外持雨 ほまちあめ
10
痛みと、熱さと、困惑と・・・・・様々な感情が倉橋の頭の中を過ぎっていた。
前回、先端だけとはいえ綾辻のペニスを受け入れた倉橋は、あの時の痛みを鮮烈に覚えていた。その痛みに耐えることを今回
は覚悟していたつもりだったが、全てを受け入れるのはそんな覚悟ではとても足りなかったらしい。
「・・・・・ぅ・・・・・っ」
(何だ・・・・・これは・・・・・ざわざわする・・・・・っ)
自分の腹の奥まで、綾辻のペニスが侵入している気がする。ドクドクという脈動と火傷しそうな熱さを身体の奥底で感じて、
倉橋は自分がどうしていいのか分からなかった。
「・・・・・己、克己」
誰かが・・・・・名を呼んでいる。
「おい」
衝撃に耐えるように硬く閉じていた瞼を開くと、真上に綾辻の顔が見えた。
(・・・・・変、な、顔・・・・・)
何時も余裕を持って笑っている男のはずなのに、今は焦ったような、心配そうな表情をしている。
この男が次に何を言おうとしているのかを敏感に感じ取った倉橋は、息をするだけでも感じる痛みを無理矢理押し殺して言っ
た。
「あ・・・・・やまらな、いで、ください・・・・・。私も、望んだこと、なんです、から」
「克己・・・・・」
「あなただけが、悪者になるなんて・・・・・許しません、よ」
「・・・・・そうだな、俺達は共犯だった」
綾辻は笑った。
自分ほどではないにしても、額に滲んだ汗を見れば綾辻も相当な痛みを感じているだろうという事は分かる。
これほどの苦痛を感じてでも、自分達は身体を結ぶことを望んだのだ・・・・・そう思うと、倉橋は案外自分達もまだ若いのだなと
思って笑みが浮かんだ。
「そんな顔して・・・・・まだ余裕のようだな」
「うあっ!」
いきなり、綾辻が動き出した。
綾辻は繋がり合う自分達のその部分をじっと見つめて動いていた。
ここまでようやく辿り着いたという思いとは裏腹に、手に入れたからこそさらに渇望するという感情が新たに生まれたことが予定外
といえばそうだが。
「・・・・・んっ・・・・・・んっ」
自分の唇を噛み締め、声を漏らすまいとしているが、綾辻の身体の動きに合わせてどうしても吐息のような呻き声が漏れて
いる倉橋は、とても快感を感じているようには見えなかった。
それでも、倉橋の中は柔軟に綾辻のペニスを受け入れ、切れている様子も無いようだ。
倉橋の身体のことを考えれば、正面から抱き合うこの形はかなり辛い体勢であることは分かるが、一番最初に射精する時は
倉橋の顔が見ていたいという自分の思いと、誰が抱いているのかを倉橋に分かってもらう為にも、この体勢を選んだ。
「・・・・・っ」
白い尻の狭間・・・・・ペニスの抜き差しを続けているうちに赤くなってしまった蕾の入口。痛々しいのに、卑猥で艶かしくて、綾
辻は思わず目を細めて見つめてしまう。
「・・・・・そっ」
(この俺が、もう持たない・・・・・っ)
もっと、倉橋を感じさせたかった。普段は感情の起伏をほとんど見せない倉橋に、我を忘れて自分を求めて欲しかった。
だが・・・・・我を忘れているのは自分の方だったのかもしれない。焦がれて焦がれて、欲しくてたまらなかったこの綺麗な心と身体
がこの手に落ちてきたのだ、綾辻はとにかく一度その中に精を吐き出してしまいたかった。
「克・・・・・己っ」
「・・・・・ぅぁあっつ!!」
ぐっと腰を突き入れ、綾辻はその最奥で射精した。
精液を吐き出しながらもペニスは動かし続け、自分の匂いを倉橋の身体の中に浸み込ませるように精液を塗り込めていく。
「あ・・・・あっ・・・・・っ」
身体の中に精液を感じるという、本来は男が感じるはずが無い感触に、倉橋の内壁はビクビクと振るえ、それでも綾辻のペニス
を離そうとはせずにギュッと絞り込んでいる。
(名器って・・・・・言ったら怒るだろうな)
少しも硬度が落ちないままのペニスを抜くことなく、綾辻は一度射精して落ち着いたのか、更に倉橋を追い詰め始めた。
「ま、待って、今イッたんじゃ・・・・・あぅっ!」
少しも止まる気配の無い綾辻に、倉橋は頬を紅潮させたまま途惑ったように言う。
綾辻はそれにウインクして笑って見せた。
「こんなの、まだ全然序盤」
「・・・・・え?」
ペニスを抜かないまま、綾辻は何度か体位を変えた。
そのたびに倉橋は苦しそうに眉を潜めるがその顔にもそそられ、若い頃よりは落ち着いていたはずの肉欲が相手限定では全く制
御が利かないのだということを綾辻は改めて思い知っていた。
「あっ、あっ、んっつ・・・・・んっ」
女よりも低いが、十二分に甘い嬌声が倉橋の口を付いて出ている。痛みは続いているだろうが、その中にも快感を拾えるよう
になったようだ。
(教え甲斐がありそうな身体だ・・・・・っ)
一度で終わりたくないこの関係を続けてもらう為にも、倉橋にはより深い快感を覚えておいてもらわないといけない。
身体を繋ぐことが出来るのなら自分が受身でもいいと言った事は・・・・・とりあえずは無しだ。
「くっ」
「ふぁっ!」
今、倉橋は綾辻にしなやかな背中を見せてくれている。
辛うじて肘で上半身を支えている倉橋の白い肌がうっすらと赤く染まり、その表に浮き出てきた一匹の龍。前に見た時は神々
しいように思えたその龍も、今の綾辻の身体の下では鮮やかに、艶やかに動いていた。
「克己っ、龍が、出てるぞっ」
「あ、あなたもっ、でしょうっ」
「俺が胸に彫ってたら、お前の龍と抱き合えたんだがな・・・・・っ」
それでも上から見れば、きっと2匹の龍は離れまいと絡み合って見えているはずだ。
そう考えると、綾辻は不思議な快感を覚えて背中を振るわせた。
「・・・・・っ」
細い腰をしっかりと掴み、小さな蕾を穿つ自分のペニスを見る。
もう何度中で出したのかも分からない精液が突き入れるたびに自分のペニスにも絡み付いてきて、綾辻はその感触に眉を顰め
た。
今までほとんどセーフセックスで、ゴムを着けないでした相手は本当に限られていたが、何も着けないままで熱い内壁を感じるの
がこれほど心地よいとは思ってもみなかった。
「・・・・・はっ、はっ・・・・・っ」
「んあっ、あっ」
倉橋の手が、何かに縋るようにシーツを握り締めている。
綾辻はその手を上からギュッと握り締めると、更に腰の動きを早めた。
もう何度目かもわからない射精感が腰を震わせた。
(・・・・・性欲、魔人め)
一度だけだと言われたわけではないが、初心者相手にこんなにも何度も挑んでくるとは思わなかった。
さすがに綾辻への愛おしさと同時に呆れの気持ちも生まれてしまった倉橋は、ゆるゆると後ろを振り向いて掠れる声で言った。
「い・・・・・かげん、やめて・・・・・くだ、さい」
「・・・・・そんな顔すれば逆効果なんだがな」
驚くことに、再び自分の中で硬さを取り戻していく綾辻のペニスに肩を揺らした倉橋だったが、さすがにやり過ぎたと思ったのか綾
辻は蕾からペニスを引き抜いた。
クニュッ
耳を塞ぎたくなるほどのいやらしい音がして、身体の中からペニスが出て行くのを、倉橋は唇を噛み締めて耐えた。
自分の太股を粘ついた液が流れているのを感じて妙にざわついた気持ちになったが、それを綾辻には悟らせたくなかった。
「克己」
ちゅっと、綾辻が自分の背中にキスを落とす。
甘い恋人同士のようなその仕草にどう反応していいのか分からず、倉橋は強張った手を何とか動かして、自分の身体を脱ぎ
捨てた浴衣で隠した。
「勿体無い。せっかく俺の物になったんだ、もっと見せてくれたっていいだろう」
「・・・・・今日だけじゃないんですから・・・・・もういいでしょう」
さりげなさを装いながら、緊張して口にした自分の言葉を分かってくれただろうか・・・・・綾辻に背中を向けたまま硬くしていた倉
橋の身体が、直ぐに厚く大きな胸の中に抱き込められた。
「・・・・・そうだったな。やっぱり克己は俺より頭がいい」
「・・・・・そうですよ」
正確に自分の意図をくみ取ってくれる綾辻の存在が嬉しい。
倉橋は胸に回っている手に自分の手を重ねながら、誰かに抱きしめてもらうことの心地よさを味わっていた。
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