愛情の標










 バスルームから出てきた海藤は、神妙な顔をしてフローリングに正座をしている真琴を見つけた。
 「どうした?」
 「今日はすみませんでした。俺のせいで、何か変な感じになっちゃって・・・・・」
 宇佐見と別れた後、真琴は何時ものようにバイトに向かったか、仕事の最中もずっと海藤と宇佐見の関係を考えていた。
真琴自身、自分の兄弟達とはかなり仲がいいので、あんなふうに負の感情を持つなどということは想像も出来なかった。
本妻と愛人という母の立場の違いや、半年だけ違う兄と弟というところで、宇佐見はかなり海藤を意識しているようだが、
傍で見た限りは、海藤はあまりこだわりがあるようには見えなかった。
(単に見せないだけだったのかもしれないけど・・・・・)
 結局、自分が原因で、海藤が宇佐見に会わなくてはならなくなったのは事実なので、真琴はとにかく海藤に謝ろうと決意
して帰ってきたのだ。
 「あの、喧嘩しないでくださいね?」
 「喧嘩するほど仲は良くないんだが」
 気遣ってくれる真琴の気持ちが嬉しくて、海藤は下から見上げてくる真琴の身体を抱き上げる。
そのまま寝室に向かう海藤に、真琴は慌てて言った。
 「きょっ、今日は俺が!俺がします!」
 「お前が?」
 「何時も海藤さんにばっかりし、してもらってるから・・・・・今日は俺が全部しますから、海藤さんは寝てていいです!」
一瞬海藤は驚いたように目を見張ったが、次の瞬間面白そうに笑った。
 「・・・・・それは楽しみだな」



 ベッドヘッドに背もたれて座る海藤の足の間にちょこんと座り、真琴はもう既に後悔していた。
 「どうした?今日はお前がするんだろう?」」
眼鏡を掛けていない海藤は端正な容貌が際立って、余計に真琴は恥ずかしくなる。
目が悪いわけではないので、これからしようとする行為は丸見えになってしまうだろう。
 「真琴」
 即されるように名前を呼ばれ、真琴は思い切って海藤に口付けた。何も知らなかった真琴に一から教えたのは海藤で、
そのキスも海藤が教えた通りの好みのやり方だ。
小さな舌が口腔内を愛撫するのは快感よりもくすぐったさの方が先にたつが、一生懸命なその姿を見るだけで海藤のペニ
スは力を持ってくる。
 真琴は唇から頬、首筋へとゆっくり愛撫を移動していく。鍛えられた腹筋にも丁寧に舌を這わせ、更にその下へ・・・・・。
(う・・・・・おっきい・・・・・)
明るい照明の下、こんなにまじまじと海藤のペニスを見たのは初めてだった。
既に数えきれないほど海藤と身体を重ねてきた真琴だったが、何時も海藤の愛撫によって快感に溺れ、わけが分からない
うちに挿入されていた。
初めてのセックスでの恐怖を完全に打ち消すために、海藤は真琴に快感だけを与え、初心者の真琴に何かをさせるという
ことはなく、こうしてペニスを見つめることさえ真琴はドキドキしてしまう。
(俺のと全然違う・・・・・)
 体格差もあるだろうが、昔風呂で見たことのある父や兄達のものよりも随分大きい。
 「さ、触りますよ?」
既に立ち上がりかけたペニスに、そっと手を添えたが、到底片手では足りず、両手で持っても余る長さとずっしりとした質量
に、真琴は既にギブアップしてしまいそうだった。
 「止めるか?」
 無理にさせたいわけではない海藤がそう言うと、真琴はブンブンと首を横に振った。
 「や、やりますっ。い、いきますよ」
(せ〜のっ)
 思わず心の中で掛け声を掛けると、真琴は思い切ってペニスの先端を銜えた。
(う、動けない・・・・・)
口に入れたものの、どうすればいいのか分からずに硬直してしまった真琴は、助けを求めるように上目づかいに海藤を見上
げた。
 「いったん口から出して、舐めてみてくれ」
 こくんと頷き、口からペニスを出すと、口の中に溜まっていた唾液がシーツに垂れた。
 「急がないでいいぞ」
小さな舌で、アイスクリームを舐めるようにペロペロとペニスを舐めていく。筋が浮き出た幹の部分を両手で擦り、先端の太
い部分を口の中に入れて舌を這わした。
次第に苦い味が口の中に広がっていくが、それは海藤が感じてくれている証拠だと、真琴は一生懸命愛撫を続けた。
 「・・・・・もう、いいぞ」
 やがて、海藤は真琴の顔を上げさせる。何時の間にか涙が流れていて頬を濡らしていた。
 「よく、出来たな」
その口調は何時もの通りで、自分の愛撫ではまだまだ感じさせるところまでいっていなかったのが分かる。
 「で、でも、まだ・・・・・」
海藤が射精していないのを気にするが、海藤はそのまま真琴の身体を引きずり上げ、たった今まで自分のペニスを銜えて
いた唇に激しいキスをした。
 「んっ、んんっ」
口の中に広がっていた苦い味を全て舐め取るように真琴の口腔内を愛撫した海藤は、快感に溶けた真琴の目と視線を
合わせてにやりと意味深に笑った。
 「今日は俺の上で頑張ってもらうぞ」