺の気持ちは良く知っていた小篠は直ぐにそう確認した。
「・・・・・いや」
その返事に、小篠の眉がピクッと動く。
「・・・・・レイプか?」
「・・・・・夏目に言って、マンションを一つ探させてくれ。セキュリティーの万全な、出来るだけ響の学校に近い場所に」
「西園寺、お前、ここまできてあの子を見捨てるのか?」
「・・・・・見捨てられたのは俺の方だ」
「西・・・・・」
「頼む」
それ以上顔を見られたくなかった西園寺はドアを閉め、鍵を掛けた。
−−−
温かいタオルで身体を拭かれ、中に吐き出された精液も西園寺自らが指を差し入れてかき出した。
それが勿体無いと響は思った。
もう二度と抱かれることがない西園寺の欲望の証を、出来るなら身体の中に取っておきたいと思ったのだ。
「・・・・・」
黙って手を動かす西園寺を、響も黙って見つめている。
やがて、シャツのボタンを一つ一つ留めてくれていた西園寺は、取れてしまったボタンを見て呟くように言った。
「もう・・・・・こうしてお前の世話を焼くこともなくなるな」
「久佳さ・・・・・」
「マンションを用意させる。手伝いの者も手配するし、お前は何も心配しなくていい」
「え?」
何を言われたのか、響は一瞬理解出来なかった。
「ど・・・・・いうこと?」
「お前をこんな目に遭わせた私とは、もう・・・・・一緒に暮らせないだろう」
「久佳さん・・・・・」
卒業するまで後数ヶ月間、後もう少しだけ西園寺の傍にいることが出来ると思っていた響は、そう言った西園寺の言葉に
衝撃を受けた。
(もう・・・・・傍にもいられ・・・・・ない?)
だが、考えればそれがもっともなのかもしれない。
西園寺の好意を切り捨て、勝手に独立することを決めたのは響で、そんな薄情な人間とは後数ヶ月といえども一緒に暮らし
たくはないだろう。
(これで久佳さんと・・・・・お別れ・・・・・なんだ・・・・・)
温かい何かが頬を伝った。
−−−
「ひ・・・・・びき?」
目の前の光景を、西園寺は信じられないという目で見つめた。
響が泣いている。
出会ってから一度も、両親の葬式の時でさえ気丈に泣かなかった響が、今ポロポロとまるで涙腺が壊れたかのように涙を流し
ている。
「どうした?どこか痛いのか?」
それが身体の痛みからくる涙ではないと感じたが、西園寺はそう言うしかなかった。
「・・・・・痛い」
「どこだ」
「・・・・・胸が・・・・・痛いよ・・・・・」
「響・・・・・」
子供のように頼りなく呟く響を、西園寺は衝動的に抱きしめた。
「それなら、どうして逃げようとする!」
「・・・・・ふぇ・・・・・」
「どうして私の腕の中にいないんだ!」
「だ・・・・・て・・・・・だって・・・・・僕みたい・・・・・な・・・・・ポンコツな人間・・・・・ひ、久佳さんの傍にい、いちゃ・・・・・駄目な
んだよ・・・・・」
「響っ?」
まさか響がそんなふうに思っているとは全く知らなかった西園寺は驚いたように叫ぶと、響の両腕を掴んでその顔を覗き込ん
だ。
泣き顔を見られまいと必死で俯いていた響も、西園寺の強い手の力に根負けしたように口を開いた。
「・・・・・もう少しだけ・・・・・傍にいさせて・・・・・ください・・・・・」
「響」
「高校卒業したら出て行くから・・・・・それまで傍にいたいよ・・・・・」
「それなら、ずっと傍にいろ!お前が逃げ出したいと思うまで、私の傍から逃げないでくれ!」
「・・・・・っ」
「愛してるんだ、響っ!お前だけを、ずっと・・・・・!」
−−−
想像したことがない・・・・・しかし、最も欲しいと思っていた言葉。
響は呆然と目を見開き、次の瞬間、左手だけで西園寺に抱きついた。
「僕もっ、僕も好き!久佳さんだけが好き!ずっと好き!離れるなんて・・・・・哀しくて死んじゃいそうだよ・・・・・っ」
「響!」
叶うはずがないと思っていた。
西園寺のくれる愛情は温かい保護者の愛だとばかり思っていた。
しかし、こうして激しくぶつけてくれる激情は、そんな生温いものではない。
息が苦しいほど求められてる・・・・・これほどはっきりとした感情に、響はなぜ自分が気付かなかったのか不思議だった。
多分、自分は子供だったのだ。
自分の想いにばかり囚われて、肝心の相手の想いにまで目を向ける余裕がなかったのだろう。
「・・・・・もう、出て行くなんて言わないな?」
響が憧れる大人の男が、まるで縋るような目で確認してくる。
「・・・・・出て行かなくて・・・・・いいのかな・・・・・」
「当たり前だ!お互い好き合っているのになぜ離れるっ」
「久佳さん・・・・・子供みたいだよ」
−−−
やっと笑った響を見て、西園寺もホッとしたように肩から力を抜いた。
たった1日で地獄と天国を味わった気分だが、最後にどうしても手放せない存在はこの手の中にとどめる事が出来たのだ。
それに、結果が良かったから思うことではないが、焦がれ続けた響を予定より早く抱けたのだから、この心臓に悪かった擦れ違
いも必要だったのかもしれない。
「響・・・・・強引にして悪かった」
「ううん、僕が久佳さんに抱いて欲しいと思ったんだよ?すごく・・・・・嬉しかった」
可愛い顔で可愛いことを言われ、西園寺はたまらなく響が愛しかった。
「今夜からは一緒のベットで眠ろう。響を片時も離したくないんだ」
「久佳さん」
「今度響が逃げ出したいと言ったら・・・・・きっと、檻を作って閉じ込めるな。響が飛び出していかないように、籠の鳥にしてし
まおう」
自分でもおかしいと思う。
しかし、それ程狂執的に響を想う気持ちを止められなかった。
そして、西園寺の可愛い小鳥は、涙で濡れた顔に綺麗な笑顔を浮かべて言う。
「僕は飛んでいかないよ?翼、片方しかないから」
「・・・・・そうだな。そのまま折れていても構わないぞ」
動かない響の右手をそっと取り、西園寺はその手の平に優しくキスを落とす。この動かない翼は、響が永遠に西園寺の傍に
いるという証でもあるのだ。
「・・・・・」
西園寺は右手と一緒に、再び響の身体を抱きしめる。
もう、絶対に離すことは出来ないと思いながら・・・・・。
「響、お前を世界一幸せな、籠の鳥にしてやる」
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終わりました、後編です。
最後バタバタになっちゃったかもしれませんが、伏線(響君の不自由な右手)も使えたし、まあ、終わって良かったです。
でも、今回は恥ずかしい言葉の羅列で、読み返していても照れ臭くて仕方がありませんでした(笑)。