必定の兆し
２９
セックスの主導権を海藤が握るのは何時ものことだったが、当然のことでも恥ずかしいと思う感情には変わりなかった。
特に、射精という男独特の快感の証をあからさまに見られるのは恥ずかしくてたまらず、真琴はベッドの中で身体を小さく丸めよう
とした。
「真琴」
チュッと、海藤が頬にキスをしてくれる。
その温かさに身体をプルッと震わせると、真琴はあっと気がついた。自分が吐き出してしまったもので汚れてしまった海藤の手を早く
綺麗にしなければ・・・・・そう思い、真琴はシーツを引っ張りながら海藤の方へと向き直る。
「・・・・・て」
「ん？」
「て、きれい、に・・・・・」
「・・・・・ああ」
自分が何を言いたいのか直ぐに気付いたらしい海藤に、真琴はホッと安堵をしたが、海藤は差し出したシーツを取ってはくれず、
そのまま自分の舌でそれを舐め取ってしまう。
その光景が目に入ってしまった真琴はますます顔を赤らめ、海藤の顔を見ることが出来ずに視線を泳がせてしまった。
真琴のものはどんなものでも喰らいたい。
柔らかな肌も、大きな目も、健気に震えるペニスも。
滲む汗も、吐き出した精液も。
全てが海藤にとっては愛しく尊いもので、甘く温かい、幸せの味がするのだ。
「真琴」
セックスという行為自体には慣れても、恥じらいは失くさない真琴は、海藤の言葉に顔を背けたまま・・・・・それでも、その手は海
藤の手を握って離さず、その仕草に笑みを漏らしながら、海藤は再び横を向いている真琴の項へと唇を寄せた。
「・・・・・っ」
汗で張り付いてしまった髪ごと歯を立てると、肌が粟立っているのが分かる。そのまま背中へと舌を這わせ、海藤は力が抜けてし
まった真琴の足を大きく開いた。
「あ・・・・・！」
「・・・・・」
今射精したばかりの真琴のペニスは力なく小さくなっていて、まだ濡れたままだ。
海藤はそれに構わず口に銜えると、そのまま唇と舌で愛撫を始めた。
「あっ、ちょっ、ま、待って、くだっ」
「・・・・・」
ピチャ ジュク
濡れたペニスと唇が擦りあう水音に、真琴は必死で海藤の肩を押し退けようとしていたが、いくら真琴に甘い海藤でも簡単に引く
ことは出来ない。一番感じる場所を、もっとも可愛がりたいのだ。
「あっ、や、や・・・・・っ」
口では否定の言葉を言うものの、口に含んだそのペニスは次第に力を取り戻し、勃ち上がってきたそれは海藤の口の中を突い
てきた。
既に濡れていた精液とは別に、再び先端から液が滲み出してきて、真琴の身体が再度快感を拾い集めてきたことを知ると、海藤
は更に口腔の奥までそれを含んだ。
ズチュ クチュ
「・・・・・っ」
淫らな水音と、ペニスに直接与えられる刺激に、真琴は再び快感を高まらせていく。
口腔での愛撫は、何度されても慣れることは出来ない。排泄器官で海藤の口を汚すことに申し訳なさと羞恥は消えることは無く
て、真琴は一方的に快感を与えられることが嫌だった。
（お、俺、もっ）
「か、かい・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・たか、し、さん」
思い切って名前を呼ぶと、海藤の動きが止まった。
そのまま目線を上げてくれた彼に一先ずホッとした真琴は、ズルズルと尻で後ずさりながら震える手を伸ばした。
「お、俺も、したい」
「真琴」
「させ、て」
「・・・・・無理はするなよ」
「・・・・・」
頷いた真琴の顔をしばらく見つめていた海藤は、真琴の願い通り身体を起こし、ベッドヘッドに上半身を預かるようにして座って
くれた。
目の前の海藤の引き締まった腹に付くかと思うほどに既にペニスは勃ち上がっている。自分のものとは大きさも形も色も、全てが
違う大人の男のペニスを両手で掴んだ真琴は、ちゅっと、その先端部分にキスをしてみた。
「・・・・・」
ピクッと揺れた先端に、感じているのだと思った真琴は安堵して、今度は口の中へと含む。
もちろん全てを銜えることは無理なので、先端部分を舌で舐め、竿の部分は手で擦った。
（あ・・・・・漏れて、きた）
口の中に広がり始めた苦い味。それが先走りの液で、与えられる愛撫に感じたからこそ滲み出てくるものだということは、同じ男
だからこそ分かる。
「・・・・・っ」
頭上では、海藤の押し殺したような吐息も聞こえて、真琴は自分のしていることに少しだけ自信を持った。
セックスをする相手は海藤しかいないし、彼は真琴に奉仕されるよりも自分が愛撫を与える立場を取るのでなかなか技術は上達
しないものの、自分の拙い愛撫でもこんなに感じてくれるのならば嬉しい。
「・・・・・っ」
（や、やだ・・・・・っ）
その時、海藤のペニスを銜えて愛撫を与えている立場だというのに、真琴は自身の下半身が熱く痺れてくるのに気付いた。
触ってもいないのに、シーツに擦れる自分のペニスからも先走りの液が滲んできているのも分かる。
（な、何、やってるんだ、俺っ）
海藤のペニスを銜えながら、シーツに自身のペニスを擦り付けるという痴態を晒す自分に、真琴は憤死しそうになりながらも止め
ることが出来ず、どうか気付かれないようにと祈るしかなかった。
（真琴？）
自分の下半身に顔を埋めている真琴の背中。
少し浮き上がった腰が、僅かに揺れていることに海藤は気付いた。
「・・・・・」
「んっ、ふっ」
クチュ クチュ
口での愛撫は休まないまま、どうやらそれをしている真琴自身も感じてきたらしい。
海藤はふっと目を細めると、背を預けていたベッドヘッドから身体を起こし、少し前屈みになって、真琴の背中越しに尻の狭間へ
と手を伸ばした。
「！」
「・・・・・っ」
いきなり、尻の狭間に触れられて驚いたのか、真琴の歯が一瞬海藤のペニスの先端に当たり、痛みが走ったが、もちろん愛撫
の一端を超えるほどの激痛ではない。
「・・・・・」
海藤はそのまま、真琴自身のペニスから零れた先走りの液や精液で濡れたそこを指先で何度も撫でた。
「ま、待ってっ」
その刺激に、真琴は口から海藤のペニスを出して言うが、海藤は手を休めない。
「どうした、もう終わりか？」
「た、貴士、さ・・・・・っ、そ、れっ」
「俺を愛してくれるんじゃないのか？」
真琴の羞恥を承知した上でそう言うと、真琴は口ごもって反論出来なくなってしまった。真琴の優しさを利用した言葉なのだが、
２人きりのこんな時こそ、真琴にはもっと奔放に自分を求めて欲しかった。
今も十分に愛されていると感じるが、もっと、もっと、欲しいという態度を見せてもらいたい。
「・・・・・」
（・・・・・悪い、真琴）
自分のそんな我が儘に真琴が何時も応えてくれるからこそ、自分はどんどん与えてもらう愛情に貪欲になっていくのだ。
自分の方が海藤を感じさせたいと思っていたのに、急に下半身の、それも敏感な場所に触れられて思わず歯を立ててしまった。
真琴は再び海藤のペニスを口に含むと、その場所に宥めるように舌を絡める。
「・・・・・っ」
自分が愛撫を再開したことで、海藤も手を動かし始めた。
ムズムズするし、ここを解さなければ海藤を受け入れられないと分かっているのに、どうしても気持ちが高まってしまうまでは恥ずか
しさの方が増してしまうのだ。
（こ、こっち、集、中・・・・・っ）
海藤への愛撫に集中していようと懸命に舌や手を動かしていても、焦れるように蕾の周りを触る指先が気になって仕方が無い。
クチュ
「！」
そして、その指先が中に入り込んだ瞬間、真琴はとうとう海藤のペニスを口から出すと、縋るように竿を握り締めながら声を上げて
しまった。
「あっ・・・・・くっ」
「痛むか？」
「・・・・・っ」
真琴は首を横に振った。
痛みは、無い。圧迫感や異物感は感じるものの、十分に濡れているらしい海藤の指を、自分のそこは柔軟に受け入れている。
「ふ・・・・・っ」
根元まで差し入れられた指は、真琴の快感を探るように襞を掻き、刺激し始めた。ゾワゾワとした感覚が下半身を襲い、真琴
は海藤の腰に縋るようにしがみつく。
「こ、こわ・・・・・」
「大丈夫だ」
「で、でも・・・・・」
「ここを愛しているのは俺の指だ。怖がることも、恐れることも無いだろう？」
次々に襲ってくる快感に声を震わせてしまう真琴に、海藤はそう言いながらも中の指を動かすのを止めなかった。
身体の中を愛撫されるのは、その刺激や快感もダイレクトに伝えてきて、真琴は荒く息をつく唇を閉じることが出来なくて、シー
ツに唾液が落ちてしまう。
（き・・・・・もち、い・・・・・）
羞恥は相変わらず消えないものの、圧迫感や異物感は既に薄らぎ、次に真琴を襲っているのは快感だ。
入り込んでいた２本目の指と一緒に、自分の中を自在に動き回るそれに、ピクピクと身体を揺らし、もっと欲しいという欲望が頭の
中を支配してくる。
「は・・・・・やくっ」
「真琴」
「も・・・・・、い、からっ」
まだ、多分十分に解れていないことは分かっていても、もう熱くて大きなものに身体を一杯に満たして欲しい。
クチャッ
その言葉に、海藤は一度指を引き抜くと、そのまま真琴の身体を仰向けに押し倒した。
「悪い・・・・・っ」
そう、切迫したように言うのは、海藤も自分を感じたいと思っているのだ・・・・・そんな歓喜に胸が支配された瞬間、ズンッと物凄い
圧迫感と熱を伴った凶器が真琴の下半身を貫いた。
