光の国の恋物語





84









 何とか寝台に悠羽を押し倒した洸聖だったが、少し眉を潜めて考えている様子の悠羽を見て近付けた顔を止めた。
 「どうした?」
 「あの・・・・・」
 「何か気になることがあるのなら申せ」
 「・・・・あの、湯を浴びた方がいいのではないでしょうか?」
 「・・・・・」
(・・・・・ここまできて言うようなことか?)
さすがにそれを口にしないものの、洸聖は本当に悠羽が何も知らないということに安堵した。
確かに身体を重ねる前に身を清める者は多いかもしれないが、気持ちが高まって・・・・・それも本当に愛する者が相手だったら、
そんな余裕などある方がおかしいだろう。
悠羽は多分乏しい知識の中で、普通の男女(それも初めて同士)が身体を合わせる前にすることを口に出しているのに違いが
無かった。
 「よい」
 「で、でも・・・・・」
 それに、悠羽の身体は男同士でどう交わるか、知識以上に経験を伴って知っている。
あれは褒められた行為ではなく、洸聖自身も感情的だったので自分がどういう順序を踏んだのかははっきりと思えてはいなかった
が、洸聖の男の証をどこに入れるかを考えれば、少しでも身体を綺麗にしておきたいという悠羽の気持ちはよく分かった。
 しかし、洸聖は今のままの悠羽が抱きたかった。
いや、湯浴みをする時間ほどが待てないのだ。
 「あの、でも、洸聖様」
 「悠羽」
洸聖はこれ以上の言葉はもう聞かないと、いきなり悠羽の唇に自分の唇を重ねた。



 「!」
 いきなりの口付けに悠羽は硬直してしまった。
あまりに突然だったので目を閉じることなく瞠ってしまい、整った洸聖の顔を怖いほど間近で見てしまった。
 「・・・・・っ」
少しだけ、洸聖が目を開けたのに気付くと、悠羽は慌てて目を閉じる。
すると、唇同士を合わせているという生々しい感覚が俄かに襲ってきて、悠羽は助けを求めるように洸聖の腕を強く掴んだ。
(どうしよう・・・・・)
 怖いのは、洸聖と身体を重ねるのが嫌だということからではない。
ここまで来るのに悠羽はそれなりの覚悟はしたし、以前一度だけ身体を重ねた時のあの激痛を、もう一度受けてもいいほどには
洸聖を想っていた。
 怖いのは、洸聖の気持ちの方だ。
美しく、賢く、そして大国の皇太子である洸聖には、自分よりも遥かに相応しい姫君が数多くいるはずだ。
それこそ、姫とは名ばかりの男の自分・・・・・洸聖の血を次世に残せない自分など足元にも及ばない。
 そして・・・・・自分が美しくないことも悠羽は自覚している。せめてサランほどに整った容姿であったならば、たとえ男の身体でも
洸聖を虜にし続けることが出来るかもしれないのに・・・・・。
 「・・・・・」
(ああ・・・・・私はまだ・・・・・洸聖様のお気持ちが変わるのを恐れている・・・・・)
 以前の時は、洸聖は怒りの為に悠羽の身体などよくは見ていなかったはずだ。
しかし、今は・・・・・この明かりの下、洸聖に身体の隅々まで見られてしまうと思うと、悠羽は容姿に少しも自信が無い自分の気
持ちが萎えてしまうのだ。
 赤毛に近い栗色の髪は、柔らか過ぎてすぐクシャクシャとなってしまい。
薄茶の瞳は、ただ子供のように大きいばかりだ。
身体は細く、日に焼けていて、とても20歳を迎えた歳には見えないだろう。
 家族の愛らしいと言う言葉は素直に受け止めていても、それが他人に通じると思うほどに悠羽は傲慢ではない。
美しくない容姿に、貧弱な身体、その上小さいながらも男の証があるこの身体を、洸聖が本当に慈しんでくれるか、悠羽は怖く
て怖くて泣きそうだった。



 口付けを交わしているというのに、悠羽の眉間の皺はますます深いものになっていっているようだ。
洸聖は冷静にそれを見やると、チュッと音を立てて唇を離し、悠羽と鼻と鼻が合わさるほどに近くに顔を寄せて言った。
 「何が気になる?」
 「・・・・・」
 「悠羽」
 「・・・・・あまり・・・・・見ないで下さい」
 「何?」
 「洸聖様のお目汚しになると・・・・・嫌です」
 「何を言う!」
 洸聖は悠羽の肩を強く掴んだ。
 「愛しいお前を見ていたいと思う私の目が汚れるなど、たとえお前自身でも言うでない!」
 「・・・・・」
 「顔の美醜など、歳を重ねれば皆同じだ。私は、お前の大きな目も、低い鼻も、少し大きい口も愛らしいと思っている」
そう言いながら、洸聖は言葉にした悠羽の顔の箇所にそっと唇を触れた。
 「綿毛のようなこの髪は、日に透けるとキラキラと輝いて、お前が太陽の化身のように見えた」
一房髪をすくい、それにも唇を寄せる。
 「私にお前を愛させてくれ、悠羽。この身体も、そして心も、全てが私のものだということを証明してくれ」
 「洸聖様・・・・・」
 「そうでないと、私は何時お前が私のもとを去っていくか、怖くてたまらないままだ」
 こんな風に誰かに請う事など初めてだが、それが悠羽相手ならば少しも恥ずかしいとは思わなかった。頭一つ下げるくらいで悠
羽の許しを得られるのなら容易いことだ。
洸聖は、見た目が美しい身体を抱きたいのではない。
抱きたいと思うのが目の前の、この子供のような身体の主なのだ。



 一言一言が心に響いた。
覚悟をしているつもりでも、悠羽は洸聖の心を疑うことで恐怖心を誤魔化していたのかもしれない。
(洸聖様も同じ・・・・・)
自分が拒絶することを洸聖が恐れるのなら、洸聖はそんな思いは一生しないはずだ。悠羽は心から洸聖を想っているのだから。
言い換えれば、悠羽も怖がることは無いのだろう。洸聖がこの手を離すつもりが無いのなら。
 「・・・・・」
 悠羽は一度大きく深呼吸をした。
そして、重いと思っていた自分の腕をゆっくりと上げると、目を伏せたまま自分が纏っている服の紐を外し始める。
 「悠羽・・・・・」
それが、流されたからというわけではなく、自分から受け入れると決めたのだという悠羽の決意の表れだった。



 甘い甘い、口付けを交わしながら、洸聖は悠羽を手伝って服を脱がせていく。
華奢・・・・・という以上に細く頼りない身体は、子供のようにきめ細かく瑞々しかった。
 「・・・・・綺麗だ」
 「そのようなこと・・・・・」
世辞だと思ったのか、悠羽は手を止めて少し洸聖を睨んだ。
 「本当のことを言って何が悪い。お前はとても綺麗だ、悠羽」
美しさとは容姿だけではなく、その心根も十分に反映するものだということがよく分かり、洸聖はそっと悠羽の首筋に唇を寄せた。
 「!」
くすぐったかったのか、それとも別の感覚があったのか、途端に身体を震わせた悠羽を宥めるように、洸聖は唇をゆっくりと下へ移し
ていった。
綺麗に浮き出た首筋のくぼみを舌で舐め、空いた手で擽るように耳元や髪を撫でる。
やがて、もう片方の手は、可哀想なほど小さな、それでもピンと立ち上がった胸の飾りを摘みあげた。
 「こ、洸聖様!」
 「どうした」
 「そ、そんなところは・・・・・私は、女性のように膨らんではおりませんっ」
 その言い様が子供のようで、洸聖はこんな時だが楽しくて笑ってしまった。
 「それでもいいだろう」
 「で、でも・・・・・っ」
 「可愛がって欲しいと立ち上がっているのだ、愛でなくてどうする」
 「・・・・・っ」
 「それに、これも私のものだ、そうであろう」
そう言うと、洸聖はいきなり悠羽の小さな乳首を口の中に含んだ。
むずがる身体を抱きしめたまま、その乳首に歯を当てる。すると・・・・・洸聖の腹の辺りに、何やら小さな・・・・・それでも確かに硬く
熱いものが当たって、洸聖は自然と頬に笑みが浮かんだ。
(悠羽も確かに感じている)