CHANGE




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 しかし、何でもないと思っている上杉とは反対に、太朗はなかなか顔を上げなかった。
 「どうした」
あまりに心配されるのは心苦しく、上杉はからかうように言葉を続ける。
 「痛みが無くなるまじないでもしてくれる気か?」
あわよくば、キスくらいはするかもしれない・・・・・などと、太朗にしおらしい真似を期待した上杉は、まだまだ太朗のことを良く知って
いなかったのかもしれない。

 ドスッ

 「・・・・・っ」
 いきなり、ある程度力が込められた拳をその痣に当てられ、さすがに眉根を寄せてしまった。
 「お〜い、怪我人だぞ、俺は」
 「・・・・・ジローさんが、勝手に喧嘩したんじゃないか」
 「おい、勝手にってな」
 「勝手に・・・・・痣を作ったんじゃん」
 「・・・・・タロ?」
当てられた拳はやがて開かれ、何度も何度も撫でられて・・・・・そのまま、先程自分が想像していたように唇を寄せられる。
(思ったより・・・・・くるな)
下半身を十分刺激するその仕草。
太朗らしからぬその行動に、上杉は頬を緩ませてしまった。




(こんな怪我・・・・・本当はしなくったって良かったのに・・・・・っ)
 思った以上に正紀は話しやすい人で、こちらの要求をちゃんと聞いてくれた。
あのまま、全て話し合いで事が運ぶはずだったのに、突然上杉はあの男を挑発するような真似をして・・・・・何時もどんと構えてい
る姿しか見ない太朗には、誰かと組み合う上杉の姿が怖くて。それなのに少し、カッコいいとも思ってしまった。
(・・・・・どっちが強かったんだろ)
 あのまま止めなければ、いったいどうなっていただろう?太朗はそんな風に考えてしまう自分が怖かった。
本来恋人なら、危ないことはしないで欲しいと望むだろう。いくら恋人が強いということを知っていても、だ。それなのに、男である自
分は、その強さを知りたいとも思っている。肉体同士がぶつかり合った時、どちらがより勝ったのだろうかと想像してしまう。
(恋人、失格)
 「タロ・・・・・」
 頬に、大きな手が触れた。
 「・・・・・」
上を向けと促されているのが分かるが、太朗は何だか顔を見られたくなかった。
 「・・・・・」
(ど、どうしよ・・・・・)
それでも、何時までも俯いている理由が無い。どうしようかと考えた太朗は、そのまま上杉の下半身へと視線が向いてしまった。
当然かもしれないが、まだ少しもそこは反応していない。
 「・・・・・」
 「おい、タロ」
 「・・・・・」
 「お・・・・・」
 いきなり、太朗が下半身に手をやったので、さすがに上杉も驚いたようだ。目の前の綺麗に割れた腹筋がぴくっと動くのが目に入
り、何だか少しだけ優越感を感じてしまった。
(俺だって、やれば出来るんだからっ)
そのまま、ゆっくりとパジャマの上から上杉のペニスを刺激すると、それは素直に反応を示してくる。どこまでしたらもっと大きくなるの
だろうか、太朗は純粋な疑問を抱いてしまった。
 「・・・・・」
 何度も、触れて、何度も撫でる。
 「・・・・・」
(あ、凄いおっきくなってきた)
頭上からはまだ快感の声は漏れてこないが、上杉のペニスはどんどんとその存在を主張してきた。




(マジか?)
 いきなりペニスを刺激し始めた太朗に、上杉はさすがに驚いてしまった。しかし、もちろんそれが嫌だというわけではなく、何時も以
上に積極的な太朗の行動を嬉しく思う。
 「・・・・・」
 上杉は思わず舌なめずりをし、そして気付いた。太朗は下半身に何も身に付けていないのだ。
前屈みになっているその下半身、立っていれば腿辺りまで隠れてしまうほどの長さのパジャマが、こうやって座り、前屈みになってい
るせいでずれて、尻のあたりが少し覗いて見える。
それは確かに肌の色で・・・・・どうやら太朗は本当に上杉とのセックスを望んでくれているようだ。
(これは、期待に応えないとな)
 「・・・・・っ」
 「・・・・・」
 黙ったまま、手を伸ばして太朗の腰を撫でる。
 「・・・・・っ」
(ふふ、反応がいい)
 明日の学校のことは今は考えない。いや、きっと考えることは出来なくなるだろうなと思いながら、上杉は次に太朗の首筋を意味
深に撫で上げた。
 「・・・・・っ」
 「・・・・・」
 ピクッと、活きの良い魚のように揺れる腰。
この細い腰をしっかりと掴み、早くこのペニスを押し込みたい。そう思った時、上杉のペニスはさらに反応を増していた。
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 太朗も探り探りしているので、そのじれったさがなかなかくる。
(どんな顔してるんだか、見たいくらいなんだがな)
そっと触れ、少しだけ撫でて、反応すればピクッと手を引く。それを何度も続けられると、さすがに上杉のペニスも反応して、服の上
からも勃っているのが分かるほどになってきた。
 「そのままでいいのか?」
 「・・・・・え?」
 髪を撫でながら声を掛けると、太朗が顔を上げて来る。その目元がほんのりと染まっているように見えるのは、愛撫を仕掛けてい
る本人もそれだけで感じているせいかもしれない。
 「直に、可愛がってくれないのか?」
 「え・・・・・あ、え?」
 一瞬、上杉が何を言っているのか分からない様子だった太朗も、パジャマのズボンに指先をひっかけて軽く引っ張るとその意味が
分かったらしい。ますます頬を赤くし、どうしようかと視線を彷徨わせているものの、嫌だと言わないのは多分・・・・・太朗も自分を
欲しがってくれているからだ。
 最近、ちゃんと抱き合っていない。
普段は性的に淡白な太朗でも、欲情するには十分な時間があったのかもしれない。
 「タロ・・・・・」
 「え・・・・・と」
 「なんだ、触りたくないのか?」
 「そ、そんなことないんだけど・・・・・」
 恥ずかしいのか、なかなか動き出さない太朗に焦れた上杉は、小さな手に自分の手を重ねると、そのまま下着ごとパジャマをず
らして自分のペニスを表に出した。




 「う・・・・・」
 自分のものとはまるで違う上杉のペニス。
大きくて、色もいやらしくて・・・・・それでいて、欲しいと思ってしまうのは、もしかしたら自分も相当上杉に感化されたのかもしれな
い。いや、男だから少々スケベでもいいはずだ。
 それに、ここにいるのは自分と上杉だし、何より相手は大好きな上杉で・・・・・。
 「・・・・・」
太朗は意をけっして手を伸ばす。既に半勃ちのそれをゆっくりゆっくり、上下に擦っていくと、その先端からは透明な蜜がにじみ出て
きた。
(・・・・・感じてくれてるんだ・・・・・)
 全く何の技巧もない自分の手淫で上杉が感じてくれているのだと思うと嬉しい。そして・・・・・。
 「ん・・・・・」
なぜか、自分自身も下半身がもぞもぞとくすぐったくなってきてしまった。
(ど、して?)
 まだ、自分のペニスには触れていないのに、勃ち上がったそれがパジャマの上着を持ちあげて行くのが分かる。
上杉を愛撫するだけで自分まで感じてきているのだと太朗は恥ずかしくなり、出来るだけ上杉に勘づかれないように足を閉じた。
(やっぱり、パンツ穿いておけば良かった・・・・・っ)
 ベッドの上で脱がされるのが恥ずかしくて、それならば始めから穿いていない方がいっそ良いような気がしていたのだが、それは
それでとても恥ずかしいということが今更ながら分かった。
(と、とにかく先にジローさんをイかせたらいいんだっ)
 何時も先に自分の方がメロメロになってしまうが、今日ばかりは上杉を絶対先にイかせてやるぞと太朗は張り切り、今度は両手
で上杉のペニスを弄り始めたが、
 「・・・・・!」
 いきなり、尻を鷲掴みにされ、太朗はびくっと顔を上げた。
 「な、何っ?」
 「暇だから」
 「ひ、暇って」
 「お前だけ、俺のを触っていたらずるいだろ?」
(そ、それって、ちょっと話が違うと思うんだけどっ?)
どう考えても、先ずは自分が上杉を感じさせる番で、上杉が自分に手を出すのはその後にしてもらいたい。それは、上杉に触られ
るのが嫌だとか言うのではもちろんなく、経験値の差からかもしれないが、上杉に愛撫されると太朗は直ぐに陥落してしまうからだ。
 自分が上杉を感じさせたいと思っている今は、先ずはそちらに集中したい。だから少しだけ待って欲しいと、太朗は駄目と首を横
に振った。




 「い、今は駄目だって!」
 「どうして?」
 「ど、どうしてって・・・・・い、今、俺忙しいからっ」
 自分のペニスをしっかりと握りしめて力説する太朗の姿が面白くて、上杉は喉の奥で笑ってしまった。
こういう時・・・・・セックスをする時に順番とかいっさい関係ないのだが、太朗はどうしても今日は始めに自分が上杉に愛撫をするの
だと決めているらしい。
(せっかくその気になっているんだし)
 「分かった」
 上杉は両手を軽く上げた。
 「先ずはお前に任せるか」
 「うん!」
自分の要求が通って、太朗の勢いが増してくる。そんな太朗に、上杉はにっと笑みを浮かべて言った。
 「じゃあ、もっと濃厚な奴頼むぞ」
 「・・・・・のーこー?」
 「お前のこの、可愛い口で」
上杉は太朗の唇を親指で軽く撫でる。
 「俺のを気持ちよくしてくれ」
 「く、口で?」
 「俺がしてやりたいんだが、先ずはお前からなんだろう?大人の男なら・・・・・出来るよな?」
(さあ、どうする、タロ)
 自分の言っていることが単なるゴリ押しで、もちろん太朗がその通りしなくてもいいのだが、強情な太朗は自分の挑発をこのまま
無視することは出来ないだろう。何時もはもっと身体も心も蕩けた時にしか出来ない行為を最初からすれば、理性が残る太朗の
羞恥に染まる顔もたっぷり堪能出来るに違いない。
 「タ〜ロ、どうする?」
甘く、唆すように、上杉は太朗に問い掛けた。