蒼の光 外伝2
蒼の運命
29
※ここでの『』の言葉は日本語です
長い口付けを解くと、蒼の頬は赤く上気し、目元も潤んでいた。
「ソウ」
本当は、この警備所で蒼を抱くつもりは無かった。明日には王都に向かって出発しなければならず、男の身で男を受け入れる蒼
の負担は相当に重いはずで、急ぐ旅程で無理をさせたくは無かったからだ。
それならば、蒼だけ数日間この警備所に残してということも考えられたが、それはシエンが不安で嫌だった。ヒューバード達を拘束
し、バリハンの周りには今現在盗賊はいないはずだが、万が一ということは常に考えなければならない。
それなのに、今自分の手を止めることも出来ないとは・・・・・つくづく自分は我慢が効かない男だと自嘲した。
「シ、エン」
「どうしました」
「え・・・・・っと、する?」
「私は、このままあなたを抱きたいんですが」
シエンが笑いながら言うと、蒼は戸惑った様子で視線を彷徨わせる。
今の口付けからも、蒼も自分を受け入れるつもりだと思っていたシエンは、その様子にどうしましたかと訊ねた。
「・・・・・おかしく、ない?」
「おかしい?」
「こ、ここで、しゃちゃうの・・・・・なんか、悪い・・・・・」
「ソウ・・・・・」
蒼の言いたいことは分かるつもりだ。
ここはバリハンの国境を守る警備所で、今は盗賊達を収監していて。口付けを交わすというささやかな触れ合いさえも躊躇ってし
まうほどに厳しい現場だと、もちろんシエンも承知していた。
しかし、セルジュに触れられたままの蒼を、このままにしておくことは男として我慢が出来なかった。一時も早くその記憶を塗り替え
るために、蒼の甘やかな身体を抱かなければ落ち着かない。
戦いの後、沸き立った血を鎮めるためには性交渉が一番良いと下世話な噂話も聞いたことがあったが、シエンは今ほどその言
葉は正しいと思わずにはいられなかった。
それに、皇太子である自分と、その妃である蒼が、どこで抱き合っても・・・・・それこそ、皆の目の前で抱き合っていても、恥ずか
しがることなど少しも無い。いや、いっそのこと蒼の感じる声を、セルジュやアルベリック、そしてヒューバードに聞かせてやりたいという
思いに駆られてしまう。
まだ、皇太子妃という地位に慣れない蒼にとってそう考えるのは難しいかもしれないが、今この時は自分だけを見て羞恥を忘れ
て欲しいと思った。
「ソウはこのまま我慢出来ますか?」
自分の感情を押し殺したまま、シエンは蒼の官能をかきたてるように囁く。
「ガ、ガマン、て・・・・・」
「ソウ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・っ」
ついに陥落したように、蒼の手が自分の服の胸元に伸ばされた。
(私は・・・・・本当にずるい)
蒼が断ることが出来ないような状況にあえて追い込み、その口から諾という返事しか出さないようにするのは簡単だ。
自分の方が欲しがったのだという思いを蒼に抱かせることで、シエンへの愛情を再認識させる・・・・・今の状況でそこまで考えてしま
う自分が情けなくてたまらないものの、シエンは胸の中に渦巻く制御しきれないほどの蒼への想いを、蒼自身にも少しでも背負わ
せたかった。
この部屋の外に自分の声は聞こえないだろうか。
最高責任者であるはずのシエンが部屋から一歩も出なくて、おかしいとは思われないか。
明日、自分はソリューに乗り、王都へちゃんと帰還することが出来るか・・・・・。
頭の中では羞恥と困惑と躊躇いが渦巻いていたが、それでも蒼はシエンから離れることが出来なかった。
(俺ってホント、ガキだよな)
盗賊をおびき出すという作戦のためにシエンと離れたのはほんの数日。ヒューバードと向かい合っている時は必死だったし、とにか
く自分が何かしなければという思いが先にあったが、今の蒼の心を占めているのはシエンのことだけだ。
「シエン」
こんな自分はあまりにも子供っぽいかと心配になったが、名前を呼べばシエンは嬉しそうに笑ってキスをしてくれる。自分が彼を間
近に感じたいと思うように、シエンも同じ想いを抱いてくれていると感じて嬉しくなった。
チュ
音のするキスを何度も繰り返しながら、お互いの服を剥いでいく。
さっき、風呂に入っておいて良かったと思った。
(砂だらけの身体だったらマヌケだよ)
「・・・・・」
「な、何?」
不意にシエンが笑ったので、蒼は戸惑って聞き返す。すると、頬に唇を寄せながら、シエンはすみませんと謝ってきた。
「ソウがあまりに可愛らしいから」
「か、かわ・・・・・っ?」
「こんなにも愛らしいソウが、私だけを見つめてくれるのが嬉しい」
「シエン・・・・・」
深い思いがこもった言葉に、蒼は一瞬言葉を詰まらせてしまった。
好きなのは自分の方だと言いたいのに、こんなにも愛情深い眼差しを向けてくれるシエンに対し、俺もと簡単な言葉を返してもい
いものだろうか。
(・・・・・よしっ)
「ソウ?」
蒼はシエンの腕を掴んでそのまま自分の横に引き倒すと、くるりと体勢を変えて自分が上からその端整な顔を見下ろした。
「俺も、うれしい」
「・・・・・」
「シエンが、俺を、俺だけを見てくれるのが、うれしい」
誰かに自分達の行為が知られてしまうのを恥ずかしく思っている場合ではないと思った。
いや、好きならば堂々と自分達の仲の良さを見せ付ければいい。蒼はそう割り切って(まだ多少落ち着かないが)、シエンの口をカ
プリと軽く噛んだ。
蒼に押し倒されるという嬉しい体勢に、シエンはしばらくじっとしていようと思った。
まるで幼い子供のように、顔や胸元に軽く唇を寄せた蒼は、それからどうしようかと悩むように顔を上げてしまう。
「・・・・・」
シエンに抱かれることを受け入れ、快感を感受するようになった蒼は、行為に溺れてしまえば自分からも積極的に動くようになっ
たが、まだ正気でいる今、我を忘れたような痴態を見せることはなかなか出来ないようだ。
(どうしたものか・・・・・)
困ってしまう蒼の顔を見つめているのは楽しいものの、その重みを腰に感じたまま、何時まで経ってもその先に進まないのはシエン
も辛い。せめて言葉で誘導するつもりで、シエンは口を開いた。
「ソウ、口付けをしながら私に倒れ掛かって」
「え・・・・・」
「このままでは、まるであなたが私を懲らしめているようにしか見えないでしょう?」
「う・・・・・そ、そうだよ、ね」
色っぽい体勢にもなりうるのに、健康的な蒼がするとまるでじゃれ合いにしか見えなくて、後もう少し蒼に頑張ってもらうためにシエ
ンは軽く蒼の腰に手を添える。
「ソウの唇は小さくてくすぐったいですが、あなたが触れてくれると嬉しくてたまらない。ソウ、私をもっと喜ばせてくれませんか?」
「・・・・・うん」
自分の甘言にあっさりと頷いた蒼は、そのままシエンの首筋に唇を寄せながらもたれかかってきた。そして、肌を舐め、甘噛みしな
がら、徐々に愛撫を深くしてくれる。
チュ チュ
戯れのような口付けなのに、シエンは自分の中の熱が高まってくるのが分かった。
愛しい蒼に触れてもらえれば、自然と欲情は溢れてくる。普段は冷静沈着に政務に勤しんでいるはずの自分が、ふとした瞬間に
頭の中で蒼を抱いているのだと知ったら、本人はどんな顔をするだろうか。
「・・・・・っ!」
しかし、言葉で言わなくても、男の身体は素直に反応を示す。
丁度蒼の尻の辺り、まだ服を着たままの自分の下半身が反応し始めたことに珍しく敏く気付いた蒼は、見る間に顔を赤く染めな
がらも、チラチラとシエンの顔と自分の身体の下に視線を走らせていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・上手く、できるか・・・・・分かんないよ?」
「ソウ?」
言葉と共に、蒼の細い指先が自分の下半身へと伸びてくる。
「・・・・・っ」
その手が服の中に滑り込んできた時、さすがにシエンは息を詰めてしまった。
(・・・・・勃ってる)
シエンが、自分に欲情を抱いている印。
男同士なのに、この貧相な身体を欲しがっているというペニスの状態が嬉しくて、蒼は良い訳のようなことを口にしながらシエンの
服の中に手を伸ばした。
大胆なことをしているくせに、自分の手が小さく震えているのが分かる。本当にこんなことをしてもいいのかと一瞬考えたものの、
今更引っ込めることも出来ないまま、蒼は自分の手の平に熱く押しあてられてきたペニスを掴んだ。
「・・・・・っ」
シエンが息をのむ気配がする。
それでも、嫌がった様子はないので、蒼はゆっくりと掴んだペニスを手で擦り始めた。
「シ、エン」
始めはまだ少し柔らかかったそれが、何度も手を上下させるたびに熱を含み、先端からも先走りの液が溢れてきて、艶かしい水
音が響き始めた。
チュク クチュ
服の中での愛撫は、目に見えないだけにかえって想像力を膨らませてしまい、何時もは涼やかなシエンが眉を顰め、吐く息が甘
やかになっていくのを眼下で見ていると、蒼は自分の身体も何だかムズムズとしてきたことを自覚してしまう。
(お、俺、シエンの、してる・・・・・だけなのにっ)
己の身体に直接的な刺激を与えているわけではないのに、ペニスが反応し始めてしまった。何だか、感情が暴走しそうで怖い。
「シエン・・・・・ッ、お、俺・・・・・っ」
どうしたらいいと泣きそうな気分で見つめれば、シエンはいきなり上半身を起こすとそのまま蒼にキスをしてきた。
「ふむっ」
舌を絡める濃厚なキス。
手では、シエンのペニスを愛撫し、自分のペニスを無意識にシエンの足に擦り付ける。
ピチャ
「はっ、んっ」
自分の快感を追いかければ、シエンのペニスを握る手の動きがおろそかになって、必死で意識をそちらへ向けようとするが、シエ
ンの口付けはとても深くて、刺激的で。
「ふっ、んっ・・・・・!」
時折、呼吸を促してくれるために唇は離れていくが、大きく息を吸えばまた重なってきて、蒼はその激しさに目尻に涙が浮かんで
しまった。
(く、くるし・・・・・っ)
鼻で息をすることは分かっている。
それでも、気持ちはどんどん先走り、蒼は必死になって片手でシエンの肩を押し返し、その拍子に手にしたペニスを強く握り締めて
しまって、
「・・・・・っ」
低く呻いたシエンが唇を離すのと、蒼がカクンとシエンの肩に頭を預けるのは同時だった。
「ご、ごめん」
これでも握力は強い方だと自負している蒼は、シエンの痛みを想像して即座に真っ青になってしまったが、そんな蒼の髪を宥める
ように撫でながら、シエンは苦笑交じりに大丈夫ですと言ってくれたが・・・・・。
「今度は、私の番ですね」
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