海上の絶対君主
第一章 支配者の弱点
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※ここでの『』の言葉は日本語です
「お疲れさん」
夜もかなり更けてしまった。
食堂に集まったラディスラス達は、酒とジェイが作ってくれたツマミを前に、多少疲れた様子を見せながらも笑い合った。
不意の襲撃を受けて、このくらいで済めばかなりいい方だ。怪我人はいるが重傷者はいないし、薬代にかこつけた金も少々多
めに頂いた。
「船は大丈夫か?」
「日が昇った後もう一度確かめますが、大した損傷はないとは思います。ただ、船首をぶつけられた側面は、やはりどこか港に
寄って見ないと何とも言えませんね」
甲板長として、ラシェルは慎重にそう言った。
確かに海の上にいたままでは見えない箇所もあるだろうと、ラディスラスは空を仰いで溜め息をついた。
「港に行くしかないか」
「どこに行きます?リーズンに戻りますか?」
「・・・・・いや、駄目だ」
(あそこはタマを拾った海に近過ぎる)
前回の寄港地リーズンは、確かに大きな港で設備も整っている。
しかし、あの町で珠生は逃げ出そうとしたのだ、またそんな気になっては困る。
少し考えたラディスラスは、ふとラシェルの顔を見て言った。
「カノイに行くか」
「・・・・・っ」
コップを持つラシェルの指が僅かに震えた。
「ここからなら一週間・・・・・いや、10日もあれば着くだろう。それぐらいは船はもつだろう?甲板長」
「ラディ・・・・・」
「お前も気にしているはずだ。港に行ったら少し時間をやる。・・・・・大事な王子に会ってこい」
親衛隊長だったラシェルが、命懸けで守ってきた大切な皇太子、ミシュア。いや、もう皇太子という身分は剥奪されて、ただの
王子という身分になっているはずだ。
権力争いに負け、温暖な南の大国ジアーラ国から、静養と称して流されたのは北の強国、カノイ帝国だ。
4年前別れてから会っていない元主君の身をラシェルが常に案じていることを、ラディスラスは側で見ていてよく分かっていた。
(まあ、いい切っ掛けかもしれないしな)
どちらにせよ、一度は会わねばならないはずだ。
風の噂で聞く重病説や死亡説を払拭する為にも、ラシェル自身の目で確かめさせた方がいい。
「ここからそう遠くないんだ、そうしろ」
「しかし・・・・・」
「会うのが怖いのか?会って、お前が慕っていた時とは様変わりしているかもしれない元主君に会うのが」
「そんなことっ、俺が恐れるはずがない!」
「ならば、いいな」
言質をとったと、ラディスラスが笑みを浮かべると、ラシェルがあっと目を見開いた。
しかし、直ぐに苦笑を浮かべると、そのまま頭を下げる。誰かに背をおしてもらわなければ、きっと自分ではなかなか動くことが出
来なかっただろう。
思い掛けなく元同じ親衛隊にいたイザークと再会し、その気持ちは更に大きくなってきていたのだ。
「すまない、ラディス」
「礼を言うのは、本当に目的地に着いてからの方がいいですよ、ラシェル」
「俺の大切な片腕の為だ、遠慮なんて馬鹿なことはしなくていい」
取りあえずの予定も決まり、4人は今日の疲れを労いあいながら、酒盛りはかなり遅くまで続いた。
ラディスラスが部屋に戻ると、珠生は当然のように眠っていた。
他の部屋よりは大きめの寝台の真ん中を陣取って、気持ち良さそうに眠っている姿は本当に慣れた猫のようだ。
「今日は大活躍だったな、タマ」
「・・・・・」
ラディスラスは枕元の台の上を見て更に笑みを深めた。
そこには、今日の活躍の代償として、相手の船から貰った(?)ロクトが山盛りに積んである。
もちろん、こんな子供用の菓子などを積んでいた男達には見えないので、これもきっと略奪した相手方から奪い取った物なのだ
ろう。
(あれくらいで済んで良かった・・・・・)
レジック号は、同じ海賊の中でも性質が悪い方だ。数日前にも船を襲い、女まで殺していたと珠生が知っていたとしたら、あ
んな風に手当てまでしてやろうとは思わなかったかもしれない。
(いや、同じ海賊の俺達も怖がられたかもな)
どんな環境で育ったのか、珠生は我儘で無鉄砲だが、反面、素直で暴力には弱い。
そんな珠生に、海賊とは人を殺すこともあるのだと知られれば・・・・・どんな目で見られるのか、何事にも恐れを抱かないはずの
ラディスラスも怖かった。
「タマ・・・・・傍にいてくれ・・・・・」
(もう、お前を手放すなんて考えられないんだ・・・・・)
ラディスラスは、ゆっくりと珠生の胸元に手を滑らせ、その唇に口付けを落とした。
「・・・・・」
小さく応えを返すものの、珠生はまだ目覚めない。
それに小さく笑うと、ラディスラスは続けて珠生の胸元の小さな飾りを口に含んで愛撫を始める。
久し振りに剣を交えたせいか、それとも酒に酔ってしまっているのか、ラディスラスは自分の身体の中が熱く滾っているのを自覚し
ていた。
(・・・・・く・・・・・るし・・・・・?)
息が出来なくなって、珠生は緩く首を振った。
しかし、その呼吸は少しも楽にはならず、更にゾクゾクとした感覚が下半身に走り、珠生は無意識の内に焦ってしまった。
(漏らし、ちゃう・・・・・)
この歳でおねしょは恥ずかしいと、疲れ切った意識をなんとか浮上させて瞼を開いた珠生は、
(え?)
胸元で蠢く黒いものがぼんやりと視界に入ってきた。
『お、お化けっ?』
「ん?起きたのか?」
くすぐったい感触と共に、すでに聞き慣れた声がした。
「ラ、ラディ?」
「寝てていいぞ、タマ。気持ちのいいことしかしないからな」
「え?えっ?」
チクッとした痛みを感じ、それまでのぼんやりとした思考からはっきりと気がついた珠生は、自分の胸元に顔を埋めているラディ
スラスの姿をはっきりと認識した。
「ラ、ラディッ!やめ・・・・・!」
ラディスラスは、珠生の小さな乳首を舐め濡らしていた。
「んっ、やっ」
起きぬけで力が入らない珠生はラディスラスの片手で容易に腕を押さえ込まれていた。
(こ、こんな日に、あんなスケベなことしようとするのかっ?)
一緒に敵を撃退したこんな日に、よくやったと頭を撫でながら菓子をくれたその後に、よくもこんな真似が出来ると呆れると同時
に怒りがこみ上げてしまう。
(け、蹴ってやる!)
さっきの大男に食らわした一撃のように(あれは偶然だったが)、ラディスラスの急所を蹴ってやろうと足を上げかけた珠生は、そ
の動きを利用したラディスラスにそのまま下半身を押さえ込まれた。
(え?)
そのままするりと服の中にもぐりこんだラディスラスの手は、いきなり珠生のペニスを掴む。
『ひゃあ!!』
心構えも無いままのその刺激に、珠生はビクッと身体を震わせた。
恐怖と、嫌悪感を感じて・・・・・いや・・・・・。
(う・・・・・そ・・・・・)
確かに激しい衝撃を感じたのに、怖いとか気持ち悪いとか感じない自分の気持ちに珠生は衝撃を受けてしまった。
少し前まで、性的に触れられることがあれほど怖かったのに、今の自分の身体は恐怖よりも快感の方をより貪欲に求めている。
何かか身体の中で変わってしまったのかと、珠生はその方が怖くなってしまった。
「ラ、ラディ・・・・・」
手を伸ばしたその先には自分を組み敷くラディスラスしかいない。それでも、珠生は助けを求めるようにその名前を呼んだ。
そんな珠生の唇にちゅっと軽く口付けたラディスラスは、何時ものように自信たっぷりな笑みを浮かべながら言った。
「怖がるな、タマ。お前に酷いことはしない」
そう言いながら再びされたキスは、少しだけ酒の香りがする。
珠生はどうしたらいいのか分からないまま、ギュっとラディスラスの服を掴んでいた。
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