BLIND LOVE
5
『』の中は日本語です。
風呂から出た友春は、濡れた髪を拭きながら深い溜め息をついた。
『なんか・・・・・疲れた』
慣れない外国の街に出たということもあるが、中でもアレッシオに連れて行かれた婚約披露パーティーは後味の悪いものになってし
まった。
本来は、結婚を間近に控えた幸せな2人の披露目のはずだったのだろうが、必要以上にアレッシオに近付いた女性をよく思わ
なかったらしい彼は、きっぱりと別れるようにと断言してしまった。
一族でも一番偉い地位にいるアレッシオの言葉に逆らってまで結婚するか・・・・・あの様子を見れば無理のような気がする。
確かに、あの女性は少し積極的過ぎたように思うものの、あんなにあっさりと切り捨ててもいいものかと思うが、屋敷を出てからア
レッシオは一切その話はしなかった。
代わりに、食事中に話していたのはヴェネツィアのカルネヴァーレの話だ。
どんなホテルに泊まりたいか、どんな仮装をしたいか。まるで子供のように楽しそうに話すアレッシオを見たのは初めてかもしれない。
興味はあるものの、人混みの中に出て行きたいとは思わなかった友春だが、あれ程アレッシオが楽しみにしている様子を見せると
行きたくないとは言い難かった。
トントン
その時、ドアがノックされた。
反射的に時計を見上げれば午後10時を過ぎた頃だ。
(香田さんかな)
夜眠る前の飲み物を持ってきてくれたのだろうかと思いながら、友春はそっとドアを開けた。
「バスに入っていたのか?」
「あ・・・・・はい」
そこに立っていたのは、香田ではなくアレッシオだった。既に部屋着に着替えていた彼は、友春のいでたちを見ると少しだけ目を細
めて言う。
「・・・・・」
入ってもいいかという言葉も無いまま足を踏み入れてくるのは何時ものことなので、友春は先に奥に向かうアレッシオの背中を慌
てて追い掛けた。
(びっくりした・・・・・)
今回イタリアに来てから、友春はまだ一度もアレッシオに抱かれてはいなかった。
どうやら仕事が詰まっているようで毎晩遅くまで帰らない彼を、出来るだけ起きて待っていようとは思わなかった。寝たふりをしていれ
ば、意外に優しい男は友春を組み敷かない。
何もないまま日本に帰れるとは思わなかったが、それでも友春は何時の間にか気を許していたのだ。
「トモ」
当然のようにベッドに腰掛けたアレッシオが自分の名前を呼ぶ。躊躇っても美しい碧色の瞳は自分から離れることはなく、友春は
思い切ってゆっくりとアレッシオの前に立った。
「髪を洗ったのか」
「・・・・・あらった」
「乾かさないと風邪をひくだろうな」
「え?」
その言葉に、友春は首を傾げた。
ベッドルームにドライヤーを持ってきたアレッシオは、ベッドに腰掛けさせた友春の髪を乾かし始める。
まるで幼い子供にするような行動だが、これはこれで楽しいと感じてしまった。
(本当に華奢な身体だな)
二十歳を過ぎた青年とは思えないほどに、友春の身体は少年のように瑞々しい。力を入れたらそのまま折れてしまいそうな手首
や、一掴み出来そうな首筋など、同じ男の身体とは思えないパーツを一つ一つ指先で確かめた。
「・・・・・」
「・・・・・」
友春の前に立ち、少し身を屈めるようにして手を動かしていたアレッシオは、やがてドライヤーを止めると、細い髪を指先で撫でる
ようにすき、やがて露にした白い項に唇を寄せる。
「・・・・・っ」
途端にピクッと震えた身体に気付いたが、もちろん止めるつもりはない。
「トモ」
わざと耳元で熱っぽく名前を呼んだ。
自分のものに触れるのに、誰に許可を貰うこともない。いや、既にこの身体は自分の手に堕ちているものだと、アレッシオはキスの
後、首筋に軽く歯をたてた。
パジャマに手を掛けた時も、下着を脱がせる時も、友春は大きな抵抗はしなかった。
ただ、
「あ、明かり、いや」
ベッドルームに点けられている明かりのことが気になるのかそう言ったが、暗闇では友春の身体を堪能することが出来ないので聞
こえなかった振りをする。
友春は二度は言わなかったが、アレッシオの目から自分の身体を隠すつもりなのか、背中に手を伸ばしてしがみ付いてきた。
ピタリと合わさってしまえば、なかなか手を動かすことが出来ない。その反面、まるで友春からも求められているようで、アレッシオの
気持ちは更に熱くなってしまう。
以前の奪うセックスとは違い、お互いが求め合い、与え合う行為だと、そう・・・・・錯覚してしまう。
「トモ・・・・・」
「・・・・・」
「トモ」
重なった身体の隙間に手を忍び込ませ、アレッシオは友春の内股をそっと撫でる。その瞬間緩んでしまった足の間に更に手を入
れ、そのまま剥き出しのペニスに指先を絡めた。
「あっ」
『そのまま、我慢せずに声を上げろ』
日本語で囁くのは、友春の羞恥を高めるためだ。恥ずかしがる友春の体温は一気に上がり、手の中のペニスはあっという間に
勃ち上がった。
アレッシオの教え込んだ通りに反応する素直な身体は、快感を隠すことをしない。心はまだ許していないのに、身体だけは蕩けて、
友春の顔は艶やかな夜のものへと変化していった。
男だから感じても仕方がない。ペニスを弄られながらそう思うものの、それでは尻の奥に指を入れられても感じてしまうのはどうな
のだと自問自答してしまった。
恋人でもない相手と身体を重ねることなど自分の性格からは考えられず、かといってアレッシオが恋人なのかといえば素直に頷
けない自分がいる。それでも、自分の身体にアレッシオ以外の人間が触れることなど考えられないし、身体の奥深くに感じるペニ
スがアレッシオのものではないとしたらなんて、例えでも考えたくはない。
(僕は、受け入れてるん、だ)
もう、何年もこうしてセックスをしてきて、今更何とも思っていないなどと言っても嘘だと思われるだろうし、逃げるつもりはなかった。
ただ・・・・・。
「あっ、んっ」
女のようにアレッシオの腕の中で喘ぐ自分を直視出来ない。
クチュ チュク
「・・・・・ふっ」
自分のペニスを弄って濡れた指先が、何度もその下の双珠と尻の蕾の間を行き来し、時折反応を確かめるかのように指先だけ
中に入ってきた。
そのたびに聞こえる音が・・・・・嫌だ。
男ならペニスだけあればいいのに、身体の中を擦られても嬉しいなんて、他にはいないと・・・・・いや。
(静や、西原君も・・・・・同じ?)
同性の恋人を持っている友人達も、もしかしたら自分と同じようにもどかしい思いを感じているのだろうかと思ったが、考えれば彼
らの相手はちゃんとした恋人だ。好き合ってこういう行為をするのと自分の場合では少し違う。
「んっ」
不意に、蕾の圧迫感が増した。時間を掛けて慣らしてくれていると思ったアレッシオが、いきなり二本目の指を入れてきたのだ。
「ケ、ケイッ」
『何を考えている?私以外のことを考えているというのなら許さないぞ』
「・・・・・っ」
それが嘘ではない証拠に、身体の中を抉る指の動きがいきなり激しくなってくる。待ってと言いたいのに唇からついて出るのは喘ぎ
声ばかりで、友春はそれを押し殺そうと唇を噛み締めた。
身体の中が柔らかくなり、アレッシオは自分の勃ち上がっているペニスを押し当てた。
クニュ
「・・・・・っ」
友春の指先がシーツを握り締めているのが見えた。どんなに慣らしても感じてしまう初めの衝撃を耐えるためかもしれないが、そ
れならば、
『トモ、掴まるのなら私の手にしろ』
自分以外のものに縋るなど、それがたとえ無機質のシーツでも良い気持ちはしない。
「・・・・・」
アレッシオの言葉に涙で潤んだ目を開いた友春は、そのままシーツから手を離し、オズオズとアレッシオの肩に指先を伸ばした。
自分の言葉通りにした友春を褒めるように唇を寄せたアレッシオは、キスをしたまま片足を大きく広げてそのまま腰を進める。
グチュッ
『い、痛っ』
『トモ、力を抜け』
『ひ・・・・・ぁう・・・・・っ』
まだペニスの先端部分までしか入っていないというのに、友春の肛孔はきつく締め付けてきて前へと進むことが出来なかった。
前回抱いたのは、年明けに日本に行った時。あれからひと月近く経っているので、友春の身体は自分が誰のものかを忘れてし
まっているのかもしれない。
「・・・・・っ」
アレッシオは友春のペニスに指を絡め、感じさせるために淫らに弄り始めた。
既に一度いかせていたが、友春のペニスは直ぐに再度の蜜を零す。細い竿の部分を擦り、先端部分を爪先で擦って、容赦なく
快感を高めていく。
『あっ、あっ、あっ』
ニュル
ペニスへの快感が身体の強張りを解かせ、アレッシオのペニスは今度は一気に半分まで中に収まった。
痛みは薄まっても圧迫感は消えないのか、眉間に皺を寄せて必死に耐える友春の頬を撫で、アレッシオは残りを少しずつ奥へと
納めていく。
『上手だ、トモ。お前の身体は私をちゃんと覚えている』
『ケ・・・・・イッ』
『このまま、全てを抱いてくれ』
友春の身体にとっては久し振りで慣らさなければならない行為。しかし、アレッシオもひと月も指先さえ触れることが出来なかった
飢えがあるのだ。
気遣ってやりたいが、それ以上に奪い、喰らい尽くしたい。
「・・・・・トモッ」
アレッシオは友春の細い腰を掴むと、そのまま一気に根元までペニスを突き入れた。
『あっ、んっ、あっ』
もう、何度身体の中に精液を吐き出されたのか分からない。
自分がどんな痴態をアレッシオに晒しているのかも分からない。
ただ、自分の身体を揺さぶるアレッシオの逞しい腰に足を絡め、自らも腰を揺らしているのは・・・・・事実だ。
『あっ、あっ』
「トモ」
アレッシオの、甘く響く声が耳元に聞こえる。
「・・・・・Ti amo」
『・・・・・っ』
吐息の中から聞こえてくる言葉の意味。友春も、この言葉はよく分かっていた。
(あ・・・・・い、して、る・・・・・)
それは、セックスをしている相手に対する礼儀の言葉なのか、それとも、友春だからこそ向けられる言葉なのだろうか。
『・・・・・ケ、イッ』
理由のつかない感情が胸の中にこみ上げて来る。友春はアレッシオの首に腕を回した。
アレッシオに抱かれることは気持ちが良い。自分はきっと、彼とのセックスを楽しんでいるのだろうとも思う。
そして、心と身体の向く方向が違うということは考えられない友春は、自分の心もアレッシオを求めているのかもしれないと考えるし
かなかった。
ただ、それは本当に自分の気持ちなのだろうか。
快楽に流されているだけなのではないか。
どうしても頷こうとする気持ちに反する感情が生まれて、友春はこういう時にアレッシオに向ける言葉か口から出てこない。
「トモ」
『あっ、んっ』
「トモ、Ti amo・・・・・っ」
まるで、箍が外れたかのように、アレッシオは何度も言葉を告げてきた。
『・・・・・っ』
(い・・・・う、な・・・・・っ)
『愛してる、トモッ』
日本語で、イタリア語で、アレッシオは自分に愛を囁いてくる。まるで、恋人同士がセックスをしているような雰囲気に、友春はもう
快感に意識を手放してしまった。
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