蒼の光   外伝2




蒼の運命




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                                                           ※ここでの『』の言葉は日本語です






 「あっ、はっ、はっ」
 身体の奥深くが、熱いペニスで滅茶苦茶にかき回されている。
始めは涙が滲むほど痛かったはずなのに、何度も繰り返されるキスと、自分の名前を呼ぶ声、それに、押し入られる時と引きずら
れるように引かれるペニスの勢いに、次第に快感が勝ってきた。

 ズチュ グチュ

(き・・・・・もち・・・・・)

 グリュ ズリュ

(い・・・・・よ・・・・・っ)
 セックスが気持ちが良いなんて恥ずかしい。それでも、抱擁やキスよりももっとシエンを身近に感じることが出来る。
男同士で、こんなにも身も心も溶け合うことが出来るなんて考えたこともなかった。いや、今だってシエン以外とこんなことをするつも
りはないが、それでも・・・・・。
 「シ、シエ、ンッ」
 「ソウッ」
 真っ直ぐに自分を見つめるシエンの空色の瞳が、確かな欲情を湛えて自分だけを真っ直ぐに見つめている。
何だかドキドキとして、背中がゾワゾワとして、蒼は必死になってその肩に掴まったまま、身体の中のシエンのペニスを無意識のうち
にギュッと締め付けていた。




 「・・・・・っ」
 蠢く内壁の締め付けに、シエンはそのまま精を吐き出してしまいそうになったが辛うじて押し留まった。
明日の出発を考えれば何度も抱くことは諦めなければならず、そう考えるとまだもう少し長くこの温かい身体の中を味わいたい。
 蒼も一緒にと思ったシエンは律動を続けたまま、蒼のペニスを強く握り締める。揺れる腰で快感を貪っていた様子の蒼は、突然
にせき止められたそれに、どうしてと訴えるような眼差しを向けてきた。
 「んっ、きっ、きつい、よっ」
 「もう少し、我慢してっ」
 「やっ、やだっ、ねっ、シエンッ、ねえっ」
 何時もはねだることも少なく、細い身体で凛として立っているのに、こういう時だけはシエンに甘え、我が儘を言う。
それを仕向けているのは自分なのだが、他の者には見せない顔を自分だけが見ることの出来る幸福感に、シエンは蒼と思いが通
じ合ってからずっと酔っているのだ。
 「一緒に、ソウッ」
 「い、いっしょ?」
 「ええ、このまま」
 「ひゃあっ!」
 言葉と同時に、細い腰をさらに抱え上げ、これ以上いけないほどの最奥をペニスで抉った。

 ズチャッ グチュ
 パシッ


もう、どちらが零したかも分からない水音と、肉体がぶつかり合う音が響く。
 「あっ、ひゃっ、ふぁっ」
 「ソ、ソウッ」
 「んっ、はっ、はっ」
 「・・・・・っ」
 強く腰を引き寄せ、それと同時に腰を突き入れる。
握り締めていた蒼のペニスを何度か強く扱くと、時間をおくことなく飛び出した白い精液がシエンの腹を汚し、そこから滴り落ちて自
身の胸元も濡らしていた。
 その淫らな光景と、その瞬間の内壁の締め付けに、シエンも耐えていた精を最奥へと迸らせる。
 「ふ・・・・・くぅ・・・・・っ」
自分が射精した時と同じほどに、中を濡らされて感じたのか、蒼が何かを耐えるかのようにシエンにしがみ付いてきた。
 「ソウ・・・・・」
 蒼の身体の中にまだペニスを入れたまま、シエンは小さく開いていた蒼の唇をそのまま奪う。
まだ身体の中には性交の余韻が残っていたし、中におさめたペニスも力を保ったままだったが、シエンは何度も口付けを繰り返すこ
とで、その欲情を何とか鎮めるようにと努力した。








 翌朝。
 「うー・・・・・・・・・・」
 「大丈夫ですか、ソウ」
気遣わしげなシエンの言葉に頷こうと思っても、その僅かな動きさえも腰に響いてしまう。
 「すみません、私の自制が効かなかったばかりに・・・・・」
 「・・・・・あやまるな。俺だって・・・・・したかった」
 「ソウ」
 「バ、バカッ、へんなこと言わせるなよなっ」
 そうでなくとも、セックスした翌日はシエンと顔を合わせるのは恥ずかしいのに、自分の欲情を肯定する言葉を言うのはさらに恥ず
かしいのだ。
 しかし、今シエンに言ったように、昨日抱き合いたいと思ったのは自分も同じで、シエンが謝る理由など欠片もない。
いや、少しだけ・・・・・加減が効かなかったらしいシエンに多少文句を言いたいこともあるが、それも好きなのだから笑って許せる範
囲だ。
 「しかし、これでは今日の出発は延期した方が・・・・・」
 「ダメ!」
 「しかし」
 「ヒューバード達を早く訓練したほーがいいだろ?このくらい、だいじょーぶ!!」
 言葉と同時に勢いをつけてベッドから身体を起こした途端、
 「・・・・・っ」
ぴしっと腰に鈍い痛みが走ったが、蒼は強張った笑みを何とか浮かべ続けてシエンに言った。
 「・・・・・な?」
 「・・・・・」
 「シエン」
 「・・・・・分かりました」
 きっと、蒼の強がりはシエンには分かっているだろうと思うが、そう言って頷いてくれた彼に蒼はホッとした。何か不可抗力があって
出発が遅れるのならばともかく、自分の快楽が理由なんてとても言えない。
 「では、カヤンをこちらに寄越します。朝食は軽いものを用意させるので、少しは食べてください、いいですね?」
 「うん、分かった」
(・・・・・カヤン、分かるだろうなあ)
 チラッと自分の身体を見下ろせば、そこかしこに淡い色のキスマークが散っている。一応気遣ってくれているのだろう、服を着てい
れば見えない場所ばかりだが、今から世話をしてくれるカヤンには確実にバレてしまうだろう。
 「・・・・・う〜」
 夫婦の営みを誤魔化すことなんてしなくていいと思うが、蒼は出来るだけ昨夜の名残を見せないようにしっかりしなければと思っ
ていた。




 「では、行ってまいります」
 「頼む」
 カヤンが一礼して部屋を出ると、シエンは残ったベルネに視線を向けた。
 「ベルネ」
 「はい」
 「今回の働きに感謝する」
そう言って頭を下げると、ベルネは戸惑った声を漏らし、顔を上げてくださいと続けた。
 「私は課せられた任務を遂行したまで。いえ、ソウに怪我を負わせてしまい、本来は懲罰を受けるのも当然の立場です。シエン
様のお言葉は勿体無さ過ぎて、どうか・・・・・」
 控えめなベルネの言葉を聞いても、シエンの感謝する気持ちは変わらなかった。
確かに、蒼は怪我を負ったが、それはシエンの面前で起こったことで、本来ならばその責任は黙って見ていた自分にも当然あるも
のだ。
 それよりも、あのセルジュを側に置いて、蒼を守りきってくれたことにこそ感謝をしたい。
少し目を離しただけで蒼の唇を奪うほどに油断ならない男。蒼が意識していないだけに、シエンが表立って動くことも出来ないが、
こうして自分の意を酌んで動いてくれる部下を心強く思っていた。
 「これからも、頼む」
 しかし、生真面目で職務に忠実なベルネは、蒼の怪我のことがどうしても気になるようだ。それが分かるからこそ、シエンは言葉
を変えてそう伝えた。自分の最愛の者を託すほどに、信頼しているのだということを示す為に。
 「はい」
 それには頷いてくれたベルネに、シエンはこれからの予定を話した。
 「私は今からヒューバードの元へ行く。お前は警備所長と共に出発の準備の確認を」
 「分かりました」
 「彼の者達の見張りは兵士達で十分足りるな」
 「十分でしょう。既に王都には伝令を出していますし、向こうからも出迎えがあると思いますが」
 「子供達のことも」
ヒューバード達と共にいた子供達も一緒に移動する。砂漠ではないので子供でもそれ程無理のない旅だと思うが、周りが厳つい
兵士達だけに、その心の内が気になっていた。
 「それも、合わせて知らせております」
 「分かった」
全てはきちんと進んでいる。有能な部下に、シエンは笑みを向けた。
 「では、頼むぞ」
 シエンはそのまま部屋を出て、牢に入っているヒューバードのもとへ向かう。
(どのくらい掛かるだろうか・・・・・)
王都に着くまで、後数日。蒼の身体の調子を見ながらで、けして無理をさせてはならない。
 「・・・・・早く、戻りたい」
 自分達が一番安心する場所へ、蒼が何時も笑っていられる場所に戻るまで後もう少し、シエンは気を引き締めなければならな
かった。




 シエンが部屋を出て行った後、ベルネは自分の口の中に苦い味が広がるのが分かった。どうやら血が滲むほどに唇を噛み締めて
いたらしい。
 「・・・・・勿体無い・・・・・お言葉です」
 シエンに礼を言われることを自分は何もしていない。いや、むしろ蒼には危ない目に遭わせてばかりで、本当ならばここに無傷で
は立っていられない立場だった。
 「・・・・・」
(それだけじゃない、俺は・・・・・っ)

 「ベルネッ、ベルネ、だいじょぶっ?」

 「・・・・・っ、バカ!こんなのっ、なんでもない!」

 ベルネは自分の腕を強く握り締める。
自身が砂にまみれるのも構わず、自分の膝に抱き上げて汚れを払ってくれたあの小さな手に、己は・・・・・あの時、一体何を考え
ていたのだろうか。
 「・・・・・」
 自分の運命が、急激に変化している気がする。あの小さな青年のせいで、シエンを盲目的に信服していたはずの自分が、僅か
ながらも主君に嫉妬を感じるようになったのは何時からか・・・・・。
 「・・・・・っ」
 ベルネは舌を打つ。
苛立つのは自分の気持ちか、それとも蒼の存在か。今はそれを確かめるのが怖かった。