elite












 クチュ

 シャワーを浴びながらキスをした。
そうでなくても身長差があるので静は顔を上向きにしなければならないのだが、そこに降り注ぐ湯のせいでまったく目を開けることが
出来ない。
 江坂がどんな顔をして自分にキスしてくれているのかと何時も気になるが、目を開けて観察する余裕が無く、常に静の方が追
い詰められるので、今もまた、絡める舌の熱さで想像するしかない。
 「ふ・・・・・っ」
 唇をずらす間に湯が口の中に入る。苦しくて咽てしまうと、江坂がシャワーを止めてくれた。湯が溜まるまで、バスルームを温める
ためと称してシャワーを出し続けていたので、既に静の身体は熱く火照ってしまった。
 「大丈夫ですか?」
 くたっと江坂の肩に頬を寄せると、心配そうな声が耳に届いた。これくらいでどうにかなるはずが無いのに、本当に心配性だなと
思えて、静はクスクスと笑ってしまう。
 「静さん?」
 「平気、です」
 「本当に?」
 「凌二さん、心配性」
 それが自分限定なのだと何となく気付いてはいるものの、優しい江坂は自然とそんなふうに気遣いが出来た。
(大事にされているのが・・・・・気持ちいい)
身体を抱く力強い腕も、息を奪うほどに激しい口付けも、全てが江坂の自分に対する愛情故なのだと思うと、少し、苦しくても、
凄く恥ずかしくても、全部受け入れることが出来る。
 「・・・・・ぁ」
 自分の下半身が江坂の腿に当たった瞬間、少し勃っているのが分かった。
キスだけでこんなふうになってしまう身体を知られるのは・・・・・そう思って身体を引こうとした静を、まるで分かっていたかのように江
坂が抱き寄せる。
 「私も、ですから」
 「え・・・・・」
 耳に聞こえてきた言葉の意味を訊ね返す前に、江坂がさらに強く腰を引いて、
 「!」
自身の腹に当たった熱く硬い感触に、静は江坂も感じてくれているのだと分かった。




 セックスは愛する者同士の当然のコミュニケーションで、少しも恥ずべきことではないのだが、静は何時までも初々しい態度を見
せる。大胆に自分を求めてくれる姿はもちろんだが、こんなふうに整った顔を赤く染めて目を逸らす羞恥を、江坂はとても好ましく
思った。
 今も、既に勃ちあがってしまったペニスを隠そうとするので、江坂は自身のそれをわざと静の腹に押し付けた。
これは、それだけ静を欲しているという証なので、隠すつもりは全く無い。
 「静さん」
 「・・・・・・」
 逸らされていた静の視線が、そっと見上げてきた。
 「あ・・・・・お、れ・・・・・」
 「・・・・・」
どうしようというふうに問い掛けているようで、静の身体は無意識のうちに江坂に擦り寄っていた。感情が追いつく前に身体の方が
求めてきていると、江坂は目を細めて笑う。
 「ここで一度イキましょうか」
 「こ、ここで?」
 「出しても洗い流せばいい」
 「そ、それは、そう、だけど・・・・・」
 「あなたも、触って」
静の答えを聞く前に、江坂は足に当たる静のペニスに指を絡めた。

 「んっ、はっ、あっ」
 緩やかだった角度は既に完全に上向きになり、ペニスからは湯ではない粘ついた液が零れ始めている。
綺麗な色の先端を親指の腹で刺激し、細身の竿の部分を筋に沿って擦ってやる。ペニスの先端部分にも快感のポイントがある
静は、ふんと甘い声を漏らして、もっと強くと江坂の手にペニスを押し付けてきた。
 「・・・・・」
 普段はとりすました表情が多い静だが、こういう時の表情はとても鮮やかで、江坂が何度も根気強く言いきかせたので、快感を
隠すようなことはしない。
そんな静を褒めるように江坂はさらに手を動かし、ペニスから滲み出てくる先走りの液が指先から滴り落ちていった。
 「はっ、も・・・・・っ」
 前回身体を合わせたのは5日前だった。
それ以降、江坂が忙しくなってしまったので、キスだけしか交わさなかったが、それでも、あのスケジュールでよく毎日ここに帰れたも
のだなと思うほどだ。
その間の飢えを満たしてくれというように江坂を求めてくる静の姿を見ていると、江坂の余裕もだんだんと無くなってきてしまう。
 「静さん、私のも・・・・・」
 「・・・・・・ふ・・・・・くっ」
 何度か促すと、静の手が自身のペニスに伸ばされた。
快感を追っている静の手淫は少し・・・・・いや、かなり物足りないものだったが、それでもそれが静の手だというだけで十分な刺激
にはなった。

 グチュ

 「一緒に」
 緩慢な動きの静の手を引き寄せ、2つのペニスを重ねるようにして一緒に擦り始めると、その感触に我慢が出来なくなったのか
静が高い声を上げて先に精を吐き出してしまった。
 「・・・・・っ」
熱い静の精液が自身のペニスを濡らしたのを感じた江坂も、己のペニスが大きく脈打つのを自覚した。




 ベッドに優しく下ろされる。
そして、真上から自分の顔を見つめる江坂の視線に、静は居たたまれなくなってそっと目を伏せた。
(は、恥ずかしい・・・・・)
 女ではないと思うのだが、江坂は何時も静のことを大切に扱ってくれて、こういう時もそれは変わらずに、いや、むしろこちらが恥
ずかしくなってしまうほどだ。
 軽くタオルで身体を拭いてもらったとはいえ、まだ濡れている身体でベッドに横たわるのは戸惑うが、江坂はまるで頓着していな
いようだった。
 「・・・・・」
 「どうしました?」
 「え・・・・・あ、えっと、疲れてるかなって、思ってたんだけど」
 「私が?」
 「でも、痩せてはいないなって・・・・・」
 バスタオルでくるまれて運ばれた自分とは違い、江坂は濡れた身体にバスローブを羽織った格好だった。
胸元は開いたままなので明るい光の下、ようやく落ち着いて(バスルームでは一杯一杯だった)その身体を見ることが出来たが、
江坂の身体は以前と変わりなくしなやかに引き締まり、しっかりと付いていた筋肉も落ちてはいないようだ。
 目まぐるしいほどの忙しさの中に身を置いても、自己管理がきちんと出来ている江坂は凄いなと素直に思うが、江坂にとっては
それはごく当たり前のことらしい。
 「静さんは、少し・・・・・」
 「え?あ、も、もしかして太ってますっ?」
 春休みの間はあまり出かけることなくマンションの中でゴロゴロとしていたので、気付かないうちに肉が付いてしまったのだろうか?
 「お、重かったでしょ?」
慌てて自分の腹の辺りに手をやると、それまで静の言動に目を瞬かせていた江坂は、珍しくクッと声を出して笑った。
 「重くないですよ?」
 「でもっ」
 「肉が付いたというより、抱き心地の良い身体になったってことです」
 「抱き心地?」
 「脂がのったというか・・・・・」
 「・・・・・脂」
(それって、やっぱり太ったってことじゃ・・・・・)
 さっそく明日からダイエットをしなければならないかもと思っていると、わざとらしく大きな溜め息をついた江坂がベッドに腰掛け、
静の身体の上に覆いかぶさりながら言った。
 「それ以上は痩せないで下さいね」
 「・・・・・」
 「それなら、大丈夫な証をその身体で証明してもらいますから」
 「え・・・・・?」
 その言葉の意味が良く分からなくて、静は思わず聞き返してしまったが、江坂はそれには答えずに唇を重ねてくる。
 「んっ」
唇を割って滑り込んでくる舌。躊躇うことなく舌を絡め取る江坂のキスに、静はつい今しがたまで考えていたことが一瞬のうちに消
えてしまった。




 「重かったでしょ?」
 思い掛けない静の言葉に、江坂は素に戻って笑ってしまった。
誰が見ても細身の静が太っているとは見えないのだが、自分自身の感覚ではそれは違って感じるのだろうか。
 江坂が言いたかったのは、薄かった身体に艶が出てきたということだ。それは、今まで自分が抱いてきたことによって出てきたもの
だろうし、静の精神も肉体も充実しているという証だと思い、嬉しくて言葉に出てしまったのだが、どうやら静はそれを現実的な問
題として受け止めてしまったらしい。

 チュ チュク

 まだ、困惑しているような表情の静の首筋に唇を落とし、そのまま胸元へと移動する。
既にバスルームの中で嬲っていた淡い色の乳首は少し濃い色になっていて、軽く歯で甘噛みしてやると、むずがるように細い腰が
揺れた。
 「あ・・・・・っ」
 手を下半身に伸ばすと、一度イッたせいで返って感度が増したのか既にペニスは勃ちあがっていて、江坂は零れ始めている精
を塗りつけるように手を動かした。
 「はっ・・・・・んっ」

 クチュ

 「や・・・・・っ」

 ジュク

乳首を嬲るせいで響く唾液が絡まる音と、ペニスを扱くたびに聞こえる濡れた水音。
 自分だけが乱れるのは恥ずかしいのか、静は手を伸ばして江坂のバスローブを脱がそうとしてくる。もちろん、静とは素肌で抱き
合いたいと思っている江坂が抵抗するわけが無く、静の手で脱がされてやった。
 「りょ、じ・・・・・さっ」
 「静さん」
 名前を呼び合い、視線を絡めて唇を合わせる。
求めるだけでなく、求められているのも嬉しくて、江坂さらにキスを深めた。




 腰が、痺れてしまう。
ペニスには再び熱がこもってしまい、何時弾けるかも分からないほど高まっているものの、またここで自分だけが先にイッてしまうこと
は出来なくて、静は己のペニスを嬲る江坂の手に自分の手を重ねた。
 「静さん?」
 「お、れも」
 「・・・・・それなら」
 「あっ」
 自分からも何かしたいと訴える静の気持ちをくみとってくれたのかどうか、いきなり江坂は自身がベッドの上に仰向けに横たわる
と、その身体の上に力の抜けた静の身体を引き上げた。
この体勢では、まるで静の方が江坂を襲っているかのようだ。
 「お、俺、重い、しっ」
 忘れていたはずの会話を思い出してしまった静は慌てて江坂の腰から退こうとしたが、その腰をがっしりと掴んだ江坂の手が離
してくれない。
 「凌二さんっ」
 「重くないって言ったでしょう?」
 「だ、だからって・・・・・っ」
 「今日は静さんに頑張ってもらいましょう。自分で、動けますね?」
 「・・・・・っ」
(お、俺、が・・・・・)
 この体勢がどういった意味を含んでいるのか、さすがに静も分かっている。
先程まで体重のことを気にしていた静にとってはあまり取りたくない体勢だし、何より下から江坂には丸見えになってしまうので恥
ずかしくたまらないが、どうやら江坂は解放してくれないようだ。
 このままでは何時まで経っても快感が寸止めの形になってしまうのだと、静は唇を噛み締め・・・・・やがて、ゆっくりと上半身を屈
めて、江坂の胸元に唇を押し付けた。