赤の王 青の王子
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※ここでの『』の言葉は日本語です
ディーガの言葉はアルティウスにとっても初めてのようで、さすがに声は出さなかったものの、目を見開いてディーガを凝視し
た。
「《強星》を手にすれば、誰もが世界を手にする力を持つ・・・・・言い伝えの要点は全てそこに尽きるのですが、占術師に
代々伝えられた真実は、《星》自体が何か不思議な力を持っているのではなく、元の世界、《星》がそれまで生きていた世
界での知識をこちらの世界で披露しているに過ぎぬということなのです」
「ちしき?」
「そうです。私は訪れたことはありませんが、異世界はこちらよりも遥かに進んだ技術と文明があるらしく、こちらに迷い込ん
だ時に持っている物や培った知識を利用して、《星》は自分の庇護者を栄えさせた・・・・・それが真実だと思います。いかが
か、ユキ様」
確かに、今のディーガの説明は真実味があった。SFのような不思議な力というよりも、現代の、有希のいた世界のような
技術をこの世界で使えば、たちまち神と崇められるかもしれない。
(ライター1つであんなに驚いていたし・・・・・案外真実ってそんなものかもしれない)
ただ、どうしても残ってしまう疑問がある。
「このせかいよばれる、なぜ?」
異世界に迷い込むなど、それこそ小説や漫画の世界だ。
「確かに、その部分は謎です」
ディーガは苦笑し、戸惑う有希に優しく語り掛けた。
「あなたにとっては不本意かも知れませんが、私の占術で王とあなたが出会われるのは必然で・・・・・、この世界が・・・・・
この国が、あなたを選んだのは運命なのです、ユキ様」
「・・・・・ほんとに・・・・・もう、かえれない?」
「我々にとって、あなたは特別な存在なのです。この国で、生きていただけませんか?」
「・・・・・」
もう、絶対に元の世界には戻れないのだと知って、有希の目からは次々に涙が溢れて零れた。
もう会えない家族や、友人、そして見慣れた風景が頭の中でグルグルと周り、有希はとうとう腕で顔を隠しながら声を出し
て泣き出してしまう。
「ユキ・・・・・」
アルティウスはそっと有希の肩に手を触れる。有希が振り払うこともせずにいると、そのまま背中から強くその身体を抱きし
めた。
「ユキ、そなたには私がいる。そなたは必ず私が守る」
その言葉は、有希の心の中に少しずつだが確かに浸透していった。
有希の感情が少し治まったのを見て取り、ウンパが冷たい果実ジュースを持ってきて差し出す。
「喉が渇いてらっしゃいませんか」
「・・・・・ありかと」
舐めるように少しだけ口をつけた有希は、服の袖で涙で汚れた頬を拭う。
その時、まだバリハンの衣装を身に着けていることに気付いた。
(王子に・・・・・酷いことしちゃった・・・・・)
別れ際のシエンの表情を思い出し、有希の目には再び涙が浮かんでしまう。
「ユキ」
「ユキ様、先ほど言った私の言葉を覚えておられるか?なぜ代々の術言にあなたの国の言葉があるのか」
有希の悲しみが元の世界に戻れないところからきていると思ったディーガは、この世界のほとんどの人間が知らないことを
口にした。
「ユキ様、頻繁とまではいきませんが、数年、あるいは数十年に一度、異国の人間はこの世界に呼ばれて来ているので
すよ」
「ほ、ほんと?」
「それはまことかっ?」
「そうです。ただ、ほとんどの方は残念ながらこの地に馴染めず亡くなる事が多かったようですが、中にはユキ様のように庇
護者と出会い、天寿を全うされる方もおられたようです。その中に、ユキ様と同じ言葉を話される方がおられて、その時代
の術師がその方から言葉や異国の世界の話を聞き、術言に残していったと伝えられております」
「じゃ、じゃ、もしかして、このせかいに・・・・・」
「安易な慰めの言葉は言いますまい。はっきりと言いましょう。私の占術では、今現在この世界にユキ様と同じ国の方は
いらっしゃいません」
「そ・・・・・う」
「ただし、未来に関してはそうとは言えません」
「あらわれるかもだし・・・・・」
「現われないかもしれないということです」
直ぐには信じられないことだが、有希はふと本で呼んだ話を思い出した。
日本では、昔から《神隠し》という言葉がある。ある日、忽然と人が消えてしまうという現象で、自分から失踪する理由もな
く、事件性もないという不思議な事件だが、もしかするとその中のほんの一握りの人でも、有希のように異世界に呼ばれて
いく者もいたのかもしれない。
(生きていかなくちゃいけない・・・・・)
二度と元の世界に戻れないと思い知っても、生きていかなければならない。
有希は涙で潤んだままの目をアルティウスに向ける。ディーガの言葉で言うと、アルティウスは有希にとって庇護者になるらし
いが・・・・・。
(あんなこと、もう嫌だけど・・・・・)
シエンにも言ったとおり、今の有希は男同士という自分の常識外の関係を素直に受け入れる心の余裕はまだない。
ただ、アルティウスの力を借りないとこの世界で生きていけるかというと自信はない。
利用する為だけにここに留まるのに抵抗を感じる有希に、ディーガは全てを見通しているように言った。
「焦らなくていいのです。全てはユキ様の心のままに」
「でも・・・・・」
「王自身もそう思われているはずですよ」
有希が視線を向けると、アルティウスはそっと頬に手を触れた。
「傍にいてくれ、ユキ。そなたが恐れることはしないと誓う」
それでも嫌だというほど、有希はアルティウスを嫌ってはいなかった。
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