海上の絶対君主
第一章 支配者の弱点
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※ここでの『』の言葉は日本語です
その日の朝、食堂は異様な雰囲気に包まれていた。
「ほら、タマ、これも食べろ」
何があったのか、かなり上機嫌で笑いながら、自分の食事を次々に珠生に貢いでいくラディスラスと。
「タマ、食事が済んだら、私の手伝いをしてくださいね。怪我をした船員達の消毒をして回らなければなりませんから」
ラディスラスを出来るだけ視界に入れないように、珠生にだけ優しく話し掛けるアズハルと。
「うん、アズハル、手伝う」
ラディスラスが皿の上に乗せた肉を頬張りながら、身体はアズハルの方へ向けている珠生と。
見慣れているといえばそうなのだが、ラディスラスとアズハルの雰囲気が違い過ぎて、誰もこのテーブルに近付くことが出来なかっ
た。
「あなた、子供に何をしたんですか!!」
昨夜、行為の直後を見たアズハルは、そう怒鳴りながら部屋の中に入ってきた。
突然の彼の登場に硬直したように動けなくなっている珠生の裸体を見ると眉を顰め、そのまま上掛けを珠生の身体にグルッと巻
きつける。
「今夜、あんなことがあったばかりなのに、まさか盛るとは思いませんでしたよ、ラディ」
「仕方ないだろう。欲しくてたまらなかった」
言い訳をするつもりは無かった。
今までもずっと珠生が大事だと、欲しいのだという態度を取ってきたし、それはアズハルも分かっていたはずだ。
確かに他の船と争ったその夜に手を出すとは自分でも直前まで考えてはいなかったが、争いで滾った血はそのまま欲望の方へと
流れていったらしい。
そのままアズハルが珠生を自分の部屋に連れて行ったのは面白くは無かったが、身体以上に心が満足したラディスラスは、アズ
ハルのどんな小言も聞き流す余裕が出来た。
「聞いてますか、ラディ」
「聞いてる、聞いてる」
確かに、アズハルが言うのも分かる。
珠生を抱いたことに後悔はしていないが、まだ幼いこの身体を組み敷いた時、このまま抱き潰してしまうのではないかと危惧したこ
とも本当だ。
ただ、それ以上に珠生を欲しいと思う欲望が大きかったからだが、一度手に入れて安心した今は、もっとその心も身体も熟すまで
待てるような気がした。
「ラディ」
「分かってる。まだ子供のタマに無理は強いらない」
「当たり前です。どの国でも男女の区別無く、12、3の子供を陵辱すれば罪になるんですよ。船の上だからといってやりたい放
題では困りますね」
「だから分かってるって」
はいはいと頷きながらアズハルにそう言うと、ラディスラスは自分達の間に座っている珠生の頭をクシャッと撫でた。
「だから、警戒するな、タマ」
「・・・・・」
「タマ?」
(いい気味っ。スケベ魔人にはもっともっと怒ってやって)
モグモグと口を動かしながら、珠生はアズハルに怒られているらしい(何を言っているのかはよく分からなかったが)ラディスラスをざ
まあ見ろと思っていた。
あの後、アズハルの部屋に連れて行かれた珠生は、治療と後始末という事で、赤面するようなことをアズハルにされてしまったの
だ。
アズハルの手や、目に、まだ医者という冷静さと優しさを感じたので、なんとか我慢は出来たが。
(俺の為だって分かってても、すっごく恥ずかしかったんだから!)
なぜか身体は自分の気持ちを裏切ってラディスラスを受け入れてしまったが、同意でないセックスは暴力と同じだと思う。
たとえそれが感じて、気持ち良かったとしても、だ。
(わわ、気持ちよくなんか無かったってば・・・・・っ。)
珠生は慌てて自分の思考を振り払おうとしたが、ちょうどその時怒ったようなアズハルの言葉が耳に入った。
「どの国でも男女の区別無く、12、3の子供を陵辱すれば罪になるんですよ 」
(12、3?)
いきなり出た数字が引っ掛かった。
数を数える時(それは主に食べ物だが)に知っておいた方がいいと思い、珠生はテッドに30までは教えてもらったので数字は分か
る。
(説教の中に数字なんて・・・・・何発殴っていいかってことか?)
それなら、せめて5発は拳骨で殴りたいなと思い(それ以上は手が痛くなりそうだ)、珠生はツンッとアズハルの服を引っ張った。
「アズハル」
「何ですか、タマ」
ラディスラスに向けた厳しい視線とは裏腹の優しい口調のアズハルに、珠生はワクワクと瞳を輝かせながら聞いた。
「アズハル、12、何?」
「12?ああ、12歳、あなたの歳のことですよ。まだこんなに幼いのに、大人の醜い欲望をぶつけられて・・・・・可哀想に」
「と、し?」
珠生は自分の予想が外れたようだという事が分かってガッカリしたが、それと同時に説明してくれたアズハルの言葉を頭の中で繰
り返した。
(とし・・・・・って、確か・・・・・)
「タマ?どうしました?」
アズハルの問い掛けを聞きながら、珠生は数を教えてくれた時のテッドの言葉を必死に思い出す。
「僕は13歳です。本当はまだ船には乗せられないって言われたんですけど、どうしても頭の船に乗りたくて」
(確か・・・・・歳って、年齢のことだったよな?え?じゃあ、俺って12歳くらいに見られてるってことっ?)
「違う!!」
珠生はバンッと皿を置いて立ち上がった。
「俺は、18!!」
「え?」
「タマ?18ってなんだ?」
本当に分からないのか不思議そうに自分を見つめるラディスラスとアズハルに、珠生は更に大声で叫んだ。
「俺は18歳!12歳じゃないってば!!」
「「!!」」
その瞬間、食堂の中は凄まじいほどのどよめきが上がった。
「・・・・・本当に、18なのか?」
「そう!見て分かるだろ!!」
「・・・・・」
(全く見えないから疑ってるんだが・・・・・)
両手を腰に当てて仁王立ちになっている珠生の顔は、本当に怒ってるぞというように頬を膨らませている。
その態度こそ子供っぽいのだが、本人がそう言うのだから間違いではないのだろう。
(18・・・・・か。こいつの国の人間は皆幼いのか?)
珠生が一体どういった出身の人間なのかは今もって謎だが、少なくとも自分達よりは身体の発育は良くない様に思えた。
18といえば本来なら立派な成人として扱われても可笑しくはないはずなのに、珠生の見た目はどう多めに見ても13歳のテッドと
同じくらいにしか見えず、さらにその言動は珠生をもっと幼く見せていた。
多分、自分以外の人間も・・・・・子供に手を出したと怒っていたアズハルももちろん、この驚きの事実には声も出ないのか固まっ
てしまっている。
しかし、ふと、ラディスラスは思った。
この歳ならば誰に文句を言われることもない、と。
「・・・・・なんだ、やりたい放題か」
「なにっ?」
思わず呟いたラディスラスの言葉に、珠生は怒ったように聞き返す。
それに、ラディスラスは何時もの自信たっぷりな笑みを見せると、不意にその小さな身体を腕の中に抱きしめた。
いつもならば直ぐに引き剥がしにくるアズハルも、先ほどの衝撃からまだ抜け切れないのか行動は鈍く、ラディスラスは嫌がる珠生
の頬に音をたてて口付けした。
「はっ、離せ!」
「今夜から楽しみだな、タマ」
「なっ、なんだよ!なに言ってるの!」
「はは、さあな」
どんな時でもこんなに自分の感情を高まらせてくれる珠生が可愛くて愛しくて仕方がない。
更に、(見掛けはともかく)18歳という大人だと分かったからには、これからは誰に気兼ねすることも無く、あの甘い身体を愛するこ
とも出来るはずだ。
これまでに無く退屈しない航海になりそうだと、ラディスラスは腕の中で暴れ続ける珠生の身体を抱きしめたまま、楽しそうにずっと
笑い続けた。
end
第一章 支配者の弱点 (完)
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第一章完です。
最後の最後で、タマの年齢をばらしちゃいました。エイバル中驚いたようです(笑)。
次回は、ラシェルの元ご主人の王子様やタマのパパなど、新たなキャラも登場する予定。
ラブラブなタマとラディも早く書いてあげたいです。