赤の王 青の王子
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※ここでの『』の言葉は日本語です
友好を結んでいるとはいえ、対立国といってもいい大国エクテシアに、一国の王子という立場であるにもかかわらず、シエ
ンはたった20人の護衛だけを連れてやってきた。
二つの国は、回り道をせず砂漠を横断したとしても一週間ほどは掛かる。
しかし、その旅の疲れも見せずに、シエンは堂々と優美な姿でアルティウスの前に立った。
「お初に御目に掛かります。バリハンのシエンでございます」
同じ歳とはいえ、王と王子という立場の違い、そしてエクテシアの方が大国だということもあって、シエンは丁寧に礼の形を
とるが、その姿に少しも卑屈めいた影はなかった。
「よくまいった、シエン王子。我はエクテシア王、アルティウス」
「お噂はかねがね聞き及んでおります。この世界にアルティウス王ほど勇猛果敢な王は存在せぬと」
「私も噂は聞いている。バリハンのシエン王子ほど見識が深く明晰な王子はおらぬと」
「お言葉、もったいなく思います」
初対面の挨拶を交わしながら、言葉の響きとは反対に2人の眼差しは厳しく互いを見ていた。
「今日は何ゆえの来国か?」
分かりきった質問に、シエンはにこやかに答えた。
「王が手にしたという、噂の【異国の星】を拝見させて頂きたく」
「【異国の星】を?」
「まさかこの目に姿を映すのさえもったいないとでもお思いでしょうか?」
挑発的な言葉に、アルティウスはカッとして王座から立ち上がった。
一瞬シエンの護衛が剣に手を掛けようとしたが、シエンはそれを制して真っ直ぐに仁王立ちになったアルティウスを見た。
「私と会わすのが怖いのですか?アルティウス王よ」
激しい感情を込めた目でシエンを睨みながら、アルティウスは傍に控えていたベルークに向かって叫んだ。
「・・・・・ユキを連れて来い!」
自分に与えられた部屋と、神殿、そして湯殿くらいしか行かなかった有希は、この世界に来て初めてといっていいくらいの
大勢の人間を見た。
(広い・・・・・ここが大広間・・・・・?)
かなり広いその部屋はやはり石造りだが、丁寧な細工や光る石を使った豪奢な造りで、部屋の左右には貴重だといって
いた花も飾られている。
諸外国との対面に使われる為、国力を見せ付ける為に過分な程豪華に造るのだと、昨夜ウンパが教えてくれた。
部屋の左右には国の重鎮、大臣や将軍、神官などが並び立ち、彼らも初めて見る有希に興味深そうな視線を向けて
いた。
「ユキッ、こちらへまいれ!」
部屋の中央の一段高い王座の上からアルティウスが叫んだ。
緊張に強張っていた足が、その瞬間ゆっくりと動き出す。
(あの人の声って、変な威力あるのかも・・・・・)
ベルークと共に王座に向かって怖々足を動かした有希は、ようやくアルティウスと対して立っている若い男に気付いた。
(この人・・・・・)
この国の者とは明らかに違う風体だった。
熱いこの国はほとんどの男達は腰布を巻いただけの姿が多いのだが、この男は首から足首までの長い長衣姿だ。
肌は同じく小麦色だがこの国の者よりは白く、髪も長髪黒髪ではなく金髪に近い明るい色で短髪だ。
じっと自分を見つめるその瞳は、空の色だった。
「あなたが・・・・・?」
言葉は分かった。各国の王族は、それぞれの国の言葉をマスターしていると言ったディーガの言葉通りだ。
「しえん・・・・・おう・・・・・じ?」
確かめるように言うと、一瞬驚いたように目が見開かれた。しかし、それは直ぐに嬉しそうに細められ、ゆっくりと有希に近付
いた男は、その目前で膝を折った。
「美しい【異国の星】よ。あなたの名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「なまえ?」
「はい。お名前を呼ぶことをお許し頂けるなら」
「なまえ、ゆき。こん・・・・・に、ちは?」
「ユキ?」
「ユキ!何をしておる!早く私の傍に来ぬか!」
その時、怒りに燃えたアルティウスの怒号が響いた。
「お、おう、さま?」
有希がシエンの名前を呼んだことが面白くないアルティウスは、困惑する有希が動き出すよりも早く自ら下に降りると、シ
エンの目前でその細い身体を強引に抱き寄せた。
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