光の国の恋物語





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 王子である莉洸は、父や兄ともかなり幼い頃から風呂は別々に入っていたし、湯浴みをする時に世話をしてくれる者が付いて
いるのが当然だったが、彼らは皆服を着たままで、その裸身を莉洸が見ることはなかった。
大人の男の裸身・・・・・それも、ペニスが勃ち上がった状態というのは初めて目にする。
(・・・・・別の生き物みたい・・・・・)
 「どうした?」
 するっと、稀羅が勃ち上がった自分のペニスに手を滑らせた。
 「・・・・・っ」
その手付きが妙に生々しく感じてしまった莉洸は顔を真っ赤にするが、寝台の上では後ずさることも出来ず、自分から部屋を訪
ねたということもあって目を逸らすことも出来ない。
 「莉洸、これをそなたの中に埋めるのだ」
 「・・・・・僕の、中?で、でも・・・・・」
(そういう行為は、女の方が相手でなければ・・・・・)
 話で聞いたことがある男女の営みは、男のペニスを女が持つ特別な穴に入れなければならないということだ。
実体験が伴わないのでどういうことかはっきりした図は頭の中に浮かんではこなかったが、それでも漠然と結婚したらそういう行為
を相手に対して行うのだなと理解していた。
 しかし、今の自分は男ではなく女の立場にならなければならず、男の自分の身体に男を受け入れることが出来る特別な穴な
どない。
 「ご、ごめんなさいっ、僕には無理ですっ」
 せっかく勇気を振り絞ってここまでやってきたのだが、自分には何も出来ないことが分かってしまった。
その場で深く頭を下げて謝罪した莉洸だったが、稀羅は怒ることはなく・・・・・むしろ楽しそうに声を出して笑った。
 「そなた、本当に何も知らないのだな」
 「稀、稀羅様?」
 「男でも、これを受け入れる事が出来る場所があろう」
 「え・・・・・?」
 「本当に、分からぬのか?」
そう言いながら、ゆっくりと伸びてきた稀羅の指が触れた場所は・・・・・。
 「!」
(そ、そんな場所にっ?)
とても尊い行為をする場所とは思えず、莉洸は反射的に稀羅の指を掴んで振り払ってしまった。



 何も知らない人間に一から行為を教えるのは手間が掛かるが、それが愛しいと思う相手ならば反対に楽しいと思えるのが不思
議だった。
稀羅としても、莉洸以外の男を抱こうとは思わない。いや、莉洸が女ならばこのまま孕ませ、自分の子供を産ませて一生離れな
いようにしてやりたかったと思う。
それが出来ない男であるならば、交わる快楽をとことんその身体に覚えこませて離さない。
 「莉洸」
 稀羅は顔を伏せてしまった莉洸の顎を掴むと、そのまま顔を上に向かせた。
今にも泣きそうな、本当に子供のような顔。
まだ幼いかもしれないと可哀想に思うものの、稀羅は莉洸の唇に自分の唇を重ねていく。今度は怯えて引き結んだままの唇に強
引に押し入ろうとはせず、稀羅はそのままゆっくりと顎から首筋へと舌を這わせ始めた。
 「ひゃっ」
 「怖いのならばそのままじっとしているがいい。全ては私がしてやろう」
 再び莉洸の下半身に伸びた手は、多分無意識なのだろう、足を閉じてしまった莉洸によって阻まれてしまう。
稀羅は反対の手で強引に足を開かせると、そのまま怯えたように縮こまっている幼い姿のペニスをいきなり掴んだ。
 「!!」
莉洸は腰を引こうとするが、稀羅はしっかりと足を抱え込んで逃げないようにその身体を押さえた。
 「んっ、やっ、はっ、離してくださ・・・・・!」
 「怖がるな、莉洸」
 「こ、怖い、怖い・・・・・っ」
 「この手を感じて、何かが沸き起こってこぬか?気持ち悪さしか無いのか?」
 「稀、稀羅様っ」
 「莉洸、逃げようとせず、感じるままに心を開放しろ」
ここを刺激されれば、必ず快感が生まれてくるはずだ。男に触れられているという途惑いさえ捨てれば・・・・・いや。
(手では分かってしまうか)
 男と女ではやはり手の感触は違うかもしれない。
それならばと、稀羅はいきなり莉洸のペニスを口に含んだ。
(口の中ならば、男も女も変わるまい)
稀羅とすれば莉洸の途惑いを少しでも解消してやろうと思っての行為だったが、いきなり面前で自分のペニスを口に含んだ稀羅
の行為に、莉洸は卒倒しそうなほど真っ青になってしまった。



(く、食い千切られてしまう・・・・・っ)
 莉洸は我慢していた涙腺が唐突に緩んでしまい、ポロポロと涙を零してしまった。
莉洸からすれば、今まで排泄にしか使っていなかったペニスを、いきなり一国の王の口が含んでしまったのだ。このまま噛み千切ら
れて死んでしまうのではないだろうか・・・・・そんな恐怖心が心の中を支配していた。
 「ひっ、ひっ・・・・・!」

 グチュ ブチュ

粘膜を擦る淫らな音が部屋の中に響いている。
時折当たってしまう歯に一々身体を震わせて、とにかく稀羅の口の中から自分のペニスを引き出そうと、稀羅の逞しい肩を掴ん
でいた莉洸の手が、
 「・・・・・んっ!」
 不意に、ギュッと縋るように稀羅の肩に爪を立ててしまった。
(な、何、今・・・・・僕?)
 背筋を震わせてしまうような快感を唐突に感じてしまった莉洸は、ますます顔を歪ませてしまった。
自分の身体が変わってしまう・・・・・そんな怖さがじわじわと心の中に浸透していく。
 「稀、稀羅様・・・・・っ」
その原因を作っているのは間違いなく稀羅のはずだったが、今莉洸が助けを求める相手もここには稀羅しかいなかった。



 「ぼ、僕、身体が・・・・・変に・・・・・っ」
 莉洸が言いたい事は稀羅には既に分かっていた。
心以上に素直な莉洸の身体は、既に稀羅の手管に呆気なく陥落していて、縮こまっていたはずのペニスが稀羅の口の中で大き
く育っていたからだ。

 ピチャッ

稀羅はわざと音を立てて、いったん口の中から莉洸のペニスを出した。
 「あ・・・・・」
名残惜しげな声が莉洸の口から洩れるのを満足して聞き、稀羅は濡れている唇をゆっくり舌で舐めた。
 「どうした、莉洸。先程まで嫌だと喚いていたが・・・・・少しは気持ちが変わったか?」
 「稀、稀羅様の、御口の中で、ぼ、僕・・・・・」
 「私の口で?どう感じた?」
 「・・・・・き・・・・・気持ち、良く・・・・・気持ちよ、く、なって・・・・・っ」
 「莉洸」
 稀羅はそのまま莉洸の身体を抱きしめた。
変化する自分の身体を怖がった莉洸は、縋るように稀羅の背中に手を回す。
 「快感から目を背けることは無い。私はそなたを感じさせる為にあの行為をしたのだし、それによってお前が感じてくれたのはとて
も嬉しい」
 「・・・・・お、おかしく、ないのですか、僕の・・・・・身体」
 「おかしくなどあるはずがない。そなたは私の花嫁だろう?妻が夫の愛撫に感じるのは当たり前のことだ」
 「当たり・・・・・前?」
 「そう。そなたが感じるのは、私を愛しているからだ・・・・・違うか、莉洸」
 正確に言えば、莉洸が感じているのはまっさらな身体に初めて与えられる強烈な刺激からだろう。
しかし、何も知らない莉洸に快感の何かを教えるよりも、それを自分への愛情ゆえと信じさせる方がいいと稀羅は思った。
自分が感じるのは稀羅を愛しているがゆえ。稀羅でなければ、こんな快感を感じるわけが無い・・・・・と。
 「んっ」
 呆然と自分が言った言葉を受け止めている莉洸に、稀羅は再び口付けをする。
今度は容易に口腔内に入り込んだ舌は、我が物顔に莉洸の小さな舌を絡め取り、
 「!」
稀羅はそのまま莉洸の身体を押し倒すと、中途半端に愛撫から遠ざけられて震えながら勃っているペニスに指を絡めてやった。
 「・・・・・っ」
自分の口の中に上がった莉洸の鳴き声は甘美で哀れで・・・・・それでも清らかな響きだった。