赤の王 青の王子
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※ここでの『』の言葉は日本語です
宮殿に戻った有希が最初に目にしたのは、青黒く腫れ上がった頬と唇の端が切れた、そのうえ肩から腕を吊ったウンパの
姿だった。
「ウンパッ?」
「ユキ様!ご無事でしたか!」
泣きそうに顔を歪めるウンパは、普段の大人びた彼ではなく歳相応に見えた。
「けが、どうした?なにあった?」
「ご心配には及びません。全て私の不注意のせいです」
「だって・・・・・」
有希は回答を求めるようにアルティウスを振り返ったが、彼は気まずそうに有希から視線を逸らす。
(おうさま・・・・・?)
まさか・・・・・という思いと同時に、やはり彼かと悲しくなった。
自分が宮殿から逃げ出した時、まず世話係のウンパの責任が問われたのだろう。ウンパの怪我はきっと有希の責任で、
後先考えずに行動を起こした自分を、有希は今更ながら後悔するしかなかった。
「こめんなさい、わたしのせい・・・・・」
「いいえ、ユキ様。これは私にとって当たり前の罰です。本来なら死罪になってもおかしくないほどの失態を犯した私をこう
して生きながらえさせて頂いて、王には深く感謝をいたしております」
この国の人間は皆アルティウスに心酔しているとは聞いたが、王に忠誠を誓うというのはどれほどのことか、目の前のウン
パの姿勢を見て改めてすごいと感じた。
有希の視線を感じるのか、アルティウスはぎこちなく視線を合わせてきた。
「ユキ・・・・・」
「・・・・・」
(暴力は許せないし、元々の原因を作ったのは僕だし・・・・・)
「ユ・・・・・」
「おうさま、わたしもばつ、うける」
「そなたが?」
「にげたの、わたし、うんぱのせいない。わたしばつうけない、へん」
「ウンパは使用人だ、そなたとは立場が違う」
「ウンパ、たたのしようにんちがう。ディーガのでし、せんちゅちゅし。ほんとは、わたしのせわするひとじゃない。ちかう?」
「確かにそうだが、占術師も私の民であることには変わりない」
ウンパの傷は、有希を逃がしたという彼の失態からすれば驚くほど軽いもので、罰を与えるのが当たり前だと思っているア
ルティウスにとっては露ほどの罪悪感もない。
むしろ、シエンだけでなくウンパにまで心をくだく有希が歯がゆくて、また新たな嫉妬心が湧き上がってしまう。
しかし、さすがに今それを有希にぶつける事は出来なかった。
「有希様、一国の王たるものは、簡単に頭を下げることは出来ないのです。アルティウス様が頭を下げれば、エクテシア
の国自体が足を折ることになりますから」
「たって・・・・・」
(さっきは僕に謝ってくれたのに・・・・・)
有希の問うような視線の意味に気付いたアルティウスは、当然といった風に口を開いた。
「そなたは別格だ」
王の謝罪というものがどれほど重大なものか判った気がして、有希は何も考えずに口にした自分が急に恐くなってしまった。
(でも、僕だって酷いことされたんだから・・・・・)
それでも自分の常識とこの世界の常識にはかなりの差があることを覚えていなければと思った。
有希の部屋ではディーガが待っていた。
今だ自分の世界に帰りたいと切望する有希にきちんと説明する為、アルティウスが急きょ呼び出したのだ。
「ユキ様、今日は随分遠くまで朝の散策に行かれたそうで・・・・・」
有希が逃げ出したことを、ディーガは笑いながら揶揄した。
彼にとって有希の行動は予想出来たことで、少し早かったなと思うぐらいでしかなかった。
「ディーガ、ウンパのけが、こめんなさい」
真っ先にウンパの師匠であるディーガに謝らなければと頭を下げる有希に、ディーガは頭を上げてくださいと言った。
「どんなことでも、失敗すれば謝罪と罰を受けなければなりません。命があるだけ、ウンパは幸運なのですよ」
「そうです、ユキ様、もうお気になさらずに」
「・・・・・」
まだ納得は出来ないものの、2人がかりで言われては有希も黙るしかなかった。
「さて、ユキ様、この度の件、あなたが異国に戻りたいが為にシエン王子に縋ったということですが」
「おうじ、ほうほうわからないいった」
途端に暗く沈んだ表情になってしまう有希を、ディーガは口先だけで慰めることはしなかった。
「確かに王子のおっしゃった通り、こちらからあなたの世界に道を開けることは出来ません」
「・・・・・」
「ただ、ユキ、少し考えてみてはいかがでしょう。いくら代々伝わるとはいえ、私があなたの国の言葉を知っているということ
はどういうことか・・・・・」
そこまで聞いて、有希はハッと気付いたようだった。
『僕の前にも日本人が来たってことっ?』
「この世界の人々が残らず知っている《星》の話。しかし、我々占術師の中の極一部には、もっと驚く言い伝えが語り継
がれているのです」
『驚く言い伝え?』
「そうです。混乱を避ける為、意図して史実から消された事実」
ディーガはじっと有希の目を見つめた。
「【強星は1つにあらず】」
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