時間飛行









                                                          
『』は異国語です




 「・・・・・なんか、ムカつく」
 「・・・・・うん」
 「・・・・・ですね」



 何とか早朝から開いている質屋を探してアルティウスが提供してくれた腕輪を換金したが、身分証明なども何もなかっ
た為に店主を口説くのは大変だった。
困っている珠生を見かねたのか、シエンがにっこりと笑って対応してくれたが、王族のオーラが有るのか珠生の時よりは店
主の対応は違った。
それでも足元を見られて金額はかなり低くなったらしいが・・・・・。
(それでも100万って・・・・・あれ、いったいいくらするんだ?)
 考えると怖くなって、珠生は早々に頭を振ってその思考から逃れると、そのまま足はブティックに向かった。
とにかく外に出るにもあの格好では仮装行列でしかないからだ。
 大体の背格好はシエンに合わせたが、身長があり、細身ながらもしっかり付いた筋肉と、長い手足、そしてノーブルな
美貌に店員は張り切って服を選んでくれた。
それをそのまま持って帰ったのだが・・・・・。




 とてもブランド物は買えないと、珠生が選んだのはごくシンプルなシャツにジーンズがほとんどだった。
既に着替えていたシエンも、白のジーンズに薄いピンクのシャツを着ている。
金髪に青い瞳のシエンには王子様みたいに見えると店員に好評だったスタイルだ。
 『・・・・・シエン、かっこいい・・・・・』
 『ソウが気に入ってくれればいいんですが・・・・・』
今まで全く着た事がない服に途惑っていたシエンも、嬉しそうな蒼の言葉にホッとしたようだ。
 『窮屈な衣だな。なんだ、この紐は、邪魔だが』
 口では文句を言いながら、手取り足取り有希から服を着せてもらうのは嬉しいらしいアルティウスは、柄物のTシャツに
足にピッタリなブラックジーンズ、そして、ラディスラスは店員に勧められるまま買ってしまった黒の革のパンツに黒のタンクトッ
プにシャツの重ね着だ。
 『まあ、動きやすいがな』
 『・・・・・』
 『タマ?』
 『・・・・・いいなあ、裾を切らないでいいなんて』
 『ん?』
 金額の関係から選んだのはそれ程有名ではないごく普通の服ばかりだ。
しかし、黒髪長髪のラディスラスとアルティウスが後ろで髪を一本に縛り、ゴツいベルトをすればまるで・・・・・。
 「なんだかバンドマン?」
 「3人ともモデルみたいだよな」
とにかく身長があり、手も足も長く日本人離れした精悍な容貌の男達は、どこか目立って・・・・・悔しいがカッコイイ。
(女は絶対目を付けるよな)
こんなにもカッコイイ男達が自分ではボタンも嵌められないということを知ったら女はどう思うだろうか。
(きっと、可愛いって言うんだろうなあ)
 少し遅めの朝食(と、いうより昼食)は、コンビニでお握りと惣菜パンを買ってきた。
とても料理をする時間も、その腕も無かったし、無性にお握りが食べたかったからだ。
 「わ!ツナマヨ!」
 「焼きタラコも!」
 「俺は梅干が食べたくってさあ~」
 歓喜の声を上げながら3人はお握りに齧り付く。
本当に久し振りの日本の米に、有希と蒼は嬉しそうにあっという間に1個を完食していた。



(・・・・・なんだ、これは)
 アルティウスは薄っぺらいパンを見下ろした。
いや、多分パンだとは思うが、自分が何時も口にしているものよりも柔らかく白く、緑や赤、そして黄色い何かが挟まれて
いる。
(食せるのか・・・・・?)
 見ればシエンも手を止めてそれを見下ろしていた。
王家の人間は毒物での暗殺というのも過去にあるせいか、見知らぬ食べ物にはある程度警戒してしまう。しかも、ここは
自分達の生きてきた世界ではないのだ。
 『・・・・・』
 『・・・・・』
 お互いの伴侶に聞けば早いのかもしれないが、そうすれば愛しい者達が住んでいた地の食べ物を疑っているという事に
なってしまうだろう。
(どうすれば・・・・・)
空腹と、疑念と・・・・・しばらく動かなかったアルティウスの耳に、暢気な男の声が聞こえてきた。
 『美味いな、これ。変わった味だが面白い』
 バクバクと何の躊躇いも無く目の前の物をたいらげていたラディスラスは、少しも動いていなかったアルティウスに視線を
向けて言う。
 『食べないのか?それなら俺が・・・・・』
 『断る』
この男がピンピンしているのならば問題は無いだろうと、アルティウスとシエンは視線を交わしてようやくその変わったパンを
口にした。



 『ソウ、私は少し外を歩いてみたいのですが』
 『え?』
 『あなたが住んでいた世界をこの目で見たいのです』
 いずれは・・・・・時間は分からないが、自分達が元の世界に帰れるという話は有希に聞いた。
そして、一番心配だった蒼のことも、自分と情を交わした故にこの世界ではなくバリハンに戻るという事も聞いて安心して
いる。
だからこそ、せっかくのこの機会を逃したくは無かった。
元々、色んな国の文化のことも学んできたシエンは、この不思議な世界も一種の他国だと思えた。ならば、その国の文
化を肌で感じてみたいと思う。
 『駄目でしょうか?』



 『駄目って・・・・・ことは、ないと、思う・・・・・けど』
 蒼は少し考えるように首を傾げた。
(今は色んな国の人がいても可笑しくないしな・・・・・)
金色のような髪に青い瞳・・・・・はるか昔の日本ならともかく、今ならば全く不思議には思われないだろう。
蒼としても、自分のいた世界をシエンに実際に感じて欲しいと思う。どうして現代に戻れたかは分からないが(蒼と珠生は
有希の話を聞いていなかった)、これはもう二度とないチャンスかもしれない。
 「タマ、案内してよ」
 「え?」
 珠生は自分用にと買ってきた大好きな雪見大福を頬張ったまま顔を上げた。
 「この町のこと、俺分かんないし」
 「蒼、でも、その人も・・・・・」
 「もちろん、シエンも一緒。俺の住んでいた世界、この日本のことをもっと知ってもらいたいんだ」
 「ソウ・・・・・」
蒼の言葉を聞き取ったシエンは嬉しそうに微笑んで蒼を抱きしめた。
 「ありがとう」
 「シ、シエン」
(なんか・・・・・浮気してる感じ)
何時もと全く違う服装のシエンに抱きしめられると、肌に触れる感触も全く違う感じで不思議だった。シエンであってシエ
ンでない、全く別の人間に抱きしめられている感じなのだ。
(でも、シエン以外の男はごめんだけどな)
あくまでもシエンが好きなだけで、男が好きなのとは違う。
蒼は自分の考えに赤面しながらも、お願いという風に珠生を見つめた。
 「・・・・・でも、だったら、後2人も連れて行かなくちゃ駄目だろ?」
まさか有希とラディスラスを(アルティウスもいるが)置いては行けないと、珠生は眉を顰めながら唸っている。
 「大丈夫だって!シエンは多少日本のこと分かるはずだし、アルは有希が面倒見てくれるし!な?」
 「え、あ、はい」
 「そっちのでかいのはタマが面倒見るだろ?」
 「え~っ?」



(理不尽な気がする・・・・・)
 有希と蒼は、それぞれ相手は自分の旦那で(それもおかしいが)、とにかく愛情を持っている相手なので多少の不可
解な言動も多大な面倒も我慢出来るだろう。
しかし、自分とラディスラスは違う。
(結婚なんておろか、恋人でもないし)
たった1回不可抗力でセックスしただけだ。
(それで、面倒みきれるか~?)
 多分・・・・・いや、きっと、町に出ればラディスラス達にとっては不思議なことばかり目に入るだろう。
車だって見たことはないし、アスファルトの道や、ずらっと並ぶ店など、驚くラディスラスにどう説明していいのかも全く分から
ない。
 「タマ・・・・・」
 蒼はお願いと必死に両手を合わせていた。
この顔を見て断れる人間がいたら見てみたい。
 「・・・・・分かった」
 「ホントッ?」
 「ただし!、あいつが暴走したら一緒に止めろよ?」
 「あいつ?・・・・・あ、うん、分かった」
珠生の言葉が誰を指しているのか直ぐに悟った蒼は、任しておけと自信満々に頷いて見せた。



 『だから、外、いく』
 『ああ、分かった』
(タマの国か・・・・・)
 新しいものを見ることは嫌いではない。それが、可愛いタマに関係するものなら尚更だ。
幸いに、この場にはユキという通訳がいてくれるし、この際珠生のことを色々知りたいと思った。
 『何を見せてくれるんだ?』
 『なに・・・・・ん~』
 『・・・・・』
 『ラディ、なに見たい?』
 『俺か?そうだな・・・・・この世界の男が見たいな』
 『男?』
 有希や蒼は例外として、この世界の男を一度見ておきたかった。
珠生が18だという事に驚いたが、他の男達も皆珠生のように幼いのか、それに、こんな可愛い珠生にこの世界の男達は
どうして手を出さなかったのか、文明よりもそちらの方がかなり気になるのだ。
 『いいか?』
 『いいかって、ふつーにあるいてる、し』
 『手間が掛からないなら好都合だ』
(後はタマの好きなものも知っておきたいな。こいつはすぐ怒るから、何で機嫌が直るのか知っておけば便利だし)
 ラディスラスは珠生を見下ろす。
膝下までのズボンに、薄いシャツ姿の珠生は本当に子供のようだ。
(この服も可愛いが、さっきユキに借りていた服もなかなか良かったな。俺達の世界とは違って薄いし、無防備で・・・・・そ
そる)
首も、腕も、足も、無防備に曝け出している格好はなかなか見られるものではない。
いずれ元の世界に帰る時に、少し持って帰りたいくらいだ。
(きっと着てはくれないだろうがな)
 「よしと、じゃあ、蒼、有希、行こうか」
 「はい」
 「うん」
 珠生の言葉に2人はそれぞれ相手の腕を引く。
 『タマ』
 「・・・・・」
ラディスラスが黙って見下ろしていると、珠生は仕方ないなというようにラディスラスの腕を掴んだ。何時もとは違う剥き出し
の肌に、珠生の手の感触が鮮明に伝わる。
 『ちゃんと、ついてきて』
 『分かってる』
 「・・・・・本当に分かってるのかよ・・・・・」
謎の言葉を呟いた珠生だったが、やがてラディスラスの腕を引っ張って歩き始めた。





                                      






現代への時間旅行、第4話です。

質屋のくだりは、まあ、大らかに流してください。

服、悩みましたよ(笑)。まあ、取りあえず普通に歩いていそうなものにしましたが。次回も驚き所が満載です。






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