蒼の光   外伝




蒼の引力




26

                                                           ※ここでの『』の言葉は日本語です






 このしなやかな身体を抱きしめるのはかなり久し振りのような気がする。
蒼と正式に結婚し、自由にその身体を味わえる権利を有したものの、男の身で男を受け入れるという、蒼の身体の負担を考え
て、シエンは間を空けて蒼を抱いていた。
 それでも、こんなにも長い日は無く、いい加減シエンも蒼に飢えていたのだ。
 「ソウ・・・・・」
 「・・・・・っ」
唇を耳たぶに寄せ、そのまま首筋へと舌を這わせる。片手で簡単に絞めることが出来そうな細い首をゆっくりと味わいながら、蒼
の服を脱がせていくと、指先に触れた腰がかなり細くなっていることに気が付いた。
 「・・・・・」
 「シエン?」
 急に愛撫の手を止めたシエンに、蒼は不思議そうに声を掛けてきたが、その声に答えるよりも先に、シエンは自分の身体の下に
ある華奢な身体を見下ろしてしまった。
(かなり・・・・・痩せた)
 元々、少年のような伸びやかな身体をしている蒼。シエンから見ればまだ成長途中である蒼の身体は元々がっしりはしておら
ず、その上何時も外を駆け回っている印象があるので、しなやかという表現が合っていた。
 しかし、どうやら今回の旅は蒼の身体に相当な負担になったようで、手で触れるだけでうっすらと骨の位置が分かってしまうほど
に痩せてしまった。このまま抱きしめてしまえば、もしかしたら蒼の身体を抱き潰してしまいそうな気がする。
 「シエン、あの・・・・・なに?」
 黙ったまま、観察するように身体を見下ろすシエンに、蒼の声は少し不安そうに変化してしまった。
 「ソウ、このまま休みましょうか」
 「え?」
 「多分、あなたは自分で思っている以上に疲れているようだ。このまま私が抱いてしまえば、明日も起き上がれなくなってしまうか
もしれない」
 羞恥心の強い蒼は、シエンと同衾した翌日、少しでもその気配を悟られまいと行動する。結婚している自分達が同衾するのも
当たり前だと周りは思っているのに、それを知られてしまうのは恥ずかしくてたまらないらしいのだ。
今回、疲れている蒼の身体を抱けば・・・・・加減が出来ればいいのだろうが、シエン自身も蒼に飢えているので自分を制御出来
るかどうか分からない。明日、起き上がることが出来なかったら、蒼はどうするだろう。
(文句を言われるのは構わないが、身体に更なる負担が掛かるのは困る)
 せめて2、3日、蒼をゆっくり休ませてやる方がいいかもしれない。シエンはそう思ったのだが・・・・・。
 「やだ!」
寝台に横たわった蒼は、少し睨むようにシエンを見つめてきた。




 確かに、最初は自分も全くその気は無く、ただシエンにくっ付いていたいと思っていただけだった。
それを、シエンに触れられ、キスをされ、見えなかった・・・・・いや、見ないようにしていた飢えに気がついてしまい、自然に、シエンに
応えようと気持ちも身体も高まったのだが・・・・・。
(お、俺の身体が、みっともなくなったから・・・・・っ)
 それが、服を脱がして身体を見た途端、シエンは止めようと言って来た。それは、自分の身体が今回の旅ですっかり肉が落ちて
しまっていたからではないだろうか。
 蒼自身も、自分がかなり痩せてしまったことには気がついていた。旅をして、体力は付いたと思うが、食べても食べても、直ぐにそ
のエネルギーを消耗してしまうほどに疲れていたことも確かだ。
 シエンが合流して、それも解消したかに見えたが、さきほど風呂に浸かった時、思った以上に自分の身体が骨ばってしまっていた
ことに少し驚いたくらいだ。多分、シエンはそんな痩せた身体に、高まった欲情も冷えてしまったのだろうと思う。
 「お、俺が、ガリガリだから、や?」
 「ソウ、私は・・・・・」
 「お、俺は、シエンと・・・・・」
 「ソウ」
 「お、俺・・・・・」
 続く言葉は、シエンのキスに奪われた。
先程よりもさらに激しく、口腔内は愛撫されるというよりも犯されているようで、蒼は逃げようとする自分の身体を必死に押さえて
シエンの身体にしがみ付いた。
(大好き・・・・・っ)
 身体を重ねることだけが愛情の示し方ではないと思うが、肌の温もりを感じないと見えない不安は大きくなってしまう。
恋愛に不慣れな蒼は駆け引きというものを全く知らない。ただ、じっと待っていることも出来ないので、自分の思いを真っ直ぐに相
手にぶつける方法を取るしかなかった。
 そんな自分の気持ちを、シエンは悟ってくれたのだろうか。
 「んぁっ」
 「愛している、ソウ」
唇同士が触れ合うほどに近くで、シエンは真っ直ぐに蒼を見つめながらそう言ってくれた。
 「あなたが可哀想なほどに痩せて、疲れていると分かっているのに、そんな風に求めてもらうと、私も自分の欲望を止めることはと
ても出来ない・・・・・っ」
 「シ・・・・・」
 「今夜は眠れないと覚悟をしなさい」
 きっぱりとそう言ったシエンは、そのまま身体を起こすと、いきなり蒼の下半身に顔を埋め、今の騒ぎで少し萎えてしまったペニス
を口に含んだ。




 「ひゃっ!」
 頭上で、蒼の高い声が聞こえる。しかし、その声は悲鳴ではなく、嬌声だ。
唇で擦り、舌で舐め上げると、素直なペニスは直ぐに力を持ってきて、やがて快感の印である甘い蜜を漏らし始めた。
 「シ、シエ・・・・・ッ」
 伸ばされた蒼の指が髪に絡みついてくる。多分、快感を耐えるために掴みたいのだろう。いっそそうして欲しいのだが、シエンのた
めを思ったのか、蒼は結局手を下ろし、寝台の上の掛け布を握り締めている。

 グチュ ペチャ

 「はっ、あっ、んっ」
 もっともっと、蒼の理性を崩してしまうには感じさせなければならないと、シエンはそのまま空いている指で、ペニスの下の張り詰め
た双玉を揉みしだいた。
片手に収まるそれは、もう可哀想なほどに張り詰めていて、今にも精を吐き出してしまいそうに見えたが、さらなる快感を与えるた
めに、シエンはぎゅっと強くペニスを握った。
 「!」
 その途端、ビクンと身体が跳ね、その拍子にシエンの口の中のさらに深くに、蒼は腰を突き入れてきた。
その様に、シエンは思わず目を細めてしまう。
(私だけのものだ)
 こんな風な蒼の痴態を見ることが出来るのは自分だけだ。
セルジュも、エルネストも見ることも触れることも叶わず・・・・・いや、自分が絶対にそんなことはさせない。




 「ん〜っ、んっ、はっ」
 息が苦しい。
蒼は、短い呼吸を繰り返しながら、シエンの口の中から自分のペニスを引き出そうともがいた。このままではシエンの口の中で精を
吐き出してしまいそうで、それは初めてではなかったが・・・・・感じる快感が深いことは確かだが、何時まで経っても慣れるものでは
ないし、この状態では自分だけが感じさせられているような感じで・・・・・嫌だった。
 「お、俺、もっ」
 「・・・・・」
 「俺も、させ、てよっ」
 「・・・・・」
 何度もそう頼むと、ようやくシエンはペニスを口から出して顔を上げる。
自分のペニスとシエンの唇を繋ぐ唾液の糸。濡れた唇。それがなんのためなのかさすがに想像が出来て、蒼は一瞬にして頬が燃
えるように熱く感じてしまった。
(あ、明かり、消してからすれば良かった・・・・・)
 まさか、こんなことになるとは思わなくて、何時もは薄暗く明かりを落とすように頼んでからしていたセックスが、こんな明るい場所
ではお互いの身体の変化があからさまに分かって恥ずかしくてたまらない。
(シエンは・・・・・)
蒼はそっとシエンの下半身に目を向け、
 「!」
慌ててそこから目を逸らした。
まだ服を脱ぎ捨ててはいないシエンの、服の上からでも分かる身体の変化。そこから、直に見たことのあるシエンのペニスの姿がポ
ンッと脳裏に浮かんでしまい、ますます心臓がバクバクして落ち着かない。
 この落ち着かない気持ちを早くどうにかするためにと、蒼はいきなり手を伸ばして(実際には緩慢な動きだったが)、服の上からシ
エンのペニスをそっと撫でた。
 「ソウ?」
 「俺も、やる」
何をと言わなくても、シエンなら分かってくれるだろう。期待を込めた眼差しを向けると、シエンは困ったような顔をして蒼を見下ろし
てきた。




 蒼からの申し出はもちろん嬉しい。
拙い愛撫ではあるものの、そのぎこちなさが返って快感を高めてくれるということをもう知っている。ただ、今から蒼にそれをさせてし
まえば、最後までする前に蒼のエネルギーが切れてしまうのではないかと思ってしまった。
 何をする時も全力の蒼だ。元気な時ならばもちろん喜んでしてもらいたい。しかし、それよりもシエンは出来れば早く、自分のペ
ニスを蒼の身体の奥深くに突き入れたい思いの方が強かった。蒼が自分だけのものだと、身体の繋がりからも確認したい。
 「ソウ、それはまた今度に」
 「シエンっ」
 熱に潤んだ黒い瞳が、どうしてと非難するようにシエンを睨む。
その目元に口付けをして、シエンは私のためですと言った。
 「私が、あなたの全てを味わいたいから」
 「シ・・・・・」
 「そして、今すぐにでもあなたを欲しいんです」
蒼の太股に、意味深に高ぶった自分のペニスを服越しに擦りつければ、蒼はそれだけで動揺してしまったようだ。今から口で愛撫
をすると言った者とは思えないほどの初々しさに、シエンは蒼の耳元でクスクスと笑った。
 「ね?分かりますか?」
 「わ、分かる、けど・・・・・」
 「ここは、私達の国です。何時だってこうして抱き合うことは出来るし、ソウにもしてもらえます。だから、今夜は私の我が儘を聞い
てくれませんか?」
 「・・・・・」
 「ソウ」
 重ねて名を呼ぶと、蒼は目を閉じて微かに顎を引いた。
それを承諾の印だと受け取ったシエンは、ようやく蒼のペニスから手を離して自分の服を脱いでいく。平静な態度を取っていたつも
りだったが、ペニスは蒼を可愛がっているうちに既に硬くなっていて、シエンが何度か擦っただけで、今すぐにでも挿入が可能なほど
に成長した。
 今、この瞬間に突き入れてしまいたいが、さすがにそのままで入れてしまえば蒼の小さなそこは裂けてしまう。
シエンは寝台の隠し棚の中から香油を取り出すと、それをたっぷり手の平に流し、そのまま自分を受け入れてくれる蒼の小さな入
口へと、濡れた指を突き入れた。
 「・・・・・っ」
 眉間に皺を寄せ、衝撃に耐えているような蒼。だが、苦痛の声を漏らすことは無く、シエンは差し入れた指先を中でグリッと動か
してみた。