光の国の恋物語
118
夕食が終わり、それぞれの部屋に戻ってしばらく。
サランは洸莱の部屋の扉の前に立っていた。
トントン
扉を叩くと、しばらくして中から洸莱が顔を覗かせる。そこに立っているサランを見て少し驚いたよな表情になっているのが歳相応
に見えて、サランは思わず笑みを浮かべてしまった。
「サラン」
「はい」
「・・・・・」
「中へお邪魔してもよろしいですか?」
「ああ」
最初の衝撃が通り過ぎると、洸莱は何時もの無表情になる。しかし、その表情の中にも僅かながら嬉しそうな気配を感じ取れ
たのは、同じように感情表現が苦手なサランだからだろうか。
洸莱はサランを椅子に座らせ、寝る前に飲む為なのか用意されてあるお茶を入れてくれた。
「・・・・・少し、驚いた」
「何がでしょう?」
「まさか、今夜来てくれるなんて思わなかったから」
「私も、少しでも早く・・・・・知りたいと思ったから・・・・・」
先ずは、試してみようと言ってくれた洸莱。初めは、その言葉を素直に受け入れることが出来なかったサランは、今は違った。
自分からも、試してみようと思えるほどに、今のサランの心は大きく動いているのだ。
(私のようなものも・・・・・見付けることが出来るだろうか・・・・・?)
この醜い身体を洸莱が愛してくれたら、自分の気持ちも変わるような気がした。
だから、一刻も早く、今日という時間を選んだのだ。
「今宵のお世話は出来ません。申し訳ありません、悠羽様」
そう言った時の悠羽の顔は、驚きに大きな目が見張り、次の瞬間嬉しそうに、泣きそうに顔が歪んだ。
悠羽の為というのももちろんあるが、それと同じくらい・・・・・いや、もしかして少し大きいくらい、サランは自分の為にと考えていた。
手を差し出すと、サランは躊躇い無く細い指を重ねてくれた。
何を、どうするか。男と女の交じり合う方法は書物で読んだことがあるが、サランはそんな自分の僅かな知識にはとても当てはまら
ない身体の持ち主だ。
(とにかく、傷付けないようにしなければな)
初めて誰かを抱く自分が、初めて誰かに抱かれるサランの身体を傷つけてしまう可能性は十分あって、もしかしたらその痛みで
二度と抱かれることは嫌だと言われる可能性も否定出来ない。
しかし、誰でも初めてはあるのだし、その互いの初めてが互いで良かったと、最後はそう思うようになりたかった。
「サラン」
「はい」
「痛みを感じたら直ぐに教えてくれ。絶対に我慢はしないで欲しい」
「はい」
「気持ちがいい場所があれば、それも教えて欲しい」
「・・・・・」
サランは少し目を瞬かせたが、それでも素直に頷く。
「それと・・・・・」
洸莱はどう言おうか少し考えてしまったが、ここは自分の思いのままに伝えた方がいいかと思った。
「今だけは、試しだと思わないで欲しい」
「洸莱様?」
「私はサランを愛おしいと思って抱くし、サランも出来れば・・・・・」
「はい」
頷いたサランは少しだけ笑っている。
洸莱はサランを寝台に腰掛けさせると自分はその前に立ち、身を屈めて・・・・・唇を重ねた。
(・・・・・温かい)
冷たい指先から想像していたサランの唇も冷たいと思っていたが、思った以上に温かくて・・・・・甘い。
ちゅっと、重ねるだけの口付けを何度か繰り返し、いったん唇を離した洸莱は、もう一度唇を重ねて・・・・・今度はその合わせ目
に自分の舌を差し入れた。
(舌を、確か・・・・・)
サランの舌は逃げることなく、洸莱が触れてくるのにじっとしている。どうやって口腔内を愛撫したらいいのか迷いながら、洸莱は
そのままサランの身体を寝台に横たえた。
「・・・・・っ」
唇を離して真上からサランの顔を見つめると、サランは目を閉じていた。白い頬に長いまつげが影を落とし、普段の人形のような
表情を思い掛けなく頼りなく見せる。
(こんな表情もするんだ・・・・・)
ただ唇と唇が重なっただけだ。
手と手が触れ合うのと変わらないと思っていたのに、思いがけずに胸が高鳴っていることが分かった。
(・・・・・どうしたらいいんだろう・・・・・)
目を開いていると動揺がそこに表れる気がして、サランは強く目を閉じた。
だが、それはサランには思い掛けなく辛いものになってしまう。
「・・・・・あっ」
視界が遮られているせいなのか、身体に触れる洸莱の指の感触が想像しているよりも強烈に感じてしまい、サランは無意識の
うちに声を上げてしまった。
恥ずかしくて慌てて口を閉じるが、洸莱の手はまるで美術品や宝飾に触れるように冷静に、何かを探るように動いていて、サラン
は思わず身を捩って懇願した。
「こ、洸莱様、あまり・・・・・」
「どうした?」
「あまり、触れないで、下さい」
「どうして?気持ちがよくないだろうか?」
「・・・・・」
気持ちが良くないと答えるのは簡単だった。そう言えば洸莱はきっと手を止めてくれるだろう。
しかし、サランは始めに洸莱と約束したのだ。
「痛みを感じたら直ぐに教えてくれ。絶対に我慢はしないで欲しい」
「気持ちがいい場所があれば、それも教えて欲しい」
ここで首を横に振ってしまったら、洸莱に対して自分は嘘を付くことになってしまう。この身体を愛そうとしてくれる洸莱に、嘘だけは
絶対に付きたくなかった。
「・・・・・我を忘れてしまいそうになるので・・・・・怖いのです」
声は小さくなってしまったが、それでもサランははっきりとそう告げた。
サランの言葉に、洸莱は自分のやり方がそれ程間違っていないことを確信した。
知識だけしかないはずの自分だが、それを補う愛情があれば何とかなるかもしれない。
「大丈夫だ、サラン。私も、お前に触れているだけで・・・・・我を忘れている」
「・・・・・まさ、か」
「本当だ。お前に嫌われたくないからと自制しているが、今にもこの衣を剥ぎ取ってお前の全てを見たいと心が急いている。そん
な私を愚かだと思うか?」
応えは返ってこなかったが、サランの指先は洸莱の腕を掴んでくる。
そんなサランの仕草に洸莱は笑みを零し、そのままもう一度軽く唇を重ねてから、サランの衣の紐に手を掛けた。
「・・・・・」
「・・・・・」
衣が擦れ合う僅かな音の後、洸莱の面前に現れたのは素晴らしく綺麗な身体だった。
「・・・・・綺麗、だ」
どこもかしこも真っ白な肌。小さな胸飾りさえ、ほんの僅かに色付いているだけだ。
下生えも薄く、その下のペニスは洸莱の片手に収まるほどに小さく、幼い姿のままだった。
(この奥に、女性器があるのか)
両性具有というサランの身体には、目に見えない場所に・・・・・ペニスの付け根の、本来は精子が溜まる場所である陰嚢(い
んのう)の代わりに、女性器があるはずだ。
しかし、全てを今日手に入れるつもりはない洸莱は、そのまま小さなペニスを片手で掴む。
傷付けないように、出来るだけ優しく触れたつもりだが、
「!」
「・・・・・っ」
ピクンとサランの身体が飛び跳ねて、洸莱は思わずペニスから手を放してしまった。
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