(お、女湯・・・・・)
 友春は内心溜め息をつくしかなかった。
確かに貸切とは言っていたが、自分達が女湯の方に来てしまうのは何か作為を感じる・・・・・のは、友春の思い過ぎだろうか。
(確かに、立場的には僕達がこっちかも知れないけど・・・・・)
 「友春?どうしたの?」
 服のボタンを外し、上半身裸になった静が訊ねてくる。
 「ん、なんか、僕達って女湯なんだなあって思って」
 「え?」
 「・・・・・僕の考え過ぎだろうけど、ちょっと、考えちゃった」
はっきりとした理由を言わなかったが、静にはそのニュアンスは感じ取れたらしい、さすがに苦笑のような笑みを零したものの、静は
気にしないでいいんじゃないと言った。
 「二倍楽しめると思ったらいいんじゃないかな。男の立場と、女の立場と」
 「・・・・・そうかな」
 「女湯を覗く楽しみはないけど」
 「し、静?」
容姿に似合わないおおらかな静の言葉に、友春は思わず顔を赤くしてしまった。



 「ひよさんって、色白いね」
 「え?」
 服を脱ぎ、腰にタオルを巻こうとした日和は、不意に後ろから話し掛けられて思わずタオルで胸元を覆ってしまった。
(な、何してるんだ、俺〜っ)
焦って、動揺した結果だが、最近自分の胸元・・・・・はっきり言えば、乳首の色や形が気になって仕方が無い日和は、どうしても
他人にそれを見せたくは無かったのだ。
 しかし、そんな日和の行動は話しかけた人物、太朗には不思議に映ったらしい。
 「ねえ、チンチン丸見えだけど、いいの?」
 「あ?あっ、駄目っ」
自慢出来るほどのものであればまだしも(それでもやはり嫌だが)、下半身だって見せたいわけではない。
日和はどうしようかと一瞬迷ったが、やはり腰をタオルで巻くと、上半身(特に胸)はさりげなく腕で隠した。
 「ご、ごめん」
 「別に謝ることじゃないけどさ」
 そう言いながら笑う太朗は、特に日和の身体のことが気になったというわけではなかったらしい。
 「男同士なんだから別に見られたって平気だし。ね?」
 「あ、うん」
太朗は日和よりも幾分小柄で、同じ様に痩せていた。しかし、けしてひ弱な感じがするわけではなく、どちらかといえば瑞々しいと
いう表現が合うかもしれない。
印象から言えばもっと小麦色に日焼けしているかもとも思ったが、意外なほどに白い肌が返ってアンバランスでドキッとした。
 「ほらっ、早く入ろ!」
 「う、うん」
(へ、変に意識している方が変かも)
日和はそう思い直すと太朗の後ろから、それでも恐々ついて行った。



 「は〜、気持ちいい〜」
 「気に入りましたか?」
 「え、ええ、すっごく景色も綺麗だし、お湯もいいし」
 真琴は湯船に浸かっている自分の隣に入ってきた小田切に笑いながら答えた。
別にお世辞を言うつもりもなく、本当にこの湯はいい湯だと思う。今回は貸切にしてもらっているので女湯にまでは入れているが、
景色も雰囲気も最高級のような気がした。
 「小田切さんが選んでくれたんでしょう?ありがとうございます」
 「いいえ、私だけの意見ではありませんし・・・・・しかし、こうしていると良く分かりますね」
 「え?」
 「海藤会長があなたを選んだ訳が。性格もそうですが・・・・・綺麗ですし」
 「え?あ、あの?」
 「・・・・・」
 小田切はニコニコ笑っていて、それ以上のことを言うわけではないが、何だか身体の隅々まで見られているようで恥ずかしくなっ
てしまう。
(お、俺なんかより、小田切さんの方が綺麗なんだけど・・・・・)
 自分のように貧弱ではない、それでもごついとも言えない綺麗な身体。
楓や静の身体は、本当に女の人と比べても遜色ない肌や滑らかさがあるが、小田切は彼らよりももっと何か・・・・・艶かしい感じ
がする。
(男の人に色っぽいって言ったらいけないかもしれないんだけど・・・・・)
 「ふふ、こんなに間近で西原君の傍にいたと言ったら、海藤会長に叱られそうで怖いですよ」
 「そ、そんなこと」
 「もっとも、あなただけでなくここにいる誰の傍にいっても、過保護な保護者達に恨まれそうですけどね」
 「え?」
楽しそうに笑う小田切に、真琴はどんな反応を返したらいいのか分からなかった。



 楓が身体を洗っていると、その隣に静が座った。
 「あ、背中洗ってあげようか?」
 「え?あ、いえ・・・・・」
 「遠慮しなくていいよ、ほら、後ろ向いて」
 「・・・・・はあ」
年上の相手に身体を洗ってもらうことが申し訳ないというよりも、静の持っている雰囲気がなんだかそんなことをさせてはいけない
のではないかと感じさせる。
人形のように綺麗な容姿。その表情も余り変化をすることは無いが、それなりに付き合いが出来たせいか楓の目には雰囲気が
柔らかくなっているように感じた。
(どこか、マコさんに似てるんだよなあ〜)
 ほんわかとした雰囲気の真琴と、天然ボケの入っている静はどこか似ている。容姿はもちろん違うし、その言動にもそれぞれの
個性があるが、どこか人を和ませる力があるというか・・・・・。
(戦闘意欲をそぐっていうか・・・・・)
 「綺麗だよねえ、楓君」
 「え?」
 「俺もね、よく人形みたいだって言われるんだけど、それって表情が余り無いってことだろう?江坂さんは人形みたいで綺麗なん
だって言ってくれるけど、それってただの欲目だと思うし」
 「はあ・・・・・」
 「本当に綺麗って言うのは楓君みたいな人なんだよね。俺、こんなに間近で見れるなんて運がいいよ」
 「・・・・・」
(やっぱり、変だよな、この人)
 楓のことを綺麗だと褒めるのは当然のことだから仕方が無いが、それにしても堂々と自分のことを褒める恋人のことを惚気るだろ
うか?
やはりお坊ちゃまは次元が違うと、楓は自分の庶民感覚を自覚した。



 「・・・・・」
(ここに、私がいる必要があるんだろうか・・・・・)
 倉橋は肩から湯を掛けながら自問自答していた。
確かにここには男しかいないはずだったが、その雰囲気はとても男湯という感じではない。それは、そこにいる誰もが男らしい容姿と
言い難いせいか、それとも・・・・・。
 「えーっ?自分から触っちゃうもんっ?」
 「え?ち、違う?」
 「俺なんか、ジローさんが触れって言ったって、最初はなかなか触れなくってさ。だって、俺のと全然違ってでっかいし・・・・・あ、も
しかしてあの人のちっちゃいとか?」
 「小さくは・・・・・ないと思うけど」
 「だよなあ。あの身体で小さかったら恥ずかしいよな」
 「・・・・・」
(あの子達は、いったい何の話をしているんだ?)
 髪を洗いながら、どうやらお互いの恋人のある一部分の話をしているらしい太朗と日和に、倉橋は注意していいものかどうか悩
んでしまった。
たしか、どちらもまだ高校生で、同じ年頃の少女相手ならばともかく(それも褒められたことではないが)、大人の男相手とのナニ
の話をしているとはどうなのだろう。
 「俺なんかさ、おっきくなんないか、毎日風呂で触ってるんだけど」
 「そ、そんなことしてるんだ」
 「だって、小さい小さいって馬鹿にされたら悔しいじゃん!少しは鍛えればおっきくなるかもって」
 「・・・・・」
(苑江君、その考えは少し違う気が・・・・・)
 子供っぽい彼の言動は癒しにもなるが、少し方向が違ってしまえば相当に危なかしい。これでは上杉も苦労するのではないか
とさえ思う。
 「馬鹿だろ、タロ。そんなんでデカクなったら、誰も悩んだりしないって」
 そんな2人の会話に、横から楓が入ってきた。いや、楓だけではない。
 「うん、俺も、それくらいじゃ大きくならないような気がするけど」
妙にのんびりとした口調で言った静は、さらにねえと他の人間に声を掛けた。
 「真琴、友春、ちょっといい?」
 「え?」
 「なに?」
 「・・・・・」
(・・・・・こんな馬鹿げたことを話し合うのか?)
倉橋は自分がどうすれば良いのか、冷静な表情の下で焦っていた。



 洗い場で話していると風邪をひくからと、誰が言い出したのか全員湯船に浸かって顔をつき合わせた。
みな、ほんのりと頬が赤くなっている様が微笑ましく、小田切は少し離れた場所で湯に浸かる。そして、まだ洗い場に残っている
倉橋を呼んだ。
 「倉橋さん、風邪をひきますから中に入ったらどうです?」
 「・・・・・ええ」
 出来るだけ目立たずひっそりとしたかったのであろうが、こんな楽しい場面で彼だけを逃すのも面白くない。
小田切が再度名前を呼べば倉橋はそれ以上躊躇うことも出来ないらしく、渋々といった感じだが湯船の中に入ってきた。
 「せっかくですから、皆さんの自慢話でも聞きたいですね」
 「自慢話?」
 太朗が首を傾げると、ええと小田切は頷いた。
 「せっかく、皆さん恋人持ちなんですから、相手がどれ程の人物なのか教えてもらいたいと思いまして」
 「・・・・・」
それぞれが顔を見合している。
もちろん、誰もが自分の恋人が一番だと思っているだろうが、それを堂々と口に出して言うほどに自己顕示欲が強いわけではな
いのだろう。
小田切はそれも分かっていたが、是非このお子様達の素直な言葉を聞いてみたかった。
(まさか、本人達にセックスのことなんか聞けませんからね)
 「うちの会長が上手いのは知っていますが」
 「え・・・・・小田切さん、ジローさんの昔の恋人のこととか・・・・・知ってるの?」
 「あの歳ですから、それなりに経験ない方が恥ずかしいでしょう?」
 苦笑しながら言うと、太朗の子供っぽい唇が尖った。頭の中では分かっていても、感情では許せないことがあるのだろう。
(これは・・・・・後で怒られるかもしれないな)
余計なことを太朗の耳に入れたと、上杉の小言が聞こえるようだが、それはその時かわせばいい問題だ。
 「海藤会長はどうです?」
 「え?」
 いきなり話をふられた真琴は、それでも何か答えようと色々考えたのだろうが・・・・・なぜだかじわじわと身体中が赤く染まっていく
のが分かった。
 「え、あ、あの・・・・・」
 「上手?」
 「・・・・・だと、思います」
 「スマートなセックスをしそうですよね。じゃあ、伊崎は意外と淡白とか?」
 「悪いけど、ああ見えて恭祐は凄いから。見せてやれないのが残念なくらい」
 「へえ・・・・・それはそれは」
 「嘘だと思ってるんだろ」
 「そんなことは思っていませんよ。ただ、あんな風にすました顔をしている伊崎がねえと、少し意外に思っただけかな」
早速食いついてくれた楓をどんな風に料理しようか、小田切はパシャッとお湯を肩に掛けて笑った。






                                         






温泉編、今は受けちゃん達のお惚気話。次回も少し続きますが、途中から旦那様方の話になりそう。
どこまで話すんでしょうね(笑)。