海上の絶対君主
第六章 亡霊の微笑
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※ここでの『』の言葉は日本語です
「ラ、ラディ」
「ん?」
珠生がじっと見上げても、ラディスラスは全く何も気にしていないかのような顔で聞き返してくる。
しかし、服の中に入り込んできた手は明らかに意味ありげに蠢き、
「・・・・・っ」
スルッと腰を撫で上げられただけで、珠生はんっと息をのんでしまった。
「どうした?タマ」
「・・・・・」
(分かって、やってるんだ・・・・・っ)
この表情はどう見ても珠生の反応に気付いている。感じやすい(男としては少し情けないが)身体に好きな相手が触れている
のだ、感じたって仕方がないだろうと口の中で言い訳をするが、それを面と向かってラディスラスに言うのは癪に障った。
「タ〜マ」
腰を撫でていた手は上へと伸びてきて、窮屈な服の中で直ぐに小さな存在に辿り着いてしまった。
キュッと乳首をつままれた珠生は、
「や・・・・・っ」
反射的に服の上からその手を押さえる。
すると、かえってラディスラスの手は珠生の胸元にペッタリと張り付き、さらにはやんわりと揉んできた。
むず痒さの中に確かに感じる快感に、珠生はまるで自分が女になってしまうのではないかという恐怖にかられてしまう。
「ま、待ってっ、ラディッ!」
男の身体の下から抜け出そうとした珠生はその拍子に怪我をした方の足を蹴ってしまい、ウッと低い唸り声が上がって拘束が
緩み、そのまま珠生の身体の横にラディスラスは突っ伏した。
「・・・・・だいじょーぶ?」
わざとではないが、さすがに自分のせいなので恐々と訊ねると、しばらくしてハァーっという大きな溜め息が聞こえてきた。
「絆されなかったか」
「な、なに、それ?」
「少しは可哀想だって思ってくれるんじゃないかなと考えたんだが・・・・・」
「バカッ!」
心配して損したと、珠生はボカッとラディスラスの背中を叩いた。
「ははは、悪い、悪い。でも、タマ、お前も暢気過ぎだ。俺はお前に惚れているんだぞ?側にいたら抱きたくなるのが男ってもん
だろう」
「・・・・・っ」
「俺はお前に惚れているんだぞ?側にいたら抱きたくなるのが男ってもんだろう」
(な、何恥ずかしいこと言ってるんだよっ)
ラディスラスの気持ちは、何時も言葉や態度で伝えられているようなものなので分かっていたつもりでも、こうも面と向かって言
われると恥ずかしくてたまらない。
もちろん、珠生もラディスラスのことが好きだし、触られて嫌だというのは・・・・・本当は思っていない。ただ、経験の少ない珠生は
恥ずかしさの方が先に立ってしまい、どうしても素直な態度が取れなかった。
ただ・・・・・。
(ラディ・・・・・頑張ってくれたもんな)
ミシュアと父のために、それは結局珠生のためにということで、今回は身体を張って頑張ってくれたラディスラス。今度は自分がそ
の感謝の思いを伝えなければならないのではないかと思う。
(何をしたら・・・・・?)
珠生はラディスラスの怪我をした腕と足を交互に見る。一見何も不自由がないように見えるが、出来ないこともあるのではない
かと思った。
大怪我というわけではないが、人の無意識の力というのは結構強く、ラディスラスはズキズキと痛む足をそっと動かした。
けして、これは珠生のせいではない。久し振りに感じる珠生の匂いや柔らかな身体に少し身体が暴走してしまい、自分の怪我
のことを一瞬忘れてしまった自業自得だ。
(足も手もじゃ、このまま組み敷くことは出来ないしな)
せっかくいい雰囲気になったが、今回は諦めた方がいいかもしれないと、ラディスラスはコロンと寝台に仰向けになる。
「・・・・・」
「・・・・・」
「ねえ」
「ん?」
もう一度、大丈夫かと訊かれた。ラディスラスは笑って頷いたが、珠生は何かを考えるように目を伏せている。
罪悪感を感じさせたいわけではなかったのでさらに軽い口調で話しかけようとしたラディスラスは、急にポンと少々乱暴に腹の上
に伸ばされた手に首を傾げた。
「タマ?」
これは一体どういう意味だろうと訊ねる前に、珠生が早口で言った。
「手、か、貸そうか?」
「手?」
いったい何のことだと視線を向けると、珠生は大きく顔を背けている。ただ、その耳元から首筋まで真っ赤に染まっていて、何かに
動揺しているというのは十分分かった。
「タマ?」
「で、出来ないだろ?」
「・・・・・何が?」
「ナ、ナニが」
「・・・・・」
(これは、冗談じゃないってことか?)
今の珠生の言葉と、態度。それを考えて結びつける結果は一つしかないと思う。
ラディスラスもこういったことに鈍い性質ではないし、仮に珠生がもっと別の意味で今の言葉を言ったのだとしても、自分の望む方
へと誘導することは可能だった。
「お前が慰めてくれるのか?」
試しに珠生の手を掴んで、今触れていたよりももっと下の方、いわゆる男の証の上にまで移動させると、一瞬拒否するように
手に力が込められたが、直ぐにラディスラスの意思に従うようにそこから動かない。
「・・・・・タマ」
「ケ、ケガしてるだろ、しかたないよっ」
それは、ラディスラスに対してなのか、それとも自身に対するいいわけかは分からなかったが、こんな好機を逃すほどにラディスラ
スは腰抜けではなかった。
「自分でするようにしてくれたらいい」
もっと、軽い口調で言ってくれたらいいのに、ラディスラスのその言葉はどこか色っぽい艶を含んでいて、珠生は直ぐに行動に移
すことが出来なかった。
多分、まだ勃起はしていないだろうが、今手の下にある服の上からでもその存在は分かる。
幾度か身体の中にも受け入れたし、この目で見たこともあるラディスラスのペニス。それなのに、こんなふうに服の上から触れてい
るという事実が羞恥心を煽る。
「・・・・・え、っと」
(や、やっぱり、無理、かも)
好きな相手のペニスに触れ、それを刺激してやるなんてやはり自分には無理かもしれない。
「してくれないのか?」
一向に動こうとしない、いや、動けない珠生にラディスラスが言葉を継ぎ足した。
自分から言い出したことなのに、やはり止めると言おうとしていた珠生は思わず息をのむ。絶対、ラディスラスは今の自分の気持
ちを分かっているはずだ。
「で、出来るっ」
そして、きっとこう答えることも予想済みだろう。
(悔しいけど・・・・・っ)
絶対に出来ないと思っているだろうラディスラスの鼻をあかしてやりたいと、珠生は思い切ってラディスラスのズボンを止めている
革バンドを緩めて、グッと片手を中へとさし入れた。
「・・・・・!」
(お、おっきくなってるじゃん〜っ)
下着越しに触れたラディスラスのペニスはもう緩やかに勃ち上がっている。勢いのまま手を入れたことを、ここでもまた珠生は後悔
してしまった。
「・・・・・っ」
珠生の細い指先が下着越しにペニスに触れ、ラディスラスは僅かに眉間に皺を寄せた。
挑発に乗るだろうとは予想がついていたが、実際にその手に触れてもらうといかに自分が珠生に飢えていたのかが分かる。
(・・・・・ったく)
情けなく直ぐに勃ち上がっていくペニスを今さらどうすることも出来ず、ラディスラスは開き直って珠生に言った。
「タマ、上から押さえているだけじゃ感じないんだけどな」
「わ、分かってるよっ」
恐る恐る下着越しにペニスを擦られると、腰がビクッと震えた。
「き、気持ち、い?」
「ああ」
「・・・・・ホント?」
快感を押し殺して返答をしたので、珠生は少し不安に思ったらしい。それまでおずおずと、まるで恐ろしいものにでも触れるよ
うに動かしていた手を、明確に快感を煽るように動かし始めた。
「タ・・・・・マ」
(これは、結構クルな)
そうでなくても、自分以外の他人の手というのは感じるポイントが微妙にずれて、返ってもどかしい刺激に欲情が高まる。
下着越しなのでまだいいが、これが直に触れてもらうとなると・・・・・。
「・・・・・タマ」
「な、に?」
「直に触れるか?」
後で殴られるかもしれないし、機嫌を損ねてしまうことも考えられるが、今のこの快感をもっと貪欲に求めてやろうとラディスラス
はねだる。
それに、元々は珠生の方から言い出したことなので、どんなにヘソを曲げられても言い負かすことは出来る自信もあった。
「・・・・・じ、じかに?」
「そう。本当はこのままお前の中に入れたいくらいなんだが、それは嫌なんだろう?」
最高に気持ちがいいのは珠生の最奥にペニスを突き入れること。
さらには、熱く、小さな口で慰めてもらうのもいい。
それらが無理ならば、柔らかく小さな手で直接ペニスを握って欲しいと、ラディスラスは怪我をしていない方の手でズボンの中にあ
る珠生の手を上から抑えた。
同じ男として、下着越しではなく直接触ってもらった方がいいというのは当然分かる。
ラディスラスに抱かれる時は、あれよあれよという間に快感に流され、いつの間にか服を脱がされているという状況だが、今の自分
はきっちりと服を着ていて、ラディスラスもその部分しか服を緩めていなくて・・・・・。
どうしても、セックスというものは秘めた愛の行為だと思う珠生にとっては、今この時点で頭の中が真っ白になっている状態だ。
逃げてしまいたいと(始めたのは自分の方だが)考えてしまい、珠生は何度もラディスラスの顔と今自分が手を入れている場所に
視線を走らせたが、手の下にあるラディスラスのペニスの勢いは一向に萎える気配もない。
このまま、なあなあに止めてしまうということは出来ないと突きつけられた気がした。
(考え、考えを変えようっ)
何時もはラディスラスに翻弄されている自分が、今は翻弄する立場にいる。
「・・・・・」
珠生は下着を少しずらし、ラディスラスのペニスを握った。
「・・・・・っ」
息をのむラディスラスの様子を観察する余裕もなく、珠生はゆっくりと手を上下に動かし始めた。
自分のものを刺激する時とはやはり勝手は違うものの、どうすれば気持ちよくなるかは分かっているつもりだ。この際ラディスラスを
喘がせるほどに感じさせ、やるなと思わせてみたい。
クチュ
(・・・・・濡れてきた)
感じている証の先走りの液が滲み出てきて、珠生の手を濡らす。
眉根を寄せ、快感を耐えるようなラディスラスの艶っぽい表情が目に入り、珠生は自分の下半身にも急速に熱が集まってくるよ
うな気がした。
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