赤の王 青の王子
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※ここでの『』の言葉は日本語です
この世界に来て初めて宮殿の外に出た有希は、物珍しい市場や行き交う人々を興味津々に見つめた。
大国と言われているだけあり、また都の中心部だからなのか、人々は活気に満ち、並ぶ食材も色とりどりだ。
宮殿の中の人々を見て思っていたことだが、この国の人間は男も女もかなり大柄なのは間違いないようで、少し小柄とは
いえ男の有希よりもほとんどの女の方が縦も横も大きい。
肌も浅黒く、比べれば有希などは真っ白と言ってもいいくらいだ。
その誰もが生き生きとした表情で、ユキは確かにこの地が栄えていることを実感する。
(アルティウス王の代になって更に発展したって言ってたけど・・・・・)
ディーガの講義を頭の中でなぞっていると、不意にアルティウスのことが頭の中に浮かんだ。
有希が想像も出来ない暴力で、その身体を力で征服した男。絶対に許せなかったし、何より信頼しかけた相手に裏切ら
れた気がして悲しかった。
その思いが強くて、思わずシエンの手を取ってしまったが、本当にこれで良かったのだろうかという漠然とした思いが有希の
中で広がっていた。
「ユキ、そんなに身を乗り出していると、あなたの白い肌が見えてしまいますよ」
「あ、こ、こめんなさい」
「せめて国境を越えるまでは、用心しなければなりませんから」
「はい」
城門を出てから直ぐ、ユキは動きにくい踊り子の衣装からバリハンの民族衣装に着替え、シエンと共に馬上の人となって
いた。
馬といっても、ユキの知っている馬より太い足とがっしりした体付きの、どちらかといえばコブのないラクダといった感じだ。
この生き物はソリューといい、砂漠の旅にも強く、足も速いと教えてもらった。
有希は供の一行として紛れるからと辞退したが、弱っている身体で歩かせるわけにはいかないと、シエンは自分が乗るソ
リューに有希を同乗させていた。
「こきょう、すぐ?」
「いいえ、エクテシアの国境は、まだ遥か先・・・・・どんなに急いでも5日は掛かるでしょう。そこから各国共通の共土を抜
け、さらに《白の賢人》イムジン王が治める《グランモア》帝国を越えた向こうが、私の国、バリハンです」
「とおい・・・・・」
「ええ、途中砂漠もありますから。ユキは旅に慣れていないでしょうから、極力ゆったりとした行程にはしたいのですが、国
境だけは出来るだけ早く抜けなければなりません」
「・・・・・」
具体的に聞いてしまうと、ますます有希の迷いは深くなる。
出来ることなら、こんな逃げるようにではなく、納得してもらって旅立ちたかった。
(僕・・・・・みんなを裏切ってる・・・・・?)
世話をしてくれたウンパを始め、ディーガも、マクシーも、そして酷い行為をしたが、見知らぬ世界で庇護してくれたアルティ
ウスやベルークを・・・・・。
「急ぎましょう」
有希の迷いを敏感に感じ取ったシエンは、その思いを打ち消すようにきつい口調で言うと、人混みの中だがソリューの足
を早めた。
「くそっ、まだ見つからぬか!」
春の祝祭が近いのと、伝説の『異国の星』が現れたという噂のせいで、都はかなりの人手で賑わっていた。
この国の人間ではない有希は一目見ればすぐ分かるが、シエンが変装をさせているのは間違いがなく、旅の人間を1人1
人確かめていくのはキリがない。
バリハンの装束は目立つものだが、各国の商人や旅人が溢れるこの地では浮くこともなく溶け込んでいる。
アルティウスは市場の近くにある見張り塔の上に立って、苛立った様に叫んだ。
「ベルーク!ル・クルはっ?」
「既に放っております!あっ、そこに!」
「ル・クル!」
青く高い空、アルティウスの頭上を、大きく旋回して飛んでいる鳥がいる。
代々の王位継承者だけが持つことの出来るこのしもべは、今はアルティウスと第一皇子エディエスだけが従えている。
鋭いくちばしと爪を持ち、左右の羽根を広げた全長は2メートル程もある大きな鳥で、賢い彼らは自分の主の言葉を理解
し、その手先となることも出来た。
空を支配できるという事は重要なことで、アルティウスは戦の時の貴重な戦力としても高く評価をしているくらいだ。
「ル・クル!ユキを見つけろ!私の后を捜せ!」
賢いしもべはその言葉を理解し、しばらく何かを探すように大きく旋回していたが、突然ある方向に向かって一直線に飛ん
でいった。
そこは国境に向かう商人達が通る道の方角だ。
「あそこか!」
既にアルティウスの姿を見つけた民が、何事かと騒ぎ始めている。
しかしそれには視線も向けることもなく、アルティウスはル・クルの向かった方向にソリューを走らせた。
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