あやかし奇談




第一章 
物の怪の花嫁御寮














 「だ、誰かなんて分からないよ!さ、3人とも上手いし、みんな、やり方が違うし!」

 言ってしまってから、巴はあっと口を噤んでしまった。
(な、なんか、墓穴?)
自分としては止めてくれという思いでそう言ったのだが、言葉だけを取れば違う意味に取られかねないような気がする。
 「・・・・・や、約束通り来たんだから、お、俺、帰る」
 不本意ながらもしてしまった約束は、一応は守ったはずだ。とにかくいったん家に帰ろうと思った巴は早口にそう言って踵を返そ
うとしたが、
 「何帰ろうとしてんだ?」
 「そうそう、一番は誰か決めないと」
 「まだここに来たばかりだ。もっとゆるりとしていけばいい」
 「・・・・・」
それぞれの男達の言葉に、巴は肩を震わせてしまった。






 まさか、巴の口から上手いという言葉が聞けるとは思わず、慧は思わず口元を緩めてしまった。接吻くらい、数え切れないほ
どにしてきたが、その結果巴が喜んでくれるのならばそれでいい。
 しかし、その上手さが他の2人と一緒だというのは・・・・・あまり面白くは無かった。
(益荒雄はともかく、八玖叉まで・・・・・。あいつなんか、俺達の遊びを毛嫌いしている方なのにな)
自分と同様・・・・・それ以上に遊び慣れている益荒雄はともかく、自分が知るかぎり八玖叉は同族も、人間の女も抱くことは
ほとんど無かった。
(八玖叉と同じとは・・・・・)
 慧は顔を上げて益荒雄を見る。
ちょうど、益荒雄も慧に視線を向けていた。



(私が上手いのは当然だとして・・・・・八玖叉も同様だというのは、ね)
 色恋が得意な自分は当然として、粗野ながら女から熱い視線を向けられる慧もそれなりの経験はあると知っている。
しかし、八玖叉は何時も誘っても、くだらないと、ほとんど付き合うことも無く、実際、どれだけ経験があるのかは分からなかった
のだが・・・・・。
(それでも、私と同じとは言えないと思うけどね)
 「・・・・・」
 さて、というように、益荒雄は慧に視線を向ける。
苦々しい表情をした慧も、ほぼ同時に自分の方を見た。



 巴の言葉を頭の中で繰り返した八玖叉は、思わず眉間に皺を寄せてしまった。
甘ったるく、臭い雌の匂いが鼻につき、2人の遊びの付き合いもほとんど断っていたものの、それでもそれなりの経験を積んでい
たのは、特に口に出すことでもないと思った。
 ただ、巴はそんな欲望を解消するだけの存在とは違う。大切な鍵であるし、大事な花嫁でもあるのだ。
(この2人に差をつけられるのは面白くはないな)
自分も、それなりだと見せ付けなければならないかもしれない。
 「・・・・・」
八玖叉は、慧と益荒雄を見、最後に少し離れた場所に立っている巴を見つめた。






 嫌な予感はますます大きくなってくるような気がする。
人間ではない《あやかし》、それも、3人もの大柄な男達。もしも、このまま力ずくで押し倒されたりしたら、逃げ出すことは絶対
に不可能だと思う。
 もちろん、普通の高校生である自分に、押し倒したくなるほどの魅力(そう言うのも変だが)があるとは思っておらず、何かある
方がおかしいとも思うのだが・・・・・。
(な、なんか、目が本気なんだけど・・・・・)
 おどおどと3人を交互に見ていた巴は、やがて怖い会話を耳にした。
 「一番最初は誰にする?」
 「もちろん、私だよ。一番上手いはずだし」
 「・・・・・年功序列だろう。お前達は何時も勝手にことを進めているし、こういう時に我に譲るのが当然だ」
 「何言ってるんだ、お前らっ!一番力が強いのは俺じゃねえか!俺が一番なんだよっ」
 「・・・・・っ」
(こ、こわ・・・・・何の順番で揉めてるんだよ〜)
想像したくはないが、やはり少し前の自分の言葉が原因の諍いのような気がする。
巴は鞄を胸に抱くようにして、3人の視界から身体を隠すように縮こまらせた。逃げ出そうにも、足がガクガクして力が全く入らな
いのだ。
(嫌だよ・・・・・っ)
 命の危険というものは不思議と感じない。男達が自分を殺したり、傷を負わせたりする気は無いということは本能的に感じ取
れているからだ。
 しかし、別の危機・・・・・いわゆる、貞操の危機という、男としては情けないが、その危機感はヒシヒシと感じてしまい、巴はと
にかく男達の気が変わってくれることを祈るしか出来なかった。



 「巴」
 「!」
 不意に、男達が振り向いた。
何か話していたようだったが、その話し合いは付いたのだろうか?
 「順番というのは、不公平だという話になってな。一番にお前を味わえば、それだけ慣れないお前は早くに気をやってしまうだろ
うし、後になれば感じやすくなるだろうし」
 「な、なに、それ」
 慣れてないとか、感じやすくなるとか、勝手に想像しないで欲しいと思うが、それを直接口に出すだけの勇気は無い。
巴はただ、慧の赤い目をじっと見返した。
 「一度に可愛がるなら、不公平はなくなるだろう?俺は、お前の陰茎だ」
 「い、インケイ?」
 「不本意だが、最初にその場所を可愛がることは譲るよ。私は、巴の可愛い唇にした。口腔内をじっくりと開発してやろう」
 「か、開発・・・・・」
にやりと笑う益荒雄は楽しそうだ。
 「我は、お前の乳房だ。ささやかな大きさながらも、快感は女と同等にあるはずだからな」
 「ち・・・・・」
(ち、乳房って・・・・・)
真面目な顔をして言うので、それがどんなにエッチな話なのか一瞬分からなかったものの、慧と益荒雄は直ぐに八玖叉の言葉
に噛み付いた。
 「言うねえ、八玖叉。男と女の乳房が同じ様に感じるということがよく分かるな」
 「・・・・・煩い」
 「・・・・・」
 目の前で繰り広げられている会話は、本当に現実なのだろうか?
(そ、そんなの、大人しく待ってるわけないだろ!)
 3人がわけの分からない言い合いをしている間に、鳥居を抜けて逃げ出そう。そう思った巴はそろそろと後ずさり、そのままゆっく
りと足を踏み出そうとしたが、

 「「「巴」」」

 「!」
 今まで言い合いをしていたのに、何時の間にか3人は巴に視線を向けている。こういう時にだけ団結するのは卑怯だと思うが、
男達にはそう思う巴の気持ちなど全く分からないらしい。
 「ほら、巴」
 「気持ちよくしてあげるよ」
 「お前はただ、身を委ねているだけでいい」
伸びてくる6本の手は、ゆっくりと巴の身体に絡み付いてきた。



 「や、やだ!誰かっ、誰か、助けて!」
 精一杯の声を出しているつもりだが、その声が誰かに届いている気配は全くなかった。いや、そもそもここは、不思議な鳥居の
列を通り抜けた場所で、現実の世界なのかどうかさえも分からないのだ。
 「だ、助け・・・・・んぐっ」
 叫ぶ声は、いきなり重なってきた唇のせいで喉の奥へと消えてしまう。

 トスッ

いきなり倒される衝撃を覚悟したが、意外にも優しくその場に仰向けに倒された。
頭上には、ほの赤く染まった空が広がっていて、背中に感じる感触は・・・・・草だろうか。こんな野外で、一体自分は何をしてい
るのだろうと思いながら、巴は口腔内に入り込んできた舌から逃れようと必死になった。
 「ふむっ、んっ」
 両頬を手で押さえられ、顔を振って逃げることも出来ない。真上から顔を覗かれているような感じがして、巴は思わず固く目を
閉じてしまった。
手を伸ばして、強引なキスをしてくる男・・・・・益荒雄を突き返そうとしたが、その手は軽々と押さえつけられ、
 「!」

 ブチッ

 いきなり、ボタンが引き千切られる音が生々しく響いたと思うと、ブレザーのシャツがバッと開かれた。巴はぎゅっと閉じていた目
を大きく開く。その視界の中には、胸元へと頭を沈める八玖叉の姿が映った。
 「ん〜!!」
 益荒雄にキスをされている為、声を出すことも出来ない。

 クチュ

胸元に濡れた感触がして、そのまま小さな乳首を歯で噛まれた。
ジンジンとした感覚が背中を襲ってくるが、巴はそれが快感だとは全く気付かない。ただ、わけの分からない感覚が怖くて、先程
よりも激しく抵抗しようと足を振り上げようとしたが、
 「!」
 その足は、大きな手で掴まれた。
 「そのまま、大人しくしていろ」
少しぶっきらぼうな口調の声が耳に届いたと同時に、両足を大きく開かれるのが分かる。
(やっ、やめろ・・・・・!)
跳ね上がる腰が掴まれたと同時に、巴はズボンが脱がされたのが分かった。