赤い鎖










 「・・・・・ふ・・・・・ん・・・・・っ」
 倉橋は洩れそうになる声を抑えるのに必死だった。



 セックスをした経験はあるものの、その数はあまり多い方ではなく、もちろん男との経験などはなかった。
口では何を言っても、同じ男の身体に欲情するなど・・・・・それが真琴のような可愛らしい容姿をしていれば別だろうが、自分
のように身長もあり、体付きも幾分細身ながらしっかりとした男の身体に・・・・・あるはずが無いと思っていたが、腰に当たる綾
辻のペニスはしっかりと勃起しており、先端が倉橋の身体を徐々に濡らしていった。
 「ま・・・・・待ってくださ・・・・・っ」
 「待てない」
 綾辻は戸惑うほど強引に倉橋の身体を開いていった。
目を閉じていても、覆い重なる相手が同性だというのはよく分かる。
触れる堅い筋肉が、大きく長い指先が、聞こえる吐息の声音が、今まで抱いてきた女とはまるで違うのだ。
 「・・・・・っ、・・・・・あっ・・・・・!」
(わ、私の声か・・・・・っ?)
唇を食いしばっても、どうしても洩れてしま声が恥ずかしくて、倉橋はギュッとシーツを握り締めた。



 綾辻の唇は驚くほど細やかに倉橋の身体を這い回っていた。
ささやかで、普段は気にも留めない胸の飾りを口で含まれ、歯で甘噛みされ、舌で嬲られる。
耳元から首筋、鎖骨へと舌が這っていき、その濡れた感触にゾクッと背筋が震え、倉橋はたまらずに身体を捩ってしまった。
 「それで身体を隠しているつもりか?」
 綾辻がからかうように言い、半分見える背中にキスを落とした。
 「龍の他になぜ彫らなかったんだ?」
 「・・・・・っ」
 「克己」
 「飾りなど・・・・・必要な・・・・・いと・・・・・思った・・・・・か・・・・・ら・・・・・」
 「そう言うと思ったよ。すごく、お前らしい」
 「あ、綾辻さんは・・・・・どう・・・・・して・・・・・?」
 「俺はお前と双龍になりたかった。他の飾りは、俺も必要ないと思ったんだよ」
自慢げに言う綾辻の言葉に、倉橋は半分シーツに顔を埋めた形で思わず笑みを零した。
(綾辻さんらしい・・・・・)
一生仕えるべき海藤の為ではなく、こんな価値のない自分の為に身体に傷をつけてしまった綾辻が哀れで・・・・・なぜか愛お
しく感じてしまった。
小さなものならまだしも、背中一面の、それも白粉彫りなどを施せば、この龍は一生綾辻の背中を支配するのだ。
(私なんかの為に・・・・・そんな覚悟をするなんて・・・・・)
そう言えば、きっと『なんかなんて言い方はするな』と叱ってくれるだろう。
 唐突に、倉橋の中で変化が生まれた。



 「あ・・・・・んっ、ふ・・・・・ぅっ」
 声を押し殺すのが馬鹿らしくなってきた。
ここにいるのは自分と綾辻だけ。そして、その綾辻は自分を欲しいと言ってくれているのだ。
 「あ、綾辻・・・・・さ・・・・・っ」
価値の無い自分に価値を見出してくれる人に、全てを曝け出さなくてどうするのだろう。
 倉橋は甘だるい腕を伸ばして、ギュッと綾辻の首を抱き寄せた。
 「・・・・・克己?」
 「・・・・・も・・・・っと・・・・・」
(何も考えられないほど・・・・・)
 「酷くして・・・・・いいです、からっ」
 「克己っ」
元から守るべきプライドなど無い。
倉橋は自分から腰を浮かせ、綾辻のペニスと自分のペニスを擦り合わせた。
 「・・・・・くっ」
 既にお互い先走りの液で濡れたペニスは、二チャニチャといやらしい音をたてながらお互いを愛撫し、快感を高めていった。
重ねた唇からは飲み込めない唾液が滴り落ちるが、どちらもそれを構わずに舌を絡めてお互いの口腔内を犯していく。
男同士だからこそ、こんな風にお互いが主導権を握ったままのセックスが出来るのだろう。
 「・・・・・!」
 キスに夢中になっていた倉橋は、不意に尻の狭間に濡れた感触を感じて反射的に目を開けてしまう。
すると、驚くほど近くに綾辻の顔があった。
 「あ・・・・・」
 「ん?」
綾辻は汗の滲んだ顔で笑いながら、悪戯っぽく聞き返す。
倉橋が何に途惑っているのか全て分かっているのだろう。
 「あ、あの・・・・・」
 「慣らさないと、さすがに俺のは入んないだろ?」
 「そ、それは・・・・・」
(やっぱりそこまでする気か・・・・この人は・・・・・)
覚悟をしていたはずだが、やはり最後までするのかという気持ちがどこかに残っていた。
そんな倉橋の気持ちは全て分かっているだろう綾辻は、お互いの先走りの液で濡れているペニスの滑りを利用し、そのまま指
を一本倉橋の尻の蕾に滑り込ませた。
しかし、半分も入らない内に、倉橋は無意識に力を込めてしまい、綾辻の指は奥に入れることも引き出すことも出来なくなっ
てしまう。
 「・・・・・くっ」
今まで感じたことの無い衝撃が体中に走っている。
 「克己、少し緩めろ」
倉橋の耳たぶを軽く噛んで綾辻は言ったが、その言葉の通りには簡単に身体が言うことをきかない。
 「む・・・・・り・・・・・っ」
 「仕方ないな」
 綾辻はもう一方の手を倉橋のペニスに絡め、今日気付いたばかりの弱い場所・・・・・先端を爪先で軽く引っ掻いた。
 「ふぁっ!」
その瞬間、倉橋の身体から力が抜け、綾辻は狙ったかのように指先を深く中に突き入れた。
 「!」
 「・・・・・熱いな、お前の中」
 「・・・・・言わないでくださ・・・・・っ」
目尻に涙を溜めている倉橋の額に軽くキスを落とすと、綾辻は倉橋の身体の中の愛撫を始めた。
まだ指がたった一本しか入っていないのに、既にペニスが突き刺さったような衝撃を受けていた倉橋は、中の襞を擦られ、何か
を探るようにあちらこちらを押さえられ、ひきりなしの嗚咽が口から洩れていく。
 「ふぁあっ、やっ、やめっ・・・・・ひ・・・・・ぃっ・・・・・!!」
 突然、襞の、ある場所を引っ掻かれ、まるで電流が流れたような快感と衝撃が倉橋を襲った。
ビクッと、倉橋が大きくのけぞると、綾辻は嬉しそうに笑ってペロッと唇を舐める。
 「ここか」
 「・・・・・っ」
(な、どうなって・・・・・私の・・・・・身体・・・・・っ)
倉橋の身体は既に自分の意思通りに動かず、もう全てが綾辻の思惑通りに淫らに変化していった。







                                    







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