赤の王 青の王子
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※ここでの『』の言葉は日本語です
殺気は残っているものの、今にも切り合いを始めそうな気配が薄くなったのを感じた有希は、アルティウスとシエンの間に
立って2人の顔を交互に見た。
「わるい、わたし、こめんなさい」
「ユキのせいではない!」
「そうです、ユキは何も悪くありません。意に沿わぬ行為を強いられて逃げたいと思うのは当然のこと」
「・・・・・っ」
もっともなシエンの言葉にアルティウスは唸るしかないが、有希は首を横に振った。
「ちがう、わたしもことば、たりなかた。いいかたわるかた、アルティウスおう、ごめんなさい」
「ユキ・・・・・」
アルティウスにされたことを簡単には忘れることは出来ないし、何より理不尽だと思う気持ちも消えないだろう。
ただ、それ以前に自分に対して向けられた優しさや好意を、そのまま否定することも出来なかった。
「シエンおうじ」
「ユキ、私と共にバリハンに行きましょう。私ならば、あなたの意思を尊重しますし、乱暴な真似はしないと誓いましょう」
「ちがう、おうじ。わたし、かえるほうほうしりたかた、ばりはんいこうおもったの、そのため。アルティウスしたことゆるせない、け
ど、ほんとはやさしいひと」
元々有希がバリハンに行きたいと思ったのは、深い知識と、明晰な頭脳を持つシエンならば、どうにかして元の世界に帰
る方法を見つけてくれるかも知れないと思ったからだ。
けして、アルティウスの傍にいるのが嫌というわけではないし、元々有希がバリハンに行きたいと言わなければ、アルティウス
があんな暴挙をしでかしたかどうかは疑問だ。
有希の言葉に、シエンは混乱していた。
確かに初めて会った時、有希は帰る方法を聞いてきた。そしてその後有希が陵辱されたのに、シエンはバリハンに来ること
を進めたのだ。
(ユキは私を選んだわけではないのか・・・・・?)
「ユキ、では私が帰る方法などないと言えば・・・・・あなたはこのままエクテシアにいるつもりだったのですか?」
「・・・・・」
少し考えて、有希はコクンと頷いた。
「このくに、きらい、ないし、みんなやさしい」
「アルティウス王も?」
間髪入れずの質問に、有希はチラッとアルティウスに視線を向ける。
アルティウスの縋るような目が妙に子供っぽく見えて、有希は思わず笑ってしまった。
「あやまるなら、ゆるす」
「ユキ」
「きちんと、あやまる。わたし、ゆるす」
「アルティウス王、あなた、頭を下げることなど出来るのですか?」
「無論だ!」
頭を下げるくらいで有希が許してくれるのなら簡単なことだ。
アルティウスは剣を下ろすと、そのまま片膝を着いて頭を垂れる。一国の王が頭を下げることがどれ程大変なことか、シエン
やベルーク、そしてシエンの供の者達は驚愕の目で見ていた。
「ユキ、悪かった。私の蛮行を許して欲しい」
「アルティウスおう」
「ただし、私がそなたを愛おしいと思っていることは分かって欲しい」
これ程の短期間で、こんなにも誰かを愛おしいと思うなど、アルティウスは有希の方こそ責任を取って欲しいと強い目線
で訴えた。
(アルティウス王が頭を下げるとはな・・・・・)
同じ王族としてその重大さは何より知っているし、第一、誰かの意見を聞くような王ではないと、シエンはアルティウスの
性格を十二分に把握していた。
本来のアルティウスならば、幾ら不思議な現象を目の当たりにしたとはいえ、あれ程の殺気を押し留めることなど考えない
はずだ。
切り殺されなかったのは、本当に有希のおかげだろう。
(それほど王を変えたのか・・・・・)
有希を知って、シエン自身も、自分がこれ程情熱的だということを初めて知った。何時もの自分なら、何の手立てもなく
略奪という大それたことなど考えはしないだろう。
自分を変えてくれる、そしてこれ程愛しく思える存在・・・・・。
(だからこそ、何としてでも欲しかった・・・・・)
「ユキ」
シエンは有希の名を呼んだ。
「正直に言いましょう。私はあなたが異国に帰れるすべを知りません。様々な書物を読んでまいりましたが、過去、この地
に降り立った星達は、皆この地で生涯を終えています」
「・・・・・かえれない?」
「あなたが願えば、どんなことをしてでもその方法を見つけて差し上げたいが、私自身・・・・・あなたにこの地にいて欲しい
と思っているのです」
もちろんバリハンにと寂しそうに笑うシエンに、有希は直ぐに声が出なかった。
「もう一度言います。ユキ、私と共にバリハンにいらしてください。何よりも、誰よりも、あなただけを愛すると誓います」
「シエン王子・・・・・」
誠実で真摯な言葉だった。
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