elite












 セックスはやはり江坂が主導だ。静は自分から誘ったり、求めたりすることはあまりなかった。
元々、性欲が希薄な方なのかもしれず、家にいた頃は自慰も一週間に一度すればいいほどだったが、江坂と暮らし始め、彼と
身体を重ねるようになってから、静は自分の中にも欲望というものがあることに気付かされた。
 それは、普段は全く表面に現れないのだが、ある瞬間・・・・・こんなふうに江坂に求められた時、羞恥は消えないものの、それ
でも躊躇わずに江坂を求める自分を見た時、静は自身の中にある淫らな熱を思い知る。
 「ん・・・・・っ」
 静は熱く、濡れた江坂のペニスを片手で握り、もう片方の手で江坂の胸に手を付いて、ゆっくりとその上に腰を下ろしていった。

 ジュリュ

 「・・・・・っ」
先端部分だけ蕾の中に入ったまま、静は最初の衝撃を逃がすように何度も荒く息をつく。
もう、数え切れないほどこれを身体の中に受け入れてきたので無理ではないと頭の中では分かっていたが、身体が追いついてく
るまでしばらくの間呼吸を整えた。
 「静さん」
 そんな静を下から見上げた江坂は、手を伸ばして頬をゆっくりと撫でる。優しいその仕草に静は少し笑ったが、その僅かな動き
も下半身に響いた。
 「・・・・・ふっ」
 これ以上待っているよりはいっそ一気に受け入れた方が痛みも一瞬かもしれない。そんなふうに思った静は、一度大きく息を吐
いたと同時に、グッと腰を下ろした。
 「・・・・・!」
 「静・・・・・っ」
 「だ・・・・・じょ、ぶ」
 この痛みは、少し我慢すれば甘い疼きに変化することをもう知っている。
ジンジンと入口は熱く、目一杯広げられた痛みに静は唇を噛み締めるが、思っていた通り、ゆっくりとその熱さは甘いものに変化
してきた。

 ズチュ

 「はっ」
(き・・・・・もち、い・・・・・い)

 グチ

 「ふ・・・・・っ」

 痛みを誤魔化すように動かしていた腰は、やがて快感を追う淫らなものになる。
静は両手を江坂の胸に付くと、うっすらと開いた唇から熱い吐息を吐きながら華奢な腰を江坂の腰に摺り寄せ、次第に自身の
快感を追うように目を閉じた。もう、痛みはごく僅かなものになってきた。
 「りょ、じ、さ・・・・・っ」
 「・・・・・静・・・・・っ」
 《静さん》と、愛情を込めて呼ばれるのも嬉しいが、《静》と狂おしい熱情をこめた声で呼ばれるのも嬉しい。
いや、大好きな江坂にはどんな風に呼ばれても嬉しいのだと、静はゆっくりと上半身を倒し、江坂の唇にそっとキスを落とした。




 下から見る静の乱れた姿は絶品で、江坂は自分が意図したことだというのに、急速にペニスに高まる熱を押さえるのに苦労し
ていた。このまま静にイカされてしまうのはやはり困る。普段から静に振り回されているのだ、この時ばかりは自分が主導権を握ら
なければと、
 「あ、んっ!」
江坂は腹筋を使って上半身を起こすと、そのまま上にいる静ごと突き動かし始めた。
 「りょ、じ、りょう、じ、さっ」
 「静・・・・・っ」
 「ふ・・・・・くっ」
 江坂の動きと自身の動きで、静はもう快感の虜になっているようだ。うっすらと艶を含んだ潤んだ瞳で誘うように見つめられ、江
坂はそのまま下からすくうように唇を奪う。

 クチャ

舌が絡み、お互いの唾液を交換した。静のものはどんなものでも、甘い。
そして、

 グチュ チュク

密接した下半身からは、ひきり無しに肉体がぶつかる音と摩擦による水音が漏れ聞こえた。
もっともっと、静が自分に溺れてくれたらいい。何も考えず、ただ江坂だけを求める彼はきっと美しいだろうと、江坂はそのまま静の
内壁を容赦なくペニスで擦りあげる。
 「はっ、あっ、はっ」
 息が苦しくなったのか、静は嫌々と首を横に振って顔を引き離し、小さく口を開けて喘ぎ続けた。
 「・・・・・っ」
 「んっ、んっ」
腹に、ヌチャヌチャと濡れた感触がして下を向けは、静のペニスがしとどに濡れながら江坂の腹に擦りつけられている。両手で江
坂の首にしがみ付いているので自分で扱くことが出来ず、こんなふうに擦り付けて解放に導いているのだ。
 自慰の延長のような静の無意識の行為を見ているのも楽しいが、やはり自分でイカせる方がもっと楽しいと、江坂は手を伸ば
して静のペニスを掴み、激しく扱き始める。
 「・・・・・んぁっ!」
 既に限界が近かったのか、静は間もなく呆気なく精を吐き出し、江坂の手を濡らした。それと同時に、ペニスを包んでいる内壁
が強く締め付けてくる。
 「・・・・・っ」
江坂は強引に締め付ける内壁を突き上げると、その最奥に熱い飛沫を迸らせた。




 久し振りのセックスで疲れ切ったのか、静はそのまま気を失うように眠りに落ちてしまった。
 「野菜ばかり食べるから体力が無いんですよ?」
からかうように言った江坂は、ベッドから起き上がった。まだお互いに全裸で、様々な体液で汚れたままだ。静が気持ちよく眠れる
ように後始末をするため、江坂はその身体を抱き上げてバスルームへと向かった。
 「ん・・・・・」
 「眠っていなさい」
 身体にシャワーをあてた時、静は身じろいで目を開けようとしたが、江坂はそう言って何度も腕や背中を撫でてやった。すると安
心したのか、静はまた目を閉じる。
 中に吐き出した精液もかき出し(その時も起きようとした)、濡れた身体をタオルでくるむと、江坂は自身は何も身につけないま
ま、いったんゲストルームに静を連れて行った。自分達のベッドのシーツを変えなければならないからだ。
 こんなふうに甲斐甲斐しくセックスの後始末をする自分など、静と出会う前はとても想像出来ない。
女は自宅に連れこまなかったし、ホテルで抱けばどんなに余韻で女が朦朧としていても、その後始末は付いている者に任せて共
に寝ることはなかった。それ程気を許した者などいないということなのだが・・・・・当然のことながら、静はそんな遊びの相手とは違う
存在だ。
 「静さん?」
 「・・・・・」
 「・・・・・」
(よく眠っている)
 ベッドを整えて再び静を迎えに行くと、彼は少し身を丸めるようにして眠っていた。どの部屋も空調を設定しているので、裸でい
たとしても寒くはないはずだ。
 「静さん」
声を掛けても抱き上げても、一向に気付かない静に笑みを浮かべ、江坂はそのまま自分達のベッドルームに戻る。
 静をそっと横たわらせ、自分もその隣に身を寄せた。まだ温かな彼の身体を抱きしめていると、何もかも頭の中から消えうせ、静
という存在だけが残る気がした。








 静が目覚めた時、江坂はまだ隣にいた。
(・・・・・眠ってる?)
今が何時なのかはっきりと分からないが、静が早く起きてしまったのか、それとも江坂が疲れていたのか、こんなふうに目覚めた時
に彼が隣で眠っているのはとても珍しい光景だった。
 「・・・・・っ」
 もっと江坂の顔をよく見ようと身体を動かせば、下半身にズキンとした痛みが走る。それは昨夜の自身の痴態のせいだと直ぐに
分かった静は、恥ずかしさに頬を染めながらも何とか腹這いになって江坂を見つめた。
 「・・・・・」
(綺麗・・・・・)
 江坂はよく静のことを綺麗だと言ってくれるが、そういう江坂の方こそ綺麗な顔をしていると思う。何時も掛けている眼鏡はそ
の怜悧過ぎるほどの眼差しを少し弱める効果があるが、それと同時に整い過ぎた江坂の容貌をも少し柔らかくしている。
 「・・・・・疲れてないのかな」
 総本部長という地位になると、今よりも忙しくなるのは確実だろう。昨夜は静に楽になると言っていたが、江坂の力を欲しいと
思う人は数多くいて、優しい彼はきっとその相手に力を貸すはずだ。
そのために忙しくなって、身体を壊すなどしたら本末転倒だが・・・・・それは、自分がしっかりと管理をしてやろうと思う。
 「俺のことばかり気遣ってくれて・・・・・俺だって、心配なんですよ?」
 こっそりと橘に教えてもらった江坂のパーソナルデーター。
 「身長182センチに、体重が68キロなんて・・・・・少し痩せ気味だと思う」
(もっと、好き嫌いなく食べさせないと・・・・・)
 「175センチに59キロも、十分痩せ過ぎですよ」
 「!」
小さく呟いた自分の声に苦笑混じりの声が返り、静はビクッと身体を震わせてから改めて江坂を見た。
 「・・・・・起きてました?」
 「今起きたんです」
 「起こしちゃったのかも・・・・・」
 「いいえ。少しでもあなたとの時間を取りたい私の身体が、無意識に目覚めたんですよ」
 「・・・・・っ」
 なんだか凄く恥ずかしい言葉を聞いた気がしたが、江坂が言えば不思議としっくりしてしまう。それも惚れた弱みなのかもしれな
いと、静はシーツで顔を隠した。




 橘のスケジュール調整で午前中いっぱいゆっくり出来ることになった江坂は、この時ばかりと静に構った。
朝食の準備をする時も、掃除をする時も、どこか静の身体に触れているようにすると、さすがに困ったような顔をされてしまう。
 「あの」
 「どうしました?」
 「・・・・・ちょっと、買い物に行くだけなんですけど」
 「ええ、一緒に行きましょう」
 「スーパーに、トイレットペーパー買いに行くんですよ?」
 静は本当にいいのかと確認するように言うが、静と共に行くのならばたとえゴミ捨てでも喜んで行ける。江坂は直ぐに財布と携
帯を持った。
 「さあ、行きましょうか」
 「・・・・・はい」
 強引に話を進めれば、基本的に静は江坂の希望を受け入れてくれる。それが愛情ゆえだと思っているので江坂はさらに上機
嫌になり、静をエスコートするようにドアを開けた。
 「・・・・・」
 「あ」
 「おはようございます」
 そこには、当然のように護衛の男達が立っていて、自分達の姿を見るなり深く頭を下げてきた。
始めの予定では午前中はずっとマンションにいるつもりだったが、静が出来かける素振りをみせたので直ぐに連絡をとったのだ。
 「あの」
 「邪魔でしょうが、これも彼らの仕事なので我慢してください」
 「・・・・・はい」
 運転手付きの車でトイレットペーパーを・・・・・そう呟いている静は、大企業の子息だというのに随分と庶民的な感覚を持って
いる。
江坂の背景だけを見、一度寝ただけで高価なものをねだってきた女達とは雲泥の差だ。
(そんなところも、可愛いしな)
庶民臭いなどと欠片も思うことがない江坂の耳に、静が護衛に話す言葉が聞こえてくる。
 「すみません、ごま油と醤油も買いに行ってもいいですか?トイレットペーパーを買いに行くお店とは違うんですけど」
 そちらの店の方が安いのだと言う静に、護衛達は平静な顔でもちろんですと頷いた。

 「静の言葉は私の言葉と思え」

そう言う江坂の命令が隅々まで行き届いている成果だと内心頷いた江坂は、助かりますと言って頭を下げる静の肩をそっと抱き
寄せた。
 「ついでに味噌も買いましょうか」
・・・・・案外、江坂も静の影響を受けているのかもしれない。