時間飛行









                                                          
『』は異国語です




(珠生さん、怒ってる・・・・・)
 高校1年生の有希からすれば、本来大学生というのははるか大人と思っていた。
しかし、実際に目の前にいる珠生は、外見はともかく性格もかなり子供っぽい気がする。
(でも、ラディさんもいけないんだよ)

 『ラディでいいよ、お嬢ちゃん』

事情を説明する時に自己紹介した時、ラディスラスは初対面の有希に向かってにっこり笑いながら言った。
アルティウスやシエンよりもぐっと馴染みやすい、しかし、精悍な容貌でそう言われて思わず照れてしまい、その後かなりア
ルティウスの機嫌は悪くなってしまったが・・・・・あのラディスラスの性格は万人に対するもののようだ。
 『タ〜マ』
 「・・・・・」
 『タマって、機嫌悪いのか?・・・・・あ〜、妬きもちだな?可愛いなあ、お前は』
 『うるさい!ばか!』
 「・・・・・」
(どうしてあんなに怒りそうなことばっかり言うんだろ?)
 アルティウスやシエンは有希や蒼に真っ直ぐに愛情をぶつけてくれて、他には誰も見えないし思わないと態度で言葉で
伝えてくれる。
しかし、このラディスラスはわざと珠生を怒らせているようにしか見えず、怒った珠生を見てまた嬉しそうに笑っているのだ。
まるで小学生のようだが、余計に嫌われてしまうという事は思わないのだろうか。
 『ユキ』
 じっと、珠生とラディスラスを交互に見つめていると、アルティウスは意識を自分に向けるかのように有希の腕を引っ張っ
た。
 『ア、アルティウス』
 『お前の見るべきものは違うであろう』
 『う、うん』
(なんか・・・・・照れちゃうな)
見慣れているアルティウスとは違う、ごく普通に町を歩いていても可笑しくない格好・・・・・いや、確かに普通の服装なの
だが、長い手足と鍛えた身体が薄着のせいか際立ち、その上王者のオーラも有るので誰もが振り返ってしまうのだ。
 『ユキ』
それでも、そんな風に誰もが振り返るアルティウスの目は有希しか見ていない。
エクテシアとは違い華やかに着飾っている若い女達が町に溢れ、誰もが見惚れるようにアルティウスを見ているのに、男の
有希よりもはるかに相応しい若い女はたくさんいるに、アルティウスは有希を選んでくれる。
 『ううん』
嬉しくて、有希は人目も構わずにアルティウスの腕をそっと掴んだ。



(うわ、あっちも新作・・・・・このスナックも!)
 蒼はショーウインドーに映るケーキや菓子を目を輝かせて見つめた。
元々食べる事が好きな蒼は、幼い頃から新発売の菓子は必ず食べていたし、甘い物好きな母はよくケーキを買ってきて
くれた。
そのせいもあって蒼は見掛けによらず料理上手なのだが、しばらく見ない間に新しい食べ物はまたどんどん増えていて、蒼
のお腹の虫は今ハンバーガーを食べたばかりなのに鳴ってしまう。
 『食べたいんですか?』
 そんな蒼の顔を見るだけで気持ちが分かるのか、シエンも笑いながら訊ねてきた。
 『ぜんぶは、むり』
 『そうですね。さすがのソウも無理でしょう』
 『わかんないよ。けっこー、食べれるかも』
(一口ずつでも食べたいよな〜)
いずれはまたシエンと共にあちらの世界に帰るというのは分かっている。それがどのくらいの時間をおいてなのかは分からな
いが、出来るだけ色んな知識を吸収しておきたい。
 「あ!!」
 『ソウ?』
 「調味料だけでも持っていけないかな?」
 「ちょーみ?」
 塩の代わりとか、砂糖の代わりとか、想像以上に似たような味の調味料はあったが、さすがに醤油やワサビ、しょうがな
ど、日本人が好むものはなかなか代用する物がなかった。
シエン達が醤油を使って何かを食べるとは思えないが、蒼自身が懐かしむ為に揃えておきたいアイテムだ。
(いずれは自分で作れればいいけど、とりあえずは!)
 「有希!」
 「え?」
蒼は有希に駈け寄った。
隣に立っているアルティウスは睨んでくるが少しも気にならない。
 「買って欲しいものがあるんだけど!」
 「え?」
 「有希、お財布係だろ?あのな、俺・・・・・」
 「・・・・・」
(僕、何時の間にそんな係に・・・・・?)
元がアルティウスの腕輪の代金だからという事もあるだろうが・・・・・有希は困ったように蒼を見つめた。



(尻を撫でたのがそんなに気に食わなかったのか?)
 ラディスラスにとっては全く何の感情も無い何気ない行動だったし、相手の女も喜んでいた。
それを怒るという事は珠生がそれだけラディスラスを想っていることだという証拠だと・・・・・思うのだが。
 『タマ』
 「・・・・・」
 『タマって』
 「・・・・・」
珠生は意地を張っているかのように振り返らず、そのままズンズンと先を歩く。
(どうするかな・・・・・)
 海の上では・・・・・いや、ラディスラスがいた世界だったら、このまましばらく怒っている珠生の可愛らしい顔を見て楽しむ
ところだが、今回はそうはいかないだろう。
何しろこの世界は元々珠生が住んでいた場所で、逃げられる場所や頼る人間は無数にあるはずだ。
いずれラディスラス達の世界に帰らないといけないにしても、その間珠生を自分以外の誰かと共有することなど出来ない
し、するつもりも無い。
(しかたない)
 『悪い、タマ』
 「・・・・・」
 『今のは俺が悪かった。お前に嫌な思いをさせて、本当にすまない』
 「ラディ・・・・・」
大事な相手に頭を下げることなど何とも思わない。
行き交う人々がいるにも関わらず、ラディスラスは珠生に向かって頭を下げた。



 『・・・・・ずるい、ラディ』
(これで俺が許すと思ってる)
 何時もそうだと珠生は思う。
ラディスラスは珠生のことを子供だと思って、言葉で懐柔出来ると簡単に笑いながら謝る。
それなのに、珠生の胸の中のモヤモヤはこんなことでは晴れないはずなのに、ラディスラスが悪かったという言葉で許してし
まいそうな自分がもっと嫌だ。
 『タマ』
 『・・・・・怒ってない』
 『・・・・・そっか』
魅力的な顔で笑い、ラディスラスはそのまま珠生の肩を抱いてくる。
 『ラ、ラディ、ここじゃおとこどーし、くっつかない』
 『いいじゃないか。俺の愛しいタマはお前だけなんだから』
 『・・・・・っ』
(こいつ、絶対タラシだよ!)



 「なあ、夕飯どうする?」
 「どっか食べに行っても、色々ありそうな気が・・・・・」
 「ピザでも頼もうよ」
 ブラブラ歩いていると、時間は何時の間にか過ぎていた。
最初は自転車が横を通り過ぎる時さえ反射的に腰に手をやっていた(剣があるつもりで)アルティウスも、かなり驚きが麻
痺したのか落ち着いて歩いている。
相変わらず纏わり付いてくる視線は多かったが、それも一同は気にならなくなった。
 「あ、ガスとか通ってる?」
 不意に、蒼が珠生に聞くと、珠生はうんと頷く。
 「親戚が時々使ってるから。なんで?」
 「俺が作ろうと思って」
 「蒼が?」
珠生は驚いたように言うが、有希は直ぐに賛成と声を上げた。
 「蒼さん、料理上手なんですよ?すっごく美味しいんです、ねえ、シエン王子」
 「ええ、ソウはなんでもじょーず、です」
 「へえ、なんだか楽しみ」
 「僕も手伝います」
 「よし、じゃあ、買出しに行こう!」
張り切った蒼を先頭に、一同は近くのスーパーに行くことになったのだが・・・・・。
 『ユキッ、ここは木に実はなっておらぬのかっ?』
 ずらりと並べられた果物を前に、アルティウスは驚いたように叫んだ。
外で栽培されている果物はどんなに気を付けていても1ヶ所か2ヶ所、虫に食われたり形が崩れているものが多いのに、
ここにあるものは全て均一に綺麗に並べられている。
 『これはビニールハウスで・・・・・えっと、専用の部屋で作られてるんですよ』
 『土の中にないのに、この葉物は枯れたりせぬのか?』
 『ほら、触ってみたら冷たいでしょう?冷気を流してるから、簡単には腐ったりしないんです』
 『・・・・・本当に冷たい。なんだ、これは、どうなってるのだ?』
と、アルティウスが驚いていれば。
 「ソウ、これは、サカナ、ですね」
 「うん。あ、鯛うまそー!刺身にして食べる?」
 「サシミ?」
 「生で、醤油・・・・・えっと、タレをつけて食べるんだ」
 「火を通さずとも大丈夫なのですか?」
 「もちろん、これは売りもんなんだからさ」
奥から怖い顔をして睨んでいる店員に愛想笑いを向けた蒼が、急いでシエンの腕を引っ張って魚売り場から離れると。
 『タマ、これはなんだ?』
 ラディスラスはずらりと並んだカラフルな列に目を向けて言う。
 『これ?カップ、えと、たべもの』
 『たべもの?』
(これが?)
確かに表には麺や果物の絵が描かれているが、どう見てもこれはツルツルの袋で軽くて、中に麺があるようには見えない。
 『おゆ、いれて、まって、たべる』
 『湯?』
 『あー・・・・・もう、たべればわかる』
説明するのが面倒なのか、珠生は何個かその袋を持っている籠の中に入れる。
ラディスラスは代わりにその籠を手に持ったが、中に入っているのはとても食べ物には見えなかった。
(野菜や果物はわかるが・・・・・)
蒼が選んで放り込んでいく瓶や粉の入った袋は大小様々な色や形だったが、色は同じものが幾つか有る。
 『生産地がちがうのか?同じものがあるぞ』
 『これは、サトーとシオとアジノモト。これはダシノモトとコンソメとチューカスープで、こっちはオイスターソースと、ウスターソ
ースと、ショーユ・・・・・って、ソウ、なにつくるか?』
和洋折衷な調味料に珠生は首を傾げるが、ラディスラスはそのほとんどの意味が分からない。多分、要約すれば色んな
調味料なのだろう。
(確かに豊かな国だな・・・・・)
 この建物の中の物が全て食べ物で、無くなれば端から補充していってるのが見える。便利かもしれないが、ラディスラス
にとっては活気が足りない気がした。
 「あ、蒼、有希、今日アイス半額だって!」
 「買う!」
 「僕もっ」
 3人が覗きこんでいる箱の中にはまた色んな袋や箱が入っているが、白い湯気が立ち込めている。
 『タマッ、火傷するぞ!』
 『へーキ』
構わず手を入れようとする3人を舌打ちをうって止めようとしたラディスラスは、手に強烈な冷気を感じて慌てて引っ込めて
しまった。
 『冷たい?』
 『これ、つめたいたべもの。ラディもいる?』
 『・・・・・いや、遠慮する』
この3人が喜んでいるという事は、これはきっと子供が喜ぶものなのだろう。
それよりはと、ラディスラスは別の棚に目をやった。
 『タマ、ここには酒はあるのか?』





                                      






現代への時間旅行、第6話です。

もっともっと驚かせたいんですが・・・・・次回は蒼君の料理教室です(笑)。