縁と月日は末を待て
3
チュッ
軽く合わさった唇が、次第に深い口付けに代わる。
舌を絡め、唾液を交換して・・・・・強く吸われると、楓は自分から顔を引いて、見下ろしてくる伊崎を見つめて目を細め
た。
(恭祐の匂い・・・・・)
風呂に入ったばかりのようで何時ものコロンの香りは薄れていたが、それでも馴染みのある伊崎の匂いは分かる。
こうして肌を合わせるのは本当に久し振りで、楓は無意識のうちに頬が緩んでいた。
「どうしました?」
「ん?」
「すごく楽しそうだ」
そう言う伊崎の眼差しも優しく緩んでいるという自覚は無いのだろうか。
自分以外には誰に対しても厳しいか、淡々とした対応をする伊崎だが、楓にだけはこちらが照れてしまうほどに感情表
現が豊かだ。
ただし、若頭としての立場があるせいで、どうしてもその態度は表に出にくいが、こうして2人きりになった時はその感情
を惜しむことはない。
(もっともっと、俺に夢中になってくれたらいいのに・・・・・)
「楓さん?」
「やっと、お前とセックスできるから」
露骨な言葉を言うが、元来楓はそんなに性欲が強い方ではない。そんな自分がこれほど欲情するのは側に伊崎がい
るからだ。自分の男である彼が、自分だけを見てくれる。そんな奇跡にさらに身体が昂ぶったっておかしくはない。
「・・・・・」
楓はパジャマの前が全て広げられると、自分も手を伸ばして伊崎のパジャマのボタンを外し始めた。
愛する人とは素肌で感じ合いたいからだ。
「そんなに慌てなくてもいいのに」
「俺はお前みたいにジジイじゃないの!」
抱き合ってキスをするだけじゃ満足出来ない。・・・・・なんだか、これでは淡白だとは言えないかもしれない。
「恭祐」
「楓さん」
腕を伸ばして伊崎の頭を抱え込むと、伊崎が笑いながら唇を重ねてくる。熱くて、甘い。くすぐったくてゾクゾクするような
快感に、早くと腰を揺らした。
セックスをする時の楓はとても大胆だ。
そもそも、最初に体を重ねたのは自分を縛るためだったらしいから(伊崎も我慢の限界だった)、その愛情表現が正しいと
思っているのかもしれない。
もちろん、自分限定ならそれは歓迎するが、少しでも他人に向けられるようなことがあれば伊崎は嫉妬で気が狂ってし
まうだろう。
楓ほどに美しく、賢く、綺麗な心を持つ人間を伊崎は知らない。
どんなに抱いても穢れのない笑みを浮かべる楓を、もっともっとドロドロな欲望に塗れさせたいと思う反面、自分でさえ穢
してはいけない存在だとも思う。
「・・・・・っ」
何度も何度も楓の髪を撫でていると、いいかげん焦れたのか楓が下から睨んでくる。
「早く・・・・・っ」
「すみません」
楓のことを考えていたのに、今目の前にいる存在から思考を離すなんてどうかしている。
伊崎は謝ると、そろりとパジャマのズボンの中へと手を忍び込ませた。
「ん・・・・・あっ」
下着越し、楓のペニスはもう勃ち上がっていた。伊崎は笑い、そのまま竿を擦ってみた。
「ふ・・・・・く・・・・・っ」
「気持ちがいいですか?」
「ば、かっ」
布越しの愛撫では物足りないのだろう、抗議するように伊崎の手に自身の手を重ねて爪で引っ掻いてくる。痛みなどほ
とんど感じず、伊崎は宥めるように楓の手を一度握り締めると、下着の中に手を入れた。
クチュ
「あ、んっ」
先走りの液が竿を濡らして、伊崎が少し手を動かすだけで淫らな水音が部屋の中に響く。手の平を押し返し、ピクピク
と跳ねるペニスが愛おしかった。
「や、だ、だめっ」
不意に、楓の手が強く腕にしがみ付いてきた。
「どうして?」
「お、俺、だ、け・・・・・やだっ」
1人だけでイキたくないと、駄々を捏ねるこめかみに唇を寄せる。
「まだ、これからですから」
一度だけ、楓だけイカせて終わらせるつもりなんてないと耳元で囁くと、楓の表情から切羽詰ったような色が消えたような
気がした。
ズチュ グチュ
その表情を注意深く見ながら、伊崎は手を動かし続ける。
「んっ、あっ、はっ」
「イッていいですよ」
「あ・・・・・ぁっ!」
言葉と同時に強く先端を擦ると、伊崎は腕の中の楓の身体が大きく仰け反り、次の瞬間手の平が熱い飛沫で濡れた
のが分かった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
楓は大きく胸を上下させながら、目の前にいる伊崎を眉を顰めて睨みつけた。
楓の精液で濡れた指先を舐めていた伊崎は、その視線にどうしましたかと優しく問い掛けてくる。どうして今の自分の気
持ちが分からないのかと、楓はじれったく思った。
(俺だけ先にイかせるからだよ・・・・・っ)
久し振りに抱き合うのだ、一緒にイきたいと思うのは当然なのに、伊崎はまだパジャマの前を肌蹴た格好のままだ。
「・・・・・下着、びしょびしょ」
「すみません」
「謝ったって・・・・・許さないぞ」
「これから脱ぐんですから」
「・・・・・っ」
さらりと言った伊崎の言葉に、全く意識していなかった楓はカッと身体が熱くなった。自分が赤くなったことを自覚して出来
るだけ伊崎の目から隠れようとするが、こういう時だけ少し意地悪な男は、顔や首筋に何度もキスを落としながら笑って
言った。
「こんなことくらいで恥ずかしがることはないのに」
「は、恥ずかしいなんてっ」
「可愛い、楓さん」
楓の反論をまったく気にすることなく、伊崎は楓のパジャマを脱がせる。どうせなら下着も一度に脱がせてくれたらいいの
にと思うが、伊崎はなぜか濡れた下着になかなか手を掛けてくれなかった。
「・・・・・恭祐っ」
どうしてとねだるように名前を呼べば、伊崎はそのままつんと下着越しにペニスを指先で突いた。射精したばかりで萎え
ていた自分のそれが、ほんのわずかな刺激に反応する。
「ちょ・・・・・っ」
「・・・・・」
濡れた下着が気持ちが悪い。
早く、脱ぎたい。
楓はなかなか動いてくれない伊崎の手を諦めて自分でそれを脱ごうとしたが・・・・・下着の中で吐きだしてしまった精液と
ペニスの間が粘ついて・・・・・なんだか恥ずかしくて触ることが出来なかった。
「・・・・・恭祐っ」
「子供じゃないのに、1人で脱ぐことも出来ないんですか?」
「お、お前のせいだろっ」
「私だけの、せい?」
言外に、責任の一端は楓にもあるのではないかという言い方だったが、例えそうでもこういう場合動くのは伊崎の方だ。
楓は伊崎の腕を掴み、そのまま自分の股間に当てる。
「早くっ」
「・・・・・わかりました」
楓の焦れた声に笑いながら、伊崎はようやく手を動かして下着を脱がしてくれた。
濡れてしまっていた股間を、脱がしたパジャマで拭き取られる。それを明日自分で洗濯をしなければならないのかとうんざ
りしたが、
「全て私がしますから」
伊崎が安心させてくれた。
「洗濯くらい、俺だって出来る」
ただ、甘えるだけでは面白くなくて一応そう訴えてみるが、伊崎は拭ったばかりの下半身に手を伸ばして言う。
「あなたの手が荒れるでしょう?」
「せ、洗濯機で洗うのに・・・・・」
「ボタンを押す手が、ですよ」
どこまでこの男は自分に過保護なのだろう。盲目的といってもいい尽くし方だが、その中に確かな愛情があるのなら構わ
ない。
(俺だって・・・・・っ)
周りの誰も見えないくらい、伊崎にだけ愛情を向けているのだ。もっともっと愛してもらっても、自分の思いにはまだまだ足
りないと思っていた。
お互いに全裸になって、ようやく身体を合わせた。
イッたばかりの楓の身体は既に熱く蕩けていて、伊崎はその熱を分けてもらうように乳首に口をつけた。
「んっ」
舌で舐めねぶると、ツンと立ちあがってくる。
反対側の乳首は指先で捏ねた。色白の肌に浮かんだ淡い桜色のそれが、どんどん赤みを増し、コリコリと硬くなる。少
し間が空いてしまったが、楓の身体はちゃんと伊崎の指を覚えているようだ。
クチュ
乳首を愛撫していた手を腹から腰に移動させ、時折薄い楓の肌を擽るようにしながら下半身に触れる。
綺麗に拭ってやったはずのそこは、また・・・・・濡れていた。
「きょ・・・・・す、け」
ねだるように名前を呼ばれ、伊崎は唇を重ねる。直ぐに忍び込んできた小さな舌に自身のそれを絡めながら、伊崎は
再び楓のペニスを擦り始めた。
「う・・・・・むっ」
今度はペニスだけでなく、その下の双球も手の中で転がし、時折、手が滑ったかのように指先をそのもっと奥に伸ばして
蕾を撫で擦った。
まだ硬く閉ざされたそこには指も入らないが、丹念に愛撫してやると徐々に開いてくるはずだ。楓が自分に心を許してくれ
ているように、その身体も・・・・・。
(全部、俺のものだ)
チュ
音をたてて唇を離し、伊崎は楓を見下ろした。
紅潮した頬に、潤んだ瞳。何時もは毅然とした強いオーラを身にまとっている楓が、この時ばかりは滴るほどの淫蕩な気
配を身にまとう。
「恭祐・・・・・」
楓は、ゆっくりと足を開いた。早くこの中に入って欲しいと、行動で示しているのだろう。
「後、少し・・・・・ね」
絶対に傷付けたくは無い相手だ。久し振りのセックスだし、もう嫌だと泣きが入るほどにトロトロに溶かしてから、最奥の熱
を味わうつもりだった。
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