時間飛行









                                                          
『』は異国語です




 『!!』
 アルティウスは今にも叫んでしまいそうなのを辛うじて抑えたが、抱きしめている有希の肩に置かれた手には無意識にか
なりの力が入ってしまったらしい。
眉を顰める有希に普段なら気付くはずのアルティウスだが、やはり今目の前にある光景を頭の中に入れるのにはかなりの
精神統一をしなければならないようだった。
(なんだ、これは・・・・・ソリューの代わりなのか・・・・・?)
 『・・・・・ユキ、あれはどうやって動いているのだ?』
 『クルマですか?あれはガソリン・・・・・あれを動かす専用の液体があるんです。アルティウス、気分が悪い?』
 『・・・・・いや』
(ユキはこんな世界に住んでいたのか・・・・・)
 アルティウスの愛する祖国エクテシアは、世界の中でも大国と言われ、アルティウス自身文明も進んでいると胸を張れ
る国だと思っていた。
しかし、今目の前にあるのは、不思議な箱で何十人も一度に移動している光景。
自分達とは全く違う様々な衣を着て行き交い、歩きながら何かを食べ、飲み、笑い合う人間達。
(全く・・・・・違う)
 アルティウスは視線を下に向ける。
固めて作ったような道がどこまでも続き、雨や人並みで荒らされるような土道などは全くない。
(これ程に世界の違う我が国で・・・・・ユキは共に生きることを誓ってくれたのか・・・・・っ)
それがどれ程大きな決断だったのか、アルティウスは今ようやく分かったような気がした。
 『アルティウス?』
 ずっと黙ったままのアルティウスを心配したのか、有希は下から顔を覗き込もうとする。
しかし。
 『ア、アルティウス?』
 『・・・・・っ』
今の顔を有希に見られたくなくて、アルティウスはその身体を抱きしめてしまった。



 「ね?俺の話した通りだろ?」
 「・・・・・ええ、ほんと、に」
(ソウの言葉以上だ・・・・・)
 話では聞いていた蒼の世界。
飲み物にも食べ物にも不自由がなく、動物を使わずに移動出来る箱が有り、全ての情報をそこにいるだけで小さな箱か
ら得ることが出来るという・・・・・世界。
 『ここと比べれば、ソウにはかなり不自由な思いをさせていますね』
 『ううん!』
 『ソウ?』
 『ホントは、コンビニが無いのはこまるかなって、テレビやマンガが見れないのはたいくつかもって思ってたけど、バリハンの生
活は毎日びっくりで楽しくて、俺、ぜんぜんふじゅーない!』
 『・・・・・そうですか』
 自分の世界に帰ったというのに、きちんとバリハンの国の言葉で説明してくれる蒼が愛しい。
まだかなり危なかしい表現もあるが、来た当初から比べればはるかに蒼は成長してくれている。
(後悔をさせないようにしなければな)
この世界に戻ってきたいと思わせないようにしなければと改めて決意したシエンは、意識を切り替えて周りを見つめた。
せっかくこの世界にやってきたのだ、少しでも国の為になることならば覚えておきたいし、蒼の喜びそうなこともしてやりたい。
 『そういえば、私の格好は変ですか?』
 『え?』
 『かなり人から見られているような気がするんですが・・・・・』
 6人連れで歩いていると、擦れ違う人間はあからさまに立ち止まって振り向くし、立ち止まって話している若い女達は甲
高い声で叫びながら何かをこちらに向けている。
シエンは自分達の格好がこの世界に合わないのかもしれないと心配になっていたが、蒼は全く違うことを思ったようでムッ
と頬を膨らませながらシエンの腕を引っ張った。
 『ソウ?』
 『あの子達、シエンがかっこいいから、シャメとってたんだ』
 『シャメ?』
 『シャシン・・・・・えっと、一瞬で肖像画が描けちゃうキカイだよ。ちっちゃいシエンの顔が、あの中に入っちゃってるの!』
 『あの小さな中に?』
 『ショーゾーケンのしんがい!もうっ!』
それが妬いているからだという事に、蒼はまだ気付いてはいなかった。



 ニヤニヤと(珠生の目から見れば)いやらしく笑っているのがサングラス越しでも分かり、珠生は嫌そうに顔を顰めてラディ
スラスから離れようとした。
 『タマ、どこ行くんだ?』
 『ラディ、かお、へん』
 ラディスラスの紫の瞳はさすがに目立つからと隠す為にしたサングラスだが、その格好はどう見てもお忍びの芸能人にしか
見えなかった。
いや、ヘタな芸能人よりもすらりと背が高く、その身体もシャツ越しに鍛えているのが丸分かりで、しなやかに動く長い手
足と合わさり、異性の視線を強烈に惹き寄せるのだろう。
(中身はただのエロエロ魔人なのに・・・・・っ)
 それはラディスラスだけではなく、アルティウスにもシエンにも言えることだろうが、きつい目をして周りを威嚇しまくっているア
ルティウスや、蒼にべったりのシエンにはさすがに近寄りにくく、口元に笑みを浮かべながら楽しそうに歩くラディスラスが標的
になっているのだろう。
 『見られるの、嫌くない?』
 『俺がいい男だから見るんだろう?』
 『・・・・・』
 『安心しろ、タマ。お前より可愛い女はいないようだ』
 「!」
(そんなとこまで見てるんだっ?)
 『それよりもタマ、この世界の女は露出が激しいな。足も胸も見てくれと言わんばかりだ』
 『見てやればいいだろ!』
付き合いきれないと、珠生は怒ったように先に歩き始めた。



 確かに、この世界の女達は綺麗な服を着、髪も綺麗にしているし、化粧も上手いのだろう。
ラディスラスが顔を向けると、嬉しそうに手を振り、誘うような仕草も見せる。
(・・・・・落とし甲斐がない)
だからこそ、面白くない。
自分から媚を売ってラディスラスの前に身体を投げ出す女は幾らでもいた。世界が違うとはいえ、女というものはそういった
ものなのだろうか。
内心呆れたような溜め息を付きながら、ラディスラスは前を歩く珠生を見つめる。
(・・・・・いいな)
 やはり、平均的に自分の世界の人間の方が大柄なようで、ここでは珠生が特別小さいようには見えなかった。
それなのに、惹かれるのはこいつだと思う。
すっと伸びた華奢な背中。抱きしめたいのはこの身体だけだ。
(まあ、タマが子供じゃないって本当に分かっただけでもいいか)



 「あ!ケンタ食べたい!」
 「おれ、チーズバーガー!」
 「僕もソフト食べたいな」
 3人の異国の男達に町を案内する為に歩いているが、久し振りの町の匂いに3人が浮かれてしまうのも仕方がなかっ
た。
特に有希と蒼は、もう食べられないかと思っていたジャンクフードへの視線が熱い。
 「食べよっか?いい?有希」
 「え?僕?」
 「だって、このお金はあの人の物を売って手に入ったものだし」
 「あ、そっか」
 有希は慌てて振り返るとアルティウスに言った。
 『アルティウス、食べたい物があるんだけど、買って食べてもいい?』
 『一々私に言わずとも、何なりと好きなものを買え』
 『あ、ありがとう』
いいってと言う有希の言葉に、珠生はラディスラスを振り向いた。
 『おれたち、あっちいく』
 『ん?』
 「有希、説明して」
(本当に有希達がいて助かった・・・・・)
とても自分1人だと面倒を見切れなかったと安堵した珠生は、説明が終わったという有希と蒼を連れて直ぐ近くのファー
ストフード店に駆け込んだ。
(早くしないと、あんまり野放しに出来ないし!)



 植え込みの花壇に腰を下ろした3人の異国の男達は、それぞれ思い思いに周りの風景を見ていた。
アルティウスは厳しい表情をして行き交う人間の乗った箱を。
シエンは興味深そうに踏みしめている土ではない地面を。
ラディスラスはのんびりと人並みを。
 『凄い世界だよなあ。違う世界とはいえ、こんな場所もあるんだな』
 答えを期待しないラディスラスの呟きに答えたのはシエンだった。
 『かなり高い文明ですね。私達の世界ではとても・・・・・』
 『何を言う、王子。我らの住む世界が最上のものだという自負は無いのか』
 『アルティウス王・・・・・』
 『いいこと言うなあ、王様は』
 『・・・・・お前が言うと軽くしか聞こえない』
憮然として言い捨てた時、アルティウスは近付いてくる気配を感じて顔を上げた。匂いで有希ではないと直ぐに分かる。
同時に、シエンとラディスラスも顔を上げると、3人の目の前には茶色い髪で幼い顔に派手な化粧をした、露出の激しい
女が数人立っていた。
 「あの〜、暇ならお茶しません?」
 『・・・・・』
 「カラオケでもいいし、もちろんホテルだって構わないけど」
 何を言っているのかは分からないが、自分達を見る女の媚を含んだ視線で大体の意味は分かる。
まだ幼い表情をしているだろうに、まるで商売女のように自分に触れようとする女に、アルティウスはまるで虫を追い払うか
のように手を跳ね除けて言った。
 『王たる私に気安く触るでない』
 「な、なに、これ、英語?聞いたこと無いんだけど」
 あっさりと拒絶された女はアルティウスの言葉に驚いたようだが、それでも直ぐに諦めるには惜しいと思ったのだろう。
自分達がいなくなれば、直ぐに次の女が声を掛けるかも知れない・・・・・これ程周りの視線を奪いまくっている男達に選
ばれる幸運を他には渡せないと、女は次にシエンに笑いかける。
 「えっと、エクスキューズミー、英語、分かりますう?」
 「・・・・・」
 「私達と遊びに・・・・・って、なんていうんだっけ?ちょっと、分からないの?」
 「知らないわよ、それぐらい簡単なんじゃないの?」
 「・・・・・」
 女達の言い合いに、シエンは苦笑を零す。言葉の意味は多少分かるので、自分達が誘われているのだという事は理
解出来た。
自分の国の女達はこれほどあけっぴろげに男を誘わないなと感心して見るが、ここは言葉が分からないと見せた方が話
は簡単だろう。
 「も〜、あそぼ〜よ〜」
 別の女にラディスラスは強引に腕を引っ張られた。そして、偶然のように胸に手が触れるように身体を押し付けられてし
まう。
 「ね?」
精一杯誘っているのだろうが、こんなに細く凹凸のない子供の身体に触れても楽しくは無かった。
 『もう少し成長してから考えてやるよ』
 「何言ってんの?」
 『ここに肉をもう少し付けた方がいい』
 「きゃっ」
目の前の女の尻に軽く触れると、恥ずかしいのか嬉しいのか分からない声で女は叫んだ。
それと同時に、
 「ラディ!」
 「アルティウスッ」
 「シエンにくっ付くなってば!」
 両手に大きな袋を持った男達の愛しい3人が走り寄ってくる。
 『おー、タマ、待ってたぞ』
 「このスケベ野郎!!」
笑いながら珠生を抱き寄せようとしたラディスラスは、ぺシッと頬を打たれてしまった。
 『タマ?』
 「お尻触ったの、見てたんだからな!」
言葉が自由にならない分言い訳も出来ず、ラディスラスは少しも痛くなかった叩かれた頬を押さえるだけだった。





                                      






現代への時間旅行、第5話です。

やっぱりナンパ話は欠かせないでしょうという事で。軽いノリのラディは叱られてしまいました(笑)。

次回は銭湯にも入れるかな。アル、煩そうだけど。