光の国の恋物語
117
「結局、最強なのは洸莱様ってことかな」
「え?」
まだ執務が残っている洸聖と洸竣、そして、照れ隠しなのか、手伝わせると洸竣が捕まえた洸莱を除いた3人は、そのまま自然
の流れで悠羽の部屋へとやってきた。
直ぐにお茶菓子とお茶を用意して悠羽と黎へ差し出していたサランは、しみじみと呟く悠羽の言葉に顔を上げ、その意味を頭
の中で考える。
(洸莱様が最強とは・・・・・?)
「洸聖様や洸竣様より・・・・・いや、もしかしたら王である洸英様よりも、思慮深くて思いやりがあるような・・・・・なんだかそんな
気がするんだ」
「そんなことを言ったら、洸聖様が嘆かれますよ」
「あの方は欠点があるからいいんだよ。それを克服しようとする姿勢が立派な方だから」
「・・・・・」
なんだかんだと言いながら、悠羽は結局洸聖が一番だというのだろう。それが微笑ましくてサランは口元に笑みを浮かべたが、で
もと横から小さな声が上がった。
「洸竣様も、お優しい方ですよ?」
「それは、黎限定だよ。洸竣様は誰にでも当たりが柔らかな方だけど、黎に対しては特別に甘い。それ程黎を想っているのだな
と思うけど」
「ゆ、悠羽様っ」
「サランも黎も、早く幸せになって欲しいな」
「悠羽様?」
「もしかしたら、一緒に式を挙げられるようになるかもしれない」
「そんなことはありませんっ」
「し、しません!」
思わず強く言い返してしまったサランは、その後に自分を見つめてクスクス笑っている悠羽を見てあっと口を閉ざす。
(悠羽様、私をからかって・・・・・)
こんな風に感情が高ぶることなど滅多になかった自分が、全く関係ないと思っていた色恋事で声を上げるほどに変わっていると改
めて自覚する。もちろん、それは洸莱の存在のせいもあるが、やはりサランの中で一番大きい存在なのは悠羽だ。
(悠羽様がいなければ・・・・・無償の愛情を私に下さらなければ、私は今ここにいることはなかった・・・・・)
母親に捨てられた自分を助けてくれた奏禿の王妃にも、まるで本当の母のように世話をしてくれた悠羽の実母にも、そして王宮
で暮らすことを快く承諾してくれた王にも、懐いてくれた悠羽の弟王子にも、もちろんその誰もに感謝をしているが、サランには真っ
直ぐな生き方を自分が先に立って示してくれた悠羽が一番大切だ。
(この先、もしも洸莱様を想うようになったとしても・・・・・私の一番は悠羽様に変わりは無い)
夕食の時間になって、洸英が和季を伴って食堂に現れた。
「遅れてすまぬな」
洸英が席に着くと早速給仕が始まったが・・・・・その場にいた者の視線はある一点、和季へと向けられている。
(和季がこんな場に現れるとは・・・・・)
常に王である洸英の側にいるという印象ながら、公の場所や家族がいる場所では(幼い頃は除いて)、和季は姿を現さないのが
普通だった。
以前、
「洸聖様、洸竣様も大きくおなりになったので、和季がお側でお手伝いすることは今日からご遠慮いたします」
そう宣言された時は、洸英に言って何とか和季も一緒に食事を取るように頼んでもらおうとしたが、なぜか父は不機嫌そうな顔を
して和季の意志は曲げられないと言い放った。
(それ以来・・・・・か?)
「おい、ここに椅子の用意を」
何時まで経っても自分の隣、王妃の席があるはずの場所に食事の用意がされないのを見て、洸英は眉を顰めながら言う。
「王、突然言われても、皆が困惑してしまいます」
「これからは常にお前がこの席に座るのだ、言い聞かせなくてどうする」
え・・・・・っと、いうのは、その場にいた者達全員の思いだろう。代表をするように洸聖が洸英に訊ねた。
「父上、本日から和季も共に食事をするということですか?」
「そうだ」
「王、私は承諾をしておりませんが」
「・・・・・和季は納得していないようですよ」
「納得も何も、妃が私と共に食事をするのは当たり前だろう」
「え?」
今度こそ、皆は揃えて声を上げる。
洸英は何がおかしというように顎を上げた。
(全く・・・・・有言実行はこんな時に発揮しなくてもよろしいのに・・・・・)
その場にいた全員の、それこそ召使も含めた全員の呆けた顔というのはなかなかに壮観だったが、このままではせっかくの食事が
冷えてしまうと、和季はそっと洸英の肩に手を置いた。
「洸英様、それはまた日を改めてご説明をされた方がよろしいのではないですか?」
「そんなことをして、またお前の気が変わらないとも限らない。私は1日でも早く、お前が私のものだと皆に宣言したい」
「・・・・・」
「洸聖、洸竣、洸莱、悠羽、そして、ここにいる者皆に宣言をする。本日より、この和季を私の妃として扱って欲しい。公の場に
も共にするゆえ、直ぐに恥ずかしくない衣装や宝飾も用意しておけ」
「・・・・・」
和季ははあと溜め息をつく。
(本当に・・・・・子供っぽいお方だ・・・・・)
しかし、呆れる以上に洸英を愛おしいと思う自分がいて、和季は自分も洸英の熱に感染しているようだと諦めてしまった。
「はいはい、子供の前でそれ以上熱い言葉を言わないで下さい、父上。ほら、お前達も、早く和季の席を作ってくれないか?
父上の大切な方なんだから」
「は、はいっ」
自分の言葉に慌しく動き始めた召使を見て、洸竣は次に洸英に視線を向けた。
「今度は逃げられないようにしてくださいね、父上」
「・・・・・お前に私のことが言えるのか?洸竣、お前は私に似ているんだからな」
「・・・・・」
口元を緩めてからかうように言う洸英に、洸竣は苦笑を浮かべることしか出来ない。確かに、容姿も性格も、兄弟の中では自分
が一番父に似ているということは自覚しているからだ。
(一番大切なものになかなか素直になれないところも・・・・・かな)
それでも、洸竣はまだ父に勝っているところがあると、言い負かしたぞというように笑う洸英に言う。
「確かに私は父上と似ていますが、父上が大切なものを何十年も掛けて手に入れたのとは違い、私はもう間もなくかも・・・・・ね
え、黎」
「な、何をおっしゃって・・・・・っ」
黎は真っ赤になって反論しようとしているが、なかなか言葉にまとめきることが出来ないようで、今は泣きそうに眉を下げて洸竣を
見つめている。
その顔が可愛らしくて、洸竣はにっこりと笑って黎に向かって言った。
「でも、確かに父上は良いお手本です。私も大切な者に逃げられないように気をつけますよ」
(兄上は一言多い・・・・・)
だから父にからかわれるのだと、洸莱は内心そう思っていた。あまり調子に乗るようなことがあったら、黎を手に入れる時間はもっ
と掛かってしまうのではないかと思うのだが。
「父上」
「何だ」
「洸竣兄上」
「何?」
「早く落ち着いてくださらないと、食事をすることが出来ません」
「・・・・・」
洸莱とすればごく当たり前のことを言ったつもりだったのだが、なぜかいきなり悠羽が声を出して笑い始め、長兄の洸聖も苦笑を
零している。
いったいどうしたのかと、洸莱は向かいに座るサランを見た。
「・・・・・悠羽様のおっしゃられた通りなのかも」
「え?」
その言葉の意味が全く分からず、洸莱は不思議そうに首を傾げるしかなかった。
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