BLIND LOVE
10
『』の中は日本語です。
楽しかった・・・・・。
ホテルに戻った瞬間に友春が感じたのはそんな気持ちだった。
振袖を着せられるという、男としては納得出来ないことはあったものの、日本の祭りとは違う極彩色なカルネヴァーレは、実際に
体験しなければ分からないほどの素晴らしさだ。
(イタリアに来た時は、全然考えていなかったのに・・・・・)
ふとした会話の中から出てきた今回の祭りの話。
ただの話で終わる所を、アレッシオだからこそ見物だけでなく、参加するという所まで一気に来てしまった。
「ケイ」
「ん?」
楽しかったが、疲れたのも本当だ。それでも、先ずは礼を言わなければと、友春は自分を支えるために直ぐ隣で腰を抱きかかえ
ているアレッシオにありがとうと言った。
「トモ?」
「楽しかった」
「そうか」
振り向いたアレッシオの目が細められる。
まだ仮面を付けたままの状態だが、彼の顔が優しく微笑んでいるのは十分感じた。
「連れて来た甲斐があった」
「・・・・・」
(僕も・・・・・そんなふうに変装をしているケイを見れたし)
普通に見ても男らしく見惚れるような人だが、物語の中の登場人物のような格好は更に似合っていて、何度も見惚れて躓きそ
うになったことは秘密だ。
(絶対に、言わないけど)
自分の気持ちが、祭りで高揚したからだとはいわないが、それでも今のこの気持ちは自分の胸の中だけに納めておこう・・・・・そ
う思った。
部屋に入ると、友春は疲れ切ったような表情で直ぐにソファに腰を掛けた。
「トモ、大丈夫か?」
「だいじょぶ」
アレッシオの言葉にそう頷くものの、痛みに眉を寄せて足を摩っている。無理もない、あの人混みの中でずっと草履で歩いていた
のだ、足も痛くなるだろう。
「・・・・・」
「ケ、ケイ?」
「大人しくしていなさい」
友春の前に片膝をついたアレッシオは、草履を脱がすと、大胆に着物の裾を割ってその足を自分の膝の上に乗せた。その行動
に友春は焦って足を引こうとしたが、アレッシオは一言でその動きを封じる。
足袋を脱がせると、親指と人差し指の間が赤く擦れていた。自分がこの格好をさせ、その艶やかさに満足しているものの、傷付
けたかったわけではない。
「痛いか?」
「・・・・・」
友春は首を横に振った。
そして、そのまま自分の膝の上から足を引こうとしたが、アレッシオは足から手を離さなかった。
「ケイ?」
「・・・・・」
「!」
治療をしてやらなければと思ったが、このまま手を離すのは躊躇われた。
温かいタオルで足を拭ってやるのも、薬をつけてやるのもいいが、それよりももっと・・・・・そう思った時、アレッシオはそのまま爪先
を口に含み、その傷を舌で舐めていた。
「なっ?」
ピチャ
「やめ・・・・・っ」
「・・・・・」
『や、やだ!』
アレッシオにとっては愛しい相手にする当然の行為でも、友春にとっては受け入れ難い行為だったのか、思いがけず強い力でアレッ
シオの肩を押し戻すと、自分の足を抱え込んで必死に首を横に振った。
「やめて、ください・・・・・っ」
今にも泣きそうに瞳を潤ませる友春が何を嫌がっているのか、アレッシオには分からない。
「何を恥ずかしがる?」
「あ、足を、な、な・・・・・」
どうやら上手くイタリア語が出てこないらしく、友春の訴えは日本語に変わった。
『あ、足を舐めるなんて、変ですっ』
『足くらい構わないだろう。私はもうお前の身体で舌を触れていない場所はないと思っているぞ』
暗にセックスのことを伝えると、友春の顔は一瞬にして赤く染まる。しかし、アレッシオから身体を遠ざけるようにする仕草は止めよう
とはせず、その頑なさに次第にアレッシオの気分は下降線を辿っていった。
女物の草履は慣れなくて、足の指を痛めたことには気付いていた。
それでも、初めて見る祭り自体はとても楽しかったし、アレッシオもとても優しく接してくれて、友春は気持ちが高揚したままホテルに
戻ってきた。
アレッシオは自分の様子にも気を配ってくれて、直ぐに足のことも聞いてきてくれたが・・・・・まさか、そのまま指先を口に含まれる
とは思ってもみなくて、友春は動揺し、困惑し、羞恥を感じて後ずさってしまう。
『あ、足を舐めるなんて、変ですっ』
『足くらい構わないだろう。私はもうお前の身体で舌を触れていない場所はないと思っているぞ』
しかし、どんなに訴えても、アレッシオに自分の羞恥は伝わらない。風呂に入った後でもないのに、足を口に含まれるのはどうして
も嫌だ。
『き、汚いからっ、止めてくださいっ』
「・・・・・」
ただ、そんな自分の態度に、アレッシオの機嫌が悪くなっていっているのに、自分の気持ちだけで精一杯の友春はまだ気付いて
いなかった。
(と、とにかくこれを脱いで、汗を流さないと・・・・・っ)
香田の着付けは完璧で、数時間経った今でもきつくはないし、崩れてもいない。
それでも早くこれを脱いで、改めてアレッシオには今日の礼を言おうと思った友春は、そのままソファから立ち上がろうとした。
「!」
「・・・・・」
「ケ、ケイ?」
腕を掴むアレッシオに、恐々声を掛ける。
「何を怯えている?私がお前に危害を加えるとでも思っているのか?」
「・・・・・っ」
しかし、そんな友春の態度が、ますますアレッシオの気に障ってしまったらしい。
いきなり掴んだ腕を引いたアレッシオは、
『うわっ?ケ、ケイッ?』
友春の身体を肩に担ぐと、無言のままベッドルームの方へと足を向けた。
カルネヴァーレに参加したことで、友春との距離がぐっと近付いたと感じていた。
手を握っても、腰を抱いても、友春は一瞬恥ずかしそうに頬を染めるものの、自分に対して身体を預けてくれる。多分・・・・・友春
の中では自分の存在を受け入れてくれているのだろうと思えた。
しかし、直接的な触れ合いになると、友春は無意識のうちに怯えた様子を見せる。
アレッシオが友春を傷付けるわけがないのに、何をされるのかと恐怖を感じているような。
「・・・・・っ」
(まだ足りないのかっ?)
自分の友春への愛情が、まだ友春を溺れさせるまでに至っていないのだ。
それならば今ここで感じさせると、アレッシオは少し乱暴に友春を広いベッドの上へと放り投げた。
『・・・・・痛っ』
着物の裾が乱れ、白いふくろはぎが露になる。それにまだ気付いていない友春に、アレッシオは冷たく言い放った。
「そんなふうにキモノを乱して、私を誘惑するつもりか、トモ」
「あ・・・・・っ」
パッと、裾を直そうとした友春の手を掴み、アレッシオはそのまま自分もベッドに乗り上げる。ぐっと胸元を乱し、大きく開いた首筋
に唇を寄せると、友春の身体が大きく震えた。
逃げようと背中を見せた友春の肩をそのまま押さえ込み、大きく裾を捲り上げ、白い双丘を露にすると、諦めたようにシーツに頬
を当てた友春が小さな声で懇願してきた。
「・・・・・て」
「・・・・・」
「止めて、くださ・・・・・」
「何を止める?お前の身体を愛することか?」
それならば出来ないと即答するしかない。
どんな時も、本当ならカルネヴァーレの只中でも、友春を押し倒し、あの白い身体を愛撫している様子を見せ付けてやりたいほど
だった。
ただ、それをするにはあまりにも自分の独占欲は強くて、友春の赤い唇も、黒い瞳も、他の男には絶対に見せたくない。
自分のそんな狂おしい思いを、友春はまだ分かっていない。たとえ、友春の身体が汗をかき、泥にまみれていても、アレッシオは
躊躇い無く口付けることが出来るのだ。
「トモ」
「・・・・・」
下着を着けさせていないので、直ぐに剥き出しになった白い尻に、アレッシオは唇を寄せた。舌で舐め上げ、軽く歯をたてると、細
い腰が震えるのが分かった。
「・・・・・」
アレッシオの口元に浮かぶのは笑みだ。どんなに嫌がっても、友春の身体は自分の手の中で甘く蕩けていく。
「・・・・・」
何度も噛んでは舌這わす行動を続けていると、全身が赤く染まって感じているのがよく分かった。
早く、早く自分の印を刻みつけたい・・・・・アレッシオはそう強く感じ、そのまま手を伸ばして友春のペニスを掴む。
「ひっ」
高い声が上がった。
「や、やめっ」
「・・・・・」
友春の否定の言葉は全く聞こえない。嘘吐きな友春は、否定しか言葉にしないが、アレッシオに従順な身体は素直に感じたまま
の反応を見せる。
その証拠に、アレッシオの指先を濡らす液は、あからさまな友春の快感の証だ。
『トモ、これは何だ?お前のペニスを濡らしているこれは、お前自身が零しているものだぞ』
イタリア語ではなく日本語で、友春にはっきりと意味が分かるように囁いてやると、友春はペニスを隠すように大きく腰をねじろうと
したが、もちろんアレッシオはそれを許さなかった。
『う・・・・・くっ』
アレッシオを受け入れる場所を舐め解されることはもちろん、こうしてペニスを刺激されることは男とセックスをしているのだというこ
とに改めて向かい合っているような気がする。
恥ずかしいのに、嫌なのに、ペニスからどんどん溢れてくる快感の液を止めることが出来なかった。
(こ、この恰好・・・・・)
下半身を乱されたままの姿に、友春の羞恥はますます強くなる。
いっそ全裸ならばセックスをするという覚悟も出来るのに、中途半端に着物を着ている姿では、どうしても禁忌を犯しているような
気になってしまうのだ。
しかも、それは父の気に入った着物で、女物の振袖で・・・・・。
(汚すわけにはいかないのに・・・・・っ)
着物を作ったその手間や、金額を考えると、自分の零す体液で汚すなどとんでもない話だ。
自分で洗うことなど出来ないし、こんな異国の地で、何をしていたのか十分に分かる証を他人に見せ付けることも出来ない。
アレッシオがこんなに意地悪なのは最近無かった。
きっと、彼は今の自分の言動の何らかに腹が立っているのだろうが、とにかく、これを脱ぐ猶予が欲しい。
「ケ、ケイ」
友春はシーツから顔を挙げ、必死にその名前を呼んだ。
「お、お願いっ」
「・・・・・」
「これ、これ、脱ぐ・・・・・っ」
「・・・・・」
駄目だとは言わないアレッシオに、友春の手は帯に伸びる。
(ど、どうして・・・・・っ?)
「・・・・・っ」
着物は何度も着てきたし、女物も着付けたことはある。
本来なら、幾重にも巻かれている紐を解くことなど目を閉じてでも出来るくらいに簡単なはずだったが・・・・・。
「・・・・・こ、これっ・・・・・どうしてっ?」
友春は何とか着物を脱ごうと帯の紐を緩めるが、腰に巻きついているそれを解くのは容易ではなかった。
かえって紐が絡まり、友春はますます焦って、どうしようと思うものの、その間にもアレッシオの舌は自分の双丘の奥、もう何度男を
受け入れたかも分からない場所を犯してくる。
ピチャ ピチャ
『んっ』
下半身に痺れるような感覚。これにも馴染みはある。
(ぼ・・・・・くっ)
持ち主である自分自身の感情とは裏腹に、既にこの身体はアレッシオの愛撫に堕ちていた。
『あ・・・・・うっ』
何度も抱かれたからというのは誤魔化しだ。自分にとって、アレッシオとのセックスはとても気持ちが良いものになってしまっている。
始めがあれほど恐怖に満ち、屈辱を感じたものだったのに、何度も何度も刻み込まれた快感はもう・・・・・消えない。
『トモ』
『・・・・・っ』
(こんな時に、日本語なんてっ)
『ほら、吐き出せばいい』
ペニスを擦るアレッシオの手はどんどん速くなり、友春の快感も否応なしに高まって・・・・・このままではアレッシオの手に吐き出し
てしまいそうで、友春は嫌々と首を横に振った。
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