赤の王 青の王子
16
※ここでの『』の言葉は日本語です
翌朝、シエンは1人の側近を連れた2人だけで、再度アルティウスの面前に立った。
「それではアルティウス王、またお会い出来ることを楽しみにしております」
「その時はシエン王子、そなたが王となっているやもしれぬな」
「それはどうでしょう」
当たり障りのない言葉を交わす2人の会話は、傍で聞いている者にとってはピリピリとした緊張感をはらんでいた。
さすがにこの場で剣を取り出すなどということはないが、お互いに対する殺気を互いに消すこともなくいる。
「他の者はいかがされた」
「既に城門の前に控えさせております。下々の者に王の尊顔をお見せすることはないでしょう」
「踊り子を1人所望されたと聞いたが」
「美しいエクテシアの女性を、ぜひ父王にもご覧になって頂きたく・・・・・宜しかったか?」
「1人ではなく何人でも構わないが」
シエンは頬に笑みを浮かべたまま、アルティウスの隣を見るように視線を移した。
「今日の出立を、ユキ殿は見送って下さらないのでしょうか」
有希の名前を出されて、アルティウスが一瞬複雑な顔をしたのを、シエンは見逃がさなかった。
「・・・・・ユキはまだ休んでおる。くれぐれもよろしくとのことだ」
「それは光栄です」
有希がそんな言葉をアルティウスに伝えることが出来ないということを、シエンが一番分かっていた。
今頃有希は艶やかな踊り子の姿で、シエン一行の中に紛れているだろう。
いまだ身体が痛む有希を荷物の中に隠すのはとても出来なかったし、ただ供の一員にするには、城外に出る際必ず人数
が確認される為出来ない。
まだあまり顔を知られていない有希を連れ出すには、むしろ少し顔を見せるぐらいにし、派手な服装と化粧で目くらましす
る方が安全だということになった。
露出の激しい踊り子の服に、有希はかなり恥ずかしがっていたが、その出来上がりの美しさにシエン一行は感嘆の溜め
息を洩らしたほどだ。
「それでは、アルティウス王、再び遭い見まえる日に」
「・・・・・ああ」
「参るぞ、カヤン」
「は」
国境を出るまでは、まだまだ安心は出来ない。
シエンは内心緊張感をみなぎらせながらも、優雅に一礼して謁見の間から立ち去った。
シエン一行が城外に出てしばらくした頃、ウンパは有希の部屋の前に立っていた。
アルティウスから直々に、昨日一日は有希をそっとしておく様に言われたので、今朝も少し遅く部屋に向かった。
有希とアルティウスの間にあったことは、ディーガから大体の事は聞いていた。エクテシアの民として、有希がアルティウスと添
うことは歓迎だが、その方法が多少無理矢理だったことには心を痛めた。
有希はかなり繊細で大人しい性格をしているので、このことが心の傷にならなければと思う。
「ユキ様、ウンパです」
ドアの外から声を掛けるが、有希の返事はない。
「入りますよ、ユキ様」
鍵などないのでドアは簡単に開き、ウンパは中に入った。
しかし、部屋の中はシンとして、人の気配というものがない。
「・・・・・」
ウンパは急に不安が高まった。
「失礼しますっ」
早足に寝台に向かい、言葉と同時に上掛けを捲った。
そこに、有希の姿はなかった。
「!」
触れる寝台は冷えていて、有希がかなり長い間ここにいなかったことが分かる。
ウンパはハッとして、寝台の傍にある籠の中を覗いた。そこにあるはずの、有希がこの国に来た時に着ていた変わった着物も
なかった。
「誰か!」
そこで初めて、ウンパは有希が逃げ出したことに気付いた。
「何をしておったのだ!!」
凄まじい怒号と共に、アルティウスの振り上げた剣がウンパの肩を激しく打ち、その衝撃にウンパの身体はかなり遠くまで
飛ばされた。
成長著しいとはいえ、アルティウスと比べればウンパの身体はまだまだ子供のもので、アルティウスに打たれた肩はたちまち
裂けて血が滲み、それ以前に打たれた頬は可哀想なほど腫れ口の端から血が流れていた。
「申し訳ありません!」
激痛に顔を歪めながらも、ウンパは床に額を付けて謝罪した。
この時点で命がある方が奇跡だと分かる。以前のアルティウスならば、剣の鞘を抜いてウンパを切り殺していただろう。
(全てユキ様のおかげなのに・・・・・!)
血が流れることを嫌う有希の為に、アルティウスが慣れない努力をしているからだと、その場にいる全員が知っていた。
「・・・・・くっ」
更に振り上げようとした剣を下ろし、アルティウスは必死の形相でベルークを呼んだ。
「ユキの居所はまだ分からぬのか!」
「城内はくまなくお探しいたしましたがどこにも。既に城外に出られたかと」
「一歩も外に出たことのないユキが1人でかっ?そんなことがあるはずが・・・・・!」
突然、アルティウスの気付いた。
「シエンだ!王子の一行の中にいる!」
「しかし、人数は来られた時と変わらず・・・・・!踊り子がっ?」
「そうだ!ユキを踊り子の姿に変えて連れ出したに違いない!早く追え!絶対に国から出すな!!」
命令すると同時に、アルティウスは自身も部屋から飛び出した。
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