A nonaggression domain
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『』は英語です。
途中、静の気に入っている鮨屋で持ち帰りの鮨を握ってもらうと、江坂はそのままオフィスには戻らずにマンションへと帰った。
今回のことを心配しているであろう静を早く安心させてやりたかったし、江坂自身、セオドアの毒気を静の顔を見て払拭したいと
思ったからだ。
自宅の地下駐車場に車を停めると、江坂は数人の部下に囲まれたままエレベーターに乗り込む。
江坂ほどの地位にある者は何時狙われるか分からないからで、部屋のドアの前まで、こうしてガードが鉄壁の守りを持って自分
を守るのだ。
「それでは、明日は何時もの時間でよろしいですか?」
「ああ」
「お疲れ様でした」
「・・・・・」
丁寧に頭を下げる橘と3人の部下に鷹揚に頷いて見せた江坂は、一度インターホンを鳴らしてから、自ら鍵を開けてドアを開
いた。
「お帰りなさいっ」
珍しく慌てたような声で言う静に、江坂は手を伸ばして彼の腰を抱き寄せ、そのまま触れるだけのキスをしてから微笑みかけ
る。
「ただいま帰りました」
「あの・・・・・」
「話はリビングに戻ってからしましょう。何か食べましたか?」
「いいえ、江坂さんが戻ってから一緒にと思って・・・・・」
「それは良かった。あなたの好きな《魚富(うおとみ)》で鮨を買ってきましたよ」
魚好きな静の嬉しそうな顔を想像していたものの、さすがに今は父や兄のことが心配なのだろう。眉を顰め、物言いたげな視線
の静を見て苦笑した江坂は、先ずは話を先にした方がいいかと思った。
江坂は自分にも分かるように話を砕いて説明してくれた。
仮契約書の効力はもちろん100パーセントではないものの、ある程度の違約金を請求される可能性はある。ただ、それによって
小早川商事を相手に売り渡す必要はない・・・・・江坂はそう言ってくれた。
どんな相手の言葉よりも、もしかしたら父や兄よりも、静は江坂の言葉を信じることが出来て、彼の安心しなさいという一言で
張り詰めたい気をほっと吐き出すことが出来た。
「・・・・・ありがとうございます」
「静さん」
「なんだか、江坂さんにばかり迷惑を掛けてしまって・・・・・」
そうでなくても、江坂は父の会社に多額の資金を援助してくれている。
その形は投資というものだし、はっきりとした金額は双方共に教えてはくれないが、一企業を支えるほどの金額だ、きっと相当な
もののはずだった。
その上、江坂は静の身の回りのことまで気遣ってくれていて、何も返せない自分が申し訳なくて情けなくて仕方がない。
(大学を卒業して働いても、到底返せる金額じゃないっていうのは分かるけど・・・・・)
「・・・・・江坂さん」
「はい」
「俺、バイト・・・・・」
「駄目です」
せめて空いている時間だけでも何かバイトでもしたいと思ったのだが、江坂は静が全てを言う前に即座に却下した。
「あなたが私に、金銭面で負い目を感じることはありません」
「でも・・・・・」
「何かしたいというのなら、あなたの空いている時間全て私のものにさせてください。静さん、私は出来れば24時間、あなただけ
を見つめて、こうして愛したいと思っているんですよ」
「んっ」
そう言いながら重なってきた唇を受け止め、静は直ぐに目を閉じる。これは負い目からでは無く、静自身が江坂を求めているか
らだ。
(俺って・・・・・冷たい人間なのかも・・・・・)
父のことも、兄のことも、会社のことも。全てを置いて江坂の腕を欲しがる自分はとても冷たい人間かもしれない。そんな自分に
好かれた江坂が、とても可哀想に思った。
「あっ、んっ、んっ」
大きなソファの上に押し倒し、江坂は更に大きく静の足を広げた。
静の服は全て脱がせたが、江坂はネクタイを緩め、ベルトを外してペニスだけを出した姿で、何だか一方的に静を凌辱しているよ
うな背徳的な気分にさえなった。
「んあっ!」
普段は体温が無いように感じるほどに白く冷たい静の肌は、今は薄紅色に紅潮していて、触れている場所も熱いくらいだ。
江坂は目を細めてその艶姿を見つめると、精一杯広がって自分を銜え込んでいる静の下半身へと視線を移した。
震えて勃ち上がっている細身のペニスは、数回吐き出した精液のせいで白く濡れて、江坂の腰の動きに合わせてゆらゆらと頼
りなく揺れている。
限界まで広がった蕾は切れてはいなかったが、きつく江坂のペニスを擦り上げ、蠢く内壁で絞り上げてきた。
もう何度も抱いて、江坂の好みの身体になったが、何時まで経っても飽きることはないし、毎回江坂を夢中にさせてくれる。こん
な相手は静が初めてだった。
「静さん・・・・・っ」
「・・・・・っ」
既に一度静の身体の中を白濁で汚した江坂の腰の動きは緩やかで、静も息も絶え絶えにはなっていない。
涙で潤んだ眼差しを向けて綺麗に微笑んでくれると、その甘い唇が自分の名前を呼んでくれた。
「りょ、じ・・・・・さっ」
「・・・・・」
「凌二、さ・・・・・んっ」
こういう時にしか呼んでくれないのが憎らしいが、もちろん嬉しくないことはない。いや、こういう2人だけの秘密の合言葉のよう
なものがあった方が、より熱く燃えるというものだろう。
グチュ
「!」
江坂はペニスを差し入れたまま、静の腰を抱え直し、更に深く結合するように腰を突き入れる。その瞬間甘く上がった声まで自
分のものにしようと、江坂はそのまま唇を重ねた。
「ふむっ、んっ」
身体を深く折り曲げて、唇まで支配して。
静の表情は苦しそうに歪んだが、伸ばしてくる腕は江坂の身体を押し返そうとはせず、爪をたてるように自分の肩にしがみ付き、
服を握り締めてくる。
愛しくて、愛しくてたまらなかった。
どんなに乱れても、精液で身体中を白く汚しても、涙で顔を濡らしても、どんな時も静は綺麗なままで、江坂にとっては最上の存
在だ。
「りょ、じ・・・・・っ」
キスを解くと、静はまた名前を呼んでくれた。
その声に笑みを浮かべた江坂だったが、
『何ですか、リョージ』
「・・・・・」
なぜか、同時に不愉快だった男の声が頭の中に蘇ってしまった。
(・・・・・記憶の抹消というものは出来ないのか?)
一度耳にした音を消すことが出来ないのが不愉快だ。江坂はあの空気を愛しい静で塗り替えてやろうと、静の蕾からペニスを
引き出した。
パシッ スリュッ
ソファに胸を預けるような形で腰を抱え上げさせられた静は、背後から江坂のペニスを受け入れた。
生々しい肉体のぶつかる音と、太股を伝う粘ついた液の感触に、静は目を閉じて耐えていた。
「んっ、はっ、はっ」
深く入り込み、腹が突き破られるほどの勢いで中に侵入されて、苦しくて苦しくて・・・・・それ以上に強い快感を感じてしまい、
静は眩暈がするほどの気持ち良さに涙を滲ませる。
「上手に、飲み込んでますよ」
「・・・・・っ」
「あなたの白い双丘の狭間の中に、私のグロテスクなペニスが何度も入り込んで・・・・・、あなたの中は、いやらしく、私のペニ
スに絡みついてる」
何時もは冷静で、穏やかな物言いの江坂の声が、熱く、息も乱れて耳に届いた。
自分達が何をしているのかをそれだけでも見せ付けられているようで猛烈な羞恥を感じてしまい、それはそのまま自分の身体の
中にある江坂のペニスを締め付けることになってしまった。
「・・・・・っ、静さんっ、緩めてっ」
「で、出来なっ」
「そうでないと、あなたの気持ちがいい場所を可愛がることが出来ないですよっ?」
「・・・・・ふあっ」
これ以上、快感を深くされたら、それこそ自分がどうなってしまうのか分からなくて怖い。
それなのに、気持ちとは裏腹に、静の蕾は貪欲に江坂のペニスを飲み込み、更に深い快感を得ようとするのだ。
「あっ、んっ、はっ」
ズリュ グチュ グチュ
先端の太い部分が、確かに快感の在り処を的確に突いてくる。
身体を支える腕にも力が入らなくなって崩れそうになる静の腰をしっかりと掴み、江坂は更に動きを激しくしてきた。
(もっ、きつ、いっ)
お願いという哀願は、江坂の耳に届いただろうか。
「ああっ!」
高い啼き声の後、静はペニスから精液を吐き出し、それはソファを汚してしまった。
もう何度かイッた後なので量的には少ないものの、後ろを突かれながら射精してしまったことがまるで漏らしてしまったかのような
感覚だったのか、静の荒い吐息が僅かに湿っていた。
「しず、かっ」
江坂は、他の人間が静を泣かすことは絶対に許さないし、もちろん自分自身も出来るだけ泣かせたくないとも思っている。
しかし、セックスで泣かせるのは自分だけの特権なので、江坂は容赦をするつもりは無かった。
「やっ、あっ、あっ」
静の背中の、綺麗に浮き出た肩甲骨に唇を落とし、ねっとりと舌を這わすと僅かに汗の味がする。それさえも甘く感じる自分は
美食家なのかどうか。
(静の存在全てが、私にとっては甘いということか)
口元に浮かんだ笑みと共に、快感は高みに昇っていく。そして、
「・・・・・っ」
強く掴んだ腰を自分に引き寄せるのと同時に腰を突き入れ、江坂は蠢く静の最奥に、再び熱い快感の証を吐きだした。
ぐったりと力が抜けてソファに崩れ落ちた静の身体を軽々と抱き上げ、江坂はそのままバスルームへと向かった。
ソファは汚れ、そこここに脱ぎ散らかした服が目の端に映るものの、今江坂が一番にしなくてはならないのは静の身体を綺麗にし
てやることだ。
「・・・・・さか、さん?」
「凌二、でしょう?」
「・・・・・凌二さん、ごめんなさい、俺・・・・・」
「何を謝っているんでしょうね。私はあなたの世話をすることがとても楽しいのに」
それは静を宥める言葉ではなく、江坂の本心からの言葉だった。セックスをし、その身体の最奥に放った自分の精液を綺麗に
清めてやることは、セックス自体の楽しさとはまた違うものがある。
「それに、今日は少しでも長く、静さんと一緒にいたいんですよ」
「え?」
タイマーで入れていた風呂は既になみなみと湯が溜まっていて、江坂は素早く服を脱ぎ捨て、軽く自分と静の身体を洗い流す
と、そのまま一緒に湯船の中に入った。
大人2人がゆったりと浸かれる広さがあるが、江坂は自分の膝の上に静を座らせると、湯から出ている肩に手ですくった湯を掛け
てやりながら言葉を続ける。
「痴漢に遭ったんですよ」
「ち、痴漢?え・・・・・凌二さんが?」
「ええ。だから、静さんに慰めて欲しくて・・・・・」
何時もよりも性急に求めてしまったのだと言えば、素直な静は直ぐに許してくれた。
「最近の女の人って、積極的なんですね」
「・・・・・」
しみじみと呟く静に、相手は男だと言うわけが無い。そして、言葉で言うほどに江坂が落ち込んでいるというわけでもない。
ただ、静に甘えたいだけの江坂は、湯で上気した静の頬に唇を寄せた。
「だから、ねえ、静さん、あなたの髪を洗わせて下さい。あなたに触れているだけで落ち着くんです」
「俺の、髪で?」
「ええ」
無防備に弱点である首筋を晒すことは、本当に信頼している相手にしか江坂には出来ないことだ。そして、静は自分に対して
は、無条件にそうあって欲しい。
戸惑いながらも頷いてくれる静の優しさに笑みを漏らすと、江坂はさっそくというように静の身体から手を離すと湯船から立ち上
がった。
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