A nonaggression domain




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『』は英語です。






 震える指がベルトを緩め、ファスナーを下ろして・・・・・下着をずらすようにして自分のペニスを引き出した。
細く長い指先が、自分のペニスに絡みつく。一瞬息をのんだ江坂だったが、直ぐに静の汗ばんで頬に張り付いてしまった髪をかき
あげてやった。
 「嬉しいですね、あなたがこうして私に奉仕してくれるのは。あなたが私のことをどれほど想ってくれているのかよく分かる」
 「う・・・・・れし?」
目元を赤くした静が、自分の言葉を繰り返す。普段の姿は大人びた、物静かな印象なのに、静は時として全く違う顔を見せて
くれる。
それは、こういった行為の時に係わらず自分と2人でいる時で、江坂はそんな静の特別の位置にいる自分が嬉しかった。
 ほとんど半裸状態の静と、下半身を寛げただけの自分。
それだけでも体温の差はあるように見えるだろうが、江坂も静同様、身体の中にこもる熱が次第に高まっていた。
 「ええ、嬉しいですよ。あなたの手は、本当に吸い付くようで、そうして触ってもらっているだけでもイきそうだ」
 「・・・・・」
 すると、何を思ったのか静はにっこり笑うと、手で扱いていたペニスをいきなりペロッと舐める。
 「静さん?」
まだ、セックスを初めて時間が経っていないのに、こうして静が口での愛撫を施してくれようとするのは初めてのような気がして、大
丈夫なのかと江坂はその両頬を持って止めたが、静は嫌々と首を横に振った。
 「や・・・・・だ、するの」
 「・・・・・いいんですか?」
 「い・・・・・の」
 大好きなお菓子を取り上げられまいとするようにむずかった様子を見せた静は、そのまま首を横に振り続けて江坂の手を顔から
外すと、今度は口の中にペニスの先端部分を含む。
 「んっ、ふっ」
 江坂のペニスは次第に頭をもたげ、静の狭い口腔内を押し上げ始めた。愛している相手に口で愛撫されて、感じない方が嘘
だろう。
 「静・・・・・」
 自分の下半身に頭を埋めている態勢で、江坂の視界には華奢な腰が淫らに揺れ始めているのもよく見えた。
自分に奉仕をしてくれる愛しい人のその姿をしばらく堪能した江坂は、そのまま顔を上げて入口に立つセオドアの気配を探る。
(・・・・・動いてはいないな)
 入らないようにと言った入口から寝室の中に入ってはいないが、その瞳は真っ直ぐにベッドの上の自分達を見ている。その中には
確かな欲望も感じるが、セオドアが自分と静、どちらに欲情を感じているのかは分からない。
いや、この男ならば自分達2人を組み敷く愚かな想像をしているかもしれないが、江坂はもちろん、静もあの男が手にすることは
永久に無い。
この先指先でも触れたら、即始末をするだけだ。江坂にはそれだけの決断力があったし、力もあった。




 口の中のペニスがピクピクと脈打っているのが分かる。
始めに含んだ時よりも更に大きくなっているのは確実で、それだけ江坂が自分の愛撫に感じてくれているのだと思うと嬉しくてたま
らなかった。
 何時も、江坂の方がたくさん自分を気持ち良くしてくれる。それは経験値の差もあって仕方がないのだが、静だってこういう外見
をしているが男で、好きな相手を感じさせたいと思っていた。
 役割的には自分が受け入れる側だが、それでも主導権を握って江坂を喜ばせたい・・・・・今、それが少しは叶っているのではな
いか。

 クチュ チュク

 自分の口には余るほどの大きさの江坂のペニスを全て口に含むことは出来ないが、竿の部分を指先で擦れば、先端から滲み
出る少し苦い液は量を多くする。
 「ふむっ、はむっ」
 何度も頭を上下させ、唇や歯でペニスを扱いた。
頭の中がまだフワフワしているので、時々加減が分からずに歯を立てたりしてしまったが、どうやらそれも快感に結び付けてくれてい
るらしく、
 「静さん、もういいですよ」
 やがて、頭上から聞こえる江坂の少し熱を帯びた声がそう言ったが、静は江坂が射精するまでは口から出したくないと思ってい
た。
 「困りましたね」
 「・・・・・っ」
(う・・・・・そ、ばっか、り)
 声の調子は多少揺れがあるものの、それでも普段の余裕が抜け落ちたわけではないようだ。もっと、もっとと静は思うのに、不
意に両頬を取られて、プルンとペニスが口から出てしまった。
 「あ・・・・・」
 思わず残念そうにそう言った静に江坂が笑う気配がして、そのままグルンと視界が入れ替わり、静はベッドに自分の背を預け、
真上の江坂の顔を見る体勢になってしまう。
 「どう・・・・・」
してと、疑問は最後まで言葉にならなかった。それを遮るように、江坂が唇を重ねて来たからだ。
 たった今まで口の中にあったペニスの味を全て取り除くように、江坂は執拗に口腔内を舌で蹂躙してくる。
 「ふ・・・・・っ」
そのキスだけで静の身体はあっという間に快感に蕩け、そのまま伸ばした手で江坂の服を強く掴んだ。




 キスだけで静をイかせようと、江坂は何度も角度を変えて濃厚なキスを続けた。
始めは必死で江坂の舌に自分の舌を絡ませて応えていた静も、息もつかせぬ容赦ない責めに、今はもうただ受け入れることしか
出来ないようだ。
 飲み下せない顎を濡らす唾液を幾度か舐め上げ、また口腔内を弄って・・・・・。
 「ふんっ」
やがて、静の身体がビクビクと痙攣し始める。
 「・・・・・」
 江坂は冷静にその表情を見つめながら、縮こまった舌を強引に絡みとって軽く歯を立てると、静の悲鳴は江坂の口の中に飲み
込まれたまま、精液が白いシーツに飛び散った。

 キスでイッた感じやすい身体を目を細めて見つめた江坂は、そのまま静の片足を抱え上げる。
蕾に手を伸ばせば、自分が吐き出したものと薬の効果か、既に指2本が軽く入った。出来ればもう1本入れるまで解してやりたい
と思ったが、江坂もそろそろ限界が近付いてきたし、この後ゆっくりと静を可愛がるためにもセオドアを退出させなければない。
 決定的な場面を早々に見せ付けるために、江坂は既に勃ち上がっている自分のペニスをそこに押し当てた。
 「・・・・・っ」
 「何時もと同じですよ、静さん」
 「・・・・・う・・・・・ん」
 「上手に、私を飲み込んでください」
濡れた先端を何度も蕾に擦りつけると、そのくすぐったい感触に焦れたのか、静の腰が揺れ始めた。
 「・・・・・」
 人形のように清廉に美しい静が、欲情に濡れた表情で、下半身を自分に見せている。
江坂は口元に笑みを浮かべてその淫らな姿を堪能すると、そのまま腰に力を入れ、先端部分を含ませた。
 「んぅっ・・・・・!」
 さすがにまだ慣らしが足りなかったのか、静の唇からは苦しそうな声が漏れ、眉根も顰められてしまう。
江坂は抱えている足を宥めるように撫で擦ると、それでも挿入を途中で止めることはせず、少しずつ少しずつ、静の肛孔の中にペ
ニスを押し入れていった。




 「あふっ、あう・・・・・っ」
(く・・・・・るし・・・・・っ)
 自分の心はとっくに江坂を受け入れているのに、そして、受け入れる場所も濡れているはずなのに、ギシギシと軋むような感覚
を感じたまま、静は必死に身体から力を抜こうと努力した。
 「静・・・・・」
 「・・・・・っ」
 何時もは《静さん》と呼ぶ江坂だが、抱き合う時は呼び捨てにしてくる。声の響きさえまるで違うようで、静の胸は高鳴った。
江坂のどんな言葉も耳に心地良いが、特別な響きの《静》と名を呼ぶ声はとても甘くて、静は江坂の首に片手を伸ばしてしっか
りとしがみ付き、無意識のうちに身体からは力が抜けた。

 ズッ

 引っ掛かっていた所を通り抜け、ペニスが更に身体の奥深くに入り込んでくる。身体いっぱいに江坂のペニスが支配していくよう
で、静は痛みを快感に換えて声を上げた。




 「あっ、んっ、りょっ、りょーじ、さっ、あっ」
 ペニスの先端部分が全て入ると、江坂は浅い抜き差しを繰り返した。本当は根元まで、静の身体の最奥を貫きたかったが、そ
れはまだこの後でいい。
先ずは静の身体を慣らし、中を濡らしてからだ。
 「・・・・・っ、んっ」
 「・・・・・っ」
 中はまだきつく、江坂のペニスを絞るように締め付けてくるので痛みの方がまだ強いが、その内壁を強引に押し分けるようにペニ
スを何度も出し入れする。
 「・・・・・んっ!」
 「・・・・・くっ」
 一際強く内壁が収縮し、江坂はグッと強引に腰を入れた。
その瞬間、静のペニスから三度精が零れ、江坂も肛孔の中へと精を吐き出す。
 「あ・・・・・つい」
 「静」
 素直な言葉に苦笑を漏らし、江坂は何度かペニスを動かすと、

 クプ

いったん、全てを抜き出した。僅かに開いた蕾からは江坂が吐き出した精液がトロリと零れ、ほの赤くなった蕾を白く濡らしている
様は淫猥だ。
 「・・・・・」
 江坂は静の唇に、触れるだけのキスをする。
そして、身体を離そうとしたが、静は江坂のシャツを掴んで、嫌と小さな声で言った。離れたくないと思ってくれているその行動が愛
しく、もちろん江坂としてもこのまま静の身体を貪りたかったが、その前にやらなければならないことが残っている。
 江坂は静の頬にもう一度キスをすると、そのままベッドから立ち上がった。




 生々しい行為のはずなのに、今目の前で行われたセックスは綺麗で綺麗で・・・・・夢のようだった。
お互いがお互いを想い、欲しがっている様が、離れているセオドアにも強く伝わって、この2人の間に自分が入り込むことなど到底
無理なことだと感じる。
(いや・・・・・彼らに目を付けたこと自体、私の人生の失敗なのかもしれない)
 絶対に手に入らないと分かっているのに、目の前の男の支配から逃げる意志は皆無だ。静に劣らず、美しく、獣のように残酷な
目をしているこの男から・・・・・。
 「見たな」
 「・・・・・ああ」
 「静は私のもので、私も静のものだ。私達の間には誰も入ることは出来ないし、もちろん、足を踏み入れようとした時点で相応
の対処に出る」
 射精したばかりの江坂は、それこそ匂うような艶やかさだ。セオドアは自分の手がピクリと動きそうになるのを必死で押さえながら
頷いた。
 「十分、分かった」
 「お前はまだ良かった。性格は恐ろしく愚かだが、その頭の出来はあっさりと潰してしまうのには惜しいくらいのものを持っていたか
らな。だが、見逃すのは一度だけだ。私は何度も許しを与えるほどに人が良くはない」
 「・・・・・」
 セオドアは頷いた。
先程まで静を見つめていた視線は甘く蕩けるようだったのに、今自分を見る江坂の目は凍りつくほどに冷たい。これは使い分けて
いるというよりも、彼の無意識の反応なのだろう。
 「私も、死にたくはない」
 「利口だ」
 江坂はいったんベッドを振り向いた。
 「今夜見たことはお前の脳裏からも目からも消せ。出来ないというなら、何時でもその両目を潰してやるぞ」
 「ノ、ノー!忘れるっ!」
 「・・・・・帰れ。今後お前への連絡は全て橘が行う。だが、お前の動向は何時でも監視されていると自覚していろ。僅かでも裏
切るような真似をすれば・・・・・」
 「!」
 流れるような仕草に、セオドアは一瞬何が起こったのか分からなかった。
確かなことは、今自分の額には銃が突きつけられているということだ。ここが日本だという理屈は目の前の男には通じない・・・・・セ
オドアは背中に冷や汗が流れる。
 「お前を殺しても私は捕まらない。お前の存在を一切消し去ることが出来るからな」
 「・・・・・イエス」
 喉の奥に張り付く声を何とか押し出し、セオドアは誓った。
この綺麗な男がこの先永遠の自分の支配者になる・・・・・それが頭にではなく、魂に刻み込まれた瞬間だった。

 セオドアを部屋から追い出すと、江坂は再び寝室へと戻る。ベッドの上では静が横たわったまま、ぼんやりとした眼差しを自分に
向けていた。
 「凌二、さん」
 「離れてしまって、すみません」
 大股でベッドに近付いた江坂がそう言うと、静が手を伸ばしてくる。
その手をしっかりと掴んで抱き寄せた江坂は、今から始まる2人だけの時間を改めて楽しむために、片手で素早く自分のシャツを
脱ぎ始めた。