赤の王 青の王子



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※ここでの『』の言葉は日本語です






 「シエン様、いかがなさいました?」
 「・・・・・アルティウス王の上機嫌が気になる」
 「確かに。昨夜の宴ではかなり敵愾心を抱いておられたようですが」
 「何かあったな」
 アルティウスに滞在の礼を述べて退出したシエンは、涼やかな面に怪訝そうな表情を浮かべた。
結局あれから有希とは会う事は出来ず、一度出直すために国に帰ることにしたのだが、その間にアルティウスがどんな工作
をするのか、シエンは想像を巡らしていた。
(このまま連れ帰りたいが・・・・・)
たった一度会っただけなのに、有希の印象はシエンの心に大きく残っていた。
儚げで、か弱くて、美しい・・・・・。返す返すも、なぜ自分の国に現れてくれなかったのだろうかと悔やむばかりだ。
 「・・・・・ん?」
 客室に続く中庭に面した長い渡り廊下を歩いていたシエンは、ふと気配を感じて足を止めた。
 「王子」
その気配に殺気は感じられないが、敵国の中心部にいるということを頭の中に入れて、シエンと2人の側近、カヤンとベル
ネは腰の剣に手を掛ける。
 『ふ・・・・・う、いた・・・・・』
 「!」
 微かに聞こえた声に、シエンは反射的に足を動かす。カヤンとベルネも慌てて後を追った。
 「ユキ!」
草陰に蹲っていたのは有希だった。
 「・・・・・シエンおうじ」
昨夜とは違う見慣れない服を着た有希は、シエンの顔を見るとホッとしたように緊張を解いた。
 「おうさまかとおもった・・・・・」
 「ユキ、アルティウス王がなにか・・・・・」
言いかけたシエンは、首筋の赤い痕を見て言葉を止めた。
首筋だけではなく、服の隙間からのぞく胸元にも咲いている赤い痕。手首には強く握られた痕さえ残っている。
シエンはアルティウスの上機嫌のわけを悟った。
(己のものにしたのか・・・・・っ)
 アルティウスに強い殺意さえ感じたが、どうして有希がこんなひと気のない場所に、1人の供も連れずにいるのかが分から
なかった。
怯えたように身体を震わす有希に、シエンは努めて優しく聞いてみた。
 「ユキ、どうしてこんなところに?部屋に戻られる途中ですか?」
 「・・・・・ここ、いや」
 「何と?」
 「でていきたい、ここから、とおく・・・・・いきたい」
  そう言いながら、感情が高ぶったのかユキは泣き出してしまった。
 「いや、ここ、いや・・・・・」
 「では、ユキ、私とバリハンに参りませんか?」
 「王子!」
とっさにカヤンが遮った。
 「問題になります!《星》の所有者であるエクテシアから強奪するなど、戦になりかねませぬ!」
 「構わぬ」
 シエンはきっぱりと言い切り、そっとユキの身体を抱き上げる。
 「や・・・・・いやだ・・・・・」
 「安心してください。私は力であなたを傷付けることはしません」
 「ほ、ほんとに?」
 「はい」
 「ほんと・・・・・?」
 「《星》に誓って」
有希は躊躇ったが、このままこの場所にいてもすぐ見つかるだけだと思い、優しいシエンの言葉に縋った。
微かに頷いて身体を預ける有希を丁寧に抱え直すと、シエンはいさめようとする側近2人に言い放った。
 「《強星》は我が手に落ちた。なんら恐れることはない」
 「・・・・・王子」
 「明日早朝出発する。ユキを隠す方法を早急に考えよ」
 「はっ」
 一度決めたことは翻さないシエンには、この決断はそれなりの勝算があってのことだろう。
側近達は直ぐに同意し、人知れず有希を連れ出す方法を考え始めた。