漸進する籠の鳥



                                                             
オマケの夜と朝編






 東京に戻れば・・・・・西園寺の元に戻ったら、きっと自分は抱いて欲しいと思うだろうと思っていた。
他人の肌は西園寺しか知らず、この先も彼しか欲しいと思わないだろうと思っている自分にとって、この1年という時間はとても寂
しく、彼を恋しいと思う気持ちがさらに募った時間だった。
 気持ちも、身体も、西園寺を求めている・・・・・それは自分でも自覚していたが、こんなにも急に求められてしまうと身体が追い
ついていかない。女とは違い、男の身体で男を受け入れる場合、時間が空いてしまうとそれだけ身体は元に戻ってしまい・・・・・
もう一度受け入れるようになる為には、心も身体も準備期間が必要だった。
 それが、こんなに急に求められたら、拒みたくないという気持ちは先にたつものの、身体の強張りはなかなか解けてくれない。それ
が、男の部分であるペニスが快感を示していても、だ。

 「あぁぁぁっ!!」
 温かく、滑る口腔の感触に、響は堪えきれない悲鳴のような声を上げてしまった。
こんな風に西園寺と肌を合わせるのはあまりに久し振りで、響は無意識の内に西園寺の肩を押し返す。
 「・・・・・響」
 「ま、待っ・・・・・て!」
 「響」
 「ま・・・・・っ」
 「待てないと言っただろう?」
 咥えていたペニスを口から出し、西園寺はもう少し待ってくれという響の言葉を却下してしまった。傲慢に言い放つくせに、その
眼差しはこちらが気恥ずかしいほどに優しく甘い。
思わず高鳴ってしまった自分の気持ちをごまかすように、響は伸ばした手で西園寺の肩を掴んでしまった。



 急いでいる自分が余裕が無いように見えてしまうと思うものの、西園寺は一刻も早く響と繋がりたくて、そのまま震える響のペニ
スに愛撫を施した。
 既に硬く勃ち上がっているそれは、甘く噛み、吸い付くと、素直な反応を見せる。
男が感じていると直ぐに分かるその部分の反応に嬉しくなった西園寺は、さらに舐めしゃぶり、指先でも刺激を加えた。
 「あっ、あっ、あっ」
 「・・・・・」
 ジュブジュブという、自分の唇と響のペニスが擦れ合う艶かしい水音を聞きながら、ある瞬間先端を軽く噛んでやると、
 「ひっ!」
響は呆気なく精を吐き出してしまった。

 しばらく自慰をしていなかったのか、口の中に感じる響の精液の味は濃く、量も多い気がした。しかし、言い換えればそれは響
が禁欲をしていたことを示すもので、西園寺は甘いそれを味わって喉に通す。
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 そんな自分を目元を染めた響が見つめていることに気付いた西園寺は、そのまま顔を近づけ、響の唇にキスをした。
素直に口を開け、舌も絡めてくるが、僅かに眉を顰めているのは自分の精液の味を感じ取ったからだろうか?
(苦いと思っているのかも知れないな)
 西園寺が響の精液を美味しいと思っているように、響も西園寺の精液は苦いとは思わないかもしれないが、さすがに自分のも
のを味わうというのは複雑なのかもしれなかった。
 「響」
キスを解いてその名を呼ぶと、響は眉を顰めたまま西園寺を見つめてきた。
 「久佳さん・・・・・急ぎ過ぎ、だよ?」
 怒っているというよりも甘えているその声に思わず苦笑をしてしまう。自分でも自覚していたように、響から見てもがっついていたよ
うだ。
 「きつかったか?」
 「きついっていうか・・・・・身体が追いつかなくって・・・・・」
 「悪かった」
 謝って、頬にキスをする。それだけで自分を許す響は甘いが、自分だったら微笑み一つで全てを許してしまうので・・・・・どちらが
甘いかなど、説明することもないだろう。
 「・・・・・」
 響が少し落ち着いた様子なのを見た西園寺は、そのまま響の先走りの液で濡れた指先で双丘の間をそっと撫でた。
 「まっ、ねっ、ね、久佳さんっ」
 「待たない」
 「ち、違う、ぼ、僕も、久佳さんに、したいっ」
 「・・・・・」
思わず、西園寺の手が止まってしまった。
 「・・・・・響?」
 「僕だって久佳さんをほ、欲しいって思ってるんだよ?」
 「・・・・・」
 「ひ・・・・・さよし、さん?」



 「すまない」
 えっと、驚く間もなく、響は再び西園寺の口付けを受けた。
それは、先程までの優しく官能的なものとは少し違い、どこか性急で激しいものだった。密着している西園寺の肌の体温も一気
に上がったように思え、それと同時に、足に感じる男のペニスはさらに大きく、硬くなったような気がする。
(ひ、久佳さん・・・・・?)
 何が一体彼を興奮させたのか分からないまま、響は息継ぎもままならないまま口付けを続け、自然に揺れてしまう足の間に手
を入れられていた。
 「!」
その手が、ペニスだけではなく、その下で張り詰めてしまった双球を揉みしだき、その奥の・・・・・西園寺を受け入れる狭間の奥へ
と遠慮もなく侵入してくる。
(ぼ、僕も、したい・・・・・って・・・・・っ)
 愛されるだけでなく、自分も愛したいと訴えたのに、西園寺はこのまま響を抱くつもりのようだ。
自分の気持ちが分かってもらえなかったのかと悲しくなった響は目尻に涙を溜めてしまったが、直ぐにそれに気付いた西園寺が舌
でその涙を舐めとった。
 「響、俺に余裕が無いんだ」
 「・・・・・え?」
 「お前にも欲しがられていると分かって・・・・・もう一時も待つことが出来ないんだ」
 「・・・・・っ」
 悪いと何度も謝って、響の頬にキスを落とし、それでも尻の蕾を指先でいやらしく解していく。
(ひ、久佳さんが・・・・・焦ってる・・・・・?僕を、欲しいと、思って・・・・・?)
響にペニスへの愛撫を許さないのも、こんなに性急に身体を繋げたがっているのも、全てが自分をそれだけ欲してくれているからだ
と思うと嬉しくてたまらない。
 「!」
 響は、思わず久佳の背中に手を回して、自分からも強く抱きつく。さっき、西園寺の体温が急速に上がったのはこんな想いだっ
たからなのかと、響は求められることに深い幸せを感じた。



 グチュッ

 「・・・・・っ」
 どんなに解しても、最初はやはり受ける側が痛みを伴ってしまう男同士のセックス。
特に今回は西園寺自身に余裕が無く、その手間もあまり掛けていられなかったが、きつい蕾に滾ったペニスを押し入れても、響は
止めてとは言わなかった。
 「ふ・・・・・ぅ・・・・・っ」
 ぎっちりときつく咥え込む蕾に、半分ほどまでくるとそれ以上進めなくなる。西園寺は、唇を噛み締める響を見下ろした。
 「・・・・・響」
 「う・・・・・あ・・・・・」
 「きつい、か?」
 「・・・・・っ」
声を出すのも辛いのか、響は微かに首を横に振った。その健気な様に目を細めた西園寺は、そのまま手を伸ばして挿入の痛み
に縮こまっていた響のペニスを握りこんだ。
 「はあっ!」
 噛み締めていた唇が解け、痛みを告げる声が漏れ始めた。しかし、それで返って緊張していた身体から力が抜け、西園寺のペ
ニスを強く絞っていた内壁が緩み、更なる奥への侵入を許されたと、西園寺はそのままズブズブと根元までペニスを埋めていった。



 ズンッと、衝撃が走る。
一瞬気が遠くなりそうだった響は、間を置かずズッと身体の中をかき混ぜられる感触に、痛みと、微かな快感を感じて荒く息をつ
いていた。
 「あっ、んっ、はっ」
 「響っ」
 あんなに大きなペニスが、自分のあんなところに入っているのだ。痛くないわけがない。
 「響・・・・・っ」
それでも、何度も何度も自分の名前を呼んでくれる西園寺の言葉を聞いていると、その痛みは不思議と我慢できた。
いや、現金なもので、何度も身体の中を行き来するペニスに身体を揺さぶられているうちに、1年前まで抱かれていたあの甘い感
覚が蘇ってきたのだ。
 「あ・・・・・っ」
 思わず上がってしまった甘い声。
それに気が付いたのか、西園寺は口元に笑みを浮かべると、そのままもっと腰の動きを早くしていく。

 ズリュッ クチュッ

内壁をかき混ぜる粘液の音と、

 パンッ パンッ パンッ

肉体がぶつかり合う音が、寝室の中に響いている。
後は、自分と西園寺の荒い吐息と、時々交わす口付けの音が聞こえ、それが更に自分の官能を刺激して、響は意図しないま
ま蠢く内壁で西園寺のペニスを愛撫し続けた。



 「あっ、んっ、やっ」
 響の口から零れる声が、ほとんど快感の喘ぎ声に変化してきた。西園寺は響の華奢な足を抱え直し、細い腰を抱き寄せて、
力強く内壁を擦り続ける。
 響を手に入れてから、誰とも肌を合わさなくなった西園寺にとって、既に知ってしまっている甘い身体を容易に味わえなかった時
間は苦痛だったが、今日のこの日、こうしてお互いが欲しいと求め合うことが出来るのも、その時間があったからかもしれない。
 そして、これからはもうずっと、響は自分の腕の中にいるのだ。
 「はっ、ひっ、ひさよ、さっ」
 「響っ」
耳元で熱っぽくその名を呼ぶと、ペニスに纏わりついていた内壁がキュウッと締まる。
 「・・・・・っ」
 「あぁぁぁ!!」
その刺激に西園寺は我慢することなくペニスを根元まで埋め込め、その身体の最奥で熱い精液を大量に迸らせた。







 一晩中・・・・・いや、既に夜明けも近い時間まで、西園寺は響の身体を味わった。
 起きたのは、既に朝という時間ではなかったが・・・・・まだ深い眠りについていた響はそのまま寝かせておき、西園寺はしておかな
ければならないことを手早く済ませることにした。
 先ずは、響の身体を清めること。
簡単にしか後始末をしていなかったので、バスルームには連れて行けなかったが(起こしたくなかったので)熱いタオルを使って身体
を拭き、何度も中に吐き出してしまった自分の精液をかき出した。
 今日の為にと買っておいたパジャマを着せると、次は目覚めた時の簡単な食事の用意だ。
きっとあまり食べたくないと言うだろうが、それでも響の好きなパンと紅茶の銘柄は用意してあったし、後は目覚めた時に出来立て
のハムエッグを作ってやろうと思う。次に・・・・・。

 『やっぱりな。おい、獣にならなかっただろうな?』
 会社に連絡をすると、小篠は全て分かっているかのような呆れた調子でそう言った。
 「欲しい相手を前に、獣にならない男がいるか」
 『・・・・・そういう男だよな、お前は』
 「2、3日、休んでもいいな?」
昨日のうちに小篠から有給休暇の許可はもらっているつもりなので、西園寺は当然今日は響に付きっきりのつもりだった。
 『あのなあ、響ちゃんだって会社があるんだぞ?お前が勝手に休んだって・・・・・』
 「起きなければ会社に行けないだろう」
 『西園寺・・・・・』
 「後は頼むぞ」
(2、3日くらい、可愛いものだろう)
 会えなかった1年を埋める日々はそれぐらいでは全然足りないくらいだった。
まだ何か言いたそうな小篠を無視して電話を切った西園寺は、支度が済んだキッチンのテーブルの上を一度見てから、そのまま
寝室で眠る愛しい相手のもとへと向かいかけて・・・・・ふと、ある一点を見て足を止めた。



(は、恥ずかしい・・・・・っ)
 西園寺が身体を清めてくれている辺りから、響の意識は徐々に浮上してきていた。
完全に目覚めたのは、西園寺が寝室から出て行った後だ。半分意識が飛んでいたと思ったが、昨夜の記憶はしっかりと響の脳
裏には刻まれており、自分の淫らな行動を西園寺が呆れていないか心配でたまらなかった。

 「もっと・・・・・もっ・・・・・と!」

 甘くねだった自分の声が、鮮やかに蘇ってくるが・・・・・恥ずかしいとは思うものの、西園寺が欲しいと思っていた自分の心はごま
かせなかった。
 「・・・・・」
 響はベッドに仰向けになったまま、高い天井を見つめる。
会社からは3日、休みを貰っているので急いで起きなければならないということはないし、どうやら西園寺も自分に合わせて休んで
くれたらしい。
申し訳ないが、ずっと傍にいてもらえるのは嬉しかった。
 「久佳さんと、ゆっくり・・・・・あっ」
 まるで昨日の荒淫を見せ付けたような掠れた自分の声に戸惑いながらも、せめて今日1日はゆっくりと部屋で過ごしたい・・・・・
そう思っていた響だったが、ふと頭の中にリビングに置いたままだった金魚のことが蘇った。
自分は西園寺の愛を全身に感じて幸せな気分に浸っていたのに、あの金魚達は・・・・・。早く、あの狭い瓶の中から出してあげ
なければならない。
 慌てて起き上がろうとしたが、どうしても足腰のダメージは大きくて、動きはゆっくりになってしまった。
それでも、何とか立ち上がった響が寝室から出ようとした時、ドアが向こうから開かれる。
 「あ」
 「響?」
響が起きているとは思わなかったのか、少しだけ驚いたような西園寺の顔。
しかし、響の視線が向いたのは、西園寺がその手に持っていた金魚の入っていた瓶だった。
 「それ・・・・・」
 「ああ、お前が気にしているかと思って・・・・・一応、向こうでお前と一緒にいた《俺》なんだろう?」
 「・・・・・」
 ジワジワとした喜びが胸にこみ上げてきて、響はそっと金魚の入っている瓶に手を置く。ただ、その視線は、西園寺の顔へしっか
りと向けてはっきりと言った。
 「おはよう、久佳さん」
本当に、西園寺の傍に帰ってきたという嬉しさが改めてこみ上げてきたのだ。これから毎日、こうして顔を見合わせて日常の挨拶
の言葉を交わせると思うと、嬉しくて嬉しくて仕方が無い。
そして、そんな響に向かい、西園寺も優しく目を細めて、響が今一番聞きたいと思っていた言葉を口にしてくれた。

 「おはよう、響」




                                                                      end




                                       




「漸進する籠の鳥」のオマケの夜と朝編です。エッチもまあまあ書けましたし(苦笑)。
とにかく、「ただいま」と「おはよう」いう言葉がキーワードです。